第4章 取引成立
10分ほど経ってから男は帰ってきた。
満面の笑みで
「いやぁ、すばらしい思い出ですね。私、鑑定をしている最中に感動してしまいました」
そいうと表情を一変して真剣な顔つきになった。
「私どもの方でこちらの思い出には大変な価値があると判断させて頂きました、お客様のご要
望の金額などございますか?ある程度まででしたらお貸しいたします」
ある程度っていくらだよ、20万なんて言って大丈夫かな?
考えても仕方ないので俺は素直に必要な金額を言ってみた
「あの・・20万なんですけど」
男は無表情だった。
高すぎたかな。
すると「その金額でよろしいんですか?」という答えが返っきて驚いた。
「こちらの思い出なら100万まででしたらお貸しできますが」
マジで!!
「本当にいいんですか?」
「はい、それだけの価値がございますので」
なんてすばらしい店なんだろう。
「じゃあ、あの・・30万お願いします」
100万と言う勇気は俺には無かった。
「はい、承知しました。それでは少々お待ちください」
男はそういうとまた店の奥へ消えていった、店の奥ってどうなってんだ?気になる。
先ほどよりもはやく男は帰ってきた、手には現金の札束と例の不思議な紙を持っていた。
「お待たせいたしました、ではこちらが現金で30万円になります。そしてこちらが当店で預
からせて頂きますお客様の思い出になります」
男はそういうと最終確認であることを告げるように俺に向けて一言
「よろしいですね?」
と言ってきた。
いざとなると先ほどのうれしい気分は消え去り
「・・はい」
そう返事をした直後俺はしてはいけないことをしてるような後悔しているような気分になっ
ていた。
「分かりました」
男には先ほどの笑顔は消え、気のせいか少し悲しげな顔をしているような気がした。
「それではこちらが現金になります、お持ちください」
30万・・さっきまではすごい大金に思えたけどいざ目の前に見るとこんなもんかって思えて
くる。
本当にこれで良いのか?
1、たかだか20万のために兄ちゃんの思い出を預けていいのか?20万なんて本気になれば
集められる金額なんじゃないか?
2、無理だ!期日は明日なんだぞ。絶対借りといたほうが良い!!
今俺の中で二つの考えが戦っている、現在2の考えが勝っている。
やはり先ほど悲しげに見えたのは気のせいだったのか、男は無表情のまま
「それではこちらの”思い出”は当店で預からせていただきます」
と言うとガラスケースの中に紙をしまった。
「ご利用ありがとうございました」
「思い出は生きた証なんですよね・・」
金を持って店を出ると店の中から兄ちゃんのあの言葉が聞こえた。
1の考えの逆転勝ち。
俺はまたすぐに店の扉を開けた。