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魔法少女が死ぬ前に  作者: 宮塚慶
第1章 普通の世界を、変える出逢い

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第19話 関係解消

「……私の命は消耗品。戦うことでしか価値を証明できない」


 ウイカは声のトーンを落として、いつもの冷静さを取り繕うように話をする。

 あまりにも残酷な現実を受け入れている彼女に、何と返すべきなのか、俺は分からなくなってしまった。

 死ぬのが当たり前。楽しいことが、生きたいと願うことが、辛い。

 俺の普通では理解できない価値観を、彼女は持っている。


「荒城くんや、クラスのみんなに優しくされるたびに、自分を――生きてもいい存在だと、錯覚していった」

「錯覚って……そんなのおかしいだろ。ウイカだって生きていいんだから」


 零れる涙を手で拭いながら、ウイカは俺の方を見つめる。

 俺はウイカを救いたい。彼女に生きていて欲しい。

 だけどそれは、彼女の生き方を否定するエゴなのかもしれない。戦いによって証明される命を、戦わないように仕向けていいのだろうか。

 上手く伝えることができないまま、ウイカの言葉を聞くだけの時間が続く。


「生きたいと願うべきじゃない。戦いに迷いなんていらない。そうあるべきだった」

「どうしてそんな……」

「どうして?」


 俺がボソりとしか返せない、うわ言のような疑問を聞き逃さずに、ウイカは寂しそうな表情でこう言った。


「私が、獣魔討伐部隊“アザラク・ガードナー”のウイカ・ドリン・ヴァリアンテだから」


 それは、自分の立場を改めて口にすることで、己自身に言い聞かせているようだった。

 けれどそれが、彼女の持ち合わせている答えのすべてなのだろう。

 彼女は学生じゃない。今までの生活は俺を監視するという任務の一環、部隊の仕事の一部。

 ウイカの普通は、俺の世界には無い。


「荒城くん」

「……ああ」


 名前を呼ばれて、俺は生返事しかできない。

 気がつくと、ウイカは涙を止めて毅然とした態度でそこに座っている。


「ジェラルドに言われたはず。魔法が使えるなら戦うべきだと」

「たしかに、言われた」


 つい先ほどの会話だったが、既にウイカの耳にも入っていたようだ。

 他の魔法少女たちが噂をしていたのでそうして伝わったのか、あるいはあの後すぐに、ジェラルドが監視係である彼女に直接連絡したのかもしれない。

 元々俺はこのジェラルドの提案に対する答えが欲しくてウイカに会いに来た。正確に言えば、彼女に背中を押してもらえると考えていたんだと思う。

 一緒に戦ってほしいと。私を救ってほしいと。

 でもウイカは、まったく逆のことを口にした。


「断って」

「え?」


 彼女の上司であるジェラルド・バックランドという男が、俺も戦うように焚きつけてきたのだ。なのにそれを、ウイカが断れと言っている。

 余計に答えが見つからなくなった。


「荒城くんがなんで魔法を使えるのか、私にも分からない。でも、その力は危険」

「俺の魔法は寿命の消費がないんだって聞いたぞ」

「そういうことじゃない」


 言うと、ウイカはおもむろに着ていた学校制服のシャツに手を掛け、ボタンを外し始めた。


「う、ウイカ……!?」


 目の前で女の子が服を脱ぎ始めて、流石に動揺を隠せない。

 雰囲気が雰囲気だけに、ドキドキするよりも困惑が圧倒的に勝っているが、それでもウイカから目が離せなかった。

 上からボタンが解かれ、下着の肩紐と彼女の肌が少しずつ露わになっていき……。


「!」


 そこで俺は、彼女の肌に残る無数の傷痕を見た。

 裂傷だけではなく、痣になっている箇所も多数ある。そういえば、学校の授業で水着になれない理由を真凛に話した時も、傷がどうとか言っていたんだったか。

 ウイカは俺の反応を見て脱衣を止める。


「私たち魔法少女は、獣魔のマナを吸収して魔力を補充する。その時に、ある程度の傷も治る」


 そうだ。彼女の傷が治っていくのを俺もこの目で見た。

 それなのに、どうして。


「でも、傷や寿命を完全には回復できない。私も腕や足、顔の見えやすい傷を優先して治すけれど、残るものもある」

「痛く、ないのか?」


 あまりにも陰惨な傷に俺が心配の声を掛ける。

 すると彼女は、消え入りそうな声で答えた。


「痛いよ」


 それは救済を求める声ではなく、至極当たり前の感想として言っただけだった。

 続けた言葉でそれを実感させられる。


「でも、慣れた」


 彼女たちは獣魔の力を植え付けられているとはいえ、ただの人間だ。当然怪我をすれば傷は痛むし、痣になれば他人から隠そうともする。

 慣れたなんて言っているけれど、こんなの。

 もう何度目か分からない、俺の常識と乖離した状況の提示。それを見せつけながら、ウイカは言い放つ。


「獣魔と戦うというのは、こういうこと」


 危険なことだと、分かっているつもりだった。

 それでも、こうして傷を見せられると怖く感じるのも人の性なのかもしれない。

 どこまでも俺には覚悟が足りていなかった。


「ましてや荒城くんは獣魔からマナを補給しない。戦闘で傷ついた時、治せるのかも分からない」

「そ、そうか……」


 言われてみると、寿命を消費しないなら、敵から魔力の補充を行なう必要はない。

 傷がどうなるのか考えてもみなかったが、そもそも魔力を吸収して回復するような手段がないのかもしれない。

 ウイカと一緒に戦えば、同じように怪我をする可能性は充分すぎるほどある。その時、俺だけ怪我をしたままになるのかもしれない。


「だから、断って」


 ミルメコレオと戦う前、ウイカは俺が犠牲になるのを怖いと言った。護身用のネックレスを渡してくれて、俺に死んでほしくないんだと伝えてくれた。

 本心で思ってくれていたんだったら、隣で今後も戦闘に並び立つなんて考えられないことだろう。

 そういう意味でも、彼女を守ろうとすることは彼女の意志に反しているのかもしれない。

 さらにウイカは、ふっと息を吐いて何か覚悟を決めたように俺へ伝えた。


「荒城くん。私からは離れて」

「離れる?」


 どういう意味だろう。


「私は荒城くんを監視する任務がある。でも、友達である必要はない。一緒にいる理由もない」

「俺はお前のお世話係なんだが」

「必要ない」


 必要ない、か。

 確かにウイカはだいぶ学校生活にも慣れてきた。言いつけどおり校内で魔法も使わなくなったし、友達も増えつつある。

 けれどまだまだ危なかっしい。目を離したら何をしでかすか分からないと、さっきもそう言ったばかりだ。

 だが俺の反論を聞く前に、ウイカは冷淡に言った。


「これからは、私に関わらないで」

「そんな言い方ないだろう」


 突き放すような言い方に、俺は当惑した。

 一緒に戦うのを断るよう言われたのは、まだ分かる。戦いの危険性をちゃんと理解していなかったのはたしかだし、ウイカは俺を心配してくれている。

 でも、学校での関わりまで止める理由はない。監視係だって、近くにいた方がやりやすいことは変わりないだろう。

 それでもウイカは、あくまでも冷静に口にする。


「私たちの関係は、これでおしまい」


 なんだ? 突然どうしてそんなことを言うんだ。

 彼女を救いたいというのは俺の自惚うぬぼれなのかもしれないが、なにも全部の関係をなかったことにしなくたって。


「なんだよそれ。急にそんなの、おかしいだろ!」


 思わず大きく叫んでいた。動揺からか、自分でも驚くほど威圧的で、ウイカも少しだけビクッとする。

 それでもたじろいだりはしない。真っ直ぐ俺を見る視線は変わらないまま。


「荒城くんが戦わないためにも、私たちは終わりにすべき」


 終わりにする。

 俺とウイカは、任務を通じて秘密を共有する一時の泡沫のような関係だ。本当の親戚じゃないし、クラスメイトも任務上の仮初め。友達という思いも、誰が保証してくれるわけでもない。

 心の奥がざわつく。俺と彼女には何の繋がりも残らないのか。


「そんなにきっぱり終わりになんてできない。俺はウイカのことを心配だし、もう友達なのに」

「……じゃあ」


 ウイカは、俺に向けてきっぱりと宣言した。


「もう友達じゃない」

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