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最強ボディビルダー、減量しすぎで転生したので、異世界で魔法と一緒に鍛え直します

作者: 戯就航
掲載日:2026/01/26

 俺は最強ボディービルダーだった。

 全国大会で優勝したことすらある。

『だった』ということは、過去ということ。

 そう、俺は死んだ。減量のしすぎだった。

 だが。


 なぜか、目を覚ました。


 視界に入った天井は木で作られていて、とても年季が入っていた。

 ここは、一体?


「ああ、マルク! 目を覚ましたんだな!」


 口ひげを立派に蓄えた西欧の男性。それが俺にマルクと声を掛けてきた。しかも、目を覚ました? どういうことだ。思わず、口を開く。

 

「……父さん」


 口から出たのはこの言葉だった。

 刹那、頭に流れ込んできた記憶。見たことがないはずなのに、懐かしく、確かな感覚を伴っていた。


 不思議な感覚。ボディービルダーだった俺も、『マルク』の俺も……俺だ。


 これが、転生というやつなのか……?


 〜〜〜


 『マルク』の俺は重い病に苦しんでいた。8歳に似つかわないこの細い腕……なんと痛ましい。前世の限りなくパーフェクトな状態とはかけ離れている。


「父さん、僕、体を鍛えるよっ!」


 ベッドから飛び降り、ドアを開けようとした。

 ただ、俺の体は宙に浮いた。


「だめよマルク、あなたはまだ病み上がりなのよ」

「母さん。いいじゃないか、鍛えないとまた病に掛かっちゃうかもしれないよ?」


 俺は母さんの方へ飛んでいく。

 正しくは、『飛ばされていく』。


「だめよ、あなたは昨日まであんなに大変な目にあったの。今は体を休めるべきよ」


 母さんが俺を抱きかかえる。


「あなたが無理して、傷付くのは、親として許しちゃいけない」


 そうか……そうだよな。

 胸の奥に一滴の雫が溢れる。


「分かったよ、お母さん。無理は、絶対にしない」


 今度こそ、減量のしすぎで命を落とす、なんてことはしない。ただ、鍛えなくてはならない。それは宿命であり、運命なのだ。

 この細い拳を握りしめる。


 絶対に、無理はしない。やり直すんだ。


 〜〜〜


 それから数日、俺は深呼吸をしていた。

「深呼吸なんて、当然のことだ」と心のマッスルが叫ぶが、生憎この体だと、それすら少しキツい。


 深く吸って、ゆっくり吐く。

 腹に力を入れ、背中を意識し、肋骨を広げる。

 これだけで、腹筋が震える。ぷるぷる、ぷるぷる。


 弱い……本当に弱い。

 前世の俺と今、腕相撲をしたら、多分全身骨折だろう。

 だけれど、慌てないし、焦らない。


 呼吸を整える。

 父さんからの、母さんからの、優しい視線が背中に届いていたことが、何よりも最高だった。


 〜〜〜


 家は対して広いとはいえない。ただ、本の数がかなり多かった。それらの殆どは『魔導書』といい、ざっくりと魔法の教科書だ。


「マルク。今日のページは22ページよ」


 母さんの声が耳に届く。


「うん、分かった」


 魔導書を開く。

 ん? 筋肉野郎は勉強を嫌っているんじゃないかって? そんなことはない。むしろ、大切にしている。

 なぜなら、勉強とは脳の筋トレ! 脳筋、になる為には脳の筋肉をムキムキにしなければならない。つまり、勉強=筋トレなのだ!


 魔導書の22ページを開いた。そこには『水魔法』の記載があった。


「じゃあ、マルク。やってみましょう」


 母さんが杖を差し出してくる。

 受け取る。やはり、どこか力を感じる。

 なんというか、どれだけ握力が合っても掴みきれないような感覚。……意味が分からないが、まあいいか。

 再度、教科書を確認し、呪文を発する。


「水よ、現れよ」


 瞬間、体の外と中の境界が曖昧になる。なんとか自分を維持しながら、外を出来る限り取り込み、発する。

 

 ――ポンッ。


 水が出た、成功だ。


「マルク、あなた素晴らしいわ」


 母さんが笑顔で拍手を送ってくれる。

 まるでジムのトレーナーさんのようで心地良い。


「まだまだいけるよ、母さん」


 俺は調子に乗って、呪文を唱え続けた。

 案の定、とんでもなく疲れた。


 〜〜〜


 「……全く成長しない、な」


  転生してから一ヶ月。俺は外を歩いていた。歩くだけが、こんなにも疲れることだったのか、と細く嘆かわしい俺の足が呻いている。


「うーん、まさかここまでとは」


 一ヶ月間、深呼吸と魔法の鍛錬に注ぎ込んだ。

 魔法の方はまだしも、この肉体は深呼吸すらまともに出来るのにこれほどの時間が掛かってしまった。


 ただ、俺はこれを良しとした。


「千里の道も、一歩から。マッスルの道も、深呼吸から」


 拳を握る。前世とは打って変わって小さいものだが、愛すべき力を感じた。


 これから、俺は鍛えぬいてみせる!

 

 

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