第1章-30
身体に力が入るまで少し休憩をはさんだ後
またスキルが発動できるかどうか試してみるとやはり発動の感覚はなかった
これによって俺がスキルで物体を消すときには
大きさ、重さは少なくとも関係していることが分かった
しかしだ
母の体重と、さっき消した石の重さを比較してどっちがどれほど重たかったかと考えると
少々疑問が残る
母は瘦せ型だったし、上背も高くはなかった
そして消した石はかなりの重さだった
体積で言えば完全にヒトの方が大きいが
重量で言ったらそんなに差はなかったんじゃないだろうか
それにしては消費された代償に差があり過ぎる様な気がする
その経験や、これまでの熟練度を加味してもだ
母が消えてしまってからスキルが発動できるようになるまで半年かかった
やはり石とヒトでは価値が違うということだろうか
だが価値とはなんだ?
それは観測者によって大きく変わる
例えば母を全く知らない人で、消した石には何か強い思い入れがあったとすれば
石の方が価値が高くなってもおかしくない
やはり命だろうか?
まだあまり万全に動かせる状態ではない身体を休めつつ
スキルが今度はいつ発動できるかも確認しながらそんなことを考えていたら
父がスープをもって来た
「少し動けるようになったか?」
「うん、まだ思うように動かせないけどね」
俺を起こして座らせ
スープの器を口まで持ってきて飲ませてくれた
「お前のスキルには集中力、体力、そしてそれらが足りなければ時間が代償として必要となるみたいだな」
「あとは物を消すときには重さと大きさが関係してくるのは分かった。じゃあ今度試すのは何かわかるか?」
さっき考えていたことだろう
「生き物?」
父はニヤリと笑って
「そうだ」
そう言って小さな木箱を取り出した
中に入っていたのは虫
土の中に住んでいる、この世界ではありふれた虫
しかし確かに生きている
父はこちらをジッと見つめて観察した後
「気が進まないか?」
そう聞いてきた
少し自分の気持ちを確認するために間をとってから
「ううん」
俺は首を振ってそれを否定した
生きるためには命を奪って食べることを必要とするこの世界で
殺生に関しては恐らく現代の地球よりもはるかにハードルが低くなる
むやみやたらに殺しているわけでは決してないが
医療の進んでいないこの世界では予防や危険排除が生きるために必須になる
毒性を持った生物がいれば巣ごと殲滅するし
危険な動物が住み着きやすい環境があると判断すれば地形の破壊だって行う
だからと言うか
虫をスキルの実験台にすることは褒められたことではないにせよ
忌避されることでも決してない
だがこの世界の人間全てが殺生を無の心で実行できるわけでもないから
父は訊ねて来たのだ
これから虫をお前のスキルで消してもらうことになるけど心は痛まないか?
そう言った配慮だろう
父は
「今日は結構疲れてるからな、また今度やろう。この虫は外に逃がしておくよ」
そう言ってゆっくり休むよう声をかけて部屋から出て行った
いつの間にかスキルが発動できるまでに回復していた




