四話
~アゼルナ視点~
「お父様!私晴れて———ゴホンッ残念ながら婚約破棄をされたので冒険者になります!!」
広い館にお嬢様の明るく元気な声が響き渡った。
晴々としたいいお顔のお嬢様とは打って変わって、目の前にいる旦那様はどんよりとした表情をしている。
お嬢様のお兄様であるフェイジ様は何を考えているかよく分からない笑顔でお嬢様を見ている。
弟君のイルバ様は俯くと、そのままお嬢様の服の袖をそっと掴んだ。
三者三様の反応、
最初に口を開いたのはイルバ様だった。
「姉上は、ここを出ていってしまうのですか・・・?」
イルバ様は瞳を潤ませ、上目遣いでお嬢様を見ている。
お嬢様はそれを見てたじろいた。
「えっと、まぁ、そうね。」
イルバ様はお嬢様の服をさらに強く握りしめて俯いた。
イルバ様はお嬢様を心から敬愛しておられる。
だから行かないで欲しいけれど、お嬢様の望みを叶えたくもあるのだろう。
「・・・たまに、帰ってきてくれますか・・・?」
「もちろん、土産話と土産をたくさん持ってみんなに会いに来るよ。」
「じゃあ、僕は・・・応援します。」
「ありがとう!」
お嬢様が笑顔でイルバ様を抱きしめると、イルバ様は照れたように俯いた。
「し、しかしロゼア、何も危険な冒険者にならなくとも・・・」
「父上、ロゼアはずっと冒険者になりたいと言ってたでありませんか。」
渋る旦那様に対して、フェイジ様は言った。
「父上、止めても無駄だと思いますよ。ロゼアの行動力をご存知でしょう?」
「だが・・・」
「父様、姉上は反対しても行ってしまうと思います。むしろ反対したら帰ってきてくれないかも・・・」
ご兄弟二人の説得を受け、旦那様は深くため息をついた。
「わかった、私の負けだ。行っておいで、ロゼア。」
「ありがとうございます!お父様!!たくさんお土産を用意しますね!」
お嬢様はとても嬉しそうに旦那様の手をつかんだ。
このまま踊り出してしまいそうな喜びようだ。
「あ、そうそうお父様。私のことは病にでも倒れたと言うことにして置いてください。」
「そうだな、貴族令嬢が冒険者になったとなれば心無い噂も出るだろう。私に任せなさい。」
そうしてお嬢様は、平民リアンとして冒険者になることになった。
公爵令嬢ロゼアは病に倒れ、屋敷で寝込んでいる。
ようやくお嬢様は望みを叶えたのだ。
『ねぇアゼルナ、私ね、いつか冒険者になりたい。冒険者になって、自由に旅がしたい。』
そうおっしゃってたのはいつのことだったか。
「おめでとうございます、お嬢様。」
私は小さく呟いた。