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~注意・魔神詐欺~ 魔界に転移した女医の私、魔神と勘違いされたので、魔神を騙って魔界統一を目指します  作者: 清水さささ
都市編

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魔界の都市

 鋼鉄よりも硬い、ミサイルのような剛腕。

 六本の剣が球のように見える高速の剣術。


 両者がぶつかり合い、激しく火花を散らしている。

 海洋族の深海の拠点から帰って数日が経ち、私は自国、ササーガ魔軍の城にいた。


 剛腕を振るのは、深海から連れてきた海洋族のチャンピオン、深淵のシェリー。

「ファハハ! やるねぇ、じゃあもうちょっと強くいくよ! んはぁー!!」


 剣術でそれを捌くのは、戦闘狂、邪眼族の大看板、国落としのナガン。

「ジャシャシャ! この衝突、この滾り! 貴様面白い、面白いぞ貴様!!」


 二人が踊るのは鋼鉄製の大闘技場。

 それを包むのは死闘賭博の観客達の大歓声。

「うおおお! 行けシェリー!!」 「ナガン様!! 頑張れー!!」


 その光景を神輿城の大露天風呂から眺めるのが、国王である私だ。

「ククク、この最高の二枚の対戦カード、盛り上がらん訳が無かろう」


 私の隣ではしゃぐのは、兎人族の勝負師、ノエル。

「ほんと、激熱ですよー! どっちに賭けるか、めちゃくちゃ迷いましたもん!!」


 周りでは十数名の多種族の魔物女性たちが見守っている。

「シェリー様もナガン様も強いけど、教皇様はあの二人の両方と勝負して圧勝したって話よ」

「私もナガン様との勝負は見てたわ、何をしたのか分からないけど、触れもせずに殺したのよ」



 私の国営の死闘賭博は、カティニ・ヤリアーテと名付けた。

 降参ルールの制定、故意の殺害の禁止ルールも制定した。


 ナガンのワンマンゲーム過ぎてほぼ処刑場と化していたのと、集めた戦力の鍛錬と実力の精査の場として活用する方針もある。事故死の判断は観客の多数決という実に適当な基準だが、私に責任が来ないならそれでいい。


 大浴場のエリート魔物の中には、鱗尾族の元巫女、白トカゲのケイルがいた。

「教皇様とシェリーの対面は一瞬でした! 教皇様は一発の拳も打たせず、決着をつけたのです! そしてこの国へと導いて参りました!」

 その声は高く通りが良く、賛美歌のようだった。

「その慈悲深さと、実力からくる余裕。それが我らの魔界教皇、ササーガ様なのです!」


 ケイルには『魔神の頭骨』の称号を与えた。職も巫女から司教へと改めさせた。

 神官達を率いて教えを説き、私を神にしてくれる者達の長だ。


 あくまで、私がシェリーを打ち負かした事になってる設定を、シェリーに悟られない程度に。


 シェリーをこの国へ連れてきた時の反応は概ね予想通りだった。



 帰ったその日の事――


 私はこの浴場からシェリーと共に城下を眺めていた。

「シェリーよ、コレがトウジが望んでいた、愛のための国だ」

「これが……クニ。群れとは違うんだな?」


「見ろ。国にはコボルトも鱗尾族も居て、他にも多様な魔物が共生している。それを成せるのはトウジが残した、愛の力に他ならない」

「これが、愛の力……」


「そうだ、トウジはいずれ訪れるシェリーを迎え入れる事を望んでいた。私はそれを成し遂げた」

「トウジ……」

 そう言って涙したシェリーを見て、懐柔を確信した。


「海洋族との連絡は伝達のものに任せ、君はこの愛の国を堪能していくといい」



 海洋族は実力主義の縦社会だった。


 トップのシェリーさえ押さえれば後は楽、という目論見は今のところ当たっている。

 鱗尾族の使いの言葉が、そのままシェリーの言葉として置きかわる。

 ジェイレルの提案した五、六、七区の同時統治も、五区の海洋族を押さえた時点で達成したようなものだ。


 七区の岩石族へは使者を送り、この先への侵攻に備えている。

 六区の巨獣族は、野生動物のようなものであり、支配するような対象ではない。


 そんな考えを巡らせていると、浴場に大参謀、ジェイレルが入って来た。

「やあ教皇様、海洋族との交渉お疲れ様、順調みたいだねえ」


 フワフワの髪を弾ませて、長いウサギ耳をピョコピョコと動かしている。

 神龍族の元に一度戻ると言って数日振りの登場だ。


 ノエルがすぐさま振り向いた。

「ジェイレルさん、おかえりなさい! もう凄かったんですよ、海の底に街があってですねー!!」


 追うようにして私も振り向かずに声をかけた。

「詳しい話は会議室で聞こうか、今はシェリーとナガンの勝負中、良い所なのでな」


……龍神族どうなったの!? 今それが一番気になるんだよ!!


 周りに多種族の魔物がいる状況で、あまりコアな情報を話すことが出来ない。

 私の国営が嘘によって支えられているからだ。

 浴場に集まるモブ魔物達が、それぞれ私を一撃で殺せる力を持っているのに、私にビビって手を出さない。

 私は誰かに恨まれるわけにも、癇癪を起こした攻撃を許すわけにはいかないのだ。


 ガキンッ! ガコン!!

 闘技場から弾けるような金属のぶつかる音が響いてくる。

「シャハァー!! これでも受けるか!!」 「っハァー!! いい反応してるねぇ!!」


 トウジの愛に涙したシェリーも、基本的には常時戦闘狂。


 まるで戦車と軍用ヘリの殴り合いだ。


 見応えのある戦いと言うやつだが、彼女達の拳と剣が私を討たないのも、薄氷のような嘘一枚。


 ……いつまでやってんだ、あいつら。早く終わってくれ、なんなら事故ってどっちか死んでくれ。



 ――――観戦が終わり、特別会議室。


 特別会議室は畳の小さな密室。ここだけが私の真なる憩いの場。

 入れるのは私が人間だと知っている、ノエル、ジェイレルのみ。


 ジェイレルが軍服にバニーガールの姿で、正座してお茶を飲んでいる。

「龍神族には、亜人種の間で戦争が起きてる。程度の報告しといたよ。実際の戦争のレポートもいくつか出してきたからね」


「ありがとう、邪眼族制圧までに動かれたらどうしようもないしな……」


 ジェイレルは魔界の広域マップを畳の上に広げた。


【一区・神竜】【二区・邪眼】

【三区・禁域】【四区・荒廃都市】

【五区・海洋】【六区・平原】【七区・山岳】

【八区・獣人】【九区・亜人】

【十区・廃棄・ササーガ魔軍】


「五区の海洋族が動かせるようになったなら、七区の岩石族を大平原に移動して、六区の巨獣族を二区へと追い立てるんですよ」


「捕らえたりはしないのか?」


「巨獣って本当に大きいですからね? だから追い込み漁のようにして、二区の邪眼族の集落へと向かわせるんです。邪眼族は単独でも巨獣と戦いますが、巨獣の群れとなれば話は別。集落を守ることなど誰にもできません」


 ……ジェイレルは魔界の情勢について最も詳しい。正直魔界統一なんて嘘で言っていたが、現実可能なプランはジェイレル頼りだ。


 ノエルが身を乗り出して小さなウサギ尻尾をピクピク震わせた。

「なにそれ、めちゃくちゃ楽しそうじゃないですか! すぐやりましょう! ね、響子さん!!」


 私は腕を組み、考えていた。

「岩石族の移動配置などに細やかな指示が必要になるはずだ、連携出来る部隊が無いと話にならん、まずはその仕込みからだ」


 ジェイレルは指さしウィンクした。

「クレバーですねぇ、そういうのは、お任せしますよ」


「ジェイレル、海洋族との交渉の中で気になった事があるんだ。海底都市や、トウジという男の名前について何か知らないか」


 シェリーと戦うために行った、海底の未来都市の廃墟。

 そしてシェリーが50年以上前に交流を持っていたはずの人間、トウジ。

 もしかしたらそこに、私が魔界に送り込まれた理由や、現世に逃げる道があるかもしれない。


 私は懐から未来人手帳を取り出して、ジェイレルの前に置いた。


「これは私が魔界に来てすぐに手に入れた、人間の手帳だ。この手帳があったから、トウジという男の名前を利用して、シェリーを説得出来た」

 私は目を細めて拳を握った。

「しかし、シェリーに聞く事は出来ない。私がトウジの知り合いでないと知られれば、シェリーが私を殺すだろう」


 ジェイレルはヒザをつき、四つん這いになって手帳を覗きながら、指であごをいじり始めた。

「うーん、知らないですねぇ、50年前の人間なら、荒廃都市関連かも知れないけど」



 ……荒廃都市。ノエルから聞いた話では、四角い岩がそびえ立つ陰鬱な場所だという。もしかしたら、現実世界のビル群が人間ごと転移してきたのかもしれない。海底未来都市や、トウジもその関係者なのか?


「荒廃都市って、四区だよな? 邪眼族の二区に行く前に通る場所なんじゃ?」


 ジェイレルは四つん這いのまま頭をあげて、首をピコんと傾けた。

「まあ、そうなんですけど、アンデットしかいないし、普通に巨獣で踏みつぶせば良いかな、って思ったんですけどね?」


「なるほどな、ならばその前に一度、その荒廃都市と言うのを見てみたい。危険な場所なのか?」


「アンデットもゴーストも居ますけど、バビット程度の戦闘力でもやられることはまずないですね。寝るのはやめた方がいいです、アンデッドは無限湧きなので」


 ……なるほど、魔物が近寄らないなら、人間である私にしか分からないものが残されているかもしれない。


 するとノエルが顔に手を当てて、私が軍司指揮をする際の決めポーズのモノマネを始めた。

「じゃあじゃあ!行っちゃいますか、荒廃都市探検隊……!」


 ……ノエルが居るなら日帰り秘密探索でも良いか。


 私はノエルの挑発に答えるように、同じポーズを取った。

「フフフ、当然だ。私は魔神であるぞ」


 ジェイレルはその茶番を、冷ややかな目で見て息をついていた。


 その時だった。


 畳と畳の間が歪み、バックリと開いた。

 その中から出てきたのはダークエルフの幼女、アズミだ。


 このアズミは根と共に地中に潜る植物の魔術で、影のようにどこからでも現れる忍者だ。


 出てきていきなり、瞳孔をひらいてサバイバルナイフを手にしている。

「魔神……マジンがいたの!?魔神、死すべし……!」


 ……サイコストーカーモードだ。不意打ちすぎるだろ!


 魔神絶対殺すマンである彼女は、平均一日二回、私に妖精図鑑と言う終わりのない創作物を見せに来るのだが、時間は決まって昼過ぎ頃と20時頃な為、昼前の今来るとは思っていなかった。


 私は即座に優しい声のトーンに切り替え、アズミへと声をかけた。

「アズミちゃん、良く来たねえ、マジンじゃなくて、マジ……マジシャンの話をしていたんだよお、木の精ちゃん達はマジシャンみたいに木の実を出すよねぇって……」


 ノエルは頭を下げて、右左をキョロキョロと落ち着かない。

 ジェイレルは顔を逸らして口を抑え、爆笑するのを我慢している。



 するとアズミはすぐに幼い子供の空気に戻った。

「あ、ごめんなさい、わたし魔神が許せなくて……」


「大丈夫、大丈夫。私もウサギのお姉さん達も、探すの手伝ってくれてるからね!」


 するとアズミは、畳の上で開かれた手帳に視線を落とした。

 すぐに屈んで、その一ページ目をひらく。

 シェリーの肖像画が書かれているページだ。


「わあ、この絵上手い!私の図鑑もこれくらい綺麗に書きたいなあ」


 私はそれに合わせて覗き込んだ。

「絵も練習すれば上手くなるぞ、アズミちゃんはこれからたくさん練習出来るし頑張ってみるのも良いんじゃないかな?」


 そう言っていると、アズミはシェリーの肖像画を見て、私の顔を見た。

「これ、響子さんの顔?」


「……え?」


 そんな訳が無い。その肖像画はシェリーだ。

 本人も認めていた。50年以上前に描かれた、黒髪オールバックにも見える顔だが、これは髪ではなくて甲殻……


 それを受けてノエルが覗き込んだ。

「言われてみれば似てるかもですねぇ、響子さん、ちょっと髪上げてみてくださいよ」


 私は言われるままに両手で前髪を後ろに流し、おデコを見せつけるようにしてみた。


 アズミは目を輝かせた。

「すごい!やっぱりそっくりだぁ!」


 ジェイレルも驚いた顔をしている。

「ほんとに似てますね、髪あげると全然イメージ違うって言うか……」


「ほんとか、あの野蛮人のシェリーと似てるってなんかショックだな……」


 ……だが、事実は事実だろう。もしかしたら、いつか成りすましとかで使えるかも知れない。気には止めておこう。




 そして私はダークエルフのワープゲート魔法を使い、山岳の向こう、荒廃都市の入口へとやってきた。

 このゲートは木が続いてる間しかワープできず、山岳地帯は木が生えているが、荒廃都市には植物が無いため進めない。


「荒廃都市って言うか、かなり日本だな」


 ワープゲートを出てすぐに、私から出てきた反射的反応がそれだった。


 噂通り、黒い煙が常時、空を低くするように天井となっており、異世界情緒溢れる不思議植物の生えた乾いた山岳の土は、突然アスファルトに覆われた地面となる。


 建物はビルと言えばビルだが、4~5階程度の雑居ビルが立ち並ぶ、田舎町の駅前と言えば近いかもしれない。

 街の端の建物は空間でも切り取られたかのように、建物も道路も隣の建物も、ひとつの断面でスパッと切り取られている。


「本当に街ごと転移してきたように見えるな……」


「ちょっと、不気味な岩多くて怖いですよねココ……」


 ノエルは私の影に隠れてそれを眺めていた。

 私より強いくせに、なぜ毎回私に隠れるのか……


  ジェイレルは来てない。

 あまり行きたたくないし、神竜族の相手で疲れたから、のんびりしたいとのことだった。



 メンバーは、私、ノエル、そして移動要因として重要な巨人、アトラ。


「ササーガ様、ここは十区以上に捨てられた地。何があるとも分かりませんが、このアトラ、命に変えて教皇様をお守りいたしますぞ」


 ……はい、お願いいたします。ゾンビとか出てきたらアトラだけが頼りだ。


「うむ、頼もしいやつよ。雑魚の処理は任せるが、無理はするなよ」


「はっ!ご配慮、感謝の極みでございます」


 ……あんたがやられたら、私が帰れなくなるかも知れないからね。



 するとノエルが耳をピコピコ震わし、私の裾をぎゅっと握りこんだ。

「来た、早速お出ましですよ、教皇様……っ!!」



 ノエルの宣言から数秒後、建物の影から十数体の魔物のゾンビが出てきた。見た事のない種族。


 人間の頭を犬や鳥にしたような、エジプト神話に出てきそうなゾンビ達だ。中には腕まで動物化している者もいる。


「なかなか面白い趣向だな。蹴散らせ」


「仰せのままに!!」


 アトラはその象のようなオッサンの顔だけの体躯で駆け出した。

 オッサンの顔から生えた六本の剛腕がアスファルトをつかみ、ゴキブリのごときダッシュをしてゾンビの群れを通り抜ける。

 ゾンビ達は気持ちいい程に豪快に吹き飛び、周りの建物に当たっては弾け飛んで行った。


 ノエルが高い声をあげる。

「こいつはいいやー!快適ですねー!!」


 私はひとまず、ゾンビがジェイレルの情報通りに、大した強さじゃなかったことに少しの安堵を覚え、歳の奥を指さした。


「さあゆくぞ、この都市に眠る秘宝を我が手中に収め、魔軍の更なる躍進をもたらす為に!!」


「ええーっ!?秘宝があったんですね!!何があるのか、ワクワクしちゃいますねー!!」



 ……って、言った方がアトラが盛り上がるだろうと思って言ってみただけだが。


 盛り上がったのは事情を知ってるはずのノエルで、アトラの女性部分は腕をくんで頷き、喜ぶノエルを見守るだけであった。 


 さて、荒廃都市ね。


 鬼が出るか蛇が出るか……


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