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◇007/Spell amplifier-Spell canceller. 2/5


─Third party viewpoint.─



…ピッ…。

『監視2班より報告、制圧対象者は2名。1名は人質を取り3階書斎に籠城中。ハンドガン所持を確認』

…ピッ…。

「本部、了解」


…ピッ…。

『監視1班より報告、1階北側廊下にてターゲットの1人を確認。左手に何枚もの呪符を所持、それを廊下の壁に貼り付けています』

…ピッ…

「本部、了解」


 本日の6隊はピリピリしていた。仕事内容があまりにも悪い。ここの小隊長があまり好まない内容、『籠城戦制圧』。別に遠距離狙撃で命を狙ってしまえば簡単に終わる仕事なのだが、いかんせん小隊長がそれを避けたがる。…とは言え、状況次第では射殺も辞さないのが軍部だし、小隊長も射殺必須になれば容赦はしない。


 現場となった建物はある特殊製紙会社社長の自宅だった。社長と奥方は出ており、邸宅にいたのは数人の使用人のみ。この中で1番弱いとみたのか、若い女性が人質に取られている。


 ターゲットは2人。3階にて籠城している男の制圧は多分簡単に終わる。問題は1階にて姿を曝している呪符使いの方だ。複数枚の呪符を持っていると思われるこの男。それをある程度の間隔を置きながら、籠城している屋敷中に貼り付けている。目的がわからないし、彼の手の内にどれ程の枚数の呪符があるのかわからない。手練れであるのであれば、呪符そのものが高位クラスである事も考えられる。不用意に近付こうものなら呪符で返り討ちに遭う事も想定される。

 今日は6隊も別の任務もありフルメンバーではない。全体の半分強の16人しか居ない。上手く行動して収めたいところだった。


…ピッ…。

「本部より監視1班へ。貼り付けられた呪符の内容は読み取れそうか?」

…ピッ…。

『監視1班より本部へ。無理です。この距離だと読めません』

…ピッ…。

「本部、了解」


 今回、たかが2人に手こずっていた。呪符使いの行動が読めず、不用意に近付けないのだ。


「せめて札の内容がわかれば対処の検討がし易いのにな」


 小隊長が思わず呟く。このまま対処法が見えなければ、上層から射殺命令が下るのも時間の問題。小隊長の本意ではなくなるが、それもまた仕方がない事。そうでなくとももう強行は必要だろう。小隊長が本意を飲み込んで、効率を優先しようとしたその時だった。


「…リアンさん、俺、札が読めます」


 小隊長に具申する者が現れた。それは6隊の誰もが予想していなかった人物だった。この6隊で最年少のアオイだ。その場に居た誰もがその発言に驚いた。


「アオイ、札をどう確認する?」


 指揮官モードのリアンには、もういつもの柔らかさはない。厳しい眼差しでアオイを見る。意見をしっかりと聞く。


「監視班で識別が出来ないのであれば、俺が潜入します。1人は3階に籠城、1人は屋敷内を周回しているのなら、動きさえ把握出来れば接触せずに確認出来るかと思いますが?」

「アオイ、どこまで札を読める?」

「…多分、この中の誰よりも」

「アオイが札を使っている所を一切見た事はないが、普段から札を行使している者よりも読めると言うのだな?」

「はい」


 リアンは渋い表情を見せ暫く深慮する。具申が出た時点で結論は多分決まっていた。改めて検討しても結果は同じ。


「アイゼン、現時点を以て本部をアイゼンに委ねる。アオイは建物への潜入及び、呪符の読み取りと解析を。僕はアオイの護衛に付く」

「待てリアン!俺が護衛じゃ駄目なのか?お前がここを離れる?お前、隊長だろ?」

「アイゼン、潜入だよ?しかもショッピングモールの様な大きい場所ではない、単なる屋敷。ライフルなんか持っていたら邪魔だし機動力がない。かと言って、アイゼンは近距離射撃が苦手だろ?だったら僕の方が適任だよ」


 痛い所を突かれた。


「それにアイゼンは僕と同等。誰にも文句は言わせない」


 リアンは自らが装備しているハンドガンのマガジンを確認する。タクティカルベストのポケットに入れてある替えマガジンとプラスチックケースの呪符も確認。最後に軍服の左上腕のポケットに仕舞われたスチールケースの呪符も確認した。


「アオイ、行くよ」


─────────────────


…ピッ…。

「潜入班より通達。只今より潜入を開始します」

…ピッ…。

『本部了解』

…ピッ…。

『監視1班より通達。呪符士、2階にて確認』

…ピッ…。

「潜入班、了解」


 アオイとリアンはハンドガンを携えると、1階西側通用口へと向かう。屋敷への出入り業者が使う場所。ロックが掛かっていない可能性が強かった。

 通用口側の窓から中を静かに窺う。特になにもなさそうに見える。リアンがドアの開口側の壁に背を付け、ハンドガンを構える。アオイはドアに身を隠す位置からドアレバーに手を掛け、静かにドアを開けた。何事もなく、ドアは開いた。

 中に誰も居ない事を確認して、踏み込もうとしたその刹那。


「リアンさん、駄目です。動かないで下さい」


 アオイが止めた。外から1歩足を踏み入れた場所には1枚の呪符が貼られていた。アオイがその呪符をじっと見る。段々渋い表情になった。


「…リアンさん、敵は手練れの可能性があります。これ、かなり厄介な呪符です。とても呪符職人がこれを了承して作成するとは思えないので、多分あの呪符士本人が作成した札だと思います」

「かなり複雑な紋様だな」

「遠隔操作とか、そんなレベルじゃありませんよ。誰かがここから踏み込んで札を踏んだり、落ちているからと不用意に触れようものなら、解放宣言なしに、それこそ地雷の様に爆発します」

「…そんな札が作れるのか?」

「こんな命令を組み込めるなんて、相当の技術者ですよ。全ての出入り口にはこの札が仕込まれていると思って間違いないでしょう」


…ピッ…。

「潜入班より総員に通達。屋敷出入り口付近に落ちている札には何があっても触れるな。踏む事もするな。爆発の可能性あり」


 リアンは共有の必要ありと判断したのだろう。即時、総員へと通達がなされた。


「リアンさん、呪符破壊(Spell break)します」


 アオイがついさっき触れるなと言ったばかりの呪符に手を伸ばした。


「待て、アオイ!」


 当然リアンはそれを止める。触れたら爆発する呪符を自ら触れに行こうとするアオイを止めない理由はない。


「大丈夫ですよ。俺、『呪符無効者(Spell canceller)』だから。でもこれは…出来れば皆には黙っておいて欲しいです」


 ひとつ深呼吸をすると、アオイは右手のグローブを外し置かれていた呪符を拾う。バチ…っと呪符が発動するときの魔術的火花は散ったが、それ以上何も起きなかった。呪符を両手で持つと、縦に半分になる様に破った。パチパチと小さな火花が舞い、呪符が効力を発揮する事もなく燃え尽きた。

 呪符を破る事で呪符は効力を完全に失い、呪符そのものが消滅する。手順としては正当なものだ。ただ疑問が残る。


──どうしてアオイが触れても何も起こらなかったのか。


 アオイは自らを『呪符無効者』と言った。文字の如く、『呪符の効力を取り消す者』だ。だから解放宣言なしでも発動する呪符に対して、問題なく触れられる…と言ったところだろうか。


「俺、家を襲撃されて6隊に来るまでの空白期間、これの入手をしていたんです」


 アオイが左手のグローブも外し両袖を捲る。見せられた両手首の内側には呪符が存在していた。かなり複雑なその呪符は、アオイの腕にしっかりと刻み込まれている。


「これがあるから、俺は呪符無効者でいられるんです。さぁ、進みましょう」


──────────────────

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