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◇005/『生きている事』の意味 2/3


 生きた心地がしないとはまさにこの事。ホワイトアウトが収まるまで何かしたくとも何も出来ない。親友や仲間が心配で仕方がないのに、何も動けない。それは全てのメンバーも同じ気持ちだ。

 幸いすぐ側に絶壁があるかと言われればそうではないが、なにぶん道なき道を登る様な行軍故に、通って来た道はなだらかとは言い難い箇所だった。来た道を滑落したとしたら、雪の下は岩みたいな道だからどれ程のダメージを受けているのだろうか。


 早く確認したい。生きていると確認したい。


 ホワイトアウトの間に無線からはたくさんの指示が飛び交う。自分のチームの中でも小柄なメンバーは一旦山小屋まで行き、処置が出来る様に受け入れ体制と別動隊に連絡を付ける。

 自分を含め体格の良いメンバーは救援に向かう。アサルトライフルやビバーク荷物は一纏めにして一旦置き、ピッケルやロープなどの必要になる物を持って捜索をする。故に広範囲の捜索は出来ない。何よりも自分達が専門家ではないから、二次被害が出ない程度の事しか出来ない。

 滑落とは言え、幸い崖ではない。登って来た斜面を滑り落ちていると思われるのだが、どれだけの距離を滑落してしまったのかはわからないし、雪が積もっているとは言え歩いて来たからこそまだらに剥き出しになってしまった岩が怖い。


 少しずつ吹雪が収まる。さっきまで荒れていた天候が驚くくらい穏やかになる。この気紛れさ、これが雪山の恐ろしさだと初めて知った。


────────────────


 ホワイトアウトに遭遇した場所から数十メートル。リアンとアリスを発見した。吹雪で多少は埋もれたものの、滑落の痕跡となる緋い道筋が残っていた。ただ、その場にリゼは居ない。

 リアンの左腕の中にアリス。アリスの頭を庇うかの様にリアンはアリスを抱えていた。右腕の手首にはピッケルのストラップが通されていて、偶然か意図的かはわからないが雪道に刺さったピッケルがリアンとアリスのこれ以上の滑落を止めたと推測された。

 リアンの左半身、特に上腕と腰から腿にかけて道に当たりながら滑落したのだろう。かなりのダメージを負っているのが見て取れた。それはアリスも同じで、アリスは逆に右側を負傷していた。

 この緋い道筋がどちらのものかはわからない。大きな擦過傷は免れないし、骨や筋がどれだけ傷んでしまったかはここでは判断が付けられない。何よりこんな冷たい場所に素肌や傷を晒してしまっている。凍傷も心配だった。


「リアン!アリス!」


 近付き、様子を伺う。動かしたくとも今はまだ動かせない。必死に名前を呼ぶのが精一杯。


「救助用ソリを下ろせ!」

「頭と脛椎に気を付けろ!」

「そっちを支えてくれ!」


「──────!」

「──────!」

「──────!」


 上官と北方警備隊の指示が飛び交う。まずは小柄なアリス、それからリアンと収容作業が行われていく。


 …ピッ…。無線が鳴いた。


『──より…報告。リゼを…発見しました…』


 その無線内容は絶望だった。


────────────────


「『生きている』って、大変だね」

「…そうだな…」


 あの滑落事故から2週間。だいぶ快復したリアンがぽつり…と呟いた。


 あの日あの時。自分の後ろにはアリスが居て、リゼ、リアンと続いていた。突風が吹いた時、俺は堪えられたがアリスは耐えられずによろけ、それに気付いたリゼがアリスを支えようとして2人は転倒、滑落。アリスを庇いながら転倒したリゼは、この時点で致命傷に近いダメージを受けながら最後尾のリアンに衝突。


「…い!リア…った?!」


 風に掻き消されながら、僅かに俺の問い掛けが聞こえた気がしたらしく、それにリアンは必死に答えた。


「滑落!!」


 直後、言葉を受けた俺が対応したのが無線内容からわかったそうだ。

 リアンが転倒し、3人が共に斜面を下って行く。途中、リアンにアリスを託したリゼは笑って言葉を遺したと聞かされた。


──『還って、生きて』


 ざくり…と、リアンのピッケルが雪道に引っ掛かった。多少の衝撃と共にリアンとアリスの滑落が止まる。だがリゼはどうだ?致命傷ぎりぎりのリゼはアリスを託した事の安心感で意識は朦朧とし、衝撃の反動でリアンから離れて行った。


 後々発見されたリゼはもう喋らないし、動かない。だが笑顔だった。


「…アイゼン、僕は今、何で生きているのだろうね」

「さぁ?ただ、まだリアンにはやるべき事が残っているからじゃないのか?」

「…僕は…生きていて良いんだよね…?」

「あぁ」

「…僕はこれから…」

「お前がしたい様にすれば良い。俺はお前に付き合うだけだ」


「…僕は…僕はもう、誰かが死ぬのは嫌だ…」


 16歳になる年の4月から3年と9ヶ月目。リアンが本気の弱音を吐く姿を見るのは後にも先にもこの1度だけだった。


──────────────────

──────────────────

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