◇006/兄貴分と弟分 2/2
「9年って早いな」
初めて会った時はまだ16歳になる前で、リアンなんて俺よりも小さくて頼りなかったのに、気が付けば背丈は少しだけ抜かれた。7月生まれのリアンは既に25になり、あと2ヶ月もすれば自分も誕生日を迎える。リアンとバディを組めなかったのは初配属後の1年間だけ。それ以外は同じ所属でいる。
「腐れ縁もここまで来ると意図的だろ」
左手で水色の缶を取ると、ぐっとサイダーテイストのアルコールを呷る。
「お陰で彼女すら作れねぇ。仕事を回し過ぎだ。軍部も…兄貴も」
飲みきった缶をローテーブルに置くと、アルミ缶特有の甲高い音を辺りに響かせた。
──寝よう。
リアンにベッドを渡してしまったから、自分はリビングのソファーで寝るしかない。さすがにそのままでは寒い。エアコンは入ってはいるがせめて毛布は必要だろう。
そっと静かにベッドルームへと踏み込む。クローゼットを全開し、予備の毛布を手探りで探し当てた。ふと自分のベッドを占領している相方に目をやる。さっきとは違う体勢で寝ている相方。女が見たらこれを可愛いとでも言うのだろうか?俺にはわからねぇ。
もう周囲の誰もがそれを当たり前にしている。時に他部隊の人間からも兄弟扱いされる。逆に当たり前になり過ぎて、いつか訪れる『当たり前ではなくなる時』を迎えたらどうなるのだろうか?とさえ思う。まぁそれは、訪れたその時に考えるしかない。
全ては必然、きっとこの関係にも意味がある。
明日もやる事はいっぱいある…。割り込み仕事もきっとある…。あー、朝、少し早目に起きてリアンを自宅に帰さなきゃだ…。起きれるか…?
毛布にくるまり、ゆらゆらとする朦朧の世界へと入り込んで行く。
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──Lian side──
…ピピピピッ…ピピピピッ…ピピピピッ…。
どこかで携帯のアラームが鳴っている。手を伸ばすが届くところにはない。
…ピピピピッ…ピピピピッ…ピピピピッ…。
放っておけばいつまでも鳴っている。仕方ない、頭が重く感じるが身体を起こす。
「…どこだ?ここ」
白いレースカーテンの隙間から光が射し込む。ブルーの遮光カーテンは中途半端に閉められていて、何ら役には立っていない。
自分が寝ていたベッドにはグレーとブルーを基調にしたカバーが掛けられ、多分ここは男性の部屋だと認識した。
昨日の事を思い返す。6隊でアオイの誕生日を祝った。そのあとだ。アイゼンと飲み、そこから覚えていない。見渡すと部屋の隅に軍服が雑に置かれていた。
──あぁ、アイゼンの部屋か…。
何度かアイゼンの自宅に来た事はあっても、ベッドルームに入る事はなかった。この部屋を知らなくて当然だ。
…ピピピピッ…ピピピピッ…ピピピピッ…。
音源を探すとドアの横に僕の上着とバッグが置かれていた。そこから携帯を取り出し、アラームを止める。
僕がアイゼンのベッドを占領していると言う事は、間違いなくアイゼンに手間を掛けさせてしまったと言う事だ。いくら気心知れた相手とは言え、僕はどれ程の醜態を晒してしまったのだろうか…と自己嫌悪に陥る。
隣の部屋へと続くドアを開ければ、エアコンの暖かい空気が流れ込んで来た。リビングにはテレビが置いてあり、その前にはローテーブル。テーブルの上には水色の缶が放置されている。
──まったく。飲んでそのままか…。
呆れつつも昨日の事を思えば何も言えないので、その缶をせめて片付けようとした。缶の側には煙草のパッケージが1つ。未開封のままそこに居た。
──アイゼン、煙草を吸うのか?
長い時間を共にしているが、1度たりとも煙草を吸う姿を見た事がない。それは嫌煙家の僕に気を遣ってくれていたからなのだろうか。それにしてはこの部屋は煙草の匂いがない。消臭剤が置いてある訳でもないから、実際には吸わないけれど、何らかで持っていただけなのかもしれない。
「…んー…」
ソファーで寝ていたアイゼンがもぞもぞと動く。その動きで、アイゼンに掛かっていた毛布が床へと落ちた。着ている長袖Tシャツの裾は捲れ上がり、脇腹を晒け出したその姿に呆れる。
アイゼンは僕の兄貴分…だったな。それなのに、無意識下になるとやっている事は弟分と変わらない。こう言った部分では、やっぱり僕が兄貴分なんだよ。
毛布を拾うとアイゼンにそっと掛け直す。仕事の時間を思えばあと30分くらいは寝かせられるか。
その間にキッチンを借りて、コーヒーと簡単な朝食を作っておこう。
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2020/02/04/006




