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コーヒーのない異世界に転移した俺、もう死ぬしかない。――道端のたんぽぽを焙煎して「至高の一杯」を再現したら、なぜか旅に出る羽目になった

作者: 唯崎りいち

「珍しいのう 異世界からの転移者のう。こんな田舎じゃ滅多に見んのになぁ」


 じいさんに拝まれる。


 この世界には時より異世界から転移者が来るらしい。

 受け入れられて暮らしていけるからいいんだが。


 この世界にはコーヒー豆が無い。


 朝は一杯のコーヒーから始まるのに、もう死ぬしかない。


 ふらふら彷徨っていると綺麗な花畑につく。


 たんぽぽ、か……。


 たんぽぽコーヒー! 聞いたことあるぞ!


 いや、たんぽぽがコーヒーになるわけないだろう!


 なった!


 美味い!


 タンポポの根を洗って細かく切り天日干しにして乾燥させた物を、焦げ付かない様にフライパンでじっくりと焙煎する。

 最初は干し草の様な香りがするが、だんだんと甘いキャラメルのような匂いが立ちこめる。

 もうこの段階で美味い。


 焦げる前に火からおろして、鍋の中に焙煎した根と水を入れる。

  湯を沸かし煮出す。

 鍋の中では、たんぽぽの根が踊って広がり、湯に色が染みていく。

 沸騰すると、湯気が幻の様にあたりに広がる。



 根を濾してカップに液体を移す。


 アツアツのままカップを鼻を近づけると焙煎した根の香ばしい香りが心を落ち着けてくれる。

 カップの中には深く濃い茶色の液体が、滑らかな液面に光を映す。


 香りと視覚から味への期待値を上げてくる。


 口に含むと香りとずっと欲していた苦味が舌を刺激する。

 口に広がる苦味に甘味が交じり、後味は重くない……。


 これは! たぶん、コーヒーだ!


 ……たぶん。

 

 もう転移して数年が経ってしまった。


 本物のコーヒーの味なんて忘れた。


 たんぽぽの根を乾燥、焙煎して作った、これは本当にコーヒーの味なのか?


 最初の頃は、花びらや茎で作ろうとしていたが、数年目にして根だと言う事に気づく。


 そしてやっと出来たたんぽぽコーヒーが、本物のコーヒーの味と違う?

 それをコーヒーを求める俺が分からなくなってる?


 そんな馬鹿な事があるはずがない……!


 新鮮な転移者だ!

 

 コーヒーの味を知ってる奴!

 そいつにこの味を判定してもらう!


 探すぞー! どこだー!


 俺は旅に出る。

 普通はもっと早く出るものらしいが、たんぽぽコーヒーを作る為に居着いてしまった。


 荷物を手配して村を出ると広大な草原が広がっている。

 背の高い木が所々に生えて、横には色とりどりの花が咲いている。


 人が通っている道にも草が生えて、ここがどれだけ僻地だったのか分かった。


 丘の先に海が見えて、真っ直ぐ行くと港街があると教えてもらう。


 夜にはテントを張って、この景色と夜空を見つめて、焚き火のパチパチと言う音を聞きながら自作のたんぽぽコーヒーを飲む。


 最高だ!


 ……これが、本当にコーヒーの味なら——!!


 早く、新鮮な転移者を探さなくては。

 俺は朝は早々に出発する。


「……っ」


 声が聞こえた気がする。


「……さーい!」


 道の脇の草の窪地に人がいた。


「助けてくださーい!」


 異世界には相応しくない、パーカーにミニスカート姿の若い女だ。

 間抜けに窪地にハマっている姿が、ここに来たばかりの俺を思わせる。


 いた! 新鮮な転移者!!


「ここどこですか! コーヒー? 今それどころじゃ……、わかりました! 飲みます!」


 俺は朝、片付けたばかりの道具を出して、たんぽぽコーヒーを淹れる。


 最初のたんぽぽコーヒーから幾度目かに、粉にした方が良いと気づいて、すり鉢で粉にしてある。


 やっと長年に夢が叶うと思うと手が震え、たんぽぽコーヒーの粉をこぼしそうになる。


 カップに自作のドリッパーのペーパーフィルターをセットし、たんぽぽコーヒーの粉を入れて湯を注ぐ。


 コーヒーの香りがあたりを包む。

 立ちこめる香りが、ここを喫茶店にする。


「……どうだ……」


 彼女がコーヒーを飲むのを、固唾を飲んで見守った。


「いや……、私、紅茶派なんで、味は……」


ガクッ


……新鮮な転移者、探すか。


俺は道具を片付けると、港街に向けて出発した。


「ま、待ってください! 右も左も分からない、新鮮な転移者を置いてかないで下さーい!」


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