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最低ランク《鎮静》の俺、その正体は催眠能力者 ――勇者のヒロインを静かに奪う  作者: 催眠スキ


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第十三話 どうして気になるの

 気になる。


 何が。


 そう聞かれたら。


 答えは簡単だ。


 私は学級委員で。


 相良は。


 放っておくと何をするか分からない。


 だから。


 少し目に入るだけ。


 それだけ。


 ◇


 朝。


 教室へ入る。


「おはよう」


 返事が。


 いくつか聞こえる。


 いつもの教室。


 いつもの朝。


 窓際の席には。


 相良がいた。


 珍しく起きている。


 そして。


 その前に。


 一人の女子が立っていた。


「ここ?」


「もう少し右」


「右ってどっち?」


「そっち」


「分かりにくい」


「じゃあ貸して」


 相良が。


 女子の持っていた紙を受け取る。


 机の上へ置いて。


 何かを書き込んだ。


 合同演習の配置図。


 たぶん。


 昨日の班分けに関係するものだ。


「こう」


「ああ。後ろじゃなくて、斜めに下がるんだ」


「正面だと巻き込まれるから」


「なるほど」


 女子が。


 相良の机へ手をつく。


 顔を寄せて。


 紙を見る。


 近い。


 そう思った。


 でも。


 机の上の紙を。


 二人で見ているだけだ。


 別に。


 おかしくない。


「相良くん、こういうの得意なんだね」


「普通」


「いつも寝てるから知らなかった」


「寝てない」


「昨日も寝てたでしょ」


「考え事」


「あはは。何それ」


 女子が笑う。


 相良も。


 少しだけ笑った。


「……」


 私は。


 自分の席へ向かう。


 鞄を置く。


 椅子を引く。


 いつもより。


 少し大きな音がした。


 相良が。


 こちらを見る。


「おはよう」


「……おはよう」


 女子も。


 私に気づく。


「おはよう、九条さん」


「おはよう」


「相良くんに、演習のこと教えてもらってたの」


「そう」


「意外と分かりやすかった」


「意外は余計」


「だって意外だったから」


 また。


 女子が笑う。


「ありがとう。助かった」


「別に」


「じゃあ、また分からなかったら聞いていい?」


「俺で分かることなら」


「本当? じゃあまたね」


 女子が。


 自分の席へ戻る。


 その背中を。


 何となく目で追う。


「九条」


「何?」


「機嫌悪い?」


「悪くないわよ」


「そう」


「何よ」


「鞄、怒ってたから」


「怒ってない」


「音すごかったけど」


「手が滑っただけ」


「持ったまま?」


「うるさいわね」


 相良が。


 少し笑う。


「やっぱり悪い」


「悪くない!」


 どうして。


 そんなことを聞くのか。


 私は。


 いつも通りだ。


 たぶん。


「朝から珍しいわね」


「何が?」


「あなたが誰かに勉強を教えるなんて」


「演習の話」


「同じようなものでしょう」


「頼まれたから」


「普段なら面倒って断りそうなのに」


「一分で終わるから」


「そう」


「何?」


「別に」


 相良が。


 私を見る。


「気になった?」


「は?」


「俺が話してたの」


「どうして私が気にするのよ」


「知らない」


「クラスの様子を見ていただけ。私は学級委員なんだから」


「朝から大変だな」


「誰のせいだと思ってるの?」


「俺?」


「少しは自覚しなさい!」


「はい」


 素直な返事。


 でも。


 絶対に分かっていない。


 相良は。


 前を向く。


 私は。


 鞄から教科書を出す。


 さっきの女子の言葉が。


 頭に残っていた。


 意外と分かりやすかった。


 また聞いていい。


 それだけ。


 普通の会話。


 相良が誰と話しても。


 私には関係ない。


 ◇


 二限目。


 合同演習の事前説明。


 黒瀬先生が。


 班ごとの課題を読み上げる。


「第二班は、模擬市街地での救助訓練だ」


 第二班。


 私。


 蓮。


 朱音。


 相良。


「火神。今回は壊す訓練ではないからな」


「分かってます!」


「前回も聞いた」


「あれは壁が弱かったんです!」


「演習用の強化壁だ」


「じゃあ、あたしが強かったってことで!」


「反省文を追加するぞ」


「すみませんでした!」


 教室から。


 笑いが起きる。


 黒瀬先生が。


 説明を続ける。


 私は。


 配られた資料へ目を落とす。


 隣から。


 紙をめくる音。


 相良。


 今度は。


 ちゃんと読んでいるらしい。


 少しして。


 相良の縦列の前の方から。


 小さな紙が回ってきた。


 朝。


 相良と話していた女子からだった。


 紙は。


 そのまま後ろへ渡されていく。


 相良のところで止まった。


「……」


 何が書いてあるのか。


 気になった。


 でも。


 見る理由はない。


 相良が。


 紙の端に何かを書く。


 それを。


 前へ戻す。


 女子が紙を見て。


 小さく笑った。


「……」


 私は。


 資料へ視線を戻す。


 別に。


 授業中の私語なら。


 委員長として注意するべきだ。


 そう思っただけ。


 あとで。


 注意しておこう。


 そう思って。


 少し待つ。


 でも。


 二枚目の紙は回ってきていないようだった。


 なら。


 注意するほどでもない。


 ◇


 昼休み。


「腹減った!」


 朱音が。


 立ち上がる。


「食堂行こうぜ」


「今日は何にするんだ?」


 蓮が聞く。


「唐揚げ」


「昨日も食べてなかった?」


 私が言う。


「昨日は大盛り。今日は普通」


「同じでしょう」


「違う!」


「何が?」


「量が!」


 朱音が。


 私の腕を引く。


「ほら、早く行こうぜ」


「分かったから引っ張らないで」


「遅いと混む!」


「相良は?」


 口に出してから。


 止まる。


「相良?」


 蓮が。


 教室の後ろを見る。


 相良の席には。


 誰もいない。


「もう購買行ったんじゃね?」


 朱音が言う。


「あいつ早えから」


「そう」


「呼びたかった?」


「どうして?」


「いや、聞いただけ」


「別に。第二班なんだから、一応確認しただけよ」


「真面目だな、澪は」


 蓮が笑う。


「普通でしょう」


 教室を出る。


 廊下。


 少し先に。


 相良がいた。


 手には。


 購買の袋。


 隣には。


 朝の女子。


 また。


 話している。


「あ、相良いた」


 朱音が。


 大きな声を出す。


「相良!」


 相良が。


 振り返る。


 女子も。


 こちらを見る。


「何?」


「食堂行こうぜ!」


「もう買った」


「早っ」


「混むから」


「じゃあ食堂に持ってくれば?」


「面倒」


「こいつ!」


 朱音が。


 相良の肩を叩く。


「痛い」


「そのくらいで痛がんな!」


「火神基準にしないで」


 相良の隣で。


 女子が笑った。


「相良くんって、思ってたより話しやすいね」


「そうか?」


「うん。もっと無口な人かと思ってた」


「面倒なときは話さない」


「今は面倒じゃないんだ?」


「そこまで」


「何それ」


 楽しそう。


 そう見えた。


 胸の奥が。


 少しだけ。


 落ち着かない。


 相良は。


 別に無口ではない。


 面倒そうな顔をするけど。


 話せば。


 意外と返事をする。


 思っていたほど。


 悪い人ではない。


 それを。


 私は知っている。


 でも。


 別に。


 私だけが知っていることではない。


 そんなの。


 当たり前だ。


「澪?」


 蓮が呼ぶ。


「何?」


「行かないの?」


「あ……行くわよ」


 足を止めていたことに。


 気づかなかった。


「相良」


「ん?」


「午後の資料、読んでおいて」


「読んだ」


「本当に?」


「珍しく」


「ならいいけど」


「九条」


「何?」


「それを言うために止まってた?」


「第二班の確認よ」


「そう」


「何よ」


「別に」


 その返事が。


 少し。


 腹立たしい。


「行くよ、澪!」


「今行く!」


 朱音たちを追う。


 振り返らない。


 振り返る理由なんて。


 ない。


 ◇


 放課後。


 第二班の打ち合わせ。


 蓮と朱音は。


 訓練用の装備を受け取りに行っている。


 教室にいるのは。


 私と。


 相良だけ。


「ここまででいい?」


 相良が。


 資料から顔を上げる。


「まだ役割が決まってないでしょう」


「天城が前。火神が壊す」


「救助訓練よ」


「じゃあ火神が壊さない」


「それは役割じゃないわよ」


「難しいな」


「真面目に考えて」


「考えてる」


「どこが?」


 相良が。


 私の書いた配置図を見る。


「九条は中央」


「私?」


「光剣で瓦礫を動かせるから」


「それなら前でもいいでしょう」


「前は視界が狭い」


「でも」


「全体が見える場所にいた方がいい」


 相良が。


 椅子を少し。


 こちらへ寄せる。


「ここ」


「どこ?」


「この辺」


 私の隣から。


 配置図を指さす。


 近い。


 肩が。


 少し触れそうな距離。


 でも。


 嫌ではない。


 雨の日も。


 これくらい近かった。


「ここなら前と後ろ、両方見える」


「……そうね」


「火神が勝手に動いても止められる」


「それもそうね」


「納得した?」


「最初からそう説明しなさいよ」


「長い」


「それくらい話しなさい」


 相良が。


 小さく笑う。


 その声が。


 すぐ近くで聞こえた。


 朝。


 あの子とも。


 こんなふうに話していた。


 そう思った瞬間。


 また。


 胸の奥が落ち着かなくなる。


「九条」


「何?」


「やっぱり今日、変じゃない?」


「変じゃないわよ」


「朝から怒ってる」


「あなたがだらしないからでしょう」


「いつも通りだけど」


「自覚があるなら直しなさい」


「どこを?」


「そういうところよ」


「分からない」


「もういい!」


 顔を逸らす。


 相良の姿が。


 視界の端に残る。


 無造作な髪。


 少し曲がったネクタイ。


「……」


 また。


 気になる。


「相良」


「ん?」


「髪」


「髪?」


「跳ねてる」


「朝から」


「知ってるなら直しなさいよ」


「見えないし」


「鏡を見ればいいでしょう」


「面倒」


「本当にだらしないわね」


 手が。


 少しだけ上がる。


 髪を。


 直そうとして。


 途中で止まった。


「九条?」


「……何でもない」


 手を下ろす。


 ペンを持つ。


「自分で直しなさい」


「今?」


「今」


 相良が。


 髪を押さえる。


 違うところだった。


「そこじゃない」


「どこ?」


「もう少し右」


「右?」


「反対」


「分かりにくい」


 朝と。


 同じやり取り。


 それに気づいて。


 また。


 胸の奥がざわつく。


「もういいわよ」


「いいの?」


「よくないけど、もういい」


「難しいな」


 相良が。


 椅子を戻す。


 私は。


 配置図を見る。


 文字が。


 少しも頭に入ってこない。


 相良が。


 誰と話していても。


 私には関係ない。


 誰に笑っても。


 誰に頼られても。


 相良の自由だ。


 分かっている。


 それなのに。


 どうして。


 こんなに気になるのか。


 委員長だから。


 同じ班だから。


 相良が誰かと話しているのが。


 珍しかったから。


 理由なら。


 いくらでもある。


 だから。


 きっと。


 それだけだ。


 さっき上げた手を。


 机の下で握る。


 触れてもいないのに。


 指先だけが。


 変に熱かった。

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