一夢目
そこは、一点透視図法で描かれたような、広く白い空間だった。
さらに、注意して観察して見ると、足元から伸びている道筋が奥に延びている。
どこまでも続く奥行きの先は、永遠に辿り着けないような程の距離がある気がした。
見覚えの無い場所に立ち尽くす僕は、これが夢ではないか?という考えに至るまで数秒かかった。
試しに自分の頬を思いっきり抓ってみたけど、痛くは無かった。ここは、どうやら本当に僕の夢の中らしい。
つまり、ここは自分の頭脳のどこで創造した空間を、夢の中で具現化したということだろうか。
それなら、この夢は一体何を示しているのか、自問自答してみるが答えは一向に出ない。
悩んでいては始まらない、迷いを見せながら一歩一歩、永久に続きそうな道を歩んでいく。
土壌ともコンクリートともいえぬ、無機質なものを踏み込んでいる感覚がする。不思議な体感をしながら、無言で進んでいく。
夢の中の時間と現実の時間は一致するのだろうか?少なくとも、今の状況で一時間くらい歩行した気がする。
しかし、道の景色が変わる気配がさっぱり感じられない。延々と最終点の無い道を進み続ける。
さらに一時間、推進するが結果は同じ、風景の変化は見られない。
肉体的な疲れは無いが、いい加減精神的に疲れを覚えたので、休憩を含め一回立ち止まることにした。
その場で座り込み、暫しの小休をとる。それでも何の出来事も起きない。
もういっそのこと目覚めてしまえば楽なのでは、そんな事を考えてみた。
予兆、前触れは何も無かった。本当に突如としたものだった。
僕の前に巨大な穴が道に出現するのは……。
直径2メートル近くのホールは、底が見えない漆黒が広がっていた。円周にゆがみは無く、人工的に作られたのが伺える。
驚きのあまり飛び上がるように立ち上がる。
穴の淵ギリギリまで行き、ぱっくり円に開いた道を、僕は興味半分恐怖半分で覗き込む。まるで穴が、僕が落ちるのを待ち望んでいるように思えた。
この穴に落ちたら、果たして自分はどうなるのか。底はあるのだろうか。何処かに繋がっているのだろうか。誰の仕業なのか。気になり始めたら止まらない。
落ちてみたい、奇妙な感情が胸の中で湧き上がる。恐怖と好奇心が頭でせめぎあっている
どうやら、恐怖の感情が打ち勝ったようだ。穴隙を迂回するように道を通り過ぎる。
ホッ、と僕は安堵した。
そこで、夢の終了が告げられた。
「ほら、いつまで寝てるの。学校遅刻するわよ」
母親の叱り声で目が覚めた。
いつものテレビの音と、朝食の良い匂いがするリビングのソファアの上で体を起こす。
「あんたまたここで寝たのね。そんな格好で、風邪引くわよ。はい、とっとと支度しなさい」
学生服を着たまま寝に入ったようだ。服があちこちしわだらけになっている。
普段通りの事なので気にせず、そのまま食卓に着く。
ご飯に味噌汁、卵焼きに鮭の塩焼き、代わり映えの無い和食中心の朝食。いただきます、の後にご飯を味噌汁にぶち込んで簡易雑炊にする。時間がおしているときによく使う技である。
流し込むようにそれを口に促す。それと同時に、定番朝ニュースチャンネルのアナウンサーの声が耳に入る。
『今日の早朝、○○県××市の住宅街で火災が発生しました。幸い死傷者は出ませんでしたが、一棟が全焼。警察では放火の可能性があるとして―』
テレビ画面には、燃え尽きた家屋の残骸が映し出されていた。
「あら、いやねぇー、隣町じゃない。ちゃんと火元、気をつけなくちゃ」
母が真面目に頷きながらその場を立ち去った。
僕も、現場がここと近いだけで、それ以上の関連性はないと、リモコンでテレビの電源を消した。
主菜とおかずを口に詰め込んで、ごちそうさま、をして支度をするため洗面所へ向かう。
いってきます、通例の挨拶を告げると学校へと出発する。
そして今日も、安定の日常が過ぎっていった。




