表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

2話 神否神

 お洒落な木のドアの前で手提げかばんを持った男子高校生が立っていた。


創建以来、初の来客である。


嬉しいに越したことはないが、先ほどのリス、ウォルとの会話を聞かれていた。人間の常識ではリスは喋らない。二人はしまったと、慌てふためいていた。


「あ、あのー・・・ここって図書館ですよね・・・?」

「・・・そこから確認する感じ?」

「だってこんなところに入口があるので・・・」


そりゃあそうである。神の存在であるメネとしゃべるリスが普通の図書館で働いていたらどんなにおかしいことか。だからこうやって意味のない図書館隠しをしているのだ。


「君、よく入口を見つけたね」

「通学路なんで」


こんな細道を通学路にしているのはおそらく彼ひとりだろう。なんたって不審者が出てもおかしくないような真っ暗な道なのだから。


メネとウォルは仕方がないと立ち上がり、男子高校生の前までやって来た。


「君、名前を聞いて良い?」

「え、なんでですか?」

「ご来客一人目だから」


来客一人目と聞いた男子高校生は人気のない図書館なんだなぁと感じた。


「えっと、名前は天堂普(てんどうあまね)です」

「へ〜」


名前を聞いておいて「へ〜」だけで終わるのかと普は濁った表情をした。


「名前言ったんでそっちも名乗ってください」

「え!?」


メネは名乗れと言われテンパった。


「メネ」なんて名前、日本ではおかしすぎる。どう説明しようと工夫を凝らした結果、メネはようやく口を開いた。


「私は神です」


メネははっきりとそう言った。


ウォルは短い足と小さな手で顔を押さえて静かに驚愕した。


普は持っていた鞄をパタリと落としてしまった。それほどの衝撃だったのだろう。


「えっと・・・もしかして厨二びょ───」

「断じて厨二病ではありませんっ!!」


普の言いかけた言葉を遮り、言われる前に拒絶を果たした。


メネはやってしまったと泣き崩れて土下座状態になった。


「うわぁぁ〜ん、ウォル〜、どうしよぉぉう!」

「もう知りません!!」

「ウォルが冷たい!」


まるで頼りのない主人の頭をペチペチとウォルが叩いた。

 その状況を普は複雑な脳内と複雑な顔をしてただひたすらに見ていた。


「・・・な、なんの神様なんですか・・・?」

「気ぃ使わなくていいから!!」


泣き崩れるメネに対し、同反応したら良いものか考えた末、気をきかせた信じるような言葉を発した。


 メネが頼りにならないのでウォルが叩く手を止めて普の前に立った。とはいえ、カウンターの上ではあるが。


「頼りないうちのバカ主人が申し訳ありません」

「ウォル?バカはいらないわよ?」


一度、ウォルが喋っているところを見てしまった普はしう驚きはしなかった。


「このバカはバカなのでバカすぎることしか言いませんけど」

「バカが多いわ、ウォル」

「神様っていうのだけは信じてください」

「・・・」


リスらしからぬ威圧的な目は普に刺さるものだった。

 メネとは全く違う信用できる針のような目。信じていいべきか信じるべきでないのか、普には今、この時点で判決を下すのはできそうになかった。


「わかりました。五%信じてあげます」

「少なっ!!」

「なのであとの九十五%、僕が信用に足る神様であることを証明してください。神様なら何でもできるんですよね?」


 恐ろしく低い信頼から残りの不信頼をもぎ取り、信頼に変えて見せなければならない。


「あ、それより、本借りたいんですけど」

「あっ、ごめんなさい・・・」


普のころっとした態度の変わりように驚きながらもメネはカウンターに立った。


「お探しの本は?」

「ある日記を借りたいんですけど・・・」

「・・・日記?」


すると普は一冊の本をメネに見せた。


「ここの一文書かれている日記なんですけど」

「・・・随分と古いのね。しかもこれ、英語じゃない」

「はい。この前、学校のゴミ捨て場で見つけたんです」

「なんでゴミ捨て場から見つけてくるのかしら・・・」

「気にしないでください」


その本は英国の文学者が書いたものだった。


──この世界の始まりはアダムとイヴである。そんな高貴なお二人は食べてはならない「知恵の実」をお食べになさった。その為、お二人には羞恥心がおつきになさった。しかしこれは後の我々の意味する「知恵」に繋がった。その知恵を代表されるのが「ラン様」と「アート様」である。我々の知恵はラン様とアート様の日記より培われたものである──


「ここです」


普が「ラン様とアート様の日記」の部分を指さした。


「僕が、今この二人の日記を探しているんです」


文学者の言葉に興味を持った普は近くで一番でかい図書館に探しに来たという。


「学校の図書館にはなくて・・・」

「そりゃ無いわよ、あの二人の日記なんて」

「え?」


メネが肘をつく。


「じゃあ、そんな日記なんて元から存在しなかったんですか?」

「そうは言ってないわ」

「はい?」


歪んだ普の顔を見ながらメネは言った。


「確かに二人の日記は存在しているわ」

「見たことあるんですか?」

「あるわ」

「だったら・・・」


歪んだ顔から一気に明るくなる普の顔をメネがまたも歪める。


「印刷も偽造もされていないランとアートの日記────なんでその本を見たことがあるかって?もちろん、私がその日記を無くしちゃったからよ」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ