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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第1章 普通の世界を、変える出逢い
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第6話 心境の変化

 彼女が転校してきてから、俺は常に監視されている。

 ……とは言うが、それほど実感はなかった。

 ウイカの包囲網は雑だ。体育のように男女別で授業を受けている間はこちらを気にしている素振りもみせないし、放課後も当然のように途中で分かれて帰っていく。土日の休みに顔を合わせることもなかった。

 そりゃあ家まで付いてこられても困るし、俺としては何の問題もないのだが。

 素性を調べてるんじゃなかったか? あっさり引き上げるので初日は拍子抜けしてしまった。


「ね、帰りにファミレス寄ってかない? 新商品のパフェが出たんだって」


 その日、珍しく部活が休みだという真凛が、放課後遊びに行くことを提案してきた。

 幸平も予定を空けられると言うし、もちろん俺も暇をしているので了承する。


「ねえ、ウイカちゃんも一緒に行くでしょ?」


 俺の横でボーッと立っていたウイカは、突然真凛に誘われて戸惑った表情を見せた。

 別に、遊びに行くぐらい好きにすればいい。何故かこちらに確認の眼差しを向けてくるが、監視が目的ならむしろ進んで同席すべきじゃないのか。

 というか、何故俺に了承を得ようとする? 親戚という設定は学校で行動しやすくなる方便であって、俺はウイカの保護者じゃない。魔法禁止の約束をした時もそうだが、なんで一方的に監視されている俺が彼女の都合を考えてあげねばならんのだ。

 一緒にいると、その危なっかしさについ手を貸してあげたくなるが、彼女は謎の組織に属する人間。敵とまでは言わないが、こちらから歩み寄る必要はない。自主的に結論を出せばいい。

 助け舟を出そうとしない俺を見てウイカは数秒固まっていたが、熟考の後に彼女は首肯した。


「行きたい」


 うむ。成長が見られて、おじさん嬉しいぞ。

 ……やっぱ毒されてるな、俺。


 〇 〇 〇


 ファミレスでの食事中、ウイカは常に目を輝かせていた。

 注文した黒酢和えのから揚げ定食をひと口食べては、頬に手を当てて満足そうに咀嚼している。小鉢のきんぴらゴボウにまで感動している様子は、傍から見ていてかなりシュールだった。

 対面に座っていた真凛もウイカの表情を興味深げに覗いており、ふと質問する。


「ウイカちゃん、日本料理あんまり食べない?」

「うん」

「そっか。お口に合う?」

「うん。美味しい」

「……くぅー! この子、かわいい!」


 純粋すぎるウイカの反応が何かが刺激されたらしく、真凛は注文したネギドロ丼を小皿によそって、ウイカに食べさせていた。それにも彼女はキラキラと眩しい反応を見せ、その様子を見てまた真凛が喜ぶ。

 そんな二人のやり取りを邪魔しないようにしつつ、俺は幸平に話しかける。


「柔道部は大丈夫だったのか? 真凛と違って別に休みじゃなかっただろ」

「先輩にメッセージ飛ばしたけど、今日はいつもの練習メニューをこなすだけだから、用事があるなら好きにしていいって返ってきたよ。結構抜ける人も多いんだ」

「そんなもんなのか」


 言いながら、俺も注文したチキングリルを口に運ぶ。隣のウイカから俺に――いや俺のチキングリルに向けられた熱い視線を感じ、少しだけ背を向ける。やらんぞ。

 すると突然、幸平がクスりと笑う。


「なんだ急に」

「いや。イサト、ちょっと丸くなったね」

「え? 太ったか?」

「違うよ」


 じゃあなんだ。別に俺は元から尖ってなどいない、とても心優しく善良で平均的な市民だろう。

 幸平はあくまでも朗らかで、嫌味なく言った。


「だってさ、イサトってあんまり他人の面倒見たりするタイプじゃないでしょ?」

「あ、それ思った」


 幸平の隣からにゅっと顔が伸びてくる。ウイカを餌付けしていた真凛だ。


「いくら親戚って言ってもさ。調理実習でフライパンが燃え上がった時、真っ先に駆け寄って火を消したりとか、あんなのイサトがすると思わなかったもん」

「あの時のイサトは格好良かったねえ」

「お前らなあ。俺をなんだと思ってるんだ」


 危ない目に遭ってる人がいたら誰だって助けに入るだろう。

 ……と言いたかったが、指摘されて自覚する。確かに今までの俺はそういうことをしなかった。薄情にしているつもりはなかったが、クラスで積極的に動いたりしないし、面倒事は極力避けたい。ギリギリ名前を忘れられない程度のクラスメイト、その立場に自ら収まろうとしていた。

 それがウイカのお世話係を渋々こなすことになり、気がつけば事あるごとに結構彼女を心配している自分がいる。

 心境の変化だろうか。何故?

 ウイカの方へ視線を向ける。彼女はエビフライを口に含んでモグモグしていた。

 小動物的で常識知らずな女の子が放っておけない、それだけのような気もする。


「……よく分かんねえなあ」


 ただ、もしかすると。

 魔法という非日常を俺の世界にもたらしてくれた、そのことに対する好奇心が(まさ)っているのかもしれない。

 前までの俺は何処かモヤモヤしていた。真凛は中二病だとバッサリ結論付けたが、今の自分はどこか世間とズレているような、そんながフラストレーションがずっと拭えない感覚を抱えていて。

 自分の努力とは関係ないところで何かが起こる瞬間を俺は待っていた。そして、それはウイカによってもたらされたと言っていい。

 ワケの分からない怪物に襲われ、未知の世界の事情を聞かされ、謎の転校生と二人だけの秘密を共有する。

 そんなの。

 ――ワクワクするに決まっている。


「まあ、なんだ。乗りかかった船だからな、ウイカのお世話係」

「?」


 口の中のものを飲み込んだウイカが、話を聞いて小首をかしげる。

 正直、今でも素性や事情など分からないことだらけだが、この一週間ほどで彼女に害がないのは理解できた。外の世界に関する知識には乏しいが、素直で真面目で、口下手な女の子。

 今は、そんな転校生の親戚として過ごす。それだけで充分。


「ところで、ここからパフェ食べるの?」


 幸平が問うと、真凛は大きく頷いた。

 季節限定の新メニューとして大きく描かれたそれを指差す。そう言えばこれが目的だった。


「当然! 夏先取りのビッグパフェだって!」

「パフェ?」

「お、ウイカちゃんも興味ある? パフェ、食べたことある?」


 ウイカが首を横に振る。真凛は随分と楽しそうだし、メニューの写真を見てウイカも興味津々である。

 いやしかし、写真でも分かるほどに物凄いサイズだ。ビッグという商品名に(たが)わないボリューム。食後にこの量はかなりキツそうに思える。


「俺は、流石にパスだな……」

「僕も。コーヒーだけ頼もうかなあ」


 俺達のギブアップ宣言を聞いて一瞬ムッとなる真凛。

 だが、その目の前でワクワクを隠せないでいるウイカを見て表情を柔らかくした。


「ウイカちゃんがいてくれて良かった。ノリ悪い男子はほっといて、別腹のデザートを楽しみましょう!」

「デザート。楽しみ」


 二人とも細いのに、とんでもない食欲だな。

 そうは思いつつ、ウイカと真凛が仲良くなっていけそうで俺はホッとしている。転校してきてからウイカは監視という名目で俺に付いて回っていたので、クラスメイトに馴染んでいけるか不安だった。

 その点、社交性抜群の真凛が最初の女友達になれば後は安泰だろう。ひと安心。

 ……って、また保護者目線になっている。いかんいかん。

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