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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第1章 普通の世界を、変える出逢い

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第27話 イサトとウイカ

 ぎゅっと強く手を握られて、俺は動揺する。


「あ、あの! ウイカさん……?」

「できる。そのまま、魔力を感じて」


 いや、出来るとか出来ないとかじゃないんですけど。

 繋がれたウイカの手から体温が伝わってくる。その温かさに混じって、彼女の脈動がそのまま流れ込んでくる感覚。以前ゲートを開く時に手伝ってもらったのと同じ魔力のサポートだ。

 彼女の真剣な表情に、俺もドギマギしている場合ではないと気持ちを切り替える。

 集中。目の前のリントヴルムを撃ち払う魔法をイメージして、発動しろ。

 炎が辺りを包む中、辺りを見回していたリントヴルムが俺たちを見つけた。視線が交差する。

 ウイカはそれを見ながらも冷静に告げた。


「相手のことは気にしなくていい。何かあれば私が止める。だから、そのまま」

「わ、分かった!」


 敵前で気にするなと言われても難しく思えるが、今は彼女を信じる他ない。

 俺は集中するために目を閉じ、ウイカから流れ込んでくる魔力を使って自分の魔法を確実な形にすることだけを考える。

 もしもあの時と同じなら、ウイカのピンチを助けるイメージが何よりも肝心だったはずだ。

 今はまだ彼女に大きな怪我もないし、俺も何処か緊張感が足りていないのかもしれない。

 考えろ。俺が失敗するとこの状況は危険だ。ウイカの魔法でリントヴルムを討伐するのは難しいと、目の前でまざまざと見せつけられたばかり。傷一つつけられない相手と戦ってウイカがどうなるのか、それが嫌だという感情をコントロールする。

 ただ、助けるのが目的じゃない。一緒に戦うということ。

 俺にはウイカがついている。彼女はこうして、俺の魔法が発動するのを信じてくれている。

 深呼吸。

 ウイカの手のひらがじんわりと汗で滲んできた。今の俺にリントヴルムは見えていないが、迫る敵に緊張が高まっているのが分かる。

 ……行ける。二人なら、できる。


「――撃て!」


 自分を鼓舞するように叫びながら、俺は左手を前面に突き出した。

 その手のひらから真っ白な輝きが光線のように放たれ、鼻先まで迫っていたリントヴルムを焼く。ウイカの炎では傷一つつけられなかった鱗が剥がれ落ち、光の直撃した半身から肉の焦げる臭いが充満した。

 リントヴルムは後方へ飛びずさる。翼をはためかせて、辺りに砂埃を撒き散らせながら距離をとった。

 ウイカが無感情な中に確かな喜びを滲ませて呟く。


「やった」

「……ああ、できたぁ……」


 俺はというと、成功した喜びよりも呆気にとられる感覚の方が強かった。

 勢いで発動はできたが、あんな目の前までリントヴルムが迫っているとは。目を開くまで気づきもしなかったし、かなりのピンチだった。上手く攻撃できていなかったらどうなっていたのだろう。ウイカがその身を盾にしたのだろうか。

 あまり考えたくないな、と体が震える。

 でもひとまず、成功は成功だ。ここから少しでも逆転の芽が出ればいいんだが。

 そうこうしているうちに、リントヴルムは再びこちらへ飛び込もうと構えていた。右半身を焦がして煙を吐き出しながらもまだ戦う姿勢を崩さない。

 俺は思わず彼女に呼びかけていた。


「ウイカ」

「何?」

「正直、今の一回はまぐれだ。これで何度も魔法が撃てるようになったとは言えない」

「うん」


 たまたま成功しただけだと自分でも理解している。二度目があるとは限らない。

 俺は恐怖と緊張で震える足をなんとか抑えつつ、隣へ視線を向ける。相変わらず真っ直ぐすぎる彼女の瞳が、こちらを見ていた。


「だから、魔法のことは頼ってもいいか?」

「頼る?」


 きょとんとするウイカ。

 俺は頷き、リントヴルムへ視線を戻して睨みを利かせる。


「俺はどうやら、無制限に魔法を使えるらしい」

「……うん。知ってる」

「でも、魔法の使い方は何も知らない」


 改めて自分の状況を整理する。

 俺の能力――チートスキルと言ってもいいのだろうか――は、デメリット無しで魔法が扱えること。それは魔法少女たちにとって屈辱的とも言うべき特徴なのかもしれない。

 もちろんウイカにとっても複雑な想いがあるだろう。これまでの努力はなんだったのかと思うのも無理はない。

 だけど。


「ウイカは、魔法に寿命を消費する危険性がある」

「……」

「でも、魔法の使い方には長けている」


 そうだ。俺のデメリットは魔法が上手く使えないこと。せっかくの能力でも、自在に操れないのなら意味がない。

 しかしそれを補ってくれる人が隣にいる。寿命を消耗するという彼女のデメリットを俺が補い、魔法を上手く使えないという俺のデメリットを彼女がフォローしてくれるのなら。


「俺たちはどっちも半人前なんだろう」

「半人前?」

「ああ。けど二人なら、一人前になれると思うんだ」


 繋いだままだったウイカの手を、強く握り返してやる。

 ウイカは言葉の意味を咀嚼するように、しばらく無言で何かを考えていた。

 リントヴルムが吼える。自分にダメージを与えた相手に怒り心頭といった様子で、今は確実に俺の方へ敵意を向けている。

 相手の声に震えながらも、ここで後ずさりするわけにはいかない。グッと力強く地面を踏みしめて対峙した。

 緊張する俺に、ウイカがゆっくりと口を開いた。


「イサト」

「ああ。……え?」


 彼女が突然下の名前を呼んてきたので思わず視線を移すが、真剣そのものなウイカの表情に一旦言葉を呑み込む。


「生きる意味って、私はまだよく分からない」


 戦いの始まりにした問答を、再び持ち出してくるウイカ。


「でも、イサトともっと一緒にいたいって思う。学校のみんなとも、もっと仲良くなりたいって思った」

「ああ」


 ウイカの視線はリントヴルムから外さない。俺もそれにならって、再びリントヴルムをしっかり見据える。

 臨戦体勢に入る敵の姿を捉えながら、それでも俺たちは会話を止めなかった。


「これが生きたいってことなら。生きていいのかは分からないけれど、生きてみたいとは思える」

「……なら、とっととアレをやっつけるしかないよな」

「うん」


 リントヴルムが、その巨大な翼で空に羽ばたいた。

 俺たちは空中から強襲する敵の姿を見逃さないように見上げ、構える。といっても繋いだ手は離さないままだ。今も彼女の魔力が俺に注がれているのを感じる。

 結局魔力を使っているんじゃないかと不安になったが、ウイカはそっと微笑んだ。


「大丈夫。イサトの魔力も私に流れてる」

「そ、そうなのか」


 この温かい力をウイカも感じていると思うと、それはそれで気恥ずかしかったが。

 それなら遠慮することはない。

 リントヴルムが急降下してくるのを見て、そのまま俺たちは走り出した。


「行くよ、イサト!」

「おう!」


 彼女とならまた魔法も撃てる気がする。反撃開始と行こう。

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