雨の日の帰り道
小説家になろうでの、初の短編です。
ポタリ、わたしの髪に、空の雫が落ちた。見上げると、青かった空が灰色の雲に覆われている。
「雨……か」
小さく呟いたわたしの声は、降り出した雨にかき消された。本格的にどしゃ降りになってきて、髪も制服も、全身があっという間にびっしょり濡れてしまう。傘は持ってきてないけど、もういいや。もう、どうなってもいい。
空虚な気分で、再び歩きだす。周りの生徒は、傘をさして喋っている。皆、楽しそうで。雨の中でもきらきら輝いていて。
傘もささずに一人で歩いているのは、わたしくらい。虚しいのか。哀しいのか。ぽっかり空いた心の中に浮かんだ感情は、冷たい雨に溶けていく。
わたしだけ、皆と違う。
中学生になって、三カ月。転校してきたわたしは、地元の子が多い中学校になじめなかった。
話しかけたいけど、勇気が出ない。そんな思いに駆られて、せっかく話しかけてくれた人に、曖昧に笑って頷くことしかできなかった。
そんな風に過ごしていた為に、わたしは友達一人出来ず、孤独というには勝手すぎる日々を送っていた。
わかっている。わたしが悪いのは、わかっている。でも、もう遅い。何もかもが手遅れ。雨にだって、濡れても構わない。いくら頑張ったって、わたしの日常は変わらないんだから……。
雨で、もう何も見えない。何も聞こえない。灰色の雨が、全てを包む。希望も、喜びも、全てを雨が包んでしまう。
もう、空を見たって、意味なんかない。ふと、足元に目をやると、灰色以外の色が見えた。手で目を拭うと、ぼやける視界にはっきりと花が見えた。名前もわからない、淡く可憐なピンク色の花。儚げな一輪の花。それが、強い雨に打たれて揺さぶられている。
何故か、その花に感情移入してしまって、わたしはその花にそっと触れた。
「可哀想に……」
そう言った途端、冷たい頬を、雨ではない雫が滑り落ちた。
どうせ、雨で何も見えないし、聞こえないし、泣いたっていいよね?
「う……、うっ……」
どしゃ降りの雨の中に、わたしの嗚咽が漏れる。拭っても拭っても、涙が溢れていく。視界が霞んでいく。
本当は、哀しかった。苦しかった。寂しかった。わたしが悪いのはわかっていても、ずっとずっと、泣きたかった。ううん、友達が欲しかった。だって、一人は、孤独で……寂しい……!
「うぅ……」
「……どうしたの?」
後ろで、可愛らしい声がした。びっくりして振り返ると、同じクラスの女の子が、目を丸くして立っていた。茶色のミディアムショートに、大きな瞳。
「ふ……藤川さん……」
藤川 夏美さんは、薄紫色の綺麗な傘をわたしにさしかける。
「吉田さん、どうしたの?」
「……」
泣いていましたなんて、恥ずかしくてとても言えない。顔が熱くなっていく。
わたしが黙りこくっていると、藤川さんはにっこり笑って、
「よかったら、一緒に帰らない?ほら、タオルで拭いて」
わたしの頭を優しく拭いて、傘の中に入れてくれた。
「で、でも……」
「いいのいいの。さ、帰ろう。それと、吉田さんのこと、雛子って呼んでいい?あたしは夏美でいいから」
あんまり突然で、声が出ない。でも、ゆっくりと嬉しさが込み上げてきて、
「……うん、有難う。な、夏美ちゃん……」
小さく言うと、夏美ちゃんは、またにっこりした。
「ねえ、明日も一緒に帰ろうよ」
「……いいの?」
「うんっ!」
夏美ちゃんは、眩しいくらいの笑顔で、頷いた。冷えていた心が、温かいものでいっぱいになる。思わず、わたしも笑った。
さっき悩んでいたのが、すごく馬鹿みたいだけど……嬉しい。
明日、頑張って、自分から話しかけてみよう。諦めないで、出来るだけ笑って。もしかしたら、友達ができるかもしれない……。
淡い希望を抱いて、夏美ちゃんと笑いあいながら、わたしは雨の中を二人で歩いた。
……わたしも、あの花のように、一生懸命生きようと、心に誓いながら。
つまらなかったかもしれません。
けど、一生懸命書いてみました。
読んでくれた方、どうも有り難うございます!