10
場所はいつもの森。
ゴブリンを今日も狩る。
奥に2匹。
左を俺が。
右をネメシアがやる。
距離は走ってすぐ縮める。
地面を踏み込む。
袈裟切り。
感触はいい。
骨に当たるでもなく。
体の正面を軽く切ったようだ。
ギャーギャー騒いでいる。
切り返し。
腹の中で止まる。
断末魔のような叫びをあげるゴブリン。
剣から手を放し、蹴り倒す。
相手の肩のあたりを踏み、剣を引き抜く。
相手の動きは次第に緩慢になり、止まった。
ネメシアのほうを見てみれば、あっさり殺していたようだ。
足を切り、転ばせた後に刺し殺していた。
返り血もつかない、いい殺し方だ。
ぱぱっと魔石を剥ぐ。
少しこなれた感じがする。
辺りには何もいなさそうなことを確認。
ネメシアの方に向かう。
「あいよ、これ魔石な」
「ええ、ありがと」
「……俺が戦う相手のレベルってのは、どれくらいだ?」
「聞かない方がいいんじゃないかしら?」
笑顔でお断りされた。
「そんなに、か」
「ええ。どうやって勝たせたものか悩んでるわ」
「このままのペースで成長してったら、勝てる見込みは?」
「素の能力じゃまず無理よ。あなたの能力次第なのだけれども……」
そんなにか。
上は遠いなぁ。
*
もちろんまだまだゴブリンを狩る。
こんなに狩って問題は無いのか?とネメシアに尋ねてみたところ。
食料と相手さえいれば一日に倍に増えるほど、だそうだ。
むしろもっと狩ってもらった方がいいほどだとか。
この森、そんなにゴブリンが住んでいるのか。
*
「一匹ぃ!」
ゴブリンのある程度大きな群れを襲っている。
20を超えるほどはいたか。
ネメシアも半分ほどはやってくれるらしいから、残りの半分はどうにか俺が狩る。
ゴブリンが息絶えただろうことを確認し、次の獲物を見定める。
が、様子がおかしい。
仲間がやられたってのに、反応がない?
いや、一目散に逃げていきやがる!
大人しく俺の経験値になってくれればいいものを。
すぐに追いかける。
戦果の大半は追撃によって生まれるのだ、と偉い人が言っていた。
一匹に追いつきそうだ。
姿勢を低くし、走る。
右手で剣を持ち、薙ぐ。
衝撃が重いな。
首の辺りに当たり、半ばで止まる。
さすがに片手で両断は今の俺には難しいか。
返り血も少し浴びてしまった。
剣を抜き、魔石を剥ぐのも後にして、ゴブリンどもを追いかける。
だが、結構遠くまで逃げた奴らもいるようだ。
近くのゴブリンに迫る。
近づいてもなお、一心不乱に逃げようとする。
一度走りぬき、ゴブリンの前につく。
止まって、振り向く勢いのまま後ろに剣をぶん回す!
クリーンヒットしたようだ。
ゴブリンは憐れにも剣に当たり、吹っ飛んで木に激突した。
それを一瞥し、すぐに他のゴブリンを狩りに走り出す。
*
「結局、結構な数に逃げられちまったな」
ある程度は倒し、死体から魔石を剥いで回っている。
「楽に倒せたのだし、いいんじゃないかしら?」
「うーむ、経験値を逃した気がしてな」
狩れたのは20以上いた内の7,8ほど。
ネメシアは本気じゃなかったにしても、もったいなさが否めない。
あんなに簡単に倒せる敵、素晴らしいという他ないのに。
「それにしてもあのゴブリンどもはなんで逃げたんだ?一目散に」
「さあ?多分だけど、近くに強い魔物でもいたんじゃないかしら?」
「へー……。それだと俺、まずくない?」
「何がかしら?」
あっさり恐ろしいことを言っておきながら。
そんなまったくわからないという顔をされましても。
「いや、強敵がいるんだろ?」
「そうね。でもゴブリンにとっての強敵よ?」
「やっとまともにゴブリンを狩れる様になった俺には、十分強敵なんじゃないか?」
やっと納得がいったかの様な顔をする。
指導役はこれで大丈夫なのか?
「まあ大丈夫よ。この辺りにあなたが絶対に勝てないほどの敵はいないわ。多分」
「最後の言葉さえなければ安心できたんだけどなぁ」
まあ危なくなったら助けに来てくれるとは信じている。
それに、ある程度俺の実力にはお墨付きって事なら。
近くで遠吠えが聞こえる。
ん?近くで?
何か嫌な予感がする。
「今のは?」
「多分ウルフ、狼よ。群れで襲ってくるから面倒なのよね」
「強いってことか?」
「あんまり闘ったことないのよ」
「そうか」
近くに狼がいるのだろうか?
辺りを見渡す。
どうも見当たらない。
「近くに狼がいるのか?」
「ちょっと待ってね」
そう言ってネメシアも辺りを見渡す。
ネメシアの髪が、宙に舞う。
よくよく見れば、舞っているのは白い髪だけだ。
「来るわっ!」
いきなり森の中から何かが飛び出してくる。
頭だけは守ろうと、剣を頭の前に構える。
噛みつきに来たところを、弾いた。
狼か?
弾いた狼は地面に綺麗に着地。
したところをネメシアに真っ二つにされてしまった。
いきなりグロい。
「油断しないで、まだまだ来るわよ」
「りょ、了解」
その言葉の通りに、森からまだ飛び出してきた。
前から一匹、飛んできた。
まっすぐ、俺に向かってきている。
軌道は読み切った。
空中なら躱せまい。
近くのネメシアに配慮し、上から振り下ろす。
狼に当たり、勢いのまま地面にたたきつける。
狼が立ち上がる前に、振りぬいた剣を再度構える。
起き上がろうとしている狼の首に、突き刺す。
一度激しく暴れ、狼はすぐに動かなくなった。
これで合わせて二匹。
辺りをまた見回す。
近くにいたはずのネメシアがいなくなっているが、大丈夫だろう。
後ろで何かが地面に落ちた音がする。
振り見向いて見れば、ネメシアがまた一匹狼を屠っていた。
「まだ狼はいるか?」
「もう数匹いるわ。気を抜かないで」
まだいるらしい。
こちらとの戦力の差を理解できないのか。
多分ネメシア一人で倒しきれそうだが。
そんなことを考えていると、右の茂みが動く。
すぐに反応し、剣を頭の前に構える。
あわよくば叩き切って差し上げたいものだが。
相手は飛び掛かってくる。
単純な軌道だ。
俺の頭を狙ってきている。
見え透いたものだ。
これなら簡単に叩き落とせる。
その考えの通りに、剣を上から振り、落とす。
先ほどのように首を狩ろうとする。
剣を構えたところで、また茂みから何かが出てくる!
そいつは狼の首を狩ろうとしていた俺の横腹に飛び掛かってくる!
俺は躱すことができず、もろに突撃を受けた。
倒れる。
いッてぇなぁ!
しかも剣を落としてしまう。
徒手空拳で戦う方法なんて、学んでないぞ?
更にどっちの狼だかはわかんないが、倒れた俺の上に乗りかかり、噛みつこうとしてくる。
ぶん殴って引き剥がそうとするも、なかなかどいちゃくれない。
出来る限りは抵抗しようと、転がり回る。
相手が上になったり、俺が上になったり。
「クソがっ!」
愚痴をこぼしても何もならないことは分かっているが。
だが、運よく、マウントポジションをとれた。
先ほどの分のお返しはさせてもらおうか?
腰のあたりの剥ぎ取り用のナイフを取り出す。
さあ、殺戮ショーだ。
まず、恨みを込めて腹に突き刺す。
次に、受けた痛みの分、足の根元に突き刺す。
ラストに、首に突き刺す!
血が大量に出て、狼は動かなくなる。
非常に恍惚とでもいうべき気分だ。
返り血を浴びながら、笑みを浮かべる。
泥臭い勝利だが、それがいいのだ。
そういえば、もう一匹いたはずの狼はどうなっているだろうか?
立ち上がり、探す。
少し離れたところに、いた。
骨でも折れたのだろうか?
動こうとしているが、立ち上がることもできていない。
剣はどこにいったのかな?
意外と近くに落ちていた。
手に取り、容赦なく胸を貫く。
すまんな。俺は生きたいんだ。
連続投稿はこれでいったん終了になります。
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