03 目覚めは最悪
モゴ!
レロレロレロレロ、ヂュル……。
「ほわはーーーー!!!」
ドン!!!
私は自分の上に乗っている、小さな肉の塊を突き飛ばした。
ポインパインゴロンポヨンゴロンゴロン。
さすが、幼児の体は柔らかい。
ベッドで一回二回、それから床に転がり落ちても、
怪我どころか痛みすらない様子でキャッキャと笑っている。
「窒息させる気かーーー!!」
私は朝からディープキスされた唇を拭って、ゴブリンのように吠えた。
口の中がミルク味だ。といってもヤツは離乳しているはずなので、普通に朝の牛乳を飲んだ後なのだろう。おえっ。
「ひどいよ、おねーたま。
ボク……ただ大好きなおねーたまに目覚めのチュウをしただけなのに」
「目覚めのチュウに舌ぶっこむのは、クソ野郎だけなんだよ!」
罵倒する。
勢いに任せた台詞で、恋に溺れて冷静な判断をなくした人が気の迷いでやっちまった、という状況などは完全に無視した台詞だが、目の前にいるのは間違いなくクソ野郎なので、問題はない。
これだけは言わせて貰おう。
最悪の目覚めだ。
「お嬢様、失礼いたします。今何か大きな声が……」
「くーくー。すぴーすぴー」
飛び込んできたのはメイドのタミーだ。
私の罵声に驚いたのだろうが、ここに2才の弟がいることは予想外だったのだろう。
目を丸くして、私と、寝たふりをしている弟を、交互に見ている。
「……起きたらそこにいたの。寝ぼけたんじゃないかしら」
「え、あ……そうです……か。
でもさっき何か声が……」
「こめんなさい。私も寝ぼけちゃったみたいで、自分の声に驚いて今起きたところなの。
本の読みすぎかしらね」
「……そう……ですか。
あまり変な本は読まないでください。
奥様が心配されます」
「ごめんなさい。気をつけるわ。
悪いんだけど、エルスを部屋に連れて行ってもらえるかしら?」
エルスというのは弟の名前だ。
「こんな所で寝ていたのでは、風邪をひいてしまうわ」
「わかりました」
タミーは承諾すると、まだ小さい弟の体を、抱き抱えて、持ちあげた。
弟はまだ寝たふりを続けている。
「それでは失礼いたします」
タミーに抱きかかえられた弟が、扉の向こうに姿を消したのを確認して、私は飛び起きた。
二度目の襲撃が来る前に、何としてでも脱出しなくては!
私は洋服ダンスの中から一番動きやすい服を選別すると、手早く着替えて、部屋の外に滑り出た。
朝のヒトコマ、短めです。