おおきな ほのお
リプトーレ、グリンブリッジの橋の上
ここに男が一人立っている。
男はいつものように声を張り上げこう言った
「やぁ!みんな!こんにちは
そんな驚いたような顔しないでよ
話せるときに話さないとね
じゃあそろそろ話そうかな
どこまで話したかな?
ああそうだ、ゴルドの父が帰ってきて、集落の長がタウロスの死体を確認したところだね
それじゃあ今日は彼の父が目を覚ましたところを話そうかな」
むかーしむかし
あるところにゴブリン達の集落があった
集落はタウロスを倒し、生還したゴルドの父、ブロドの勝利の祝い、そして死んでいった戦士たちの弔いを兼ねた小さな祭りのようなものを開いている
そんな光景を横目に、ゴルドと彼の母は未だ目を覚まさぬブロドを看護していた。
しばらくして、彼らの住む家のドアが何度かノックされる。
ゴルドの母がドアを開けると、そこには大きな杖を持った腰の曲がったゴブリンが立っていた。
そのままそのゴブリンは家の中に入るとブロドの調子を見に来たぞとしわがれた声で言い、ブロドの寝ているベットに近づいてブロドの体のあちこちを触りだす。
その光景を心配そうな様子で見つめるゴルドの母。
触るのをやめて、ゴルドの母に向き直ると少しの間をおいて、命に別状は無く、ここまで寝ずに帰ってきたことによる睡眠不足だろう。
帰ってきて自分の子を見て気が緩んだんだろうなと告げた。
診断を聞いてホッと胸を撫で下ろしたゴルドの母はありがとうございます。シャーマン様と頭を下げる
困ったような顔をして、杖で頭を掻いたゴブリンシャーマンはブロドは集落の英雄さね、お礼はこっちがしたいもんだよとごちる
そしてそのまま家を出て行った。
ゴルドは不意に外を見る
小さな集落の広場でたくさんのゴブリン達が大きな火の周りに集まっている
今回の戦いで死んでいったものを見送るためだ
彼らの死体を盛大に燃やして、煙を天高く上げる
肉体を抜け出たゴブリン達の魂は煙と共に天に向かう
それは決して悲しいことではないから、祭りになる
大きな火、大きな煙
その周りを囲むゴブリン達
中には泣いているものもいるが、同時に笑っていた
そんな光景にゴルドは目を奪われた
やがて自分もああいう風に空に昇るのだろう
それは今ではない
ずっとずっと、ずっと先の話だ
そんなことを思いながらゴルドの意識は睡魔に取り込まれそうになる
そういえば父が帰ってきてから、寝てない
意識の主導権を手放し、崩れるように眠りはじめる
その日見た夢は大きなゴブリンが大きな剣と共に大きな炎で燃やされる夢
父ではない、誰か別のゴブリンだが、どこかで見たことあるような、ないような・・・そんなゴブリンだった。
そのゴブリンが燃やされて、煙と灰となって消えていくのをどこからかずっと見ている夢。
それはひどく心地よくて
とても切ないような
やがて燃え尽き、残るのは灰ばかりとなり、なんだかキラキラしたものが大きな煙につかまって空まで飛んでいき、夢は終わる。
ゴルドは眠る、更に深く。
彼の父が、目を覚ましたのは
それから三日後のことだった。
「今日のお話はこれでおしまい。
うん?なぜゴルドの夢まで知ってるかだって?
秘密だよ。でもゴブリン達の話を聞いただけだから、ゴルドはそんな夢を見ていないかもしれないね。
では続きはまた今度話すとしよう。
続きはいつだって?
うーん、そうだな
ちょっと忙しくなってしまったから、実は決められないんだ
『だから出来るだけ早く』と言っておこうかな
それじゃあみんな、また会おう」
そう言って男は何処かへと姿を消した。