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◇002/僕とルカ 2/2


 もしかしたら偶然どこかでルカとは会ってしまうだろう、と思ってはいた。


 16歳になる年の4月から軍事学校に入り、20歳になったあとの3月で卒業。それが1番ストレートだった。勿論成績が悪ければ留年もあり得るし、下手したら除籍処分され、志願兵を選ぶしかなくなる。特に何もく卒業出来れば新卒兵として各部署に配属される。

 初配属で僕は西方管轄区に配属され、国境警備隊として1年程勤めた。その次の再編で軍事学校同期のアイゼンと同じ小隊になり、西方管轄区司令部内の部隊に配属され、そこでも1年勤めた。それからはずっと同じ部隊で行動している。

 僕自身がレッドラインへと昇格をし、アイゼンと共に小隊を任される事になり再び自分が生まれ育った中央管轄区へと戻る事になった。それが3年くらい前の話。


 僕が任された第6小隊は30人の小編成部隊。有事の際には前線部隊として、普段は警備隊としての編成だ。とは言え顔触れはとにかく若い。どうやらこの部隊は当初、経験用の通過部隊にする為に編成された様だったが結果としてかなり様々な仕事をする事になったので、ある種の特殊部隊の位置付けなのだと思われる。もしかしたら上層部はそのつもりで編成をしたのかもしれない。

 だが彼等は良く付いて来てくれている。警邏から殲滅戦まで、様々な任務が舞い込むがその都度頑張ってくれている。いずれ再編されて構成メンバーは変わってしまうだろうが、現状どの部隊よりも結束は固いし負傷及び正当性のない自己都合による離脱率はゼロの状態だ。それ以前に、この隊はいまだに初期メンバーだけで構成されている。離脱も追加も何もない。


 自分の所属が中央管轄区になり、6隊で初めての顔合わせを行った帰りに偶然立ち寄ったのは、中央管轄区司令部本部に程々近い場所に建てられたビルに入っていたコンビニだった。

 中央管轄区に異動してからと言うもの、自分が住むマンションの部屋の片付けも全く終わらず、とても食事が作れる状態ではなかったので仕方なくコンビニご飯を選んだあの日。カット野菜と惣菜とおにぎり2個を籠に入れ、レジの列へと並ぶ。


「お次のお客様、どうぞこちらへ」

「お願いします」


 あまり抑揚のない声掛けに、『コンビニも疲れるんだろうな…』とそれだけを思いレジカウンターに籠を乗せ、スタッフをちらりと見た。


 背丈として自分より6~7㎝程低いだろうか。僕を見上げたスタッフは、僕と同じような伽羅色の髪に僕とは違うブルーカルセドニーの瞳をしていたが、その表情は驚いたような、そんなだった。


「…兄さん?」


 それが弟、ルカとの再会だった。


───────────────────────


 後日、任務完了報告の為に中央管轄区司令部に戻ったら守衛門の所にルカが居た。どうやら僕を待っていたらしい。さすがに軍服軍靴だし、何よりもまだ仕事が終わっていない。同行のアイゼンに断りを入れ、夕方カフェで待ち合わせる事にした。

 終業後、私服に着替え通常軍服を詰めたバッグを片手に指定されたカフェへと向かう。窓際の席を陣取るルカを確認し、コーヒーを購入してからルカの向かいの席に座った。


「お待たせ、ルカ」


 細かい文字が詰め込まれた本を閉じると、ルカは僕を見上げた。


「おかえり、兄さん」


「ルカは元気だった?」

「まぁね。兄さんは?」

「差し当たり問題なく生きている」


「さっき見た時に持っていたブレード。あれ父さんの?」

「そう。軍事学校に行く時に譲り受けた。…父さんや母さんは…元気?」

「元気だよ」


「…あのさ、ル…」

「兄さん!…その…ごめん…」

「?」

「俺、兄さんの負担になっていたんだね。兄さんが居なくなって初めて気が付いた。あの母さんの重圧に必死に耐えていたんだって、兄さんが居なくなって…初めて気が付いた」

「いや、僕も家を捨てるように出てしまった事をルカに謝らなくては。…ごめん」


「あれから父さんがクッションになってくれている。兄さんをあそこまで追い詰めた事、父さんなりに気にしているんだと思う」

「母さんは何か言っていた?」

「特には。でも前よりは柔軟にはなった…かも」

「…そうか」


 目の前のカップを両手で触れる。少し冷めたがまだ温かい。


「兄さん、俺、父さんのあとを継ごうと勉強しているんだ。俺は兄さんみたいに軍人には向かない。要領良く生きる事が得意だから、きっと父さんのあとは兄さんよりも俺の方が向いているんだよ」

「…ルカ?」

「父さんの仕事も踏み込んでみたら面白かったんだ。あの世界、兄さんじゃあ無理だ。兄さんじゃあ直ぐに騙されちゃう」

「酷いなぁ」

「だからさ兄さん。…兄さんは好きなように生きて欲しい。俺も好きに生きるから」


 ルカがバッグの中から薄いスチールケースを取り出し僕に寄越して来た。


「何?」


ケースを開けると中には4枚の呪符。基本的な内容の呪符だが、全てに僕の名前が記名された呪符。


「あげるよ。俺、これでも筋が良いって褒められたんだ」


 子供の頃は見る事が出来なかった、嬉しそうに笑うルカを見た。ルカはルカで、褒められたくて認めて貰いたくて必死だったんだ。


「じゃあ俺、これからバイトだから」

「待って」


 本をバッグに仕舞い、行こうとするルカを呼び止めた。自分のバッグからメモを出し、ペンで走り書く。


「これ、今住んでいるマンションの場所と僕の携帯の番号。母さんに知られると厄介だけど、ルカには教えておく。仕事じゃなければ出られる…と思う」


 走り書き故、かろうじて読めるであろう汚い文字のメモを嬉しそうに受け取ったルカの足取りは軽かった。今度は僕からルカに会いに行こうと思う。


───────────────────────

───────────────────────


 僕自身、あの時に貰った呪符はいまだに使えずに居る。だがそれはあくまで『僕が使えないでいる』だけ。記名呪符は僕にしか使えない。それは呪符の法則として絶対だ。だが時に例外的事例は存在する。1枚目の呪符は、護符と化した呪符が僕を助ける為に、相方を媒介にして呪符としての役割を全うしてくれた。だから僕は今、生きていられるのかもしれない。

 ただ、折角僕の為にルカが作製してくれた呪符を、僕は人を傷付ける為に使いたくはなかった。ルカの器用さを鑑みれば、この呪符はきっと優秀な札だろう。だからこれらも呪符としてではなく護符として持ち歩く事にしている。


 ルカと再会してからもう3年。当時カレッジの2期生だったルカは進学を選び、今やグラデュエートスクールの学生だ。僕と言うしがらみに囚われず、ルカが選んだ道を進めば良い。


 呪符の入ったスチールケースを閉じる。それを軍服の胸ポケットへと仕舞う。別のプラスチックケースには無記名の呪符が何枚か入っている。1枚だけ取り出すと、そのケースは軍服の上に着込んだタクティカルベストのポケットへと仕舞う。


 ベルトにはブレードとハンドガン。他のポケットには予備マガジン。今居る場所は制圧戦の現場。


「第6小隊、出ます」


 さぁ出よう。これが僕の選んだ道だ。ルカはルカ、僕は僕。全く違う道を選んだが、互いに後悔はないし恥ず事もない。胸を張ってその道を進もう。


───────────────────────

2019/11/08/002 2021/04/19加筆修正



以下、補足。

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「なぁ、ルカ。何でコンビニでバイトなんかしていたんだ?」

「その方が世間を知れると思ったから。あの世界だけじゃなく、庶民的な事も知っておきたいって思ったから」


「何であの場所なんだ?偶然なのか?」

「兄さんが軍事学校に行ったって事は父さんから聞いていたんだ。卒業すればどこかの部隊に配属されるだろ?あそこは司令部の近くだから、いつか兄さんに会えるんじゃないかって思った」


「もし中央管轄区に僕が戻って来なかったら?」

「多分グラデュエートスクールを卒業するまではバイトしてたんじゃないかな?」


「…因みに何年あそこでバイトしているんだ?」

「んー?3年くらい?」


「3年くらい前だと…初配属のあとだから、僕は西方管轄区に居たね。国境に居たよ」


「…兄さん、良く国境から帰って来られたね…」

「…本当だね、ルカ」


「…ん?3年くらいって。その頃ルカ、ハイスクールの3期生じゃないのか?良く学校がバイトの許可を出したね」

「だって俺、主席だし生活態度も良かったから、ちゃんと説得したら許可を出してくれたよ」


「…あぁ、そうなんだ」

「そうなんだよ」


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