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私とストーカーと魔法の学校  作者: WLCノベル
第1章 入学前
9/59

08 鳩のポッポ

 体を鍛えておくべきだった。


 私は心底後悔していた。

 とはいっても、昨日までの私はただの3才児、そこまで求めるのは間違っているだろう。


 ただ、


 ユウシャに片手で、腕ごとホールドされて身動きのとれない自分は、ユウシャの筋肉を見るにつけ、ウンザリしてしまう。

 そういえば、前世の勇者もマッチョだった。

 正義を貫くためには力も必要だとかそんな理由だった気がするが、直接本人に確かめたわけではないので詳細はわからない。そもそも、ユウシャが私の知る勇者である確証もないわけだが……。


 とはいえ、確認したいとも思わない。

 確認してこっちの素性までバレたら、事態はきっと、もっと収拾のつかないことになるだろう。


「あの、大丈夫だから、離してほしいんだけど……」


 実力で抜け出せないのであれば仕方がない。

 下手な言葉で誘拐犯確定しないよう注意しながら、控えめに要求した。


「お嬢さん、気持ちは有難いがそういうわけにはいかない。

 ここでアンタを見捨てたら、アンタが俺を許しても、俺が俺を許せなくなるからね」


 いやいやいやいや!

 むしろ許してほしいのはこっちですから!!!


 ほら、空気読もうよ。

 エルスの目つきがおかしくなってきてるとことかさ、あいつキレやすいんだからさ。


「クソビッチ、ナメんなよ。俺が、コワすことに躊躇するとでも思ってンのか?」


 しかも矛先こっちだし!!!


「わ、私は何も悪くないでしょー!!

 この変態勇者野郎が勝手にカンチガイして馬鹿やってるだけなのに、なんで私がクソビッチなのよ!!!」


「誰にでも股開いて誘惑しまくってるから、こーいうことになる」


「開いてないし、そもそもこんな地雷男、わざわざ踏みに行く趣味ないし……あーもぉ、離せよ、妄想勇者!!」


 ジタバタジタバタ、暴れるが、ユウシャは一向に手の力を緩める気配はない。


「ちょっと、本気で嫌がってるのがわかんないの!? 気持ち悪いんだから、さっさと……」


 睨みつけて凍りついた。

 ユウシャの顔にあったのは、好意的な頬笑み。


「俺を巻き込みたくなくて自分が悪者になるなんて、お嬢さんは優しいな」


 チッ。

 そうーでしたね。勇者様はこんな簡単な挑発に乗ってくれるほど、空気の読める方ではなかったですよね。は、は、は、は!


「…………」


 悪寒。

 私はエルスに視線を戻した。


 何あれ……手に持ってる赤い……玉……?


「ゲ!」


 悲鳴を上げたのは、今まで空気になっていたヘイミンだ。


「逃げるぞ、ユウシャ」


「ぐえっ」「ひゃっ」


 ヘイミンはユウシャの首根っこ掴むと、抱きしめられた私ともども、部屋の奥の窓に頭から突っこんだ。

 バキバキ!

 木枠の窓を打ち破って、外に飛び出す。

 部屋の中に向いていた私の視界には、エルスがさっきの赤い玉を放り投げる姿が見えて……。


 ちゅどーん!


 赤い玉から閃光が漏れるのと同時に、部屋の中が爆発した。

 間一髪窓の外に飛び出した私達だったが、そこは二階、ヘイミンがユウシャから手を離したので、ユウシャは私を持ち変えて、リフティングのバーベルのように頭上にあげた。そして、……。


 ズダン!!!


 地響きたてて、ガニマタに踏ん張るように地面に降り立つ。

 これは痛い。

 真っ赤になってしばらくブルブル硬直したのち、ニッと無理矢理笑って、私を地面に立たせた。


「大丈夫かい、お嬢さん」


「痛い時はちゃんと痛がった方がいいと思う」


 私は、まだ足的に辛かろうユウシャを、思いっきり、ど突き飛ばした。


「ギャッ」


 さすがのユウシャも、あっけなく転んでしまう。

 そして信じられないという表情で私を見た。


「離せと言ったのに、離さないからこういうことになるのよ」


 元いた部屋を振り仰ぐと、モウモウと真っ黒の煙が噴き上がっていた。

 まさか二発目、それもさらに火力の強いものが来るとは思ってなかったけれど、アイツのことだから半死半生くらいがちょうどいい、とでも思ったのかもしれない。

 私をコワすことに少しでも躊躇があるヤツなら、苦労はいらないのだ。


「ヘイミン、親ならなんとかして」


「はぁーーーーーー。それができりゃー、苦労はいらねーよ」


 ヘイミンはそれでも、転んだユウシャの肩を抑えるようにしてしゃがみこんだ。


「親父?」


「これ以上は駄目だ。俺がミラに怒られちまう」


 ザザッ。


 その時だった。

 私と親子の間に、黒い獣が割りこんだ。

 それは屋敷を出てすぐに出会った、黒い毛のオオカミ……。


 私を守るように立ちながら、その琥珀の瞳から注がれる視線はあまりに冷たい。


「ポッポ、もうくちばしじゃないんだから、噛んじゃだめだ」


 宿屋の二階から下りてきたエルスが、苦笑しながらその名を呼んだ。


 ポッポ? ポッポだと?


 私は反射的に後ずさる。

 ポッポといえばストーカーの飼っていた鳩の名だ。

 ストーカーに懐きに懐きまくっていて、私のことはいつも敵視していた。

 鳩のクセに猛禽類のような目で睨み、油断すると私の肉をついばもうとし、私がストーカーと距離を置こうとした時は、空からホーミングして居場所をストーカーに知らせた。

 以来、鳩は私にとって不吉な鳥であり、恐怖の対象だ。


「覚えてるみたいだね、あのポッポだよ。

 普通に人間も襲っているから、気をつけた方がいい」


 鳩まで転生とか、驚くよりも呆れてしまう。


「匂いを……辿った?」


 あまりにも早かったエルスの登場は、そういうことなのかと思って聞いてみたが、エルスは鼻で笑って首を振った。


「もっといいものだよ。おうちに帰ったら、教えてあげる」


 それは、もっと最悪なもの、ということだろうか。


「帰ろーか、おねーちゃま」


「駄目だ、やめろォ!」


 ユウシャが叫ぶ。


「……」


 下手なことを言ってエルスの機嫌を損ねたら面倒臭いことになる。

 私はユウシャを無視して、エルスの手をとった。


 その後、ポッポの背に乗って自宅へ戻ったが、疾走するオオカミの背中は、痛快に悪酔いするということが判明した。

 二度と乗りたくないと思った。

そのうち登場人物紹介を書いたほうがいいかもしれない…。

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