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【注意・魔神詐欺!!】 魔界に転移した女医の私、何故か魔神だと勘違いされたので、魔神を騙って魔界統一を目指します  作者: 清水さささ


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魔界の三属

 魔力塵。それは魔物が魔術を使った際に出る、黒い油のような廃棄物。


 それが全て、魔界の最下層である、最北端の十区に流れ着く。


 その廃棄物から作った物資が、私の国の特産品だ。




 魔力塵は可燃性。常温では発火しないが泡立つ程の温度になると点火出来る。性質は灯油に近い。


 そして布に染み込ませると一分ほどで固まり、常温で火花だけで発火するようになり、その火は長時間持続する。性質は木炭に近い。


 さらにそれを粉末状にして、十区の岩床を覆う金属粉と調合する事で、爆薬級の燃焼反応を引き出す事が出来る。


 これが私がこの魔界に転移してから一カ月ほど、魔力塵について研究して分かったことだ。


 そしてその燃焼した紫に輝く煙に触れると、簡易的な魔術を使うことが出来る。


 私は城に新たに増築させた、特別会議室にいた。この会議室に入れるのは、魔神と呼ばれるこの私、そして私が人間であるという秘密を知っている、ノエル、ジェイレルの三人だけだ。



「よし、試すぞ」


 私は金属プレートに包まれた籠手を装備して打ち鳴らした。すると籠手の中央に紫の光の筋が走り、籠手が熱を帯びる。この籠手の中に固形魔力塵を詰め込んであるのだ。



花畑魔法リラクゼーション!!」


 私が魔力塵の簡易魔法を唱えると、目の前に居たノエルとジェイレルの顔が、だらりとふやけた。そして私の顔もだらりとふやけた。


 見える景色はお花畑、これが究極のリラックス魔法。リラクゼーションだ。

 ※尚、リラックスするのは気持ちだけであり、身体回復効果は一切無い。



 ノエルはだらけきった顔で寝転んで成果を賞賛する。

「ふにゃあ、気持ちいい、籠手先魔法の装備、上手くできましたねぇ」


 ジェイレルは仰向けになって、自分のモフモフ髪をクルクルと巻いている。

「ふあーあ、籠手先魔法とはピッタリの名前ですねぇ、こんなしょぼい魔術で邪眼族のナガンと戦ったなんて、頭おかしいですよぉ? 貴方」



 私は正座しながら、幻覚のお花を手に透かしている。

「亜人族の炎舞族を取り込んだからなぁ、ダークエルフの木材加工技術と、炎舞族の金属鍛造技術の結晶なのだよ、この籠手は」



 龍神族の情報屋であるジェイレルが私の風呂に侵入して、秘密がバレた。あわや国家転覆の危機だったが、それを脱してから既に一週間が経過していた。ジェイレルは龍神族の住んでいる一区には戻らず、私の城に滞在して侵攻計画や国家運営の方針についてなどを話し合える相手となっていた。


 龍神族の情報屋としては『部下だけでしばらく回るようにしてあるので大丈夫』と言っており、この一週間でジェイレルと作戦指揮を分担して、亜人族と獣人族の住まう八区、九区のほとんどの部族は武力で制圧し、私の傘下に収まっている。



 私はリラクゼーションを解除した。 「さて、解除だ。」


 すると、リラックス状態が即解除され、すぐさまジェイレルが口を開いた。


「そろそろ、新しい区へ進出しようか、五区、六区、七区の統治が順当だよね、この三区画が押さえられれば、邪眼族の戦力も超えてくるんじゃないかなって思うよ」


「五区が海洋で海洋族、六区が大平原で巨獣族、七区が山脈で岩石族……って話だったよな、どれも強そうで時間かかりそうじゃないか?」



 私は新しい区への進出について慎重な態度をとって見せた、するとノエルが割って説明をしてくる。


「七区以上の魔物は、八区以下の魔物と違って、集団でいるよりも個体が強いってイメージはあるよねえ、巨獣族とか超デカいし、岩石族とかそのまま岩だし」


 ……そう、私が今まで支配してきた地域は、まず十区だ。ここはゴミ溜めのようであり、猿並みの戦闘力のコボルトがひしめく区画だ。そして次に出たのが九区の森の亜人族。亜人族は人間よりは遥かに身体能力は高いのだが、せいぜい普通自動車くらいの馬力。


 これが八区の獣人族になると、トレーラークラスの馬力や、理不尽な能力行使をして来るようになる。正直戦いを見ていても、コボルトは振り回されるだけだし、ナガンの強さとネームバリューは圧倒的だが、彼女は日が出ている時しか戦わないので安定しない。


 私は口に手を当てて、ジェイレルに率直に聞いてみた。

「海洋、巨獣、岩石……今の十区で行けそうなのって、どれ?」



 その不安交じりの質問に対して、ジェイレルは意地悪くもニッコリと笑いながら、ぶっこんできた。



「うん、そこは全部一気に行っちゃおうか」


「……は?」


 耳を疑った。今現状がハ、九、十の統治。しかも九区と八区は不完全である。にも関わらず、格上の区である五、六、七の同時征服などありえない。


「それは、どう考えても戦力が足りないだろう……」



 もっともらしい事をジェイレルに投げかけたが、ジェイレルの態度は変わらなかった。


「戦力って言ってもねぇ、どの区と戦っても損害は大きくなるんだから、ここは策を打っていこうよ」





 ーーそして二日後……


 私はジェイレルの発案に乗じる形となり、果ての見えない砂浜と、遠く続く水平線を前に、潮風に吹かれていた。



「ここが海洋エリアか、めっちゃ海だな」


 ジェイレルは龍神族の所に戻ると言って帰って行ったので参加していない。


 私を乗せて運ぶのはアトラ、私の隣にはノエル。そしてかつて制圧した鱗尾族の巫女だ。鱗尾族はいわゆるリザードマンに相当するトカゲ風の獣人族で、海に供物を捧げる風習があった。


 巫女の名前はケイル。


 巫女をしているというのは、その供物の提供担当という事、その巫女は滑らかな鱗を持つ、白蛇のような美しい白トカゲであり、鱗尾族に海洋族の事を聞いた際に、海洋族を呼び出すのには必須だ。と言う事だったので連れて来た。


 そしてそれに加えて、遠征用の荷物隊であるコボルト十数名がいるのみであり、戦争をしに行くような戦力では無い。


 ケイルがマリンブルーの宝石をかたどられた首飾りを、海に向けて掲げた。宝石は美しく磨かれており、陽光を受けて装飾の中で反射し、深い青の光と、表面のカットによって、真っ白に見える面とが折り重なり、神秘的な輝きを放っていた。



「大いなる海の民よ、巫女の呼びかけに耳をお貸しくださいませ!!」



 ケイルはその透き通るような、儚いような震える声で海に向かって声を上げた。そしてそのまま宝石を掲げ続けているが、何も起きない。私はそれを見てケイルに質問した。



「来るのか?」


「は、はい……すみません、教皇様。彼らはこの宝石を見つけたらやって来ます。ですが、いつ見つけるかが分かりませんので、しばらくお待ち頂ければと……」



 ……それ、呼びかけたの意味なく無いか? そう思いながらも、その姿を後ろで見守っていた。ケイルはその間もずっと腕を掲げ、宝石を海に示し続けている。


 15分ほどそのまま時間が流れ、見かねたノエルが近寄っていき、会話が始まった。


「ねえ、それ、腕疲れないの?」


「はい、結構疲れ……」 ケイルは一瞬、素っぽい反応を見せた後、かしこまる。

「いえ、大丈夫です!! これが巫女の仕事ですので……!!」


 なにか健気なものを感じ、私も近寄って問いかけた。


「それって、お前が掲げてないと、海洋族は来ないのか?」


「い、いや、あの、見えるようにしていれば来ると思いますが、鱗尾族のしきたりですので……」


 ケイルの腕が震えている。このまま放って置いたらいつまで掲げているのかも分からない。私はケイルの腕の先の首飾りをカシャリと掴んだ。


「教皇の命令である。その宝石は我が預かる」


「そ、そんな教皇様、この宝石だけは……!! 我ら鱗尾族が海洋族との盟約の元に授けられた、由緒あるものなのです、どうかお許しを……!!」


「やかましい、鱗尾族は既に我が軍属である。くだらんしきたりも盟約も、私には関係ない事だ」


 そう言って無理矢理、首飾りを奪い取った。


「そんな、それを失ったら私は、掟により晒し上げの処刑を受けてしまいます……!!」


「我は魔界教皇である。小民族の掟など無効だ。十区にそのような法律はない」



 私は宝石を上に掲げ、頭上のアトラへと手渡した。


「アトラ、これを首にかけておけ、お前の大きな体からの方が目立つだろう」


「はっ、このアトラ、海洋族への目印の任、承りました」



 そして私はケイルの手を引いて砂浜の奥、コボルトの食料隊が待機する場所へと下がって行った。


「ケイル、飯にするぞ。どうせ鱗尾族の者は来ておらん、掟を破壊するのには時間がかかるが、非効率な巫女制など私の趣味に合わん、お前には後日、新しい仕事を与えてやろう」




 それから二時間ほどの時が経ち……


 私とノエルはコボルトが即興で作った机で、骨取りゲームに興じていた。


 このゲームは人骨の大きさに応じて強くなるコマを盤上で取り合うボードゲームで、明確な勝敗というものは無く、駒を取られた分だけ人骨、つまり現金を失って行くというゲームだ。


 飛車と角に500円玉が乗っかっている将棋。一言で言えばそんな感じだ。



 それにノエルが熱くなっている。

「うわぁ!! 親指取られたっ!! そこに罠仕掛けるの卑怯ですからっ!!」


「何を言うか、罠だと分かってるなら避ければ良かっただろ。ではここに小指を置くぞ」


 その光景をケイルはまじまじと眺めていた。ノエルは前のめりになっている。


「親指の仇、その小指いただきます!! ここで尺骨投入!!」


 それにケイルが口出しをした。


「その小指も、尺骨で取ったら、裏の尺骨で取り返されるんじゃ……」


「え、おい本当だよ! 危ない危ない、教皇様容赦なさ過ぎですから!! これどうやったら盤面返せますかね!?」


「えっと、そこからどう打っても取られ続けるので、一旦ゲームやめるのが良いかと……」


 騒ぎ立てるノエルと、その横で初見のゲームに口出しするケイル。私はそれを見て声をかけてみた。



「ケイルよ、お前中々見えているな、どうだお前もやってみるか?」


「い、いえ、私は人骨、持ってませんので……」




 そんなやり取りをしていると、今度は海を眺めていたアトラが声を上げた。


「教皇様……!! 来ました!! 海洋族です!!」


「ようやく来たのか、二時間だぞ、腕上げてる時間の限度超えてるだろ」


 私のそのぼやくような一言を耳にして、ケイルは少し不安そうな顔で海を見つめていた。



 私達が海岸に立って待つと、波の合間にサメの背びれのようなものと、黒く長いイルカのような影が近寄って来た。それはサメのような高速で泳ぐ者だ。勢いよく海岸の砂浜に打ち上がると、黒い殻のような表皮に縦三本の亀裂が入っていく。


 そして展開。ラバースーツの成人男性のような形に変形した。サメのような形だった黒い装甲は両腕を包み、肘の先を延長するブレードのように伸びており、背びれだった中央ラインはまるで頭髪のように頭から伸びている構造をしていた。


 海洋族の男の目は鋭く、にやけるその口には鋭い牙が並んでいる。見た目が知性より暴力を物語っている存在だった。そして男は口を開く。


「おどれ、供物の日取り間違えとんのか、呼び出し料はキッチリ払って貰うけぇの」



 ……ヤクザかよ。私は内心そうツッコミを入れていた。



 そこに脇からケイルが飛び出して頭を下げた。


「申し訳ございません!! 私達、鱗尾族は十区の支配下に加わりました!! 今日はそのご挨拶と、今後の盟約のあり方についてお話があると、十区の教皇様が……!!」


「ああん? 十区だあ? 貴様らの都合なんぞ知るか、なんの挨拶じゃ、ぶち抜くぞオラ!!」


「ひえ……申し訳ございません!! 申し訳ございません!!」


 ケイルはペコペコ一方的に謝罪するばかりだった。


 これは私の主観なのだが、鱗尾族は強かった。その鱗は金属製の刃を通さないし、その尾は金属製のプレートを容易に切断する。跳躍力だって一般的な兵士が10メートルほどの高さをひと飛びで跳ねまわる。そういう種族だ。


 それがこの一方的な謝罪の姿と供物で見逃してもらってるような態度。海洋族がいかに強く、勢力バランスの楔になっているかを説明するには十分な程だった。



 そして私はアトラの肩の上から、海洋族の男を見下ろして言った。


「鎮まれ、海洋族の一般兵よ、我は魔界教皇ササーガである」


「ああ!? 上から見下してんじゃねえぞ、ぶっ飛ばすぞ!!」


 ……返ってくるのは即暴言、こいつはコボルト以来に言葉が通じないかもしれない。仕方ない、早速だが使う他あるまい。



「誰が誰をぶっ飛ばすだと、貴様どうやら、自分の身の程というものを、分かっていないようだな」


「はぁ!?」


 鋭い牙を構えて姿勢を低くする海洋族の前で私は鋼鉄のプレートに包まれた籠手の内側から、木造の引き出し構造を展開した。この木造の構造にはダークエルフの森林操作術が仕込まれており、ダークエルフのいる場所へと音が通る程度の空間をつなげる事が出来る。つまり、魔界版携帯電話だ。


「エクスプロージョン!! そして、オメガ・イヤーテ!!」


 私は籠手に向かってそう唱えた。


 すると私達の後方の平原のずっと先で轟音が鳴り響いた。そこに起きたのは巨大な爆発と火の柱だ。光が海面を白く染め、大地が揺れて海面が暴れ出す。


 海洋族の男がよろめいてその光を見た。

「な、なんだ!? 何をしたんじゃワレェ!!」



「我が基礎魔術、エクスプロージョンさ、演出ってやつだな」


 エクスプロージョン、それは樽に魔力塵火薬を大量に詰め込んだだけの物、いわゆる樽爆弾だ。エクスプロージョンは魔法ではない。ダークエルフの配下にその爆弾の機動を指示するための号令だ。


 そして、その爆炎をかき分けて、山のような黒い怪物がこちらに向かって猛然と突進してくる。


 その怪物は神輿城の小屋に幽閉されているディグラスだ。ダークエルフの空間を繋げる術式。それをディグラスの小屋の地面に設置してある。あとはダークエルフさえいれば木造ゲートを使って、どこにでも呼び出せるようにしてあるのだ。


 海洋族の男はディグラスの影を見て低く構えてたじろいだ。

「な、なんだ、あいつ……!?」


 コボルト達も振り向いては叫び上げ、一斉に海岸まで走り出した。

「ディグラス!! 教皇様がディグラスを放ったぞ!! 逃げ、逃げろ……!!」


 ケイルも叫びながら、腰が抜けてその場にへたりこんだ。

「キャァァアアア!!」


 ディグラスの目的は人間の捕食。もちろん人間である私を食べる為に、こちらに一直線に迫って来る。これはディグラスが私に追いつくまでの速攻の交渉。


 海洋族の男はそのいきり厳つい目を丸くして驚いていた。

「炎から、魔物を産んだ!? なんだ、おどれ何者じゃあ……!!」



 ……そう見えるように演出してみたけど、しっかりそのまま解釈してくれている。コボルト級の即暴力タイプには、それを上回る圧倒的暴力の見せつけ。この手が単純によく効く。


 私は高らかに笑いながら手を前に掲げた。


「この魔神である私に、よくもほざいてくれたな海洋族、井の中の蛙が!! アレは我が僕であるディグラス=グィガ!! 我ら十区は既に六区の巨獣族を制圧し、家畜として従えているのだ!! 貴様の軽率な行動によって、今宵、巨獣族が貴様らの海を食らいつくすであろう!!」



「あの巨獣族を!? そんな馬鹿な!! ありえん、巨獣族だぞ……!!」



 海洋族の男は酷くうろたえていた。鱗尾族を搾取対象にする海洋族。その力は強力なものだ。しかしジェイレルはこう言っていた。


『海洋族はね、強いんだけどさ、巨獣族はそれ以上にデカすぎてね、普通に捕食されてんだよ』



 その情報通りに、この海洋族の男は巨獣族という存在自体を、『勝てないもの』と定義しているような錯乱状態だった。私はその錯乱に更に押し込むように叫んだ。なにしろ早く交渉完了しないと、ディグラスが到着して私が食われてしまう。



「さあ、どうする海洋族の男よ、私は既に全ての巨獣族を自在に呼び出すことが出来る!! 制圧したのだ、貴様らが呑気に水溜まりで泳いでいる間にな!! 貴様の一存で海洋族と巨獣族の全面戦争を開戦するならばそれも結構!! 今日はアイツ級のやつを百匹は送り込んでやろう!! 買うのか、この戦争!!」



「ちょ、ちょっと待て……!! それはオジキに報告したいんだが……!!」


 ……オジキ、想像以上にヤクザだなコイツら。


 私は後方を見た、ディグラスは私まで残り300メートルほどの地点。そこから私はタイミングを見た。そして100メートルに迫ったタイミングでパチンと指を鳴らした。するとディグラスの影は地面の中へと消えて行った。ディグラスの召喚位置と私を結ぶ線上に、ダークエルフを配置、通過ゲートを仕掛けさせておいたのだ。このワープゲート落とし穴により、ディグラスは神輿城の小屋へと転送されることになる。



「ククク、やつも腹が減っているようだ。早くしろよ、私も気は長くないのでな」



 私が巨獣族を従えている。そんなのはもちろん嘘だ。


 ジェイレルの話によれば、巨獣族に統率を行う程の知性は無く、ただ歩く、食う、寝るを一匹当たりが数万年行う。そういう種族らしい。


 そして巨獣が本能的に避けるのは岩石族。なぜなら、硬くて食えないからとの事だ。


 そして岩石族は保守的で閉鎖的、山脈の中で動かないが侵入者は積極的に排除。そして寿命という概念は無く、壊れる以外では死なない。


 そして岩石族が恐れるのは洪水や長期間の大雨だという。それもそうだろう、岩石なのだから。



 つまりジェイレルの策とはこうだった。


『巨獣族を従えたって嘘ついてさ、社会性のある海洋族をまず制圧するのよ。そしたら岩石族も言う事を聞いて、岩石族を従えれば巨獣族も操作出来るでしょ?』



 虎の威を借る狐、狐の威を借るネズミ、ネズミの背中に住まう吸血ノミ。


 例えるとすればそんな所だ。どこにも実力なんて言うものは無く、あまりに軽薄で、虚構の上に描いただけの制圧作戦。


 そして、ノエルがこう言っていた。


『なにそれ、めちゃくちゃ面白そうじゃないですか!! 超大穴って感じで燃えますよー!! コレは!!』



 ……その交渉やるの、私なんですけどね?



 海洋族の男は急いでサメの姿に変形しなおし、海の向こうに去って行った。コボルトやアトラには作戦の内容は一切伝えていない。故にアトラの反応は純粋だった。


「いつの間にか巨獣族を家畜として従えていたとは、流石教皇様……!! ディグラスをお使いになり制圧を進めていたのですか!?」


「まあ、そんなところだ」



 ……無理だろ、ディグラス戦わせたら巨獣族のことも食べちゃうし。



 ケイルはへたったまま、呆然と海を見つめていた。


「恐ろしい、恐ろしい。巨獣族を操るなんて、海洋族のあんなに慌てる姿、初めて見ました……」



 私はアトラの上からケイルを見下ろして言った。

「フフ、海洋族の小僧がいつ戻って来るかも分からん。どうだ、私と骨取りゲームでもしてみないか、賭け骨は無しでやっても良いぞ」



 ケイルは私を見上げ、しばらく怯えるように見つめてから、その真っ白な鱗を波立たせて、立ち上がった。


「はい……それでは、やってみます」

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