第1章-34
お隣さんの家は程なくして完成した
作業員が増えたのが理由だ
というのも、父も俺も現場にいないことが大きい
テージさん一家は噂はあれども新顔には違いない
基本的には余所者に対して寛容な世界だ
少ない人員で大変そうにしていれば、暇なときには加勢もする
そうやって加勢に来たものが
父の作った継ぎ手の仕口の見事な出来を仕事仲間に吹聴し
人が人を呼んだらしい
仕口の工程は見れなくとも
切り口を見るだけでも何やら勉強になるそうだ
なので俺の子守の時間も減ったのだが
日中は父もいないし
今やスキルに関しては専ら集中力の鍛錬ばかりだ
兎角暇である
お隣さんが出来上がるまではこちらの家に一家そろって入り浸っていたが
今では逆で
俺がラザさんと一緒にリア&ソラの面倒を見ている日々が続いている
授乳だったりお昼寝だったりの時間は集中力の鍛錬に当てて
他は遊ぶ時間だ
ラザさんにも気になっていたことを聞いてみた
ラザさんのスキルは体温のストックと移動だが
例えば人体の全体から熱を平均的に移動できるのか?
身体の中で最も温度が高いのは心臓周辺だろうが
その心臓周辺からだけ体温をストック出来たりするのか
それは危険だから末端から徐々にといった感じでするのか
考えてみれば割と複雑なことをやってそうに思える
俺のスキルは、どこからどこを対象物として消すのかあまり考えずに
境界を曖昧にすることで代償の節約を行っている、つもりだ
そのあたりはどうやって制御しているんだろうか
ラザさんは
「驚いたわ、やっぱりクロス君は本当に賢いのね。クロス君の言う通り私のスキルは単純そうに見えてやってることは結構大変なの。例えば人の体温をいきなり下げると、人体はブルブル震えだすわ。身体を振動させて発熱させようとする身体の反応らしいの。だからそうならない範囲で体温を移動させるように力の調節が必要よ。でもゆっくりやっていたら熱が逃げてしまうから、私の場合はどっちかと言うとため込んでいる熱を維持することに集中するの。体温の移動はどっちにしろ速くすることは出来ないから、あまりそっちには集中しなくていいの。力を込め過ぎない限り体温を下げ過ぎることもないからね。あとは基本的には了解を得てやるものだし、人からの体温を移す時には『寒くなってきたら教えてね』って言ってるわ」
その他にも
やろうと思えば凍り付くまで体温を下げることも出来るけど集中力が足りないし維持できないし時間もかかる
それに相手はじっとしていてくれるわけではないから
その間にこっちはやられてしまうとか
人じゃなくても生き物が対象で可能だとか
生物以外、例えば火とか日光に照らされて温められた石とかも可能ではあるが、生物に比べて必要な集中力が尋常じゃないから実質出来ないとか
温度差があり過ぎるものも難しいらしい
言ってしまえば焚き火は900度くらいあるが、そこから1度取り出して36度の人体を37度にあげる、なんて簡単な話じゃない
熱は1度と1度を足して2度とかそういうものではないのだ
900度は900度
触れると焼ける、割りと単純な話だが
ではどうするか?
焚き火で熱せられた空気からなら貰えるわけだ
近付けば熱いが、離れればほんのり温かい丁度いい所がある
そこからもらえばいい
だがまあ、それなら直接そこで暖まればいいじゃないかって話なわけだ
聞いた感じではラザさんは対象を範囲として捉えているようだった
その範囲内に生物がいれば移行しやすいし、なければ難しい
そして生物が移動していれば徴収範囲も移動させなければならないのでより困難になる
そんな感じだ
動かないでいてもらっている人の身体の輪郭ピッチリで範囲を指定することも出来るらしいが
まず面倒だし
ざっくりで良いとのこと
だってゆっくりやるんだもん
などと言われれば確かにと納得せざるを得ない
自分のスキルとの付き合い方次第と言うことか




