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私とストーカーと魔法の学校  作者: WLCノベル
第1章 入学前
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07 もう修理代を払ってくれたら、それでいいです by宿屋亭主

 扉を破壊して宿屋の部屋に入ってきたわが弟エルス(2才)は、スイと部屋の中の人間を確認してから、愛らしく微笑んだ。


「おねえちゃま、心配したんだよ。おうちにかえろー?」


 いやそれ、無理あるでしょ?

 さっきクソビッチとか言ってたし、扉も破壊して、今更幼児ぶりっ子したって、手遅れでしょ?


 そう思って二人の顔を伺うと、反応に困っているような、なんとも言えない表情で固まっていた。


「おねえちゃまが何も言わずにいなくなるから、おとうたまもおかあたまも、すっごく心配してるよ。はやく帰らないと、ここまで来ちゃうよ」


 エルスは唯一の大人であるヘイミンに視線を向けて、


「ねえ、おねちゃまを返さないなんて、ゆーかい犯みたいなこと言わないよね?」


 その言葉はヘイミンに向けているようで、私宛てだ。

 たしかに、男爵家の娘をこんな宿屋の一室に連れ込んで、誘拐じゃないと説明するのは難しいことかもしれなかった。たとえ私が否定しても、騙されて連れてこられた幼児の意見を誰が信用するだろう。


 バタバタバタバタ!

 数人の大人が血相変えて駆けつけてくる。


「扉ああ!!」


 悲鳴のようにも聞こえる裏返った叫び。

 叫んだのは受付をしていた、この宿の亭主っぽい人だ。


「ってめーら、何を……」

「ぼっちゃん、危ないから早くこっちへ!」

「誰か早く保安兵を呼んできてくれ!!」


 扉を壊したのは、こちら側、というか、ヘイミンとユウシャの仕業と認識されたようだ。普通幼児がやったとは思わないだろうから、それは常識的な判断といえる。


 しかし、


「まって! ごめんなさい、扉を壊したのは僕なんだ」


 エルスは否定して、頭を下げた。


「ねえちゃまが危険だって、ぼく思っちゃって……ごめんなさい」


 集まった人たちは言葉を失う。

 常識的にはこんなことを2才の幼児がやるとは思いたくなかったが、本人がそう言っているものを否定する材料もない。

 そもそも嘘ではないのだから、否定するのは難しいだろう。


「おじちゃまたちも、勘ちがいしてごめんなさい。おねえちゃまを守ってくれたんでしょう?」


 そういうことにしておいてやる、とでも言うように目を細めた。そして私に視線を戻す。


「おねえちゃま、おうちにかえろー?」


 落としどころ、ということなのだろう。

 やりようによってはヘイミンとユウシャを誘拐犯として突き出すこともできるが、爆発で吹き飛ばされた扉の破片が部屋の中にある以上、爆発を起こしたのが扉の外側であるのは明白だ。状況を冷静に判断する者がいた場合、エルスにとっても面倒な流れができる可能性もある。

 ならば双方傷がつかないで済む適当な所を落としどころにするのが、大人の判断というものだ。


 2才の子供の判断じゃないけどね!


 とにかく私にとってもそこが落としどころなのだろう。

 そもそも、ユウシャが勇者なら、こっちにいるのも不安が渦を巻きだしているし、エルスに従って2人きりになっても、たぶん、きっと、おそらく、すぐには殺されないと思うし、たぶん……。


「あの、お世話になりました」


 ペコリと頭を下げて、エルスの方に歩きだす。

 ちゃんとお礼をしたいけど、エルスの機嫌を損ねたら、恩を仇で返すことにもなりかねない。今はおとなしく従うことが最善だ。


 そう思って動いた私の腕を、ユウシャが掴んだ。


「え……」


「アンタが行く必要はない」


 グイとひっぱられて、抱きとめられる。

 そして反対側の手には、彼の身の丈ほどもある、あの大剣を構えていた。


 せっかく丸くおさまりそうだったのに、どうして……。


「信用しなくて悪かった。アンタのことは俺が守ってやる」


 勇者ーーーーーーーーーーーー!!

 いかにも勇者らしいその行動に、私は蒼白になって鳥肌をたてた。

この世界の魔法は錬金術みたいなもので、扉を爆破したのは魔法ですが、爆弾のようなものを使用しています。魔法に関する詳しい話はまた後日。

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