20 ジュリア夫人side
よろしくお願いします。
私はジュリア・ラデウル。長女マリーアン(17歳)と長男ルーカス(1歳)の母親です。
私はしがない文官子爵家の3女として生まれました。領地の無い位のみの子爵家です。裕福とは言い難い家でした。
両親は長兄と長女には積極的に教育しました。
3人目の女子である私には平民の乳母をつけて、おざなりの教育を施しました。
別に不満はなかった。
こんなものだろう。
上を見るより下を見れば、自分はとても恵まれています。
下っ端とは言え貴族家の娘なのですから。
とにかく、学業に精を出しました。
裕福な平民と下位の貴族女性の通う学校で貪欲に学んだのです。
数字や文書に強くなり、学校卒業後は自分で働くつもりでした。
しかし、兄の出世のための後妻は無いでしょう!父より上の年齢の方です。
兄の勤める部所の上役で伯爵。近々、嫡子に爵位を譲り引退。妾数人有り。子供は亡き正妻に2人、妾に8人と言う方だ。老いた好色男のハーレムの一員なんて、絶対嫌です!
兄も出世したければ、自分の力で頑張って下さい!
断る私に、両親は縁談をまとめようとした。
怒った両親と兄。
育てて貰った恩はあるけれど、私の人生は私のもの。
身一つでさっさと家を出た。
卒業前に就職試験を受けて合格していた。
王宮の文官秘書。文官の雑用だ。
下位の学校卒業からのスタートだから。
数年この仕事をして昇進試験を受けて上位文官になるつもりだった。
女子寮もある。
必死で仕事をした。一生働くつもりだった。
けれど、出会ってしまった。
王宮高位文官のアレックス。
2つ年上の素敵な人。
平民だけど、ザステイル伯爵の甥。お母様がザステイル伯爵の姉上なんですって。
いずれ爵位を貰うのでは?と噂の遠い人、のはずだった。
仕事で縁が出来て。
告白されて。
お付き合いをして。
結婚しようと話が出た。
アレックスのお母様にも紹介された。
アデライン様は50歳ほど。貴族女性には珍しく晩婚。30歳でアレックスを産んだのですって。
ザステイル伯爵家の分家として、アレックスには男爵位を用意してるってお話された。
そんなのはいらないけど。
アレックスは貴族でいなくてはいけない事情があるとアデライン様はおっしゃった。
教会を決めて。
結婚式の招待状を用意した頃。
アレックスは仕事で遠くに任務に出た。
ある貴族家の金庫等を開封する仕事で、危ないことは無いと言っていたのに。
アレックスは事故で亡くなったと知らせが来た。
信じられなかった。
アデライン様はアレックスの遺体を引き取りに向かわれた。
そのアデライン様も馬車の事故で亡くなられた。
悪夢の連続の様だった。
2人の葬儀はザステイル伯爵家で執り行われた。
アレックス様とアデライン様の葬儀に出たくても、門前払いされそうになった。
多くの女性が来たそうだ。ザステイル伯爵家においそれと平民達を入れるわけにはいかない、って入れてもらえなかった。
帰り難く門前に立ち、せめて葬送の馬車を見送ろうとした。
門前に立っていると、アレックスの従兄弟のウィルバートさんが私を入れてくれた。
ウィルバートさんはアレックスから私の話を聞いていたのだそう。
おかげでアレックスの死に顔を見ることが出来た。
アデライン様の冷たいお身体も。
とにかく泣いた。
本当にアレックスは死んでしまった。
ウィルバートさんの口添えで葬儀に参列させてもらった。
私の結婚は無くなった。
王宮の寮に戻り、何事もなかったように仕事を始めた。
もうアレックスはいない。
私は1人で生きて行く。
けれど体調不良となり、吐き気とだるさが続いた。
仕事にならず、実家に帰った。
体調は戻らない。ろくに食べれず吐く私。
医者が「ご懐妊ですな」と告げた。
両親の怒りはすさまじがった。
勝手に家を出て暮らしたからだと決めつけられた。
後妻の縁談が決まった。問答無用で堕胎させられそうになった。
私は屋敷を抜け出した。
私は絶対にアレックスの忘れ形見を産む。
でも、この子に父親がいた事を伝えたかった。
ザステイル家の裏口からウィルバートさんを呼び出してもらった。
ウィルバートさんは出て来てくれた。
「アレックス様の肖像画を1枚、小さい物でいいので何か頂けませんか?」
生まれてくる子に、父親の絵姿が欲しかった。
「今直ぐには。大きい肖像画しかないから。小さく複製するには時間がいる。急にどうしたの?」
ウィルバートさん。
応接室に通してくれた。2人きり。
混乱していた私は、話してしまったのだ。
アレックスの子供が出来たこと。
子を産むなら仕事を辞めなくてはいけないこと。
実家が私を後妻に出すと決めたこと。
堕胎させられるから、これから王都を出るつもりなこと。
行く宛は無いこと。
ウィルバートさんは
「それなら、僕の子供にしたらいいよ。アレックス兄さんの子供を大切に育てたい。ジュリアさんも素敵な女性だし。僕と結婚しようよ」
軽く言うウィルバートさんに驚いた。
一度は断った。そんなの、ダメだ。
けれど、
「妊娠中に逃亡生活なんて、危険だよ?」
「貴族女性が1人でフラフラしてたら人攫いにあうよ?そうしたら子供はどうなるか考えてみて?」
「僕との子供だと言えばご実家は喜んで結婚させるでしょ?」
「僕とならアレックス兄さんの子供を安心して産んで育てられるよ。約束する。だから僕と結婚しよう」
説得されて、私はウィルバートさんと結婚することにした。
お腹にいる大切な赤ちゃんを安全に産みたかった。
ウィルバートさんは優しかった。
誰にでも優しい人。
ウィルバートさんには感謝した。
子爵家の両親は大喜びでザステイル伯爵家との結婚を許した。
ザステイル伯爵夫妻は爵位の低い家の娘である私に冷たかった。
結婚前に子供を授かった事も良い顔をしなかった。
産まれたのが女の子であることも失望させた。
それでもマリーアンが産まれて幸福だった。
ウィルバートさんはマリーアンを可愛がってくれた。
でも、ここ(ザステイル家)は私の居場所ではない。ウィルバートさんに申し訳ない。
産後の身体も体力も戻った頃。ウィルバートさんに離婚をお願いした。
ウィルバートさんは怒った。
「僕はジュリアを妻にした。アレックスから話を聞いて、実際に会って、こうして暮らして、僕は今、ジュリアを愛しいと思っている」
その後、ウィルバートと本当の夫婦になった。
ダリオン伯爵から男子を産むよう何度も言われた。けれど、ウィルバートとの子供は出来ない。
せめて仕事のお手伝いを、と領地経営の書類作成等を頑張った。
ウィルバートとの結婚は幸せだった。
義父母に辛く当たられることだけが嫌だったけれど。本当は孫でないマリーアンを偽っているから、申し訳なく思っていた。
ウィルバートは優しい人。マリーアンにも優しい。
結婚して10年が過ぎる頃。
ウィルバートは他の人と浮気を始めた。悲しかった。
ウィルバートはやはり、仕方なく私と結婚してくれただけ。
それとも、容色の衰えた私に飽きたのだろうか?
ウィルバートの不義は私を打ちのめした。
ウィルバートの浮気が始まって、ダリオン伯爵夫妻から毎日のように嫌味を言われた。早く離縁して出ていけ、と。
離縁は承諾したけれど、マリーアンの籍を私に移して欲しかった。
ウィルバートが何故か離縁を拒否するし。
ダリオン伯爵とウィルバートが凄まじい親子ケンカをするし。
とうとう若い女性がウィルバートとの子が出来たとザステイル家を訪れた。
その女性は男児を産み、その子はダリオン伯爵の孫だと魔法鑑定士にお墨付きを貰った。
ウィルバートとの離縁を決心した。
私とマリーアンがザステイル伯爵家を出れば全て丸く納まる。
出ていく準備をした。
マリーアンが王宮へ招待されて出かけた日。
ダリオン伯爵が魔法鑑定士からマリーアンが自身の孫ではないと告げられた。
真実を知ったダリオン伯爵は激昂した。
酷く罵られてマリーアンとザステイル伯爵家を出た。
ウィルバートには感謝している。さようなら、ウィルバート。ありがとう。
清々しい気持ちでザステイル伯爵家を出た。
辺境伯領で仕事と住居を見つけて幸せに暮らしていた。
思いがけなく素敵な旦那様を得て、子供にも恵まれた。
マリーアンには求婚者が現れた。
けれど、マリーアンが事故に遭い始めた。
ザステイル家絡み?身分違いの求婚者絡み?
王都に呼ばれて登城して、知らされた。
アレックスの死因。
仕事中の事故としか聞いていなかった。
アレックスは密室で背後から刺されて殺された。
、、、ダリオン伯爵の婚外子に。
どうして!
何故アレックスが殺されたの!?
あの頃の慟哭が蘇り、苦しい。
アレックスは生きたかったはず。
マリーアンに会いたかったはず。
悔しい、アレックスが可哀想。
犯人が憎い。
アレックス、あなたはどうして、殺されたの?
お読み頂きありがとうございました。




