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そして僕らは楽園で出会った。  作者: 北上 柊助


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第一章−産業廃棄区−【第一話】

 視える景色は暗闇で、踏みしめる大地は多分に水を含んでいた。そんな中を、今日も懐中電灯一本で歩いていく。

 別段、目が慣れてしまえば懐中電灯も要らないのだが……あるに越したことはない。

「はぁ……」

 不意に出た溜め息は、この先に起こるであろう出来事を想像した事によるものなのだろう。

 ───そんな僕は現在、シャングリラ上層、産業廃棄区の真下にあるゴミ山へと向っていた。

 基本的に、上層から廃棄される鉄屑や塵屑をかき集めて物資にする『サルベージャー』以外は滅多に訪れる事がないところなのだが……。

 僕が住居としている下層唯一の農園『ベジタリアン』の家主である『バチェラ』が、

「農園手伝ってくれるのは良いけど、ちょっとは役に立つ物持ってきなさいよ」

 と、口煩く言うのだ。どうやら、農園の手伝いだけでは住むに値しないらしい。

 しかしそもそもの話し、光の届かぬ下層において、野菜というのは貴重と言っても過言では無く、またそれを育て、売る事を生業とするバチェラは、物に困るなんて事ないハズであろうに。

 尚更、下層における経済は、貨幣経済である上層とは異なり物々交換だ。僕がサルベージャーのような事をしなくとも、生活に役立つ物なんか容易く手に入れられるだろう。

 つまるところ、こんなことをするよりかは、農園を手伝って野菜を育てていた方が、よっぽど建設的だ。

「ケホッ! ケホッ……!」

 進むにつれて酷くなる臭いにむせながら、見えてきた天から差す一筋の光直下にあるゴミ山を目指す。道中、ここでは当たり前のように見る、みすぼらしい格好の男とすれ違い、その手にはジャンクと呼んで差し支えぬガラクタが携えられていた。

 きっとサルベージャーなのだろうが……サルベージャーが持っていた物でさえガラクタであったのに、今更僕が行った所で役に立つ物なんて落ちているだろうか。

 しかし、役立つ物でも持ち帰らないと、帰る家が無くなる羽目になる。意地でも見つけなければ……。

 そんな不安の中、とうとう光の真下へとやってきた。

 一面に広がるガラクタの山。一歩、その敷地に足を踏み入れる。

 一生かけても慣れぬ鼻を狂わせる臭気と、目で見ても丸い箇所が少ない角張った金属の山肌。そして、その隙間を埋めるように漏れ溢れる粘り気のある謎の液体、その様は、いつぞやに教科書で見た噴火した山のようだった。

「ケホッ!」

 …………ただ咳をして見ているだけでは家には帰れない。本日何度目となるか分からぬ溜め息を吐いて、僕はゴミの上へと足を乗せた。

「きったねぇ……。でも、周りに人はいないし……見つけるのなら今のうちかぁ……」

 謎の液体を避けながら、ゴミの隙間や足下を良く観察する。しかし案の定、目ぼしい物の大半はサルベージャーに持っていかれているらしく、散在するどれもが壊れていてかつ、持ち運びがしにくい物ばかりだった。

「ケホッ……! ケホッ!」

 またもや咳き込んでしまった。喘息持ちの僕には、あまりにもキツすぎる環境だ。それでも、泣く泣く隙間に手を入れ込む。そうして、不安定な足場をしっかりと支えながら、漁る。漁る。漁る。

 すると早速、ゴミ山に登って2メートルの地点、ゴミの隙間にトリガーらしき物がついた、細長い棒が目に入った。

「これは!」

 使える物だと期待に胸を膨らませて、棒を引っこ抜く。

 ───が、それは壊れたマジックハンドだった。腕利きのサルベージャーであれば、修復も可能だろうが、生憎僕はサルベージャーですらない。

 というか、修復したところで価値がないで終わりだろう。

「はぁ」

 溜め息を吐いて、元の場所に投げ戻す。

 続けて探索を再開し、ガラクタの山肌をぐるりと一周してみた。そんな中で、気になる物が目に入った。

「これは……プロペラ?」

 そこにあったのは、小型ドローンのプロペラであった。そんなガラクタに、つい懐かしさを覚える。

 それは下層(ここ)に来たよりも前。時間にして3年前の話。

 僕が中高一貫学園の中等3年だった頃だ。

 僕には好きだった人がいた。金色の長髪をなびかせて、鋭い目つきをしていた『ソフィア・リフレクト』先輩。

 彼女は一つ上の高等学年だったが、中等学年と高等学年で部活も共通だった為に、『写真部』で顔を合わせる機会も多かった。

 非常にクールな性格で声音(こわね)も常に冷淡さを帯びていたが、その実かなりの努力家で、誰かの笑顔を撮ることがとても大好きな人だった。

 ある日、彼女と撮影準備をしていた時、撮影に小型のドローンを使うということでソフィア先輩とそのドローンの使い方について学んでいた。

 そうして日暮れ、その部室に僕と先輩の二人だけになった時、先輩がドローンを机から落としてしまった。

 バラバラになってしまったドローンを見て悔しそうにした先輩を励まそうと試行錯誤をしたものの、先輩の機嫌が回復することは無く……そこでタイミング悪く、巡回警備の先生が部室に入ってきてしまった。

 案の定、壊れたドローンを見られ……咄嗟に、

「僕がやりました。すみません!」

 と、格好つけて先輩をかばってしまい、小一時間の説教を食らってしまったのだが。帰路にて、

「……さっきはありがとう。本当は私が怒られるべきだったのに……。正直、カッコイイと思ったぞ……?」

 と、クールな先輩に顔を赤らめられながら笑顔で言われたものだから、今までに関わってきた先輩とのギャップに、それはもう惚れ込んでしまった。

 ───下層にいる今、彼女と出会うことはもうないだろうが、元気にやっているだろうか。

 人の笑顔を写真に収めまくる、立派な写真家になる夢は叶えただろうか。それを知る術はもうないが、こうして残骸からあの日々を思い返せるのならば、ガラクタ漁りも存外に悪くないかもしれない。

 …………自然と笑みを溢していたのに気付く。

 傍から見たら、ゴミを見て笑顔になっているヤバい奴に見えていただろうが、幸い人は居なかった。

 先輩は今、何をしているのだろうか。自分の将来に不安を抱いて、そんな話しを今の好きな人に話していたりなんかしているのだろうか。……しかし、それを確かめる術は今の僕には無い。

 そのプロペラを持ち帰りたい思いをこらえて、誰かにそんな現場を見られる前に、手に持った思い出の欠片をそっと戻した。

 そうして、なんやかんや。20分ぐらいが経っただろうか。

 途中、懐中電灯の明かりが消えてしまったので、手回しで発電しながらの作業だったものの、ようやくそれらしい物に接触した。

 ゴミ山に登ってから5メートル程度の地点、その隙間に手を突っ込んだ瞬間に『ピピピッ』と音が鳴ったのだ。

「おぉ! おたか────」

 手に触れた、その一瞬だった。

「ら?」

 ねっちょりとした感触が指先に伝わり、先の愉快な表情から一転、僕の顔は一気に青く染まっていただろう。ゴミの間を流れていた粘り気のある液体な気もしたが、それはまるで人の肌のような、『固体』の感触だった。

「うわぁっ!?」

 その気持ち悪い感触に驚き、ゴミ山から足を滑らせ、僕の身体は鉄の塊の上を転がっていく。

 身体中の至るところを痛みが覆いつくす。

 これがスポンジの山なら、こんな痛みを感じずに済んでいたのに……。

「いってて……」

 そう思った時には既に、僕は洗濯機の上で仰向けに倒れていた。

「ほんっと……最悪だ」

 ゆっくりと瞼を開ける。

 視界には闇の天蓋。しかし、それをつんざくようにして穴から差し込む光が目を痛くする。

 けれど、僕はどうにもその光を見つめてしまう。

 僕は、帰りたいのだろうか。

「はぁ……」

 そいつは不可能だ。そう割り切って、じわじわと残る痛みに耐えつつ、嫌な感触を感じた右手を恐る恐る見つめる。

「やっぱり」

 そこに付いていたのはゲル状の赤黒い何か。見覚えがある訳じゃないが、ソレが何なのか、僕には直感で理解できた。

 本来、下層に光を差すその穴は、上層において『不用となった物品』や、人々の生活で出た『ゴミ』を、200メートル真下の下層に捨てる為の穴なのだ。

 そして、楽園を楽園たらしめるものは、そこに『生きる人間』であり、また楽園の秩序を乱す者、楽園を楽園で無くそうとする者は『ゴミ』や『不用物』となる。

 そんな不用物やゴミを捨てる、謂わばゴミ箱は『ダルヴァザ』と呼ばれ、闇に包まれる下層を照らす一筋の光直下に、こんなゴミの山を作るのだ。

「はぁ……取り敢えず────」

 手に付いたゲル状の血液をその辺に擦り付けて、再びその光を仰ぎ見る。

 死人の手の感触と、右手に付いた血液を見たとき、最初に驚きはしたものの、あっさりと受け入れられてしまった事に下層の生活に染まり切ってしまったのだと認識させられる。

 そんな、順応できていることが嬉しいような……元居た場所の生活を忘れ始めていることを哀しく思うような……複雑な気持ちで天を仰いでいたその時、その光の中に小さな影を見た気がした。

「……ん?」

 視力は良すぎる方だと自慢できる訳ではないが……目を凝らして見えたその影は、まるで人が取っ組み合っているように見えた。

「……なんか、ヤバくないか?」

 目を凝らして見れば見る程、その影はダルヴァザへと突き落とされそうになっているような気がする。

 極めつけによくよく耳を澄ますと、怒声や罵声、相手を跳ね除ける喚声が。事実取っ組み合っている事を示すかのように、静寂が広がるここへ聞こえて来る。同時に嫌な予感が脳内を走った。

「あれ……もし落とされたら……」

 その影が落とされた後の、グロテスクな姿をイメージする事は容易だった。

 きっと落下後には、さながら先の血餅(けっぺい)の主のように、ゴミの下敷きになってしまうのではないか。

 多分、顔も知らぬ赤の他人だが……そのイメージが実現されてしまえば、真下に居る僕が、その人の最後を見てしまうことになる。

 ───そんなの御免だ。

 誰が人の死なんて見たいものか。

 こうしてはいられない。必死になって周囲を探る。

「何か……何か!」

 しかし、必死になって探しても辺りに散らばるのはガラクタばかり。

 それもそうだ、すんなりと見つかってさえいれば、さっきの死体に触れずにも済んだはずだ。

 簡単に見つかる方がおかしい。

「───あ……!」

 そんな中、神速の如き閃光が僕の頭を走る。このゴミ山で唯一動きそうな物、それは先に音を発した何か。もうそれにかけるしかない。

「間に合え間に合え間に合え!」

 転がってきたガラクタを駆け上がり、山を登って5メートル地点へと辿り着く。

 その際、ダルヴァザから差す光を仰ぐと、既にその影はこちらへと近付いてきていた。

 一瞬にして汗が現れる。それも、下から上まで、びっしりと。

 恐らく時間は10秒も無い。位置をはっきりと覚えていたその隙間に、躊躇いもなく手を伸ばす。

『ピピピッ』

 再び鳴る機械音と共に()な感触が手の平を走る。どうやらその死体は、その機械を掴んでいるようだった。

 しかし、かといって躊躇はしない。その機械の使い方は知らないが、適当にその手ごと強く握った。

 ───一瞬、轟音が周囲を駆け巡る。

 同時に、機械を中心にしてガラクタが吹き飛んでいった。

 機械がその場にビニール質の足場を広げたのだ。

 …………あとそれと、吹き飛ばされた中には、僕が居た事も付け足しておこう。

 だが、吹き飛ばされたからこそ分かった。

 あのビニール質の足場の中には多量の空気が含まれている。きっと、クッションには丁度良かっただろう。

「んぐーっ!」

 しかし僕はというと、さっきよりも酷く身体を打ち付けながら、再びゴミ山を転がる。そんな最中だ、空から落ちるその影の無事を確認することもできなかった。

 そうして、視界の暴れているのが治まった。朧げな意識の中で初めに、口の中が血の味でいっぱいだと言うことが分かり─────次に、

「ほんっと……最悪」

 今日はとことんツイていない日だと言うことが分かった。

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