表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第2章 戦う意味、戦う決意

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/53

第4話 険悪なる魔法使いたち

 終業式もつつがなく終わり、念願の夏休みがやってきた。

 高校生の夏。なんとも素晴らしい響きだろう。何もせず一日中だらだらしても誰にも怒られない。自由な時間、万歳!


「イサト。ドロシーのところで訓練がある」

「うっ。そうだった……」


 ウイカに指摘され、俺は逃避していた現実と向き合う。

 これまで主に土日の休みを利用して受けていた訓練だが、夏休みとは毎日が休みということ。つまり、毎日訓練を受けられる。

 ドロシーさんはニコニコしながら「お姉さんと毎日会えるなんて、感激でしょ?」なんて言っていたが。そんなご褒美みたいに言うならば、せめてもう少し優しくしてほしい。

 俺とウイカは一学期最後の学校を後にして、すぐさまアザラクの施設に向かうことになっている。こんな日でも、真凛と幸平は各々部活に行っているのだから偉いものだ。ああいう姿を見せられると、俺もきちんと頑張ろうと思える。

 少し歩いて、人気ひとけのない路地裏に入ってから魔法を準備。

 すっかり慣れた手順で空中に扉を描き、施設へと転移を開始。今では目を瞑らずとも扉を飛び越えることができる。目の前の景色が吸い込まれるように収縮していき、今度は無機質な青白い壁に囲まれた屋内の景色が展開される様子をじっくりと眺めた。

 到着。


「お。学生諸君、一学期は無事終わったようだねー。ほら、お姉さんに成績を見せてごらん?」

「ドロシーさんに見せたって仕方ないでしょう」


 施設内ではドロシーさんが既に待ち構えていた。手のひらをヒラヒラさせて通知表をせがむ彼女にツッコミを入れる。

 隣で素直に巾着袋の中を探っていたウイカは、俺の言葉を受けてキョトンとしていた。


「……見せなくていい?」

「いらんだろ」


 なんでも真に受ける素直なやつだ。

 まあ、成績優秀なウイカは見せても痛むものはないだろうが。俺は別だ。壊滅的というほどではないが、とても自慢できる評価ではないそれを、わざわざ他人に見せるほど物好きではない。

 素直な反応を見せるウイカに生暖かい視線を向けていたドロシーさんだが、茶番を終えて満足したのか、話題を変えてきた。


「さて、本題に入るね。今日は訓練じゃなく、作戦会議が必要だから」

「作戦会議?」


 なんの話だろう。チラりと見たが、ウイカも知らなかったようで疑問を顔に浮かべている。

 ドロシーさんが少し表情を硬くして説明を続けた。纏う雰囲気から、真面目な内容であることを把握する。


「獣魔の動きが厄介になってる。この前みたいに、言い争いながら片手間でやるのはそろそろ限界」


 日本ではここ最近活発化していると聞いていたが、いよいよ対策を講じなくてはいけないぐらいに厳しくなってきたのか。

 となれば、俺の特訓はもとより、三人の連携が重要になってくる。そこで作戦会議……というか、各々親睦を深める必要が出てくるワケだ。

 俺はまだ三人の間にあるわだかまりを知らない。話し合って仲直り、となるのかは疑問が残る。

 案の定、ウイカが直球で不満を述べた。


「私じゃなく、メアリに言うべき」

「もち、そのとおりなんだけどさ。ウーちゃんの方が大人だし、折れてくれないかなーって」


 ドロシーさんは両手を合わせて拝むようにおねだりする。甘えたような上目遣いでウイカを見るも、彼女は素知らぬ顔をしていた。

 強情そうなメアリさんに比べれば、ウイカの方が説得しやすそうというのは俺も同意見だ。

 だが、この反応を見る限り交渉は中々難航しそうである。


「ね? メアちゃんの話を、大人な対応ですーっと受け流してあげられないかな?」

「……第一」


 ぺこぺこするドロシーさん。しかしウイカは折れるどころか、鋭く言葉を付け足した。


「ドロシーも、きっと私を許してない」


 言われて、ドロシーさんの笑顔がスッと引いていく。


「……あたしは、もう引きずってない」

「嘘。あのこと、私のせいだと思っている」

「違う!」


 畳みかけるように言うウイカの言葉に対して、咄嗟にドロシーさんが声を荒げた。彼女の動揺する場面は初めて見た。

 俺の教官として振る舞っている時は厳しいが、それでも彼女はいつだって笑顔を崩さない。笑いながら無理難題を注文してくるところが恐ろしかったし、腹の底が見えないこと自体が彼女の怖さだと思っていた。

 けれどこの瞬間、初めて彼女の本音が介在した気がする。


「あたし。あたしは……」

「別に、責めたいなら責めればいい。私は気にしない」


 優しさなのか、突き放しているのか。真意の読み取れないウイカの物言いに、ドロシーさんは歯噛みした。

 壁があると感じていたが、それでもドロシーさんは出来得る限り公平な態度でウイカやメアリさんと接しているように見えていた。しかし、当人同士には隠しきれないしこりがあるらしい。


「違う……違うの! だってあたしは……」


 反論なのか、自分に言い聞かせているのか。曖昧な言葉遣いで呟くドロシーさん。

 それにしても、ウイカもいつになく卑屈な物言いだと思う。今の会話がスザンナいう元相棒に絡む内容だとすれば、先日メアリさんが話題に出した際もウイカは激しく動揺していたはずだ。責められても気にしないなんて丸っきりの嘘だと分かる。

 流れを止めるべきか悩んでいると、ドロシーさんが震える声で伝えてきた。


「……イサトくん。申し訳ないけれど、ブリーフィングルームに行っててくれる? あたしたちもすぐ行くから」

「えっ? 大丈夫ですか?」

「だ、だいじょーぶだって。あたし、大人だから」


 正直言うと、二人の過去が垣間見えるかもしれないと、少しばかり会話の内容に期待していたところがある。

 あのこと、とは何なのか。

 スザンナという人に関することだと推察はできる。ウイカの元相棒で、ドロシーさんも親交があったという人物。

 ここで別れるのは後ろ髪を引かれるが、聞き耳を立てていても仕方ない。俺はドロシーさんの指示に従い、その場を後にした。


「大丈夫かな、あの二人」


 不安に思いつつ、俺は無機質な壁の続く廊下を進む。

 それにしても、ブリーフィングルームか。場所は知っているが使ったことはない。

 これまでの獣魔は作戦を立てるまでもなくすぐに倒せる相手ばかりだったし、それ以外での複雑な雑事はドロシーさんやウイカが担ってくれていた。まだまだ新人で見習いの俺が出る幕はない。

 それが、全員で会議をする必要が出てきたというだけで、これからの敵が厄介になるんだと伝わってくる。


「あれ? そういえば」


 順調に部屋の前まで辿り着いてから、ふと気がつく。

 ウイカたちがあそこで言い合いになっているということは、今この部屋にいるのって――。


「……うわ」


 扉を開くと、俺の顔を見て明らかに嫌そうな表情をするメアリさんがいた。

 そうなるよなあ。この人と二人きりで待つのも中々大変だ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ