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エメラルド・タブレット  作者: 小春日和
2/20

〜異邦の少女〜

 暗い、暗い、一切の月の光が無い新月の夜道を、何かを抱えた人物が足早に、ともすると駆け出しそうな勢いで真っ暗な森を歩いていた。

 あかりも無く、地面を覆う巨木の根っこが蔓延はびこる足場の悪い道は、本来ならさぞ歩きづらかろうと思われる筈なのだが、まるで昼日中の道を急ぎ足で過ぎ行くかの様に歩く様は、端から見たらぎょっとする光景だろう……

 だが、幸いにもこんな真夜中に、森の奥深くで活動するのは夜行性の動物か……はたまた闇を好む魔性の存在位だ。

 夏の暑さがまだほんのり残る初秋にも関わらず、その人物は真っ黒なローブに身を包み、フードを目深に被っている。その何とも怪しげな姿からは男と言うのが見て取れた。

 男は、はぁはぁと荒い息を吐きながら、更に奥にある洞窟に続く険しい道を急ぐ。

 いつからか男の周囲には魔性の幽鬼がフワフワと漂いながら取り巻き、まるでそこだけ気温が違うかの様に、口から白い息を吐き出しながら並走する。

 大きな樹々に覆われた道とも言えない道を何れ位進んだだろうか……

 やがて、大きな断崖が見え、その下にぽっかりと巨大な、だが一見するとあるのかどうか判別が付かないカモフラージュの魔法が施された穴が空いていた。

 近くには川があり、小振りだが滝がある為ざぁざぁと水しぶきを上げているのが聞こえて来る。今の時期、昼間だったら納涼を届けてくれるであろうそれは、残念な事に夜中であるため非常に不気味に響く……

 後少しで洞窟だ――――男の顔から怪しげな笑みが零れる。あと少し……あと少しの辛抱で自分は待ち望んでいた物が手に入れられるのだ!


 「ふふ、ふ……くくく……」


 高鳴る鼓動に突き動かされる様に、知らず零れ落ちる笑いを抑える事もせずに、男は何かを抱えながら通常なら入るのも躊躇われる様な真っ暗な洞窟に何の迷いも無く足を踏み入れた。

 幽鬼がフワフワと漂い、楽しげに不気味な身体を揺らめかせる。まるでこれから起こることが何か知っていて、とてもとても楽しみだ、と言う様に。



*****



 ――――一体何がどうなったのか、さっぱりわからない……何故こんなことになっているのだろう。


 少女、高尾空たかおそらはもう何度思ったかわからない思いにまたしても思考を奪われた。

 自分は今まで、確かに一般的に求められている様な善人でも、特に抜きん出た優しさや思いやりのある人間でも無かった……し、特に必要がない限り、自分の性格上これから先だって必要以上に人に親切にすることなど先ず無いだろう。

 どちらかと言えば世界平和を常々願っている崇高な人種ではなく、自分の平和を優先したいタイプだ。例え学校の活動の一環としてボランティアや募金等声を掛けられたとしても自分にゆとりが無かったら即答で断る。

 だが、だからといって生まれてこの方、特に悪い事をして来た事も人様に多大な迷惑をかけた事だって無かった。

 勿論、生きている限り一切の迷惑をかけずに居る事は出来るはずは無いが、少なくともごく一般的な範囲内だ……咎められる様な事は何もしていない筈だ。

 それが――――


 視線を巡らし、自分の居る場所を改めて確認して嘆息する。

 足下も壁も荒く削られた石で堅められ、全体的に硬くゴツゴツしている。

 部屋は長方形の形をしていて然程広くは無く、大人三人が横になって寝られる位だろうか……

 壁は三辺が石で囲われ、一辺は頑丈な鉄格子で覆われて一部が表側に開く様に扉の形になっているが、今はしっかりした錠で括られており、細腕の空は勿論、例え力自慢大会に出場している世界選手と言えども、素手などでは決して開ける事は出来ないだろう。

 その先に通路が見え、更にその先……通路を挟んだ向かい側には空が居る場所と同じ様な作りの部屋があり、それが更に左右にも続いていて各場所に一人かもしくは二人ずつ人が入れられているのが見える。

 天上は高いが窓は無く、明かりは空が居る囲いの外側通路に松明が一本括り付けられていた。

 換気が悪いのか湿気とカビの臭い、それから自分以外の人間が放っている垢や血など様々な物が混ざり合った異臭が鼻を突く。


 ……要するに、牢屋だ。多分、きっと。


 多分、きっと、と言うのは、空は数時間前に目を覚まし、自分の置かれている状況が完全には把握出来ないからだ。




*****




 高尾空は、都内の高校に通うごく普通の女子高生だ。

 ほんのり色素の薄さを感じさせるさらさらとした髪は肩甲骨の辺りで切りそろえられ、髪と同じ色の瞳は透明感がありキラキラしている。

 160センチの身長は年配の人に言わせれば“高い”部類に入るそうだが、現代っ子の空にはその限りとは思えない。

 肌は日本人にしては珍しく、黄色と言うよりは少しピンク寄りで西洋人の祖母の血のせいだろうか……だが、決して派手な顔立ちではなくしっとりとした丸みの有る和顔と言われたら誰もが納得してしまう作りである。

 高校は特に進学校と言う訳ではないが、制服が可愛いのと校則が比較的ゆるいと言う事も有り、そこそこの人気と倍率を誇っている。

 ゆるゆるで楽しい、可愛い女子高生ライフを満喫したいが為に、高校受験の時はかなり頑張った。

 元々そんなに学力が低い方ではなかったが、苦手科目を合格ラインまで引き上げる事が自分的にかなりハードルが高かったのである。

 苦手な物には兎に角関わりたく無い性格なので実際は取りかかるまでかなりの時間と精神力と気力を要した――――取りかかった後の努力も然り。

 その甲斐あって、見事華々しい未来への切符を手にした時の感動は、一生忘れられないだろうと思える位素敵な物でうち震えずにはいられなかった。

 そして、それだけ頑張ったのだから……と、高校生活は多いに羽目を外した。

 毎日毎日寝ても覚めても使える時間は殆んど大好きな趣味に費やす、夢のような幸せ青春生活を満喫していたのだ。

 それが、気付いたら良くわからない牢屋とおぼしき場所に、簡素な淡いワンピースを着た状態で何故だか良くわからないが左頬が腫れた様に痛みを訴えて来る状態で横たえられていた……口の中も切れている様で地味に鉄の味がする……


 ふぅ……


 眉間に皺を寄せながら、空は何度目かの溜め息を再びつく。


 (兎に角、気付いてからだいぶ時間がたったのだから、そろそろ落ち着きなさい、自分!)


 と、自分自身に声を掛ける。

 薄気味悪い場所で、良くわからない状況に追いやられ、怖くないわけが無い。

 実際、先程目が覚めたばかりの時は何処だかも分からない上にここから見える他の牢屋にいる虚ろな目をした人や、下卑たニヤニヤ笑いをした人などにビックリしたのと余りの気持ち悪さにパニックを起こしそうになった――――

 だが、空は感情をむき出しにするタイプではなく、どちらかと言うと理性で状況に対応していくタイプだった。

 幸い、怖くてもまだ辛うじて我慢出来る範囲だ……


 (大丈夫、気にしない気にしない……そしてあの人達は視界に入れない)


 泣くのは後でも出来る。先ずは冷静になって状況を把握するのだ――――既に若干涙目になりながらも、クッと拳に力を込める……


 その時、牢屋の外――――だいぶ高い場所で鍵の開く音がした。

 続いて重い扉が開いて誰かが降りてくる音……二、三人だろうか? 然程多くはないが複数の足音が聞こえる。

 どんな存在が近付いて来るのかわからない事に対する恐怖と、もしかしたら少しは展望が開けるかもしれない、と言う期待が入り交じり、極度の緊張が襲って来る。

 牢屋の出入り口とおぼしき場所から話し声が聞こえると、再び扉が開く音がした。

 足音が近づいてくるにつれ、それに呼応したかのように心臓がバクバクと音を立てて速くなる。


 (うわ一一一! ………………落ち着け! 自分っ!)


 なんとも言えない居心地の悪さと、体の震えを何とか耐えていると、松明を掲げた男が先に立ち、二人の男が空の前で立ち止まった。

 どちらも長身で引き締まった体つきをした若い男だが、一人は金髪で、派手ではないが華やかさが醸し出された品の良い服を着ており、もう一人は対照的に赤髪に黒付くめの威圧感を感じさせる服を着ているのが松明の灯りにほんのり照されて見えた。


 「っ?」


 先程から、他の囚人や牢屋の様子や着ている服から薄々感付いてはいたが、何かがおかしい……日本人ではないのは、100歩譲ったとしてまぁ良いだろう……昨今の現代日本には黄色人種だけではなく白人や黒人、中には赤肌や青肌と言われる人だっているのだ。

 だが、今目の前にいる青年達は明らかに年代が遡った格好をしているのだ……

 良くみれば金髪の青年はリボンタイの付いた白いブラウスに黒いズボン、そして裾を革のブーツの中に入れている典型的な王子様スタイル、赤髪の青年も、一見真っ黒で地味だが、端々に金の留め具を品良くあしらっており、良くみれば体に合わせて作られたのであろう詰め襟の服は、一切の無駄がなく体のラインを綺麗に出す作りになっている。二人ともまるで大好きなファンタジーゲームに出てきそうな佇まいだ――――

 そして松明を掲げている男は頑丈な鎧に身を包み、冑を目深に被っていて真一文字に結んだ口許以外は何も掴めない。

 もう少し良く見ようと色素の薄い目許を細める――――と


 「目が覚めたか」


 建物の作りの所為だろうか?若々しさがほんのり感じられるものの、周囲に反響して拡張され、重厚さを増した声で金髪の青年が話掛けて来た。


 (わっ! 言葉がわかる!?)


 話し掛けられた言葉は日本語では無いのに、すうっと脳内に浸透し、無理なく言葉が理解出来たのだ。

 耳に入って来る言語は聞いた事の無い、だが綺麗で心地の良い発音だった。同時に脳内変換されているのが何となく理解出来た。

 ビックリして反射的に立ち上がり、目線を相手に近付けると炎に照された青年の端整な顔立ちが判別出来た。暗いのでしっかり見えるわけでは無いが、かなり綺麗な顔立ちをしている様だ。


 「貴女に聞いておきたい事がある」


 硬い声音が耳朶を打った。相手も緊張しているのか、ほんの少し震えている様な、何かを押さえているような声に聞こえた。


 「貴女がラナセスの塔で何をしていたのか――――ラナセスは何をやっていたのか、奴が逃げ場所として行きそうな場所を知っているなら教えてほしい。返答次第では処罰を軽くすることも検討しよう」


 「え?」


 (――――この人は何を言っているのだろう?)


 言葉の内容が理解出来ず、思わず青年を凝視する。

 チロチロと動く炎の灯りに照されて、青年の瞳がキラキラと揺らめいている。

 まるで艶つやに磨いた鉱石の輝きの様にとても幻想的で、こんな時でなければ幾らでも魅入っていられそうな美しい顔は……そんな空の思いなど知る由もなく、険しい表情で更に追い討ちを掛けるようなことを口にした。


 「だが、もし隠しだてする様であれば容赦はしない。この国の法に乗っ取ってそれ相応の処分を下す。処刑も覚悟の上だと言うことであれば黙秘してくれて構わない」


 ――――一瞬の間を置いて、冷や汗が身体から吹き出した……

 言っている内容は良くわからない。塔も人の名前も初めて聞くものだ……

 だが、自分の身が非常に危険だと言うことだけは理解出来た。

 咄嗟に弁解が口を突く。


 「し、知らないっ……! ラナセスって、塔って何!? 私っ……気が付いたらここにいて、何がなんだか分からなくてっ……」


 恐怖と緊張が全身を包み込む。

 まるで自分の物ではないかの様に身体が強張り、押さえようとするのに、ガタガタと震えだす。喉の奥に言葉が詰まったかの様に貼り付いて上手く喋れない。


 (何!? 何言ってるの!? 怖いよ……もう嫌だよ! 帰りたい!!!)


 自分が何を言えば会話が成り立つのか、ちゃんと伝わるのか……唐突過ぎて思考が追い付いて行かず、ただ薄暗い牢屋の中でフルフルと頭を振るのがやっとだった。

 大好きな父や母、愛犬のヴィヴィの姿が恋しくてたまらない……早くいつもの自分の居場所に戻り、日常を過ごしたい。


 「……知らない振りをするのはあまり利口なやり方とは思わない。私も必要以上に人を苦しませる事はしたくないんだ、話してくれないか?」


 青年は一歩踏み出し、眉間に皺を寄せ更に険しい表情で再度言葉を投げてくる。


 「貴女はあの塔のラナセスの部屋にラナセスと一緒にいた。それが何よりの証拠だろう……私はちゃんと見ているし、貴女を捕らえたのも私だ。言い逃れは出来ない……」


 「――――私、ホントに分からないっ……分かりませんっ! そんな所にいた覚え無いものっ!」


 頭がクラクラして、もう立っているのも辛かった……崩れ落ちて泣きそうになるのを懸命に堪えながら辛うじて必至に訴える。


 (ここが何処かも分からないのに! そんな人も塔も知るわけ無いじゃない!)


 「お願い……ここから出して……!」


 否定したい、わかってほしい、聞いてほしい、様々な感情は沸き上がって来るのに――――上手く言葉に出来ず、俯いて肩甲骨まで伸ばした髪をサラサラと揺らしながら頭だけを振り続ける……そんな空の様子を目を細めながら暫く眺めると


「そうか……非常に残念だ……」


 金髪の青年は嘆息し、苦し気にそれだけ言い残して、元来た道を去って行った。




*****




 「――――よお、お前さ、もうちっと利口になった方が良いんじゃねぇ? 知ってること吐いちまえばそれだけで死ななくて済むんだぞ? こんだけ厚待遇な取引き持ち掛けられてむざむざ棒にふるなんてお前馬鹿か?」


 それまで二人のやり取りを黙って見ていたもう一人の赤髪の青年が、唐突に口を開いた。

 すっかり忘れていたが他にも人がいたのだ……


 (――――何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするけど……)


 胡乱気に視線を巡らすと、呆れきった顔の赤髪の青年がこちらを見ているのが視界に入った。

 ぼうっとした頭が少しだけはっきりした……金髪の青年がいなくなったことで、緊張が少し弛んだ様だ。相変わらず身体は強張っているが、先程より思考が働く気がする――――


 「か、勝手なこと、言わないでよ……私だって、いきなりこんなところにいて、ここが何処なのか……自分が何でここにいるのかとか、どうしたら良いのかすら、分からないんだから……ラナセスって名前だって、初めて聞いたもの……」


 つっかえながらも、やはり先程よりしっかりした口調で伝えられた。

 思いが伝えられた事に心なしかほっとする。

 それを聞いた赤髪の青年は少々怪訝な顔をして、格子に手を掛けながら長身を屈め空の顔を覗き込んでくる。

 金髪の青年よりも大人っぽい顔立ちで、通常の日本人にはなかなかいない位かなり身長が高い為か威圧感がある……と、青年が顔を近づけた事により、耳の先が通常の人間とは違い、尖っているのが目に付いた。びっくりして心臓が跳ね上がる。


 「分からないって、お前記憶喪失とかなのか?」


 乱暴ではあるが金髪の青年とは違い、明らかに声変わりをしているどこか落ち着きのある心地の良い声が耳に響く。


 「違う……記憶はあるの。私は空って名前。私は多分、この世界の人間じゃないの……私の住んでる世界と丸っきり違ってる、別世界なんだなってはっきり分かる……」


 先程の、極度の緊張から来る心臓の早鐘とは、明らかに何かが違う鼓動を何となく感じ取りながら、空は言葉を返す。


 「――――はぁ?」


 「全部が違うの……今までこんな言葉の発音聞いた事無いもの。自分が喋れるのも不思議だけど。それに、私が住んでる世界は科学が発達してて、こんな松明とか使ってない……照明は全部電気だし、牢屋だってもっと綺麗でちゃんと管理されてるし、それに――――」


 そこまで聞くと、赤髪の青年は眉間に皺を寄せ剣呑に睨んでくる……高い身長に、引き締まった身体なだけあり、かなりの迫力だ。思わず身を退く……


 「お前さぁ、嘘つくならもちっとマシな嘘つけや。そんなこと誰が信じるんだよ、こっちはわざわざ忠告してやってんのに……」


 「――――っ!」


 「何も分かりません、言葉が違います、物の作りが

違います……じゃあ何で今お前がここにいてこんな所にぶち込まれてんだよ。あ……どっか頭打ってネジが何本か飛んだのか?」


 そう言いながら手を自分の頭部に持って行きパーを作って見せる。明らかに馬鹿にしきっていた。

 一瞬腰が引けていたものの、流石に怒りが込み上げて来た。

 こんな状況で、どうやってそんな嘘がつけると思うのだろう……仮に自分がこの世界の人間で、本当に塔やラナセスと言う人物を知っていた上で思いついたとして、逆に信じて貰えると思って言ったりするとでも思うのだろうか?

 失礼過ぎる発言に、恐怖も忘れて顔を正面から見据え赤髪の青年をキッと睨み返す……


 「別にっ、信じたくないなら信じてくれなくて良いわよっ! ただ私は自分の思ったことを言っただけ! それとも何!? 知りもしないのに“知ってます”なんて言って無責任にあること無いことでっち上げて言えば満足!? それこそ嘘だって分かったらどうせ処分するんでしょ!」


 (――――悔しい! 何でそこまで言われなきゃならないの!?)

 

 ツンと鼻の奥が痛くなり、余りの悔しさに堪えきれず涙がぽろぽろ零れ落ちる。幾ら普段は冷静な方だとは言え、流石に我慢の限界だ……自分はまだ17歳の少女と呼べる年なのだ。抱えられる許容をとっくに超えている。

 そんな空の様子を見て逆に毒気を抜かれたのか、赤髪の青年がビックリした顔をして固まってしまった。


 (もう、これ以上話なんてしたくない……!)


 極度の疲労を感じ、先程よりも更に頭がくらくらしてきた……視界も何だかグラグラして焦点も定まらない……興奮したせいだろうか。苦しい。


 「もう良いでしょ……放っといて……」


 それだけをやっといい放ち、空はまた俯く。

 少しの間、空を眺めていた青年は


 「……あぁそうかよ……そりゃ悪かったな……」


 ばつが悪そうに顔をしかめると、格子から手を離し金髪の青年と同じように踵を返して元来た道を帰って行った……。


 松明を掲げていた兵士もいつの間にか去っていたようで、壁に掛けられた松明と、異臭を放つ虚ろな目をした囚人や下卑た笑いの囚人達、そして牢屋に独りで入れられた空……先程と変わらぬ、同じ空間が再び戻ってきた。

 松明の灯が自分の、格子の陰を地面に落としているのが視界に入った。

 そこまでを確認すると、クラリと視界が歪み、限界を訴えていた身体は何とか握りしめていた意識を手放した……


 ドサリ、と空はその場に崩折れた。



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