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唐沢桃の多忙なる日常



 私の大好きな人。深山椿ちゃん。サラサラの黒髪にすらりと長い手足。モデルさんみたいとか、女優さんみたいとか、その綺麗な容姿に対して褒め言葉がたくさん浮かぶ。

 でも椿ちゃんの素敵な所は見た目だけじゃない。こんなどんくさいあたしを大切にしてくれる人。あたしのこと、大好きって言ってくれる優しい女の子。だからね?あたし、椿ちゃんには誰よりも幸せになってほしいなぁって、思ってるよ。


「唐沢桃って、あのぶりっこ?」

「そうそう。ちょっとかわいいからって何あの話し方?超きもいんだけど。」


 売店に向かって歩いていた途中、女の子2人の大きな声が耳についた。多分、いや、絶対わざとだと思う。聞かせようとしてるんだ。あたしに。その子たちの顔を見れば、ああ、と合点がいく。先週告白してきた他クラスの男の子の傍に、いつもいた子たち。でも、あの人があたしに告白してきたってことは、彼女じゃないんだと思う。

 思わずドキリとしてしまうくらい鋭い視線。憎くて堪らないって伝わってくる。ちゃんと断ったのに。何が気に入らないんだろう。「ぶりっこ」「きもい」「調子に乗ってる」という言葉は、もう言われ慣れてしまった。あたしの容姿や口調が鼻につく女の子たちは多いようで、こういったシチュエーションも何度も経験した。幸いなことに今のクラスは男女共に優しい人たちばかりで、あたしをきちんと受け入れてくれる。


「え、てかなんでこっち来てんの?」

「自分のクラス帰れー。」


(…売店に行くんだよう…)


 あなたたちに用はないよ。それに知ってる?今、すごい怖い顔してること。近くの教室にいる、あなたたちが大好きなあの人も、顔を引き攣らせていること。というか、助けてくれないんだ。あたしが好きで、あたしのこと守りたいって言ったくせに。まぁ、振ったけど。


「桃。」


 とん、背中に添えられた手に顔を上げれば、整った綺麗な顔。


「…椿ちゃん。」

「私もやっぱり売店行こうと思って。一緒に行こう?」


 美人な椿ちゃんは、あまり笑わない。いつも落ち着いていて、表情にも変化がない。でもあたし、知ってるよ?椿ちゃんがとっても優しい人だってこと。今だって、あたしを心配して追いかけてきてくれたんでしょう?

 椿ちゃんに促されて再び歩き出し、階段を下りて行く。2人になって何となく糸が切れて、大きく息を吐いた。


「何か言われたの?」

「うん?…えっとねぇ~、ぶりっこって。あときもいとか。ふふ、いつも同じこと言われる~。」

「桃は可愛いよ。」


 澄んだ瞳が、真っすぐにあたしを見る。あたしは椿ちゃんと仲がいいから、一見いつもの無表情でも微妙な違いでわかるんだ。今はえっと、驚いてる。心外だって顔。


「桃が可愛いから嫉妬してるんでしょう。こう言っちゃなんだけど、あの子たちの顔、あまり可愛くなかったから。」


 椿ちゃんは手厳しい。美人さんにこんなこと面と向かって言われたら、泣きだしちゃうだろうなぁ女の子は。椿ちゃんはそんなことしないけど。今はあたしが悪く言われたから、怒っているだけ。


「そうかなぁ~。でも椿ちゃんの言うことだから信じる。」

「うん。早く行こう。桃の好きなクリームパンなくなっちゃうよ。」

「うんうん。急ごうぅ~。」



 椿ちゃんと友達になれて良かった。椿ちゃん大好き。

 だからこそ今、あたしは悩んでいる。


「ええ~?ミッツーそうだったの~?」

「ちょっ…唐沢声大きい!!」


 ミッツーこと満島薫くんは、明らかにあたしより大声を上げた。ううん、ミッツー顔真っ赤だ。女の子みたいな見た目の彼だけれど、中身は当然男の子。恋だってする。でもそのお相手が、あたしの大好きな椿ちゃんとは。


「知らなかった~。意外かもぉ。」

「だ、誰にも言うなよ。…初めて言ったんだから。」

「秘密ってことぉ?それって椿ちゃんにも~?」

「当たり前だ馬鹿!!」


 馬鹿だって。酷い。ミッツーは可愛いくせに口が悪い。椿ちゃんにはあぁ~んなに優しい声で話しかけるくせに。………あ。繋がった。なるほどなるほど。それは椿ちゃんのことが好きだったからか。

 でも正直、2人の接点はないと思う。一番最初の席が前後だったってことくらい。入学式で仲良くなった椿ちゃんと席が離れていた期間は、あたしにとってはあまりいい時間ではなかったけれど。ミッツーはその間に椿ちゃんに恋をしたらしい。


「へぇえ…」

「なんだよその目。まぁ…わかってるよ。深山さんは高嶺の花だし、俺みたいなやつに興味がないことくらい…」


 何にも言ってないんだけどな。ミッツーは勝手に落ち込み始めた。自分で言って、それで落ち込むって。忙しい人。


「でも何であたしに教えてくれたの~?」

「それはその…き、協力してくれないかと思って。深山さんの一番近くにいるの唐沢だから。」


 無理だ~って言いつつも、ちゃっかり近づこうとしてるんじゃん。ミッツー、純情に見えて策略家?

 椿ちゃんの一番近くの存在って言われて、ちょっと優越感。ちょっと嬉しい。


「何したらいいの~?椿ちゃんにミッツーをプッシュするとかぁ?」

「いや、そういうのはいい。ただ、好みとか。教えてくれたらなと思って。行動は、自分でする。ちゃんとしたいし。」

「………」


 可愛いミッツーはなんかすっごい男らしかった。そう思ったら協力するのもいいかなぁと心が揺らいだけど、椿ちゃんと恋愛面の話しないしなぁ。ミッツーにそのまま伝えたら、「女子ってそういう話ばっかりじゃないの?」だって。うわぁ偏見~。少なくともあたしたちはそうじゃないもん。


「じゃあ普段どんな話してるの?」


 えっと、あたしの好きなプロレスの話とか昨日あったこと……。あと椿ちゃんは可愛いものが大好きな女の子だから、新しく見つけたお店とか、洋服とか雑貨を教えてくれる。あ、そういえば椿ちゃん、「可愛いもの好き」なことはあたしと椿ちゃんのパパとママしか知らないって言ってた。だからミッツーには言えないなぁ。ミッツーはいい人だけど、椿ちゃんの方が大切だもん。


「うぅ~ん。秘密。」

「え、まじ?」


 可愛いもの好きの椿ちゃんだから、その点ミッツーは合格かも。あ、これ言ったらミッツーに怒られるだろうし、椿ちゃんの秘密をばらすことになっちゃうから言わないけどね。

 それにね、少し引っ掛かる所もあるし。


「ねぇミッツー、1つだけ教えてあげようかぁ。」

「何?」

「高嶺の花って言葉、止めたほうがいいかも~。あと綺麗とか、美人とか。あたしはいいけどねぇ。」

「?」


 わからないでしょう。教えてあげないよ。椿ちゃんの理解者はあたしなんだから。

 椿ちゃんが本当は、可愛いもの好きなこと。冷めてるとか言われがちなポーカーフェイスに悩んでいること。レベルが高いとか、隣に並ぶのはこういう男じゃなくちゃとか、そういう理想や価値観を押し付けられるのが嫌いなこと。

 ミッツーはどうかな。他の男の子みたいに、椿ちゃんを傷つけて悩ませてしまうかな。あたしね、そうだとしたら許さないよ。


「……可愛い、も?」


 ミッツーは赤い顔で、そう言った。きりりとした大きな瞳も、大人な雰囲気も、「柔らかい」とか「可愛い」より、「綺麗」とか「鮮麗された」とか「整った」の表現が似合う椿ちゃん。ミッツーは男の子の中だと背が低くて、可愛い顔してて、お世辞にも椿ちゃんに容姿の面でお似合いと言えるタイプじゃないかもしれない。


「椿ちゃんのこと、可愛いって思うの~?」

「…はぁああっ?う、うるさい!」

「ミッツー、大事なことだよ。」

「か、…っ可愛いって思ったから好きになったんだよ!」


 その時あたしは直感しました。もしかしたら、椿ちゃんはミッツーのことを好きになるかもしれないと。もうすでに、好きかもしれないと。


『いいな、桃は可愛くて。………いいなぁ。』


 「可愛い」が好きで、「可愛い」に憧れていた椿ちゃん。あたしはそんな椿ちゃんが可愛いと思った。入学式で仲良くなって、それからずっと一緒にいるあたしたち。この学校で誰よりも多くの時間を過ごしているのはあたし。それなのに。


「…ミッツーはライバルだね。」

「へ?」


 精いっぱいの睨みをきかせ、踵を返す。あたしはミッツーに恐れを感じた。いつか椿ちゃんを取られてしまうのではないかと。ミッツーの気持ちを知ったその日、あたしは椿ちゃんが、いつまでもあたしだけの人ではいてくれないことを知った。

 でも、でもね、椿ちゃん。もしミッツーと、ううん別の人とでも、椿ちゃんが好きな人とラブラブになる日が来ても、あたしと友達でいてね。あたしの話、今までみたいに「うん。うん。」って聞いてね。一緒にお昼食べてね。一緒に帰ろうね。買い物しようね。スイーツ食べようね。



「………はぁあああ。」


 溜息が止まらない。恐れていた日が来てしまった。実は椿ちゃんもミッツーのことが好きだったらしい。驚きでそのままミッツーに知らせてしまったけど、あの2人はカップルになるの?

 椿ちゃんと両想いだと知って、すぐにあたしを厄介払いしてきたミッツーにはむっときた。けど。椿ちゃん、顔真っ赤だったなぁ。ミッツーとお揃いだった。ミッツーのこと、好きだったんだなぁ。


「はぁああああ。」

「…あれー?桃。1人?」


 フラフラと廊下を歩いていると、教室から千葉雅哉こと、まっさんが現れた。まっさんとは小学校からの同級生で、言わば幼馴染というやつ。


「ミツ知らね?野球しよーっつったのにいなくなってさ。」

「……知らなーい。」

「そっか。つか、珍しいじゃん。深山さんは?」

「椿ちゃんはついさっき彼氏ができちゃったから、今日はいないの~。」

「ええっ!まじ!?誰!?」

「…まっさんならもうすぐ知るんじゃなーい…」


 ミッツーと仲いいし。と心の中で呟いてみる。まっさんは物凄く驚いていたけれど、すぐに何かに気がついたようにあたしを見つめてきた。


「じゃあ桃、今日は1人なんだ?」

「うん~。本屋に寄った後ケーキバイキングでも行こうかなぁ。やけ食いする。」

「やけ食い?……なら、付き合おうか?俺。」


 まっさんの申し出に、きょとんと目を丸くした。そういえば高校に入学して椿ちゃんに出会うまで、よく家に遊びに行ったりとかしてたなぁ。まっさんママの料理美味しいんだよね。


「野球は~?」

「それは…っミ、ミツも戻らないみたいだし、中止っつーことで!」

「ふうぅ~ん。なら付き合ってもらおうかなぁ。」


 椿ちゃんもいないし。久しぶりにまっさんと遊ぶのもいいかもしれない。

 それになんだか上機嫌なまっさんを見ていたら、少しだけ気分が上昇した。明日になれば、椿ちゃんから報告を受けるだろう。ミッツーの株は暴落したけど、椿ちゃんが幸せならそれでいい。


「彼氏………かぁ。」


 椿ちゃんがミッツーといる時間を、埋めてくれる人。落ち込ませないで、淋しくさせないで、楽しくさせてくれる人。


「桃、彼氏欲しいの?」

「うん?……そうかもぉ。」


 なんだかいいなぁって、思ってしまったから。赤くなった椿ちゃんとミッツーを見ていたら。恋って、いいものなのかも、みたいな。

 いつかあたしもあんな風に、誰かを想って顔を赤く染める日が来るのだろうか。今から少し、楽しみに思う。


「じ、じゃあさ。」


 まっさん、顔赤い。熱でもあるのかな。あの2人みたいだよ。


「俺と付き合うっていうのは………どう?」


 確かにね。確かに思ったよ?ほんの数十秒前に。でも、急すぎない?しかもまっさん?

 頭にたくさんクエスチョンマーク。あれ、あたし結構パニくってる?顔も名前も知らない人に告白されても、冷静でいられたのにな。まっさんとは付き合い長いから。何だかんだで面倒見のいいまっさんには、大分お世話になったと思うよ。でもでも、まっさんが彼氏?

 あのねぇまっさん。実はあたし、恋したことないの。初恋もまだなの。それにさっき、生まれて初めて恋のキューピットなんて高度な立場もこなしたの。そんな日に、これ以上頭使えないよ。


「まっさん。」

「……お、おう。」

「お腹すいちゃった。」


 とりあえず、ケーキ食べて糖分補給してからね。





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