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エメラルド・タブレット  作者: 小春日和
5/20

〜和解〜

 文章は少なめなのですが、切りが良さそうなのでアップします^^

 漸く本編突入と言う所でしょうか……予想に反してどんどん脱線して行くのですが、果たして無事に纏められる事は出来るのであろうか……(汗)

 「……あら、気がつきましたか?」


 空が目を覚ますと、自分がいる場所を確認する間もなく声を掛けられた。

 視線を向けると、ふっくらとした色白の優しげな女性が、ベッドに寝かされている空を覗き込む様にして、優しく額に手を当てる……


 「良かった……何とか熱は下がった様ですね」


 温かくふっくらした手を離しながら女性は満足そうに頷くと


 「ご気分はどうですか? ……何か食べたい物は? あぁ、飲み物の方が良いかしら?」


 そう言いながら、近くのテーブルの上に置いてある水差しからコップに水を注ぎ、差し出してくれた。

 矢継ぎ早の質問に押され、思わず身を起こしコップを受け取り水を飲む。

 冷たく冷やされており、気持ちのよい潤いが喉を通過する……相当喉が渇いていたのだと言う事に気がついた。

 一気に飲み干し、二杯目を貰う……それも飲み終えるとようやく人心地ついた。


 「あ……ありがとうございます……」


 「大丈夫そうでホッとしました……此処に運び込まれた時は凄い熱だったんですよ。それにあちこち傷だらけで……医師が治癒魔法を掛けてくれたから良かったものの、放っておいたら大変な事になっていた所ですよ。――――全く、殿方は女性に対しての扱いが分かっていらっしゃらないんだから……」


 憤慨してそう言いながら、今度は扉まで行き


 「何か食べられそうな物をお持ちしますね。それからカルロス様にもご報告しなくちゃ」


 あっという間に出て行ってしまった……どうやら彼女はせっかちな性格らしい。呆気に取られつつ、女性を見送る形になってしまった。


 一人取り残された空は、室内を見渡す。

 床も壁も白い大理石がつやつやと磨かれ、広さは二十畳程はあるだろうか。

 部屋の真ん中に空が寝ているベッドがあり、左手側直ぐに水差しとコップが置いてある白いテーブルとセットの椅子、右手側の奥には今の時期には使わないのであろう綺麗に掃除が施された暖炉、ベッドの頭部側の壁際は大きめのバルコニーになっており、目をやると鮮やかな植物の緑と抜ける様な空の青さが見える。

 左右には明るめの品の良い花柄のカーテンが縁取り、レースのタッセルがそれを固定している。窓からは柔らかい日の光が注いでおり、とても気持ち良い……

 ベッドもよく見ると猫足の、それこそお姫様が寝ていそうな白く品のある作りで、ところどころキラキラのラインストーンがはめ込まれている。ふかふかのマットレスは淡い花柄のカバー付きだ。

 全体的に女性の――――特に若い娘が好む作りの部屋だ。

 空自身も覚えのある簡素な淡いワンピースではなく、肌触りの良い清潔なネグリジェに着替えさせられていた。ハイウェスト切り替えの、なかなか可愛いデザインをしている。


 (そうだ……それはそうと……)


 ワンピースで思い出した……自分は此処で何をやっているのだろう? 記憶を遡る限り、確か訳も分からず牢屋に入れられていたのでは無かったか……


 (そうよね……確か男の人が二人来て――――処刑って!!!)


 そこまで思い出し、背筋がひやりとした。青くなりながら咄嗟にベッドから降りようとする――――が、身体が震え上手く身体に力が入らず、遅々として進まない。


 (もう! 何でこのベッドこんなに大きいのよ!)


 此処に寝かされていたのは一体どういうことなのか……自分は確か裁判に掛けられるとかではなかったか……

 冥土の土産、と言うやつだろうか……? 混乱の余り東西の文化をごちゃ混ぜに思考しながらダブルサイズは有にある巨大なベッドの上で一人もぞもぞしていると、いきなり扉がノックされた――――


 「!!!」


 心臓が跳ね上がり、呼吸が速くなる。

 先ほどの女性だろうか――――だが、その割には先程のせっかちな感じがしない……身体を強張らせ思わず息を潜めて様子を伺っていると、再びノックが響いた。


 「……は、はい」


 恐怖に縛られつつ、意を決して返事をすると扉が開いて、あの牢屋に来た金髪の青年が顔を覗かせた――――




*****




 「いきなりすまない……君が気がついたってマグダから聞いてね」


 金髪の青年は扉を閉めながら、空にそう話しかけるとテーブルの横にあった椅子に腰掛ける。

 マグダと言うのは先ほどの女性の事なのだが――――空の耳には全く入っていないようで、顔を強張らせ落ち着かなげにキョロキョロしている。


 (……どうしよう……死ぬの? 私……?)


 金髪の青年を見るや、先日の恐怖をまざまざと思い出し思考が固まり始めた……青ざめていた肌の色がすぐさまそれを通り越し、みるみる紙の様に白くなる……

 そんな空の様子に気付き、青年は困った様に口を開く……


 「この前は、申し訳なかった……急を要していて、こちらも焦っていたんだ。……頭に血が上って、つい荒い口調になって酷い事を言ってしまった。――――この通りだ、許してくれ」


 青年が緩く癖のある金髪の頭を唐突に空に下げた。


 「えっ?」

 

 上掛けを握りしめ、恐怖の余り腰を浮かせて後ずさり、なんとかベッドの端に身を寄せていた格好の空が面食らい、青年を凝視する。


 「君に関しては、身元も不明な事が分かってね……ラナセスが纏めていた住人リストの中に、君に該当する項目が無かったんだ」


 ラナセスは几帳面だった為、塔で研究をする住人を全てリスト化し、誰が何処の出身か、家族構成や年齢、どの分野に所属するか等分かりやすく把握出来る様にしていたのだ。

 塔を攻め落とした際、頭部を叩き割られた者や顔面が潰れた者、崩れた壁の下敷きになった者等、リストと身元がしっかり確認出来ない錬金術師達もいたが、それ以前に10代の少女はリストにすら掲載されていなかったのだ。

 ちょっと冷静に考えれば分かることだったのだが、余りに焦り過ぎ、追いつめられ過ぎて失念してしまった事に気がついた……

 実際、空の様子を冷静に見れば嘘を付いていない事位、カルロスもエドワルドも簡単に判別出来た筈なのだ……

 

 「――――だから、君に関しては、改めて落ち着いたら事情聴取をさせて欲しい……それまでは身の安全も保証するし、此処の部屋を使ってくれていて構わないから」


 そこまで聞くと、気が抜けたのか一気に力が抜けた……全く知らない場所で、まだ緊張が完全に取れた訳では無いが――――自分の身は安心して良いのだと言う事が理解出来た。

 助かった――――と、思うと同時にぽろぽろと涙が頬を伝い始める……怖かったのだ……本当に。知らない所で、頼れる人もおらず、心細いのに自分一人で気丈にしなくてはならない……

 一度自覚してしまうともう駄目だった。涙が後から後から堰を切った様に溢れ出る……


 「だっ、だから……知らないって、言ったっ、のにっ……」


 上掛けを握りしめて顔の位置まで引っ張り上げ、しゃくり上げながら訴える……これ位は抗議したって良い筈だ……日本で言ったら脅迫罪に監禁罪レベルなのだ……この世界では、どうやらこの人は偉い立場の様だから、仕方無いのかもしれないが――――嗚咽を漏らしながら恨みがましく目を向ける。


 「ほ、本当にごめん! もう怖がらせたりしないから……」


 そんな空を見た青年が焦って腰を浮かせる。口調もだいぶ砕け、牢屋で見たときとは打って変わって表情も優しくなった端正な顔立ちの青年は、泣き止まない空をどうするべきか考えあぐね……おずおずと、手を伸ばし空の頭を撫で始めた。


 「怖かったよね……軽率だった、ごめん」


 予想外すぎる青年の行動に、今度はビックリして困惑する。


 (――――いやっ、それも軽率ですから!!!)


 内心で抗議するも、直接声には出せないでいる空の気持ちなど知る由もなく、頭を撫でる要領を得た青年は、構わず優しい温かい手でしばし撫で続ける……

 どれ位、そうしていただろうか? ゆっくりと、空が落ち着きを取り戻し始めた頃……


 「そう言えば、名前を言ってなかったね……僕はカルロス。カルロス=アルメール=グランヴェルグだ。周りからはカルって呼ばれてる……君は?」


 空の顔を覗き込む様にしながら問いかける。

 カルロスの長い睫毛に縁取られた碧い瞳と空の色素の薄いブラウンの瞳がかち合いじっと見つめられる……余りの経験の無さ、日本との文化の違うコミュニケーションに付いて行けず、思わず顔が赤くなる。

 

 「あ……は、はいっ! 空って、言います。……せ、姓は高尾、です」


 日本語の名前をどうやって伝えれば良いのか一瞬戸惑い、変な伝え方になってしまった……

 それでも空が落ち着いて自分と会話してくれる事に安堵したのか、カルロスはにこにこしながら頷く。


 「そうか、ソラって言うんだね……雰囲気がぴったりだ。エドから少し聞いたよ、住んでいる所がこの国じゃ無いんだって?」


 「――――え?」


 ドキリとしながらカルロスに視線を向ける……

 エドと言うのは、あの口の悪い赤髪の青年の事だろうか? あの赤髪の青年が信じてくれなかった事を、カルロスは信じてくれるのか……

 空の言った事を嘘だと言い切った青年の険しい表情が脳裏をかすめ、何とも言えない苦しさがこみ上げる……

 どう伝えれば良いのだろうと暫し逡巡し、口を開きかけた時、再び扉が叩かれる音がした――――


 「カルロス様! 15分って言ったのお忘れですか!? もう40分は立ちますよ! 女性に負担を掛けるなんて言語道断! 今回の事はダイス師にもお伝えして、良く言い聞かせて頂きますからね!!!」


 扉が開くやいなや、侍女のマグダがふくよかな腰に手を当て凄い剣幕で捲し立てながら入って来たかと思うと、あっという間にカルロスを退出させてしまった……




*****




 部屋からカルロスを追い出してしまったマグダは、一仕事終えたかの様にスッキリした表情で空に向き直った。


 「さ、軽食をお持ちしました。三日程眠ってらっしゃったので、自覚が無くてもかなり体力が落ちてる筈ですよ。食べられるだけで良いので、お食事になさってください」


 そう言うと扉の外からワゴンに乗せた食事を部屋の中に運んでくれた。食事と言っても、病み上がりの為に気を使ってくれたらしく、消化の良い温かなスープと焼きたてのパン、ヨーグルト、すりおろしたリンゴ……と言うシンプルかつ、食欲が落ちてる時には嬉しい内容だった。

 牢屋で倒れた時より余程身体は楽になっていたが、流石にまだ本来の食欲は湧かなかったのでそんな心遣いが非常に有り難い。

 少しずつ口に運びながら、ゆっくり咀嚼して飲み込む……塩加減も丁度良く非常に美味だった。

 そんな空の様子を見ていたマグダは、食事をしている間、空が運び込まれて来た時の状況、マグダが汗だらけだった空の身体を拭って簡素なワンピースからネグリジェに着せ変えてくれた事、熱がかなり高く急いで医師を連れて来た事、カルロスとエドワルドをお説教した事などを教えてくれた。


 「あの…赤髪の人に、お説教……」


 想像がつく様な、つかない様な……だが、マグダはぐうの音も出ない位、相手に納得させてしまうような気迫がある。きっとあの赤髪の青年でも太刀打ち出来ない位凄い勢いで捲し立てたのだろう。


 「今度改めて謝りに来させますから」


 そんな事まで言ってくれた。

 身体は正直な様で、食事を一口運び入れ飲み込むと、途端に食欲が刺激され持って来てくれた分は結局全て平らげてしまった。

 お腹が膨れると気持ちもほだされた様で、漸く口元が緩んだ。


 「はぁ……美味しかった、ご馳走様でした。それに、色々として下さって、ありがとうございました」


 マグダに向かって頭を下げる。


 「良いんですよ、出来ない時は出来る人に頼れば良いんです。そして自分が出来る時には、出来ない人を助けてあげる。それが助け合うと言うものです……やっぱり、お若い方は回復が早いわね。その食欲ならもう心配は無いでしょう。でも、まだ安心は出来ませんからね、少しお休み下さい」


 優しく笑いながらそう言うと、マグダは食器を手早く片付け出て行った。

 ここがどんなところなのか、カルロスやエドワルドが何者なのか、聞きたい事は沢山あったが、確かにまだ本調子では無さそうだ……

 何で自分はこんな所に来てしまったのか、考えたい事も沢山あったのだが、眠気が勝って数分後にはウトウトと夢の中に引きずり込まれていた……





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