◇007/Spell amplifier-Spell canceller. 3/5
西端の通用口からキッチンに潜入、そこから廊下へと入っていく。廊下の西端から東端までの壁にはランダムな間隔でに2種類の呪符が貼られているのを確認する。
東端に至るまでにいくつかの部屋が存在したが、そこにも1枚ずつ、どちらかの呪符が貼られているのを確認した。1階の窓付近には丁寧にもトラップが設置されている。不用意に侵入すれば爆発する仕組みとなっている。トラップの呪符はアオイがひとつずつ確実に呪符破壊をする。もしも窓から突入になった時、邪魔になっては困る。
…ピッ…。
『監視1班より通達。呪符士が3階への移動を確認』
…ピッ…。
「潜入班、了解」
監視班の報告から、呪符士が呪符を設置しながら上階へと向かっているのを把握した。差し当たり接触する事はなさそうだ。
「アオイ、札はどうだ?」
廊下に貼られていた呪符や部屋に貼られていた呪符は2種類。目的はまだ不明だが同じ呪符を何枚も貼るとなれば、何かしらの目的があるのだろうと推測される。
「この札も厄介ですね。こっちのも触れただけで反応するタイプの物です。この呪符は起爆装置ですね。これに触れてもここでは何も起きません。どこか別の場所にあるもう1種の札が起動の札で、それが何かを起こす…」
「つまり、この札も触ってはいけない札…か。厄介だな」
「しかも起動の札に触れたら、どの起爆の札が反応するのか、そこまではわからないです。多分対にはなっていると思うのですがどれとどれが対なのか、紋様が細か過ぎてそこまで見られません」
「…目的がわからないな」
「リアンさん、お願いがあります。リアンさんの呪符ケースを貸して下さい」
アオイが真剣にリアンを見上げる。ただ闇雲に貸せと言っている訳ではなさそうだ。
「札ごとかい?それとも本当にケースだけ?」
「ケースだけ、お借りしたいです」
アオイには何か策があるのだろう。リアンはタクティカルベストからプラスチックのケースを、軍服の腕ポケットからスチールのケースを取り出した。持っていて、とスチールケースをアオイに手渡すと、プラスチックケースに入っていた数枚の呪符を取り出し、今度はプラスチックケースをアオイに渡す。スチールケースを開け、入っている呪符に目をやる。
「ごめんね。少しの間、一緒に居させてくれる?」
スチールケースの記名呪符にそっと声を掛けた。リアンの記名呪符はリアンの護符そのもの。大事にしているからこそ、記名呪符もリアンを大事にする。
「…ありがとう」
優しい笑顔を呪符に向けてからスチールケースに無記名呪符を仕舞うと、ケースを腕ポケットに戻した。
「アオイ、どうぞ。これをどう使う?」
「起爆の札は破壊で問題ありません。でも起動の札を破壊したとして、対の札が先に破壊されていなかった場合、対の起爆の札が暴走する事が怖いです。なので起動の札は回収します。起動の札の破壊は、起爆の札を全て破壊したあとです」
「札ケースに入れるのは何故?」
「僕はもともと呪符無効者だから直で触れても問題ありません。ただ、何らかで他の人が触れたら面倒です。ケースに入れれば直での接触を防げます。あとは持ち運びの便利さですね」
「了解。さぁ行こう」
2人は静かに行動を再開した。
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…ヴー…ヴー…ヴー。
本部に置かれたままのリアンの携帯が震えた。本来であればここの指揮官はリアンなのだが、現状はアイゼンだ。見るからに上層からの連絡。アイゼンは指揮官としてリアンの携帯を取った。
「…はい、アイゼンです。…いえ、リアンは指揮権を私に委ね現場の潜入調査へ行きました。…はい。…えっ?…了解しました。総員通達します。…はい、失礼します」
リアンの携帯をそっと簡易デスクに置くと、代わりに耳に装着したヘッドセットのボタンを押し通達をする。
…ピッ…。
「本部より総員に通達。籠城中の呪符士について、本名は──、この家主の次男との事。なお、人質の女性に関してだが名前はロゼ、この女性には何があっても呪符を触れさせてはいけないとの事だ。家屋内には複数枚の呪符が貼られている。突入、接触時にはくれぐれも気を付ける様に。以上」
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「なぁ、あんた、父さんのお気に入りだってな?」
3階の書斎では呪符士がロゼと接触していた。ロゼは大人しく書斎の椅子に座っている。傍らにはもう1人の男がロゼにハンドガンを突きつけていた。
「『お気に入り』って言葉は好かないわ。私はここに置かせて頂けている代わりに、貴方のお父様が知りたがっている情報を教えているだけ」
「あんた、可愛げがねぇな。ガンを突き付けられ様が札を突き付けられ様が、顔色ひとつ変えやしねぇ」
呪符士が2枚の呪符をちらつかせる。ロゼはちらりとそれを確認すると、内容を口にした。
「…ふぅん、良く出来ている札ね。でも忠告しておくわ。それを私に触れさせないでね」
「あぁ?」
「その札、起動の札の反応を受けて起爆する札でしょ?効果は爆発。範囲は精々この部屋をぶっ飛ばす程度。もう1枚がスイッチの札…ね。設置したら機能するトラップタイプ。…でもね、そっちの起爆の札。私がそれに触れたら起動の札も解放宣言もなしでそれ起爆するよ?しかも爆発の規模はこの屋敷そのものをぶっ飛ばすくらいかしら?」
呪符士にはロゼの言葉が嘘か真実かは判断出来ない。嘘ならそれで良いがもし真実だったら。あまりにもリスクの方が大きいそれを試す程、愚かではない。
「…あんた…何者だよ…」
ロゼは意味ありげに笑う。
「秘密。何もしないなら、もう暫くは大人しくしていてあげる」
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…ピッ…。
「潜入班より総員へ。1階出入り口に設置されたトラップの呪符は呪符破壊完了。壁に貼られた呪符も処理完了。ただし見えない部分や見落としは否めないので、見掛けたら触れる事のない様に」
…ピッ…。
『本部了解』
…ピッ…。
「これより2階へと上がる。アイゼン、順次静かに突入を要請する。僕とアオイはこのまま処理を行う」
…ピッ…。
『本部了解。監視班へ通達。3階の2人の行動を逐一報告』
…ピッ…。
『監視1班、了解』
…ピッ…。
『監視2班、了解』
アイゼンは簡易デスクから立ち上がると、デスクに置かれていた携帯無線を軍服のポケットに仕舞う。それは自身に装着しているヘッドセットと連動している。自分が持つハンドガンとマガジンも確認する。出来れば使いたくはないが、状況によっては仕方がない。
「これより部隊を分ける。2人は狙撃、分かれそれぞれの監視班と行動、狙撃命令を待つ様に。5人は外で待機。状況に応じて動いて貰う。外側での呪符使用は何でもありだ。存分に使える様にしておけ。残る4人は東西に分かれ潜入する。総員、逐一の報告を忘れるな!…どの班にも言える事だが、ウチの小隊長殿は限りない無血解決を望む。怪我するなさせるな…は、まぁ無理だろうが相手方も自分達も『生きて還れ』!」
「Aye,sir!」
それぞれの特化に応じて、それぞれ分かれる。本当ならばアイゼンは長距離狙撃に特化している。だが今は指揮官代理だ。現場に入らなくてどうする。アイゼンを除いた狙撃班2人はスナイパーライフルを抱えると、監視班の元へと向かう。
呪符に特化している隊員と、それを護衛するかの様に5人が家屋正面にて待機をする。屋内で攻撃用呪符を使用するのはいささか危険を伴う。今回は制圧人数も少ないし、人質も居るので外からの援護を任せた方が良い。
残りの4人はローレンジ攻撃特化の人員だ。それぞれが3階を目指す。
リアンとアオイの2人は2階分の処理を済ませ、西側より3階へと上がった。さすがに3階の窓にはトラップの呪符はなく、ひたすらに処理作業となる。1階から合わせて20枚近くの呪符を破壊と回収をし、あとは3階、書斎より東側の処理を残すのみだった。リアンから借りたプラスチックの呪符ケースは、回収したよれよれの呪符でそろそろいっぱいだ。
アオイにも疲れが見える。触れる度に呪符の火花に曝された右手の指先はまるで火傷をしたかの様に赤くなっていた。




