05 町へ <イラスト:ユウシャ4才>
決着はすぐに着いた。
なぜなら男の子は1人ではなく、男の子と同じ髪色の男性が、反対側の林からオオカミに攻撃してきたからだ。
とはいえ、オオカミがやられたわけでもない。
剣を持った人間が2人も現れて分が悪いと悟ったオオカミは、迷うことなく牙をおさめて逃走したのだ。
さすがはオオカミ、知能も結構高いようだった。
「たわいもない」
逃げ去ったオオカミを見送ってから、男の子は口の端を上げてこちらを振り向いた。
「怪我はないかい、お嬢さん」
「あ、はい。大丈夫です」
答えながら、なんて違和感なんだろうと思う。
男の子の年齢は見た所、私と同じくらい、つまり3才か4才だ。
それが、あんな巨大な剣を振り回すだけじゃなく、大人を差し置いて初対面の相手に話しかけてくる。口調はなんだか、ナンパでも始めそうな勢いで、およそ子供らしくない。
前世の記憶を取り戻したりして、子供らしさを完全に失った私には言われたくないだろうが、正直、お前はどこの誰だよ、と聞きたくなる。
「俺はユウシャだ。君の名は?」
考えていることが、顔に出ていたのだろうか。
男の子はいきなり名乗った。
でもユウシャ? ユウシャって、勇者? 聞いたことないけど、勇者っているの?
私が怪訝に首をひねると、男の子は苦笑した。
「ユウシャというのは名前だ。
その名に恥じない生き方をしようとは、思っているが……」
「はあ」
「それより、君の名前を聞くのは不味かったのかな?」
「あ、いえ。私はリオナです。
助けてくださってありがとうございます」
正式にはリオナ=クゼインとなるが、クゼインの名前を出すと面倒なことになりそうな気がしたので、伏せておいた。相手も名前しか名乗ってないのだから、問題はないだろう。
それはともかく、
「すごく助かりました、感謝します。
それでは、私は急ぎますので」
こんな場所で足止めを食らってる猶予はない。
私はペコリとお辞儀してから、その場を離れるべく駆けだした。
とっとっとっと。
助けてもらっておきながらこの態度、人としてどーなの、と思わずにはいられないが、今立ち止まるのは、アイツへの敗北を意味する。
まともな神経を持った状態で、アイツから逃げきれるとは、最初から期待していない。
それに……。
「お嬢さん、何をそんなに急いでるんだい。なんだったら俺が力を貸そうか?」
ユウシャと名乗った男の子が早足で追い付いてきた。
一緒にいる男性も、苦笑しながらついてきているようだ。
内心ほっとする。
私程度の女の子が多少急いだところで、追いつけないということはないと思っていたし、見ず知らずの私を助けてくれるような奇特な人たちが、私のような子供の一人旅を見咎める可能性は高いと、予想はしていたが、これ以上の関わりあいを面倒くさいと判断する可能性も高かった。
あのまま別れるのはさすがに少し罪悪感があったので、こうしてついてきてもらったのは幸いだ。
……まあ、ついてこなければついてこないで、仕方がないと、割りきってはいたけれど……。
「ありがとうございます。実は追われているのです」
私は足を止めることなく、口を動かした。
「詳しい事情は、町についたらお話しします。今は先を急がせてください」
無事、町までつけたらだけれど。
「承知した。町に急げばいいんだね?」
「はい」
「親父頼んだ」
「はぁーーーーー、あいよ」
男性が初めて口を開いたかと思えば、大きなため息。そして、私を小荷物のように脇に抱えあげた。
「わっ」
「少し揺れるよ」
自分が抱えているわけでもないのに、ユウシャがニヒルに笑う。
そしてユウシャと、ユウシャに親父と呼びかけられた男性は、流れるような動きで走り出した。
間違いなく、私が自力で走るより速かった。
【ユウシャ 4才】
幼児の絵、難しい…。