第1章-32
「今度はこの生きてる虫だ、動いてるからちょっと難しいかもな」
そう言って地面に木箱ごと置いた
虫は木箱の中で僅かに動いているだけで、元気よく外へ逃げ出そうとしている訳ではないみたいだ
父からは先程、単純に考えることでスキルに必要となる代償を節約できると聞いた
生きている虫の
虫として構成される要素だけを抽出して消すとかまで考えると
内部構造を把握する必要まで出てくる
血が流れてはいるが、血液中に含まれている気体までは虫として考えないとか
そんなことまで考慮していたら出来るものも出来なくなる
そこにある虫
今動いているその虫、存在に対してスキルを発動する
そのくらいの認識で上手く行くはず
ひとまずさっき死骸を消したようにやってみよう
心の中で手を叩くイメージで・・・
ん?
重い・・・?
鈍い、ような動きが遅くなるような辛いような
なんでだ?
虫を凝視してみる
さっきと何か違うんだろうかと、より観察してみる
すると
ふっと消えた
じっとり汗が出てきている
呼吸も少し荒い
見ていた父は虫が消えたのを確認してからこっちを見て
俺の様子がややおかしいことに気付き
心配して近付いて来た
「辛いか?座ったらどうだ?」
そう言ってゆっくり地面に座らされた
俺は
「だいぶ時間かかっちゃったけど出来たね、でもやっぱり生きている虫はちょっと大変だね」
そう言うと父は怪訝そうな顔をして
「時間かかってないぞ?」
と言って首をかしげていた
どうやら父からは普通に先程までと同じように一瞬で消えたように見えたらしい
だが俺の中ではスキルの発動までにかなりの時間を要した感覚だった
それを父に伝えると
「多分それは集中力が足りてなかったんだろうな。お前のスキルには集中力と体力と、それが足りなければまたスキルが使えるまでの時間を使うんだろうって父さん言ったけど、ちょっとだけ違うみたいだな。まず集中力と体力がある基準までは必要なんだろう、その上で足りない分をその後の時間で補うみたいだ。」
例えば虫の死骸を消すのに必要な集中力を3、体力は1、時間を1としたとき
生きている虫は集中力が20、体力が10、時間は・・・まだ不明
と言うことだろうか
これらが最低限全て満たされていないと発動しない
いや、発動までに時間がかかった
集中力はその場で補ったということだろう
体力が足りない場合はどうなるか分からないな
だとすれば生きている虫を消すために必要時間が50とかで
総数が80だとすれば
集中力80、体力0、時間0とかでも行けるのだろうか?
体力はどうしても10は使う?
考えれば考えるほど複雑になっていく
呼吸が落ち着いて来たので、今の時点でスキルが使えるのかどうか試してみたが
やはり感覚はなくなっていた
無機物である石を消した時には身体の力が抜けただけで済んだが
生命の宿った虫を消した時には集中力をどうしても必要とした
だがまあ、足りない分をスキルの発動時間だけで強引に徴収されるよりは良かった気がする




