人間の光
三十個の瞳が私を睨む。
集まった邪眼族、その数は十体。
一人につき、三つの目が私に集中し、既に臨戦体制だ。
味方の戦力は、私、アトラ、ノエル、ジェンヌ。
それぞれがハッキリと、邪眼族一人より弱い。
勝負にならない。
そしてジェンヌが勝手に宣戦布告してしまった。
……どうするか? 騙すしかない。
……ジェンヌは我々と無関係と言うか、いや、この中で最終的に生き残るのは不死身のジェンヌだ。面倒になる。
……邪眼族は魔界最強クラスの種族だ。脅しは効かないだろう。
私は四階の窓からビキニアーマーを晒すように腕を広げ、声を投げた。
「まさか邪眼族に会えるとな。ナガンから話は聞いておるぞ」
邪眼族の傷の男が反応する。
「ジャ? ナガン様を知っておるのか?」
……返答があった。会話可能なら行けるか?
ナガンは邪眼族の中でも最強クラスだと自負していたが、種族自体が屈強な戦士の一族らしい。
私がナガンに勝った経歴などを話して、逆に盛り上がられても困る。
などと、考えていると、傷の男は後ろの一人の仲間に振り向いた。
「読心の者よ、あやつを探れ、それで殺すか決めるのジャ」
「お任せを」
……読心の者!?
驚いている間もなく、読心の者の第三の目が光り始めた。
「分かりましたぞ、この女にあるのは、恐怖、虚勢、不安、心配……」
目を細めた。
「そして、敵意、欺瞞ですジャ」
それを受けて、他九名の邪眼族が笑いだした。
「ジャハハ! 欺瞞、欺瞞だとっ!」
「ワシらに嘘が通づると思うたかっ!」
「そうジャ! ナガンは孤独な女よ、群れるわけなかろう!」
「敵意ジャ! 敵で良いのだな!!」
ナガンが私の魔軍に加担しているのは事実だが、証拠の提示が出来ない。
私の腹の底から一気に認められない感情が吹き出してきた。
「アトラ……ッ!!」
「はっ!!」
呼びかけてすぐ、アトラが窓の前、私の盾になるように構えた。
すぐに傷の男が四階の窓まで、ひと飛びでジャンプしてくる。
アトラはそれに対してオッサンの腕を振るった。
しかし邪眼族は攻撃を容易く空中で交わし、アトラの腕を切りつけた。
「ササーガ様っ! 奥へ!!」
アトラの女性部分が勢いよく言い退ける。
「ジャハ! 貴様ごとき、邪眼族の敵では無いわっ!!」
傷の男は再び剣を切りつけようとした。
この盤面、アトラを置いて逃げた所で逃げ切れない。
私は魔力籠手をうちならした。
花畑魔法を使えばひとまず落下するはず。
そこに傷の男の号令がかかる。
「魔封眼の者よ!!」
一階の道路に立つ者のうち、一人の邪眼が光った。
魔力籠手から魔力が発生しなくなった。
どうやら邪眼族は邪眼の能力というやつをサポートに使う担当と、攻撃担当で連携している。
まずい。
完全に詰んだ。
「ま、待て、話を……!!」
「無理じゃ! 貴様と話すと言うことは、読心の者の邪眼を疑うことになる。邪眼族は嘘をつかず邪眼を疑わぬ。それが邪眼族の掟ジャ!!」
その時、一階の九人の前で、ジェンヌの再生が始まっていた。
血溜まりからその姿を復活させて、叫んだ。
「貴様らァ! 私を殴って良いのは、ビキニアーマーの美女だけ……ブッ」
叫んでる途中で下にいる邪眼族に再びバラバラにされて殺された。
それを見て、アトラが私に声をかけた。
「教皇様、全力でこの窓を守ります、どうか、どうかお逃げ下さい」
その女性部分の綺麗な瞳に、覚悟を感じた。
私を逃がすために死ぬつもりだ。
私はすぐに走り出さなかった。
走り出せなかった。
「教皇様!!」 後ろでノエルが叫んでいる。
私を連れて逃げてくれるつもりだ。
ノエル一人ならば逃げれるかも知れないものを、待ってくれている。
私は気づけば、逆にアトラに向かって一歩、踏み込んでいた。
「アトラ……!! トウジと言う者を知っているか!?」
それは戦闘には関係ない質問だった。
アトラの覚悟も、ノエルの勇気も無視して、今聞くしかないと声をあげていた。
アトラは目を見開き、元気に答えた。
「おお、トウジっ! コイツがトウジですよ、よくその名をご存知で……!!」
アトラの女性部分はかがみ、オッサン部分の頭をバシバシと叩いていた。
「うぉう!!」 オッサン部分が汚くにやける。
「トウジ……」
魔界転移のその日に、このオッサンに食われそうになった。
汚い顔、たるんだ皮膚、脂ぎった頭髪。
とても生理的に受け付けないと、私の本能がそう言っていた。
それが、トウジ。
きっと私を救おうとして、大釜でこんな姿になってしまったんだ。
私はオッサン部分に興味がなくて、名前が別にある事すら知らなかった。
でも、コイツはアトラと共に、ずっとそばで私を支えていたんだ。
魔人、神。
この誤作動した命令の元に……
邪眼族の男が回転しながら斬りかかる。
トウジの部分の歪んだ瞳が、私を見て極太の拳で親指を立てた。
「うぉうっ!」
ゴリラのような一声。
自我を失ったトウジからのメッセージ。
邪眼族の男の剣が、トウジの腕を切り落とした。
象の足のような巨大な腕が宙を舞う。
私は叫んでいた。
「私、私は響子だ! 漣 響子が私なんだっ!!」
オッサン部分は、一瞬目を見開いたようにし、私を見つめていた。
邪眼族からのトドメの一撃がアトラの女性部分を狙った。
オッサン顔が吠えた。
「うごぉお!! ギョウゴォ! まぁもるど!!」
アトラのもう片腕が下から突き上げた。
その一撃は今までのアトラでは無い強烈な一撃だった。
邪眼族の六本の剣を弾き飛ばし、男は宙へとのけぞり、離れていく。
「ンジャ!? これほどの力を……!?」
それと共に、アスファルトにいた邪眼族が交替。
間を開かせぬ連携で、一気に四体が飛び上がって来た。
それと同時に、アトラは身体をひるがえし、部屋の中へと大口を開けた。
アトラの姿は、寸前まで私を崇め、命がけで助けようとしていた者の姿では無かった。
「漣 響子……! 人間好き、一番、好きな人間の!! 私が、私が食らう……!!」
私が人間、響子である事を明かしたことで、アトラの人間捕食スイッチが入ってしまったんだ。
「そんな……」
私はその圧力と絶望に倒れ込み、尻をついた。
私を食おうとするアトラの背中を、邪眼族の四人が次々と切り刻んで行く。
魚の声が聞こえる。
「キリ……キリ……イダイ、シヌ……ワレラ、ロクジンゴウ……」
六神豪。私が適当につけた称号だ。
この魚の部分にも意思が合って、本体とは別に、私からの名を大切にしていた。
崩れ落ちかけるアトラの身体。
それでも踏ん張るトウジの部分。
「まぁも、まぁも……かぁみぃ……」
私はその光景を見て、涙を流していた。
しかし、ダメだった。
アトラはついに壁を手放して地面へと落下していった。
地鳴りのような落下音が、研究棟の建物を揺らした。
邪眼族のうちの一匹が、窓枠に足をかけた。
「シャア、二匹おったのか。バビットも仲間じゃな?」
……殺される。全てが無駄だった。私の頭の中にあるのはそれだけだった。
「ノエル、すまない……」
その時、後ろで声がした。
ノエルだ。ノエルが叫んでいる。
「強いやつをくださいっ!! 邪眼族に勝てるやつをっ!! なにかください!!」
大釜をつかんで唱えている。
まずい、それを起動したらもっと酷い事になる。
「ダメだ、ノエル、それだけは使っては……!!」
ノエルは涙目で叫んでいた。
「人間の……! 人間が平和で安心に暮らせるように、住みよい世界にしてください!! 正しい者が嘘をついて隠れて、逃げ回らないといけないの、嫌なんです!! 愛と正義で、助けて下さい!!」
私はそれを聞いて、唖然としていた。
「人間の、平和……」
ノエルは兎人族の娘だ。
普通の高校生がバニーガールのコスプレをしてるようにしか見えない。
しかし生えてるウサ耳は本物で、人間の耳は無い。
明確に人間ではないのに、望むのが人間の平和……
「それ、私の為……」
大釜が赤い光を転換させ、緑色に光りはじめた。
今までの恐々とした赤ではなく、安心するような優しい緑だった。
そして、私とノエルの間、私の目の前でプリントアウトが始まった。
下から順に3Dプリンターのように立体化して出てくる。
最初に脚部。
黒い装甲を持った二本の機械脚だった。
そして大釜を取りつけたかのような、腰部装甲。
次にその大釜の中から、人間の太ももが生み出される。
「人型の生成……!?」
腰は黒下着一枚、美麗な腹筋、胸部はタートルネック型の装甲。
そして、頭。凛々しい成人女性の顔。
ジェンヌが失敗した美女の生成が、目の前で成功している。
しかし腕。
腕だけが異様に禍々しかった。
骨のような黒い装甲の腕に、鋭いメスのような巨大な爪を持っている。
生成された美女は目を開いた。
「人間人間人間人間人間……」
……壊れてる?
私の後ろ、邪眼族達が切りかかって来ない。
「なんジャ、そいつは……」
驚いているようだ。
もっとも、目の前の私が一番恐ろしいのだが……
生成の美女はギロリと私を見おろした。
まるで冷たい鉄棒を背中に差し込まれたように、身が竦んだ。
彼女は装甲の足をがくりと曲げ、私に手を差し伸べてきた。
メスの指が一瞬で丸く柔らかい装甲に変質した。
「人間! 大丈夫ですか、人間!」
さっきの機械的な反応とは違い、焦って心配するような、感情的な声だった。
……あれ、もしかして、優しい?
「大丈夫です、ありがとう」
そう言って手を取ってみた。
黒い装甲の指は、肉では無いし指紋も無いのだが、人肌の温みがあった。
生成物はニッコリと笑顔になり、私を引っ張って立ち上がった。
「良かった! 人間が怪我するのは、平和じゃないからね!」
……人間の味方じゃん。
ノエルの純粋な気持ちが生み出したからなのか?
そう言えば、ジェンヌが口頭詠唱で作った私のビキニアーマーも、副作用無しだった。
そして曲がりなりにも、ジェンヌのビキニアーマーに対する思いは純粋と言っていいレベルだ。
「私は人間の、響子といいます、あなたは?」
「私は人間。人間のDE-K11といいます!」
そう名乗って綺麗に揃った白い歯を見せた。
骨のような腕と爪、胸部装甲は緑色のエネルギーが流動し、腰部の大釜の内側も緑色に発光している。
……人間では無いだろ。ロボット? アンドロイド? 少なからず生成物だ。
そう思っていると、邪眼族の四人が窓から室内に侵入して来ていた。
「ジャハァ、なんジャ、三人もおったのか」
研究室の狭い部屋に、ノエル、DE-K11、私、邪眼族4名。
完全に定員オーバーであり、全員必殺の間合いとなった。
張りつめる空気の中、DE-K11が笑顔で手を合わせた。
「初めまして四人の人間、私は人間です!」
……いや、人間じゃないだろ。
邪眼族は三つ目、六本腕に蛇の髪。これを人間と思うということは、DE-K11の認知はかなりずれているという事。
「こやつ、たった今、光から現れおった。気を付けい」
邪眼族の一人が剣を構え、カチャリと音がした。
その瞬間、私の目の前からDE-K11が消えた。
ドゴォォオンン!!
剣の音から一秒も立たず、轟音と振動が部屋を包んだ。
全員、音がしてからその方向を見た。
壁に邪眼族の下半身だけが叩きつけられている。
上半身は消え、壁一面が血でまみれていた。
その目の前にはDE-K11が棒立ちしている。
「武器を構えるのは暴力です。平和の為に裁きます」
私には何が起きたのか、理解が追いついていなかった。
しかし歴戦の邪眼族は違った。即座に事態の重さを理解して動き出す。
邪眼族の一人が、邪眼を光らせた。
「ナンジャア貴様は!? 観察眼!!」
再びDE-K11が消え、観察眼を使おうとした邪眼族の頭を四本の爪で切り裂いた。
スライスされる瞬間、吹き飛ぶ前に粉々の液体になって弾け飛ぶ。
パシャァァアアン!!
部屋の両サイドが邪眼族の血の色に染まり、DE-K11は棒立ちした。
「観察眼を使うのは人間ではありません、始末します」
ノエルが後ろで驚き、興奮している。
「すごーっ! めちゃくちゃ強いじゃん!!」
そこで私はようやく状況を飲み込んだ。
ノエルが生成したDE-K11というアンドロイド。
コイツは人間の敵を即座に処刑する抹殺装置だ。
……とんでもない事になった。しかも邪眼族が赤子同然だ。
「貴様、許さぬ!!」
邪眼族の残り二人が同時に駆けだそうと身を乗り出した。
二人は身を乗り出したが、一歩目を踏むことはなかった。
音もなく二人の首が無くなっており、そのまま前のめりに倒れた。
DE-K11が二人を通り過ぎ、手術開始時の執刀医のポーズで立っていた。
窓の外で邪眼族達が騒いでいる。
「どうした、透視の者!!」
「中にとんでもなく強いやつがいる、一気に四人殺された!!」
「なんジャと!? 距離を取る!!」
邪眼族はチンピラ部族とは違う。
冷静で統率が取れた軍隊のようだ。
建物の外が静かになった。
しかしDE-K11の強さが圧倒的過ぎる。
恐怖はあった。でも、助かったという気持ちも大きかった。
「ディイーケーイレブン。君は……いったい、なんなんだ?」
「私は人間。人間の平和の為に、愛を持って正義を行う。人間です」
ハッキリとした言葉。確固たる意志、迷いなき行動。
凛としたその顔に、微塵の揺れも存在していなかった。
ノエルが駆け寄ってくる。
「すごいよ、ディイーケー……えっと、名前長いよね、デッキーちゃんでも良いかな!?」
その時私は、DE-K11の爪がカチャリと動くのを見た。
DE-K11は優しく微笑んでノエルに応答した。
「デッキーで良いよ。人間はあだ名で呼び合うからね。あなたは人間?」
ノエルは明るく答えようとした。
「ああ! 私はノエルで……」
私はそれを遮るように立ち上がり、ノエルに停止のハンドサインを送った。
「この子はノエル! 人間で、バニーガールのコスプレをしているんだよ!!」
その瞬間、デッキーの目は感情を排泄された者の目をしていた。
しかしすぐにふんわりとした笑顔に戻り、爪がゆるりと下がった。
「そっか、可愛いねっ!」
愛の滲むような笑顔で立ち振る舞うデッキー。
……今の、ノエルがバビットだと自己紹介していたら、恐らく殺されていた。
邪眼族は見た目からして三つ目に腕六本。
でも攻撃や能力を使おうとするまで生かされていた。
つまりデッキーは見た目で人間かは判断していない。
すると、ノエルの後ろ、研究室の入り口からジェンヌが現れ、出てくるなり叫んだ。
「おお、これはどうした事か、ビキニアーマー戦士とはちょっと違うが、惜しいか!?」
ノエルが振り向いて説明する。
「この子はデッキーちゃんっていってね、大釜から出てきて、味方してくれるみたいだよ!」
「私は人間なので、人間の味方です」
デッキーはニコニコして普通に会話している。
ジェンヌは窓を指さした。
「ならば外にいる男共を殺してもらおうか!! これでビキニアーマー帝国の……」
言いかけた途中で、デッキーが天井に爪を突き刺し、天井を走りながら私とノエルを飛び越え、爪の振り下ろしでジェンヌを一刀両断にした。
直後に腹に手を当てて、爆発するような火炎を噴き出した。
薄暗かった部屋が、一気に明るくなり、温度が上がった。
ジェンヌは黒焦げの炭となり、爆風が起こした風と共に、廊下の奥へと消えていった。
「殺しを示唆する者は平和を乱します。始末します」
それを見てノエルは震えて崩れ落ちた。
「え……味方じゃなかったの……?」
DE-K11は天井を見上げて、無表情でつぶやき始めた。
「人間人間人間人間人間人間……」
赤い瞳が、虚無に吸い込まれるようにグルグルと光を帯びている。
ノエルが震えた声で立てないまま後ずさる。
「なに、言ってるの……?」
そして、ふっと明るい笑顔に戻ると、ノエルへと手を差し伸べた。
「人間なので、人間の事を考えていました! 大丈夫ですか、震えています、寒いのですか?」
そう言って先ほどジェンヌを殺した手から、炎を焚火のように繰り出して近寄った。
ノエルは悲鳴をあげる。
「いやぁーっ!!」
床に落ちた自分の杖に手を伸ばし始めた。
私は駆け出し、ノエルを背中から抱きしめて、DE-K11に声をかけた。
「ノエルは炎が苦手なんだ! 私が温めるから大丈夫だよ! ありがとう!」
その瞬間、DE-K11の目は殺意に染まり、炎の腕を振りかぶる姿勢で止まっていた。
私の抱きつきが攻撃判定なのか見極めている。そういう間に感じた。
DE-K11は悲しい顔をして起立、ぺこぺこと深く頭を下げた。
「ごめんね、怖かったね! 体温で温めるのが人間だもんね!!」
そう言ってしゃがみこみ、私に抱かれるノエルを、正面からも抱きしめた。
DE-K11の悪魔の両手が私の肩に回っている。
ノエルの顔が青ざめているのが後ろからでも分かった。
それをDE-K11も感じ取っている。
「まだ震えてる? 寒い?」
「こ、怖い、怖いんですよぉ……」
「怖いの? 人間に恐怖を与えるものは、人間の敵だよ!!」
……お前だよ。
思いつつも、これ以上ノエルがしゃべるのは良くないと実感していた。
私はノエルをギュッと抱きしめながらウサ耳の元でささやいた。
「大丈夫だ、私に任せろ」
そして、目の前のDE-K11に目を合わせた。
「さっき部屋にいた、三つ目のやつらが怖かったんですよ!」
それを聞くとDE-K11は即座に立ち上がった。
「三つ目を持つ者は人間ではありません。外の三つ目も人間に恐怖を与えます。始末します」
そう言うと、一気に窓まで駆けだし、荒廃都市の空へと飛んで行った。
ひと飛びで100メートル以上を飛び、一気に見えなくなった。
ノエルは耳を垂れ、しょげていた。
「響子さん、ごめんなさい、あんな恐ろしいもの、出してしまって……」
「いや、おかげで私は生きている、お前は出来る事をしただけだ」
ノエルは大釜を見つめた。
「人間以外、全部殺すつもりですかね、デッキー」
……この魔界に人間は私一人だ。ディグラスがそれを証明している。
私は軽く笑って見せた。
「ふふふ、だったら、私以外、絶滅してしまうな」
「ごめんなさい、私、こんな事になるって思わなくて……」
……それはそうだろう。それこそがディグラスの悲劇から続いた、大釜が起こした厄災だ。
首を落とすノエルの肩に手をかけ、私は立ち上がった。
ゆっくりと、大釜の前に立つ。
ノエルが私を見つめている。
「響子さん、何を……」
「ノエル、お前は言ったはずだ。私とお前は運命共同体、沈む時は一緒だとな」
私は、大釜に手をかざした。
「聞け、魔界の理よ。漣 響子の種族は、魔神である……」
「響子さん……!?」
「我が正式名称を、魔界教皇、ゲダツ・ササーガと決定する!」
私の呼びかけに応じ、大釜が紫色の光を発し始めた。




