第2章-13
街道沿いにあったバーミリト湖畔で休憩を取る
馬も休ませないといけないし
御者も乗客も連続で乗り続けるには流石に身体に悪い
湖畔は非常に景観のいい所だった
何もないが、静かで良い
遠くの方に小高い山は見えるが
それ以外で視界を防ぐものが対岸の木々くらいなもので
水面もほとんど揺らぎがないように見える
心が洗われるような心地だ
さっきまでのざわついた気持ちがみるみる落ち着いていくのが分かる
休憩の間は目を閉じてかすかな風を楽しんでいたい気分だ
「おい、そこのお前」
何か聞こえたか?
いや何も聞こえない
こんないい場所に雑音などあろうはずもない
「おい!耳が遠いのか?俺と同じくらいの癖に。それとも声をかけられたことにも気付けない馬鹿か?」
目を開いた
どうしてここまで言われないといけないのか
穏やかになりかけていた気分が滅茶苦茶にされていく
罵られたことよりも
この場所、この環境の良さを台無しにしていることが許せない
そんな感覚
ゆっくりと起き上がって両手を身体の後ろの方で手をついて
座ったまま言い返した
「もちろん聞こえているさ。あまりにもこの綺麗な湖畔に似つかわしくない言葉だったから、聞きたくなかっただけでね」
「カッコつけすぎだろ?似合ってねえよ」
鼻で笑ってやがる
「寂しくて声をかけて来たのか知らないけど、お前と話す気分じゃないんだ。よそに行ってくれ」
「馬鹿だな、声をかけてやってるんだ。お前もダイザフの学び舎へ行くんだろ?今の内からお前に何が出来るのか知っておこうと思ってな。俺ほど有能ではなくても、何かの役に立つかもしれないからな。だから聞いてやるよ、お前どんなスキルを授かったんだ?」
どうしてこうも上から目線なのか
話を聞いているだけで腹が立ってくるほどに意味が分からない
まず友好関係を築こうとか思わないんだろうか
「俺が有能だろうが無能だろうが、お前の役に立つことはないな」
「お前の意見なんて聞いてねえよ、スキルは何かと聞いてるんだ、それを聞いて判断するのは俺だ。言ってること理解できるか?」
「分かるとも、俺が言ってるのはどんなスキルであっても教える義理はないし、言わない。だからお前の判断なんてする前からこの話に意味がないってことだ。さっきと同じこと言うぞ?よそに行ってくれ」
売り言葉に買い言葉、かもしれないが
互いに譲らない、くだらない意地の張り合いが続く
教えろ
言わない
意志なんて関係ない
判断する必要がない
要約するとそう言った内容の言い合いがしばらくループして続いた
「ちっ、分からんやつだな。誰にでも分かりやすく、俺と懇意にしていれば後々得になるなんて話はしたくなかったから、あえて伏せてはいたが。ここまで頑固とは思わなかったぞ、お前。名前くらいは言えるだろ?」
「クロスだよ」
ぶっきらぼうに答えてやった、少し疲れた
最初から何て言われても相手にしなければよかったと後悔したところで名前を聞かれたので、それくらいで満足してくれるならいいやと思ってしまった
「家名はないのか?」
「ウィールヒル・A・クロス」
「ウィールヒル・・・、なるほどな」
父に心当たりでもあるんだろうか?
「俺はウェスタイロン・ド・ルーテラグホンだ。気を許した者にはルートと呼ばせている。お前もそう呼んでいいぞ」
「そうか、ありがとうウェスタリオン。そろそろ休憩も終わりみたいだぞ」
そう言って立ち上がり馬車の方へと向かう
背中の方ではこちらへ視線を感じる
おそらくさっきと同じ、仁王立ちで腕を組んだままの姿でこっちを見ているのだろう
会話中、いやきっと声をかける前からだと思うが
ずっと俺を見定めているような様子だった
ウェスタイロンと言えば運輸、流通、物流等を主とする大手組織の名前だ
そこの跡取り息子なのかもしれない
馬車が豪勢だったのもそう言った理由があるかもしれないな
本人曰く、家名で威厳を表したくなかったようだから
あれでも馬車はかなり控えめにしたのかもしれないが
学び舎へは、新天地と言う意味でしか期待するものはなかったが
平穏に過ごせそうにはないかもしれないという憂鬱感と
まだクロス自身が気付いてない張り合いによる期待感が少し芽生えつつあった




