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◇007/Spell amplifier-Spell canceller. 5/5


…ピッ…。

「総員に告ぐ。呪符士を確保。監視及び狙撃班は撤収を──」


アイゼンが撤収の為の指示を出し始め、リアンは現場の状況確認を行う。このあと男2人を関連部署に引き渡す。ロゼも当然関係者として一旦は身を預けなくてはならない。


「…サフィール、何で…?札、触れているのに…」


アオイは手にしていた呪符を破棄した。バチっと火花が散り燃え尽きる。


「これ」


アオイが軍服の袖を捲る。アオイの両手首内側には複雑は紋様が刻み込まれている。それはアオイの呪符。もう護符かもしれない。自分では呪符の行使すら出来ない呪符。


「…何て強力な札を刻み込んでいるの…?」

「だってあれだけの呪符増幅を打ち消す為のものなのだからね。生半可なのじゃあ駄目なんだよ」


ロゼがアオイの手首をそっと撫でる。呪符増幅者が呪符無効の呪符に触れても、何も起こらなかった。呪符増幅者が安全に触れられる唯一の呪符かもしれない。


「ルヴィはどうする?このまま呪符増幅者で居る?それとも降ろす?」


アオイの問い掛けにロゼは首を横に振る。


「私はこのままで良い。この力が活かせられるかもしれない。ここの旦那様がね、医療系の札に力を入れているの。今の札だと増幅しても1回の札行使に1人だけ10の効果しか出ない。でも現場では時間が勝負。増幅して1回の札行使で10人に1の効果を出せる様な紋様を研究しているの。とにかくたくさんの人に早く初期手当てをしたい、私はそれに賛同しているから。だから私はまだ、これを手離せない」

「わかった。僕は棄ててしまったけれど、ルヴィのこれはたくさん活かせられると良いね」


ロゼとアオイが数年振りに手を繋いだ。子供の時、サフィールはルヴィに手を引かれ常に一緒に居た。

グレイッシュブルーのワンピースに身を包んだサフィールと、ワインレッドのベストとボトムスに身を包んだルヴィ。今やグレイッシュブルーのワンピースを着ているのはロゼで、アオイは活動用軍服だ。


「ルヴィ、僕達もう撤収だから行くよ。落ち着いたら連絡を頂戴。僕は中央管轄区司令部第6小隊所属、アオイ。今はアオイだから」

「それ言ったら私はロゼよ?」


2人、顔を合わせて笑った。


「また今度、ルヴィ」

「また今度ね、サフィール」


───────────────


「「生きている事に乾杯」」


 いつもの居酒屋さんの半個室。今日はいつもと違う。リアンの横にはアイゼン。テーブルを挟み、2人の向かいにはアオイが座っていた。

 テーブルには刺身の盛り合わせとシーザーサラダ、それとソフトドリンクが3つ置かれていた。今日はアオイと言う未成年者が同席している。リアンもアイゼンも立場がある身故、未成年者が同席している場ではアルコールに手を付けない事にしている。

 酔えないグラスを重ね、今日を生き抜いた事に感謝した。

 今日この場に誘ったのはアオイだった。リアンだけではなく、アイゼンにも同席を依頼した。


「アオイ、お疲れ。驚いたよ。アオイにあんなスキルがあるなんて」


 アイゼンが烏龍茶を呷る。


「その件で今日はお呼びしました。…リアンさんは気付いていましたよね?僕があの家の人間だと」


──『…本名、ルヴィ…だろう?』


 以前リアンに言われた事を思い返す。あの時、リアンはアオイに『ルヴィ』と言った。


「でも僕はルヴィではありません。僕は…サフィールです」


 リアンは小隊長故に隊員の詳細書類に目を通している。アオイの不自然な経歴書と自分が新聞で知った情報から、アオイが事件で被害に遭った兄だと思っていた。過去に1度だけ家での付き合いでルヴィとサフィールに会っていたリアンは、『兄』と聞かされていたルヴィがアオイだとばかり思っていた。だが実際にはどうだ。『妹』として紹介されていたサフィールがアオイだと言うではないか。


 10年前に可愛いワンピースを着てリアンに挨拶をした女の子が、10年後に本当の姿でリアンと仕事をしている。何と言うか縁なのだろうか。

 家柄を重んじる家だと仕方のない事なのかもしれない。幸いルヴィとサフィールが年子で見た目も似ていたから出来た事。姉であるルヴィが男子と偽り、弟であるサフィールが女子と偽る。そしてある程度の年齢に達したらお互いに入れ替わる。だからこそ、報道では『兄と妹』とされていた。実際には『姉と弟』だと言うのに。


「それにしてもキャラ、変わり過ぎじゃねぇか?」

「どこがですか?アイゼンさん」

「いやいや、『僕』なんて今までも言わなかったじゃないか。それに喋り方も…」

「今迄、無理矢理キャラ作っていたんです。本当はこっちの方が楽なんですよね」


 もともと幼く見えるアオイが、更に幼く見える様な笑い方をした。


「リアンさんだけじゃなくて、アイゼンさんにもちゃんと言っておきたくて」

「ん?何を?」


「僕、もともとルヴィと一緒で呪符増幅者だったんです。それを知らなくて、3~4年くらい前かな、炎の札に触れて…大変な事になっちゃったんです。ルヴィと一緒に逃げて、でも離れ離れになるしかなくて、考えて考えて僕は呪符増幅を棄てる事にしました。僕を拾ってくれた人が呪符職人で、事情を知って最高の呪符を用意してくれたんです。そこに至るまで何回も仮の呪符で試して。だから僕、様々な札を覚えて読める様になって解析が出来る様になったんです。たくさんの札を試したから…」


 オレンジジュースが入ったグラスを、アオイが呷る。


「僕、これこからも貴方達の下で仕事したいです。因みに僕、女装で潜入とか出来るから便利ですよ」


 両手でグラスを握り、アオイが俯く。


「…だから…だから僕を…6隊に居させて下さい…。僕は貴方達と仕事がしたい。これからも一緒に色々な所に行きたい…」


 ぽふっと、アオイのプラチナブロンドの髪にアイゼンの掌が乗せられた。アオイが顔を上げるとアイゼンとリアンが笑顔を向けてくれていた。


「当たり前だろ?6隊は簡単には抜けさせねぇよ」


 アオイが食べたいと言った揚げ物が届く。お酒はなくとも充分だった。


───────────────

2020/02/11/007

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