第13話 修行の心意気
ドロシーさんによる特訓。
今は、かつてウイカの相棒・スザンナさんがそうしたように、自分の身を守るための防御魔法を中心とした戦い方を教わっていた。
俺の魔力は消費しても寿命が尽きることはないが、それでも戦っていればその分だけ疲れる。魔法を使えないほど体力を消耗すればピンチになるので、小さな魔力で大きな成果を得るべきなのは他の魔法少女たちと同じだ。今も、迫りくるドロシーさんの攻撃を寸でまで見てから、防御壁を一瞬展開する訓練を続けている。
「ほら、避けて避けてー!」
言いながら、ドロシーさんが土を固めた弾丸を乱射。
彼女の土属性魔法は、ヘドロから硬質化まで形状を変化させることができるのが強み。今は固く重い一撃一撃も、ぶつかった瞬間に溶けたり、かと思えば固まって相手を拘束したりと、自由自在に性質を変えていく。
だからこそ直接技を受けてはいけない。すべてを往なして自分に付着しないよう立ち回ることが重要だ。
「いいよー! ほらほら!」
なんだか楽しそうなドロシーさんの声を聞きながら、防御と回避を繰り返す。
ちらりと訓練場の端を見ると、備え付けられたベンチに距離をとって座るウイカとメアリさんが見えた。
相変わらず雰囲気は悪いが、今のところ言い合いになる様子はない。なんとなくだが、メアリさん側が話すのを避けているように見える。何か心境の変化があったのかもしれない。
先日ウイカからスザンナさんの話を聞けたので、俺もドロシーさんやメアリさんと話すきっかけがあればいいんだが……。
「こら、イサトくん! 集中しろー!」
考え事をしていたのが見抜かれていた。ドロシーさんは言いながら攻撃の速度を上昇させ、手数でこちらを上回ろうとしてくる。
俺は咄嗟に防御壁を全面展開。周囲の攻撃をすべて受け止めることはできたが、魔力の節約という教えには背いたやり方になってしまう。
「まーた魔力を無駄遣いして!」
ドロシーさんが頬を膨らませて、少し子どもっぽく怒る。
だがそれは油断だ。展開した防御壁にはドロシーさんの放った泥が無数に付着していて、彼女の視点からでは壁の中が見えていない。俺がそこにいるはずと視線を向けている隙をついて、背後まで一気に回り込む。
光の刃を展開し、彼女の首元に近づけた。
「とった!」
もちろん本当に切り裂くわけではない。間合いに入り込んで、チェックメイトを宣言するだけ。
こちらに視線を向けて、軽く冷や汗を掻きながらドロシーさんが口元を緩ませる。
「……やるね」
勝負ありだ。俺は刃を消して、ふうとひと息つく。
と思っていたら、ドロシーさんに頭を小突かれた。
「あいたっ」
「今日は防御と回避の練習でしょうが。あたしを攻撃しに来てどーすんの」
「いや、つい」
上手く接近したらどうなるだろうと、好奇心が上回ってしまった。実際、驚くほど容易く作戦は成功して俺自身驚いている。もちろん、端からそのつもりのないドロシーさんを出し抜いただけで、本気でやっていたらどうなるかは分からないが。
こちらを叱りつつも、ドロシーさんは少し嬉しそうだった。
「まったくもう……ちょっとは出来るようになってきたけど、調子に乗らない」
「おお。認められた?」
「褒めてないよー?」
口ではそう言っているが、やはり彼女の視線に以前のような刺々しさは見られない。
これは俺に実力がついてきたからなのか、ウイカとメアリさんの険悪なムードに疲れ果てているので俺との会話を楽しむことに切り替えたのか。……前者だといいんだけれど。
「とりあえず、防御の展開は上手くなってるね。実戦ではあたしたちも君を守りきれないし、自分の身は自分で何とかすること」
「頑張ります」
「んじゃ、今日はおーしまい」
ぐいっと伸びをして、気楽な口調でドロシーさんが終了を宣言した。
それを聞いてウイカが近づいてくる。そのさらに後ろをメアリさんも歩いてきていた。
「お疲れ、イサト」
「おう。向こうから見てて、どうだった?」
「上出来」
ウイカにも認められた感じがして、中々に嬉しい。俺は顔がニヤけるのを我慢しながら、澄ました顔で頷いた。
実際、かつてウイカと一緒にミルメコレオやリントヴルムと戦った頃と比べれば、格段に実力がついたと思う。慢心はよくないが、それでも自分自身動けるようになった実感がある。
日本での獣魔出現頻度は格段に上がっている。いつまでも三人に前線を任せきりというわけにもいかないし、そもそもそれでは俺が組織に属した意味がない。
魔法を使うデメリットが無い俺が戦えば、他の魔法少女の負担が減る。彼女らが魔法を使わなくて済む世界になれば、寿命を消費するなんて危ないことをせずに済む。
戦うことを生き甲斐だとしている人たちにこれを言うのが酷なことなのも思い知らされたが、それでも俺はみんなが長く生きられる世界を目指したい。
決意に胸の奥がざわついた。
そんな心持ちでいると、ウイカの後ろをついてきたメアリさんが唐突に話しかけてくる。
「……あのさ」
「? どうしました?」
メアリさんから俺に声を掛けてくることは珍しい。彼女はこちらを毛嫌いしているし、俺もそんな人相手に無理して絡もうとはしない。
けれど、今日はこちらを見据えて切り出し方を考えているようだった。
「ちょっと、付き合ってくれる?」
「……え?」
ミディアムショートの癖っ毛を掻きながら、ばつが悪そうにそう言ってきたメアリさん。あまりにも想定外で動揺してしまう。
付き合うって、何処か行くのか? いやそれ以前に、俺に言っているのか?
ぽかんとしたまま理解が追いつかないこちらの姿を見て、メアリさんは言葉を付け足した。
「ウイカやドロシーは無しで。話したいことがある」
二人きりで話したいこと?
ますます意味が分からない。一般人の立場から此処までやってきた俺を、彼女は本当に毛嫌いしていたはず。部外者が踏み入って自分たちの立場を荒らすな、とキツく言っていたのに。
どういう心境の変化だろう。ついて行って刺されたりしないよな?
「……メアリ。イサトに何の用?」
無表情な中に困惑と疑念を混ぜ込んで、ウイカが問いかける。
メアリさんはその視線を一瞥して、なんとも言えない複雑な表情を見せた。怒っているような、疲れているような。
「別に彼はウイカの所有物じゃないでしょ。話ぐらいしてもいいと思うけど」
その言葉を受けてウイカが何か言い返そうとするも、俺が止める。
「いいって。俺は大丈夫だから。それに、メアリさんとは俺も話したかったし」
「……分かった」
スザンナさんの過去話を聞いて、俺がメアリさんと話したかったのは事実だ。それをウイカも理解しているので、不承不承ながらそこで引き下がってくれた。
しかし、本当に何の用だろう。彼女から俺に話したいことなんて想像もつかない。
メアリさんはこちらの同意を確認すると、訓練場の扉へ向けて歩き出した。
「ついてきて」
まだ納得していなさそうなウイカと、同じく困惑した様子のドロシーさんを見てから、俺は彼女について部屋を出る。
ドロシーさんも見当がついていなさそうだと言うことは、本当に二人きりの内緒話なのだろうか。
鬼が出るか蛇が出るか。覚悟を決めて挑まないといけなさそうだ。




