魔界の興業
その魔物の見た目は、バニーガールだった。
バビット族のノエルと名乗った、少女型の魔物。
バニーの耳は付け耳では無くて本物で、人間の耳の位置に耳は無いが、フワッとした頭髪で綺麗に隠れていて、やはり人間にしか見えない。
そしてアイツは裏切った。
私は斥候の帰りを待ちながらノエルの事を考えていた。一週間という短い時間の中だったが、色々と会話をしたのだ。
ある日は……神輿城から城下を眺め、弁当を食べている時。
「ササーガ様、ササーガ様! ギャンブルしませんかあ?」
「ほう、どういったギャンブルだ?」
「ほらあそこ!二匹で 喧嘩してるコボルトがいますねえ! どっちが勝つかで勝負です! 負けた方がお饅頭ひとつ支払う……で!」
「面白い、良かろう、ならばお前が先に選んで良いぞ」
「ええーっ! 良いんですかあ? じゃあ右の大きい方です!!」
「なるほど、大きい方が勝つのは合理的だ、ならば私は引き分けを選ぼう、どちらかが勝てばお前の勝ちで良いぞ」
「引き分けってー! 大穴すぎませんかぁ!?」
すると、コボルトの喧嘩に神官が仲裁に入り、喧嘩はすぐに解散した。
「私の勝ちだな、饅頭は貰っておく」
「うっそ! そんな事ってあります!?」
「この国では仲間割れは重罪、ディグラスの餌の刑が課される。神官には常に街を見張るように指示してあるからな」
「あー! それズルじゃないですかー! もうひと勝負! もうひと勝負しましょう!!」
また、ある日は風呂場の前……
「ササーガ様ぁ! 風呂に入る順番、賭けで決めませんかあ!?」
「ふふ、私は一緒に入るのでも構わんぞ」
「はっわあ!! それは光栄! でも私は賭け事をしたいんですよ!!」
「なるほど、では風呂に潜り、より長く息を止めた方の勝ちだ、負けたほうが風呂上がりのマッサージをする」
「良いですねっ! やりましょう、やりましょう!」
私は魔神としての威厳を保たなければいけないと言うのに、ノエルは妙に人懐こくて、この生と死の隣り合わせの魔界において、小さな癒しとなっていた。
そして今アイツは、私の国の生産資源の全てと、コボルト1100匹を騙して逃走中。私がディグラスを従えている事も、仲間割れが極刑である事も、彼女は知っている。この謀反が失敗すれば死を意味する事も分かっているはずだ、だが、それでも行動に出た。
これもアイツにとってはギャンブルの延長なのだろうか……
私は城下の出口でアトラに乗って待機していた。コボルトの斥候が戻り次第、ディグラスを率いてノエルを追うためだ。仲良くしたのはソレ、裏切ったのはコレ。けじめはキッチリつけなくてはいけない。
すると、城壁の門の外から見慣れない魔物が音も無く近寄ってきていた。
「ジャシャシャシャ! ようやく見つけた、ここが入り口じゃな?」
その一言を聞いて初めて存在に気づき、振り返る。
そこに居たのは、一言で言えばメデューサだった。筋肉質に引き締まったボディに、豊満な胸を持ち、ピッチリとした鱗のようなスーツを着込み、なにより頭髪が蛇で、腕が六本あり、蛇のような大きくて瞳孔の細い目が三つあり、異様な禍々しさを放っていた。
私は心臓が止まりそうな程驚いていたが、威厳をもって声をかけた。
「……なんだお前、邪眼族か?」
昨日ノエルの口から聞いた邪眼族、もしこの魔界に邪眼族という種族がいるなら、これしかないだろってくらい、邪眼族の見た目だった。その実力が確かなら、この一言で私の首が飛んでもおかしくはない。
「ジャハ、邪眼族か、そう呼ばれるのも久しいのう」
……やべえ、邪眼族来ちゃった。しかもコイツの設定分からな過ぎる
そう答えると、邪眼族の女はこちらを見上げてきた、私は急いで目を反らす。
「お前はなんじゃ? 門番か? なぜ目を反らす」
ソイツの腰には刀剣がついていた。右に三本、左に三本。おそらく六本の腕で六刀流をするとか、そんな所だろう。その剣の一本に手をかけ、視線の外からカチャリと音が響いた。
「目を反らすのは当然、お前が邪眼族だからだ、目を合わせる訳にはいかん、アトラも見るなよ。」
アトラは短く返事する。 「はい、かしこまりました」
「私は魔神であり、この国の教皇であるササーガ。」
それを聞いた瞬間、邪眼族の女は六本の刀剣を全て一気に引き抜き、こちらを向いて構えた。その動きが早すぎた、横目だったのもあるが、剣を抜いた瞬間も振り向いた瞬間も見えず、突然シルエットが変わったようにしか思えなかった。
そして剣を構えたまま威勢よくしゃべり出す。
「ジャシャシャ!! お前が魔神か! 探す手間が省けたわっ! 戦争じゃ戦争じゃーっ!!」
……やばい、これは死んだ、ノエルの煽り新聞読んで来たにしても、行動が早すぎる。何も対策できていない、しようもないが。
「ほう、我が国に戦争を仕掛けると言うのか、目的はなんだ」
「シャハ? 目的……? 目的は戦争じゃ!! 貴様の国とわらわの戦争じゃあ!!」
……やべえ、コイツ頭ぶっ飛んでる、しかし私はソイツの事を見てすらいないのに、私はまだ生きている、ここはひとつ過程をおき、それが是であることを前提に会話するしかない。
「なるほど、そういう事か、ならば先に貴様の名を聞いておこうか」
「おうっ! わらわはナガン! 邪眼族の中でも最高位の剣闘士じゃ!!」
……やはりコイツ、武人の類だ。自分の実力に誇りを持っていて、戦闘を楽しみたいとか、そういう輩。
アトラが口をはさんだ
「ササーガ様、ナガンと言ったら国落としのナガンでは……噂によるといくつもの種族が滅ぼされているとか」
……やめてホント、そういうのいらないから
「おうっ! わらわを知っておるとはのう、見上げた教養じゃ!」
「この国に来たのは、新聞を読んで来たのか?」
その瞬間、ナガンの持つ剣が腕を組んだままの私の首の根元まで伸びていた。
「わらわは談笑しに来たのではない、戦争をしに来たのじゃ! こっちを見ろ! 剣を取れ、血が疼いてたまらんわ!!」
私は目の前に迫った剣、寸前の死に胃がひっくり返りそうだったが、腕を組んだまま正面を見続けていた。中途半端に抵抗しても絶対に死ぬ、ならば突っ切るしかない。
「おい、私の質問に答えもせず、自分の都合を通そうとするな。私は新聞を読んで来たのか、そうでないのかを聞いているのだ」
「新聞を見た!! 邪眼族に対抗しうる新勢力と聞いてな!! 久々に楽しめそうじゃと心躍っておるわ!!」
……なるほど、ノエルの計略は完璧だ。
「分かった。」
私はそう短く答え、ナガンの方へと振り向いた。その時わざとナガンの剣に首をひっかかせた、首の切り傷が痛むが大動脈さえ避けていれば問題ない、すると瞬間、ナガンが剣を引いた。
そして目を合わせた、私はこいつが快楽殺人鬼では無く、真の戦闘狂だと信じた。剣には毒も塗っていないし、戦闘せずに殺しもしない、邪眼的な能力を持っていたとしても、私に対して使ってこない。
「ナガン、そなたが最近攻めた国の話でも聞こうか、いつどこの国を滅ぼした」
「シャ? 牛じゃ! ひと月前に牛の群れを狩ってやったわ!!」
……牛、これは未来人ノートにあったやつかもしれない。
【ミノタウロス】危険度B
牛の頭の筋肉質な魔物、一体のパワーがダンプカーくらいであり。防御力もダンプカー。
一体ならば危険度B、群れで過ごしているが積極的に人は襲わない。
つまり、この邪眼族のナガンは、ダンプカーの群れに突っ込んで、平気で滅ぼせる程の実力を持っているという事になる。
「なるほどな、それは凄まじい実力だ。ナガンよ、明日もう一度この時間にここに来い、そしたら貴様と戦争してやろう」
「おい! 時間稼ぎをしようって言うんじゃないだろうな! わらわは今戦いたいんじゃ!!」
「お前の相手をすることは簡単だが、私にメリットが無い」
「貴様が勝てば生き残れる、それだけじゃろうが!!」
「クハハハ、ならば殺せ、私は抵抗もせん」
「なんじゃと!?」
アトラが一歩後ろに引いた。
「ササーガ様!! なにを!!」
「案ずるなアトラよ、魔神は死んでも深淵から蘇る。私にメリットが無いなら、こやつの相手など面倒なだけだわ、しつこくされるより殺されて去ってもらった方が早い。もっとも魔神の力を見せてやれないのは少し残念といった所だがな」
そう言って愉悦に浸った顔で首から流れる血を指ですくって舌で舐め、ナガンを見下した。
その視線に答えるようにナガンはその残忍な目で私を睨みつけ、六本の剣を降ろした。
「明日来れば、戦争するのじゃな? 逃げずに……!」
「魔神は嘘を言わん、なぜなら嘘とは弱きものが身を守る為のものだろう?」
私は近くに居たコボルトに話しかけた。
「おい、マツリを読んで来い、新聞を撒くぞ、明日この城の城下で邪眼族のナガンと、魔神ササーガの決闘を執り行うとな!!」
「はっ! かしこまりました……!」
「おうっ! 決闘か! 決闘良いぞ! 楽しみじゃ!」
そう言うとナガンは剣を器用に六本のさやに同時に収めた。
それを見て私は条件を提示した。
「では明日の朝、この城門の影が中央の広場にかかる時、あの広場で戦闘を始めるものとする、良いな?」
そう言うとナガンは私の指定した広場の様子を数秒間眺めた。そして……
「承知じゃ! ジャシャシャ……!!」
そう言って林まで数歩下がると、ナガンの姿は影のように消えていった。
それを見て私の身体を強烈な脱力が襲う。
……やばっ、怖っ! 邪眼族ヤバ過ぎだからもう。首痛いし……最悪……
そこに丁度、ノエルを追っていた斥候部隊から、報告が戻って来た。
「報告いたします! 大量の資材を運ぶコボルト隊が、九区へと抜ける森林を行軍中との事……!!」
アトラがその方角を見て話しかけた。
「ノエルですね、追いますか、ディグラスを連れて」
「いや、その必要はなくなった。悪いがノエル追跡は中止だ、斥候隊含め全コボルトを城下に集めよ」
そこからナガンと戦うための広場の整備をし、決闘告知の看板を作った。新聞は撒かなかった作る技術もコネクションも無かったからだった、そうして一日はあっという間に過ぎて行った。
翌日の朝……
ドン……! ドン……! ドン……!
太鼓の音を鳴り響かせ、私の城下は祭り騒ぎとなっていた。コボルトにさせていた準備の大半はこの祭の準備。私が城の上から城下を見下ろすと、決戦の広場に既にナガンが佇んでいた。
「気の早い奴だ、さあ届いてくれよ……予定通りに行くぞアトラ」
「はっ、お任せください」
日が昇り、城門の影が広場にかかるころ、私は城門側に回り込み、城の外から広場へと向かって行った。するとナガンは私の存在に気づいて振り向き、すぐに六本の刀剣を抜いた。
「ジャシャシャ! 待ちくたびれたぞ! 戦争開始じゃ!!」
「勝手に早く来過ぎたのはお前だろうが、せっかく城門まで迎えに行ったのに、既に中に居るとはな」
私は手を高く上げ、指を弾いた。
パチンッ!
それと共に、コボルトが骨で作った角笛を吹きならし、神官たち10名が城壁の上で音頭を取った。
「本日行われますのは! 魔神ササーガ様と、邪眼族ナガンによる決闘でありまーっす!! それでは各参加者は、勝敗予想を行って頂きますよう! お願いしまーっす!!」
ワァァアアア!!
城下の広場を広げた闘技場の外にはコボルト達が立ち並び、中には他の種族も立ち並んでは黒やら白やらのプレートを掲げている。その様子を見てナガンが質問してくる。
「なんじゃ、この騒ぎは?」
「興業ってやつさ、私はお前と戦った所で何のメリットも無いのだが、こうして戦争を見せるものとして賭場を開催することで利益を出せる、一日待ってもらったのはこの為の人集めってやつかな」
「なるほど、悪くない活気じゃ、貴様が切り伏せられる所を大衆に晒す事になるだけだがな」
「それも一興、この勝負自体はどちらが勝っても私は利益を得る、まあ、負けないがな?」
「面白い、では開戦じゃな……!」
ナガンは剣を低く降ろして構えた。
「おっとその前に、お前はその頭に蛇が何匹ついてるんだ?」
ナガンの頭を指さした、そこには頭髪の様に垂れ下がったり持ち上がったりする、蛇の群れが居る。
「ああ? 知らん、これはわらわの体の一部じゃ、そんな事どうでも良いのじゃ」
「そうか、パッと見た感じ20匹以上ついているようだが、それがお前の身体の一部と言う事なら、私の右腕であるアトラも、我とは一心同体の六神豪と言う事になっている。後で卑怯だのなんだの言われても困るのでな」
「ジャシャシャ、好きにせい、なんならコボルト全員相手でも、わらわは勝てる」
「それは流石に決闘では無くなってしまうだろう、だが私も7番目の身体は使わせてもらうから、そのつもりでよろしく頼むよ。魔神聖秘術・オメガ・イヤーテ!!」
私が手をあげると、私の城の正面の巨大門が開いた。中から口の怪物、ディグラス=グィガが触手をうねらせながら這い出てくる。ナガンは振り向いて、ディグラスを正面に据えた。
「なんじゃ!! こやつは……!!」
「そいつは、私の喉をこの世界に映し出した具現、紛れもなく私の身体の一部である。 さあ、開戦といこうか!!」
「シャアアアアア!!」
ナガンはディグラスに完全に振り向いて、剣を構えている。別にナガンがディグラスを倒してくれても構わないし、ディグラスがナガンを食っても構わない。
それは私視点、敵対敵の潰し合いに過ぎなかった。
ディグラスは私を捕食しようと追って来るが、途中にあるものは全部食う、アトラをうまく走らせて、私とディグラスの間にナガンを置く配置、これを常にキープする。
更に……
「魔神聖秘術・スイージョ・サンクチュアリ」
そう唱えた瞬間、広場の周囲から白い煙が噴き出した。魔法では無い。これは昨晩用意していた戦場の準備の要、広場の周囲を深く掘り、魔力塵の燃焼によって湯を沸かせるようにしておき水蒸気を作っていた。
合図でコボルトにフタを開けさせる原始的な仕組みだ。同時に魔力塵の燃焼により、魔力が戦場に満ち、簡単な魔術が使えるようになる。
「この煙はなんじゃ!!」
「我が魔力のほんの一端、魔神の息とでも言った所か。さあ、私の口が来るぞ。勇気魔法!!」
次に使ったのはブレイブハート、勇気を出させる魔法だ。対象はもちろん目の前のナガン。さあ頑張って最狂のディグラスとの一騎打ち、よろしくお願いします。
「シャアアアアア!!」
ナガンはディグラスに対して真正面から突っ込んでいく。ディグラスは拘束の触手を次々と叩きつけ、ナガンを掠めていく。しかしナガンはそれすらも捌き、切り捨て、ディグラスに真向から渡り合っていた。
しかしディグラスも触手が切れても新たな触手が生えて来て影響はないし、口を切られても体表を切られても、変わらずに暴れまわっていた。
……ディグラスとナガンの戦い、光と音がぶつかり合っているだけで、何やってるか全くわからん。
しかし私は次の策を出す、マツリに仕掛けさせていた巨大壁を城門の前に立ち上げ、広場に入ってくる陽光を遮断した。その上、広場には水蒸気が立ち込めており、暴れるディグラス、走るアトラが風を生み、広場の温度をみるみると下げていく。すると、ディグラスの攻撃がナガンに当たり始めて来た。
「ジャハア……ジャハァア……」
明らかに苦しそうな顔をしだすナガン。頭の蛇たちは既にぐったりと垂れ下がっていた。
「フフフ、やはりあいつ、性質も蛇か。」
アトラは必死にディグラスとナガンの戦闘から距離を取りながら、隣で私を見た。
「蛇というのは……?」
「蛇というのは爬虫類であり、変温動物だ、20度以下の環境では動きが極端に鈍る、奴は人型だし乳房もあるので完全に爬虫類ってワケでもなさそうだが、見るからに寒さが効いているな」
私が昨日のうちに作らせた仕掛け、水蒸気発生機構と、巨大日差し避け、これは戦場の温度を下げる為に作らせた機構だった。昨日のナガンとの会話の際、私が戦場として指定したこの広場をナガンは見つめていた。日当たりの良さを確認していたのだ。
「さて、仕上げと行こうか、たのむぞアトラ、お前の手腕に全てがかかっている」
「お任せください、このアトラ、どこまででも……!!」
ディグラスの触手をよろめきながら捌き続けるナガンの後ろを丁寧に旋回し、アトラは私を抱えて城の上までのぼった。ディグラスは当然私を追って城の小屋の中へと戻って来る。それと同時、城のディグラス小屋の入り口の扉を一気に降ろして閉じて閉じ込めた。広場にはかなり体力を削られ、体温も落ちたナガン。
アトラはその目の前に、飛び降りて着地、私とアトラがナガンの前に相対した。
「ジャシャア……ようやく本体で来るというわけか」
ナガンは目を細めて剣を構えた。おそらくこのボロボロのナガンでも、私達よりは余裕で強いだろう。それを感じさせるだけの気迫があった。それに私は答えた。
「この体も本体では無い、我は魔神、その本体はもっと上の次元にあるのだからな」
「なん……じゃと……?」
「終わりだ、花畑魔法」
唱えた瞬間だった、ナガンの姿が消え、目の前までナガンの剣が迫っていた。しかし、ディグラスとの戦闘と体温の冷え、そして興奮状態からの急速なリラックス。ナガンはその場で冬眠するかのように崩れ落ちた。ついでに、アトラも寝た。
そして……
「拍手魔法!!」
会場が盛大な拍手に包まれる。それは実際には終わっていないナガンとの戦闘の決着を意味させていた。決闘の決着という既成事実、観客の総意がここに完成したのである。
コボルトの内、黒い看板を掲げていたものは歓喜し、白い看板を掲げたものは頭を抱えている。
黒が私の勝利に、白がナガンの勝利に通貨を賭けた者だ。
そしてその拍手の中から、逃亡中のノエルが飛び出して来た。
「すっごーい! なにこれ、すごくないですかー!? 決闘ギャンブル、めっちゃ盛り上がってるじゃないですか!! ほら私の看板、黒ですよー! 魔神様が勝つって予想してましたからね!!」
私はそんなノエルに向かって不敵に微笑んで見せた。
「ふふふ、お前ならこの祭り騒ぎ、戻ってくると思ったよ。私が踏んだ一番のギャンブル、それはお前が物資運ぶだけの退屈より、こういうのに釣られてくるだろうって事だからな」
「えっ!? それってどういう意味なんですか!?」
「とぼけても無駄だ、お前は理解しているはずだ、お前が仕掛けたのは資源略奪ギャンブル。私から逃げきれるかのギャンブルというわけだ。」
私は外壁に飾られた、賭けの演目の大看板を見つめた。
「だから私は、お前が戻ってくるかのギャンブルを仕掛けた、敢えてお前を追わず拍子抜けを誘い、太鼓と笛で音を出して祭り騒ぎをさせ、決闘の賭けの看板を貼り出した。お前に届く事に賭けてな。」
ノエルは目を丸くして、その長い耳をピクピク震わせている。
「ノエル、そしてお前は自分で仕掛けた賭けを途中で捨てて戻ってきた。この勝負は私の勝ちだ。物資はちゃんと戻しておけよ。」
「たっはぁー!! そういう事ー!? 私、まんまとやられたってわけですかっ!」
「まあ、中々面白い催しだったじゃないか、債務の支払いはキッチリしてもらうがな」
「ひ、ひぇえ……」
私の国の運営は過渡期を迎えていた。私が望もうと望むまいと、支配の拡大は進めなくてはいけない。そういう流れが確かに存在していた。
魔軍内訳
ササーガ:人間、食料、ヘイトタンク
アトラ:象の体躯とゴキブリの速度
コボルト軍:建築製造集団、1400匹
ディグラス:無限の食欲
ノエル:ギャンブル敗北者、経理




