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【注意・魔神詐欺!!】 魔界に転移した女医の私、何故か魔神だと勘違いされたので、魔神を騙って魔界統一を目指します  作者: 清水さささ


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魔界の胃袋

 人間には骨が206個ある。 それぞれに価値がある。


 頭蓋骨の構成に22個、脊椎26個、その他諸々……



 コボルト社会では 人骨は通貨 として扱われていた。



 脊椎が一個10万円程の価値、その他の骨は大小まばらで千円から一万円。

 頭蓋骨は22個フルセットの完品のドクロで300万。


 そして何より、成人女性の骨盤が一番高価で800万。強いコボルトほど金持ちで、これを頭に付けている。

 なお、骨が新しいほど高価となり、新品になると倍額だ。



 そしてその全てを新品で揃えているのが、この私というわけだ。

 私の身体はコボルト社会では総額5000万相当の宝箱。


 奴らが私を人間だと知ったら、もう札束の刺さったハンバーグにしか見えないことだろう。



「魔界、人類に厳しすぎないか……よく50年前まで絶滅してなかったな」


 私はコボルトの村の、頭領の住居と言う所に住んでいる。


 コボルトのボスが住んでいたという住居だが、村の中心にあると言うだけで他の住居と変わらない、金属製の竪穴式住居のようなしょぼい住居だ。住居の入り口の外でコボルトが騒いで報告をしてきた。



「ササーガ様……! 怪我人を連れてきました!!」


「そこに置いておけ、ククク……魔神の秘儀によって蘇らせて見せよう」


「はっ! ありがとうございます! ササーガ様万歳!!」



 村では毎日多くの怪我人が出る。こいつらには治療と言う概念が無かった。簡単な処置をすれば助かる程度の怪我で平気で死んでいく。医療は兵器、私にとって最大の武器だ。



花畑魔法リラクゼーション


 手術をするのに、この魔法が役に立つ。極度のリラックスを与えるこの呪文が麻酔として作用する。針を通してもリラックスしているし、メスを入れてもそのまま寝ている。

 そして死ぬはずだった怪我人を復活できるこの医術と言う私のフィジカルが、支配後間もないコボルト村の中で私を欠く事の出来ないものへと昇華していく。


 そして、重要なのは医術を誰にも教えない事だ。私でなくてはダメという絶対的価値の創造だ。



「ありがとうございます! 魔神様! ササーガ様!!」

「魔神様のおかげです! この村は強くなる!!」


 暴力と恐怖による支配など、キッカケに過ぎない。

『医』『食』『住』を牛耳り、信仰の対象となる事、それこそが私の真の支配。



「集え! わが軍、ササーガ魔軍よ!! これより城壁を構築する……!!」


「うおおおおお!!」 「魔軍万歳!!」 「魔軍万歳!!」


 魔界の廃棄区画、十区。使用済みの魔力塵が流れ着く、魔界の便所とも言うべきこの区画には、コボルトの村が十一個あった。それぞれの村が100体前後のコボルトで構成されているが、まさに世紀末といった感じで、毎日コボルト同士の略奪と誘拐が繰り返されていた。


 この村はザンカ村と言う。一日2~3回は他の村からの襲撃を受け、その度にメスや子供がさらわれていくと言う現状、逆に若手が攻めて行って誘拐して来ることもある。昨日の襲撃では私の前まで敵のコボルトがやって来て、普通に死ぬかと思った。なので城壁の建築が最優先だった。


 コボルトはその手自体がペンチであり、ニッパーであり、ハンマーだった。折り紙でも折るように金属を武器に加工し、二匹もいれば一日で家が建つ。これほど製作と建築に卓越した体でありながら、城壁すら構えず、爪やナイフで略奪し合っていたのだ。


「村ごと壁で囲んでしまおうとは、さすがは魔神様!!」

「これならば他の村のやつらも簡単には入って来れまい!!」


「フッ、魔神の叡智は際限を知らぬ、まだまだ高みを目指すぞ、我こそは魔界を支配するただ一人の教皇であり、この村は永久に我が第一軍である。」


「生涯ついて行きます!」 「教皇様に認められた我らの村はなんて幸運なんだ!!」


 ……ああホント。都合良すぎるくらい原始人しか居なくて助かります。


 城壁の建築指示をしている最中、軽装のコボルトが駆け寄ってきた。


「魔神様! 報告いたします! 東のロッカ村に、うねうね様が出現、滅びました!!」


 それを聞いて私の周りにいたコボルト達が湧きだした。

「ロッカ村が滅んだだって!」 「あそこには昨日、親父が殺されたんだ!」 「ははっ! ざまあないぜ!!」


 ……なんて呑気な奴らだ。 自分たちと同等の集落が一日で滅んだんだぞ。


「ほう、うねうね様とは、どういった者だ」

「はい、うねうね様は口の怪物で、うねうねしていて、なんでも食べます……!!」


 ……口の怪物、もしや。


 私が魔界に来た初日、過去に食われた未来人の手帳を手に入れた。私が命を繋ぐ生命線となる貴重な手帳だった。そしてそこには危険生物がランク分けで書かれていた。


 例えば、コボルトも載っていた。


 コボルト 危険度E~B

 小柄で速く、武器を使う。単体なら危険度Eだが、集団で現れると危険度が上がる。


 アトラは載っていなかった。おそらく、アトラを見た日がこの持ち主の命日だったのだろう。そして、口の怪物は載っていた。



 ディグラス=グィガ 危険度SSS

 山のように大きく、無数の触手で獲物を捕まえ、大きな口で近くの肉を無限に食べ続ける。

 知性はないが、人間をどこまでも感知して向かって来る、魔界で人間が定住できない理由の一つ。


 ……勘弁してくれませんかね......こういうのほんと……


 脇に居たコボルトが話しかけてくる。


「魔神様! ロッカ村が滅んだというなら、村の物資が奪い放題ですぜ! これは他の村との競争になります! 我々も向かいましょう!!」


 ……正気かよ、食われるぞ。


「それも一興、ならば足の速い少数の部隊で向かおう」

「大勢で行った方が、たくさん盗れますぜ!!」


 ……チッ、現地で統率崩壊して全員食われんのが一番だるいんだよ


「運ばせなど他の村にやらせておけばいい、私はいずれ魔界全土を支配する教皇。ほかの村に取られた資財も、どうせ全ては我が手中に収まるのだからな。」


「す、すげえ……」 「やはり魔神様は格が違うぜ」


 ……ディグラス=グィガをちょっと見て帰ろう。



 私はコボルトに神輿を作らせていた。何と言ってもこいつらは足が速い。私がトロトロ走って追いかける姿など、見せるわけにはいかない。


 神輿を担がせると同時、向かう先の丘の裏から、蛇のような物がうねうねと蠢いてその巨体がまるで日の出の様に黒くのぼってきた。やつが既に向こうからやって来たのだ。そいつの顔がどこに有るかは分からないが、正面にその巨体を両断するほどの大きな口が開き、その口の奥は暗黒になっていて何も見えない。しかし、口の中から細長い腕のような物が生えており、辺りの木やら動物やらをメシメシと砕き割り、次々と口に放り込んでいる。


「うねうね様だ!!」 「村を襲いに来たんだ!!」


 手帳の情報通りだ、とても知性のある魔物には見えない。


 ―――この村に来た理由……? 簡単だ私がここに居る。


 50年間お預けにされていた人間、大好物である人間を感知して、奴はここに来た。つまり、私が人間だと言うのは既にバレていて、かつ対話は不能。


 なるほど……これは。




「おお、ディグラス=グィガ、我がしもべよ!!」


 私は迎え入れるようにして両手を掲げた。

 それを見て周囲のコボルト達が騒めく。


「えっ、うねうね様は、魔神様の配下なのですか」


「そうだ、ロッカ村を滅ぼせと命令したのはこの私だ、魔神である私の可愛いペットの一匹よ」

「おおおお!!」 「このような強力な魔物を従えているとは……!」


「違うな、こやつは魔物ではない、こやつは邪神だ、その性質状、気性が荒く知性が低い。味方と思ってあまり近寄らないようにしておけ、こいつは私の言う事しか聞かん。」


「はっ、各員に伝えてまいります!!」


 ……さて、この魔界にただ一人の人間、この私だけを無限に追いかけてくるストーカーであるこいつを、どう処理するか。


「神輿を北へ走らせろ!お前たちが食われてはかなわん、回り込んでロッカの村へと向かえ!!」

「行くぞ! 神輿隊! ロッカ村へと出発だー!!」


 コボルト達が担いだ神輿がディグラス=グィガを避けるようにして走り出す。コボルトの素早い動きはまるで自動車のようだった。私は更に声を張り上げる。


「さあ! 私に従え!ついてこい、ディグラス=グィガよ!」


 コイツは私の命令を聞いたわけでは無い、ただ奴は人間の肉を追いかけるだけ。ならばこの私が導く。ディグラス=グィガはゆっくりと口の向きを変え、その山のような体をこちらに向け、触手を使って歩き出した。


「ついて来た! こんなバケモノを従えているなんて魔神様の力、底知れないぞ!!」




 私達がロッカ村に到着すると、一帯はディグラスの通った後で潰れ、金属製の住居は触手で破られたように穴が空き、その荒廃した村に物盗りのコボルト達が競うように骨やら物やらを拾っていた。違う村同士の者たちが入り混じってる様子だったが、特に争うでもなく目の前の資産確保に夢中といった状態。


 そこに私は声を張り上げた。


「聞け! 各村のコボルト共よ!! 我は魔神、魔界教皇ササーガである!!」


 各村のコボルトはこちらを見た者もいれば、無視して物漁りを続けてるものもいた。


「このロッカ村は、私が先ほど滅ぼした! フフフ、一刻もかからなかったぞ」

「はは、なんか言ってるぞ」 「ここを滅ぼしたのはうねうね様だ、そんな事も知らんのか」


 コボルト達は冷笑気味だったが、私は続けた。


「貴様らがうねうねと言っているのは、我が配下、ディグラス=グィガである! 私はこの十区にあるコボルト村の内、ロッカはつぶした! ザンカ以外の残り九個も全て統治する……!!」


 神輿を担いだコボルト達が私を見上げた。


「ロッカ村は私の申し出を断った! だから我が配下に滅ぼさせたのだ!」

「嘘をつくな!」 「うねうね様を従えてるやつが居るなど、聞いた事も無いぞ!!」


 私は後ろを振り向いた。そして手を高く上げ、指を弾いた。


 パチンッ!


「ならば貴様ら、村の女も子供も、全て胃袋の中だ! 進め神輿隊よ!」

「はっ!」「全速前進!!」


 神輿隊がロッカ村に向かって突っ走ると、丁度その丘の後ろからディグラスの触手がうねってのぼってきた。まるで私の突撃に合わせて登場したかのように。


「うねうね様だ!!」 「なんでこの村に戻ってきた!」 「決まってる!あいつが連れて来たんだ!」

「さあ、後悔しても遅いぞ!! 滅びたいのはどの村からだぁ!?」


 私は神輿隊を前へ、ただ前へと走らせた。何しろ止まってたら私が食われてしまう。


「グオオオオ! グアアオオオ!!」


 ディグラスがうめき声をあげて、丘をズシズシと駆けおりてくる。まさに迫る捕食、迫る狂気。物取りをしていたコボルト達は一斉に四方に散って逃げ出した。私は最後に叫んだ。


「北にある村から順に滅ぼしに行く!! 私に服従するか、全滅するか、よく考えておけ!! 今日一日で残り九の村の全てを滅ぼす!!」

「ひ、ひぇえ!」 「イカレてやがる! なんだあいつ!」 「魔神、何者だよ!!」





 私はそのまま神輿隊をアトラの巣まで走らせた。私はコボルト村に入ってからは、アトラに『宝物庫の番人』の称号を与え、貴重な人骨資源を守らせていたのだ。そして数日振りにアトラに出会った。

 アトラには入れ替えでコボルトを数名つけるようにし、洗ったり、身なりを整えさせていた。


「おお、アトラ、久しいな、見違えたでは無いか」


「コレは魔界教皇・ササーガ様、よくぞおいでになられました」


 アトラのオッサン部分はしっかりと洗わせ、汚かった頭髪もビシっと7:3分けに、女性部分の汚いローブも古着を流用させ、神聖な神官的な物に着替えさせていた。


「突然だが、私を乗せてコボルト村を巡って貰おうか、これより魔界十区の統治を開始する」

「おお、それは壮大な計画、流石は教皇様でござます、このアトラ、喜んでお供いたします。」



 そして私は神輿隊に告げた。神輿隊は10名ほどの部隊だった。


「神輿隊はここに残り、洞窟の警護をしつつ、この神輿と同じものを作ってもらう」

「ここで神輿を作るのですか……?」


「ああ、ただし、飛び切り大きくしてもらう、このすり鉢状の穴の全てを囲う程にな。」

「かしこまりました、どれくらいで完成させればよろしいですか?」


 アトラの巣の形は、すり鉢状の金属製の岩場が野球場くらいの広さで広がっており、その奥にアトラの寝床である骨の洞窟がある形だ。つまり、私が指示したのは、ドーム球場クラスの神輿を作ると言う話だ。そして……


「フフフ……今日中に完成だ」


「今日中……!? 魔神様、いくら何でもそのような規模の物、一日では不可能でございます!」

「そうです、我々10名でやるなら、せめて100日ほどは……!!」


「ダメだ、今日中だ。しかし人数は今から100倍にする。」

「人数が100倍!? 一体どんな魔術を……!!」


「十区に存在するコボルト村は、ロッカが滅んで残り十個ある、一つの村から100人連れて来れば千人になるだろう」

「十区のコボルト村すべてに働かせると……!?」


 こいつらは非生産的な略奪によって生計を立てている、一つの巨大な敵、ディグラス=グィガはこいつらを結束させるのに丁度いい存在だと、私は判断した。


「一つのものを共に作る時、そこに過去の因縁などの持ち込みは不要だ。そして来た者たちに作るものの指揮をするのはお前だ、神輿隊隊長。貴様の事をマツリと名付ける。」


「はっ、このマツリ、命に代えてもこの任務、やり遂げまする。」



「うむ、期待しておる。さあ、時代が変わるぞ。アトラ、行こうか。早くマツリに楽をさせてやらんといかんからな。」

「お任せください、ササーガ様!!」




 それから私とアトラは、ディグラスを誘導しながら各村を巡り、全ての村をディグラスの恐怖一つで服従させた。服従した村には略奪の禁止、略奪した者がいた場合村を連帯責任で滅ぼすと脅し、アトラの巣の巨大神輿建造に100名づつ送らせた。


 ディグラスの存在という、存在の暴力が100人程度だった村を一日で1000人超えの国へと発展させたのだ。

 そして私はアトラと共に一昼夜走り続け、巨大神輿の完成を待ち、その玉座についた。



 巨大神輿の内側は超重厚な防壁。そのサイズはディグラスを丸ごと収納するのに十分なサイズだった。


「さあ、帰って来い、ディグラス=グィガよ。貴様の主人はお前の小屋の上に居るぞ」



 巨大神輿の上、1000のコボルトが見守る中、正面からディグラス=グィガが私という餌につられて、神輿と言う名の檻に自ら入ってくる。



「恐ろしい……このような邪神を飼い慣らしているなんて……」


「ククク……愚か者が、その恐ろしい魔神であるこの私が、コレからは貴様らの味方となり、全コボルトがひとつの軍となる! 我が魔軍、向かう所に敵はいないぞ。」


「お……おお……」


 パンッ


拍手魔法アクレーム!!」


 パチパチパチパチ……ワァァ……!! シャアアアワアア!!


 私が両手を広げると

 神輿の上で、千人からの拍手が空に響いた。



「この神輿を飾り付け、城にする! そして城下を作り、人骨通貨の規定、家畜の養殖、そして農耕だ!! 我が国家、ここにあり!!」


 凶悪な食性をもつディグラス=グィガの胃袋の上、金属と魔力塵の流れる不毛の地に、私の国が完成していった。




 魔軍内訳

 ササーガ:人間、食料枠

 アトラ:魔物、象の体躯とゴキブリの速度。

 コボルト軍:工兵。オス800匹、メス600匹

 ディグラス=グィガ:無限の食欲、危険度SSS

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