プロローグ② Part,1
俺の周りは死屍累々としていた。
足がなかったり、頭がなかったり、体が半分だけの物もある。彼らは剣で切られたり銃で撃たれたわけでもない。魔法で殺されたのだ。
今俺は天魔戦争の魔法が飛び交う中を悪魔に追われながら「世界境界」へと走っていた。俺のお守り役である「卵の番人」も一緒だ。
「卵の番人」はその名の通り卵の番人である。
天使は卵から生まれる。生まれるためには歌が必要なのだ。「卵の番人」は天界の「揺り籠」というところで歌を歌い、卵を孵化させる。ようするに、天使達の母親にあたる。天界の上部の天使達は彼女を「天界の母」と呼んでいたのを俺は聞いたことがある。
そして何故か俺は生まれてきた天使の中で一番彼女に似ていた。
「天魔様!こちらへ!」
「卵の番人」が叫んだ。俺のすぐ後ろには数人の悪魔が迫っていた。
俺は二十年ぶりに生まれたといわれている「天魔」という存在だ。
天魔とは天使と悪魔の忌み子。双方の世界を脅かす不安定な存在として忌み嫌われてきた。もともと天使と悪魔は敵対していたため、外部に情報が漏れることはなかったのだが、何者かの手によってながれたようだ。
これが俺の狙われる理由にある。しかもこの戦争を機に天使達も俺を嫌うことを露わにしだした。
そんな中「卵の番人」だけは俺を慕ってくれていた。
彼女は俺を匿い、「揺り籠」の奥にある自分の家へ住まわせてくれた。俺はそこで隠密に暮らしていたのに今日で終わってしまうのか・・・?
「チッ」
俺は悪魔へ振り返り、攻撃を試みた。
だが、俺が魔法を放つ前に「卵の番人」によって悪魔達はなぎ払われた。
「天魔様、あなた様が戦う必要はございません。はやく世界境界へお行きください」
俺たちが「世界境界」へ向かうわけはそこにある門から脱出することだった。
「卵の番人」は俺をとりあえず人間界へ逃がすため、この天魔戦争の中、俺を庇いながら門へと向かっていたのだ。
次第に悪魔の数が増えだした。「卵の番人」一人じゃ無理なようで、少しずつ魔法のこぼれ球が俺へと飛んできた。
「・・・天魔様、もう持ちそうにありません。先に門へとお急ぎください」
当然、俺は反対した。
「いけません!それではあなた様が死んでしまうではありませんか!」
それでも俺は反対した。
「私の今までの努力を無駄にするおつもりですか?」
そんなつもりは毛頭無いし、俺はあんたにすごく感謝しているんだ。置いて行くことはできない。
「天魔様、どうか私を置いて行ってくださいませ。私のためにと思って・・・」
俺はついに彼女の横に立ち、悪魔へ攻撃を放った。
「天魔様!だめです、あなたが死ぬようなことは!」
まだ彼女は反対する。
「俺はあんたを置いていくなんていうマネはできない。あんたは俺を育ててくれた親だろ?」
「・・・・・・」
「だったら最後まで面倒見てくれよ」
彼女は今までに見たことのない、嬉しいのか悲しいのか分からない顔をしていた。
「お気持ちはすごく嬉しいです」
彼女は俺へと片手を伸ばし、頬に触れた。
「なので、強制送還とさせて頂きます」
「・・・!やめろ!」
彼女は俺を抱き込み「強制送還」を展開させた。




