1話 メネの図書館
ここは日本の地上。人々が行き交う大路の脇道へそれた細い道。昼間でも光は少なく、山吹色の光が漏れている。
「ねぇ、暇なんだけど」
「知ったこっちゃない」
その光が漏れてくる建物の中からは二人の女子の声が聞こえてくる。
「ウォル、こんなところに誰が本を借りに来るのよ!」
「仕方がないでしょ?メネは神様なんだから」
ここは日本の隠れた大図書館。そこの図書館司書は管理人メネ。学術・芸術のれっきとした神である。
そして、そんなメネの片腕、この喋るリスはウォルナット、略してウォル。女の子である。
そして、どうしてメネという神が何故こんなところで図書館を開いているのかというと、それは単に暇だからである。
前のように崇められることの減った神にとって何もせずにのうのうといるのは退屈で退屈で仕方がない。そこで神々がとった行動は地上に降りて、なんかする、ということだった。
学術と芸術を司るメネは何となく日本に来てみたかったので英国からはるばるやってきて自分の分身とも言える本を貸す、図書館を開いた。
ここの図書館は管理人が神ということもあり、世界中にあるありとあらゆる本が集まっている。日本一、いや、世界一でかい図書館といってもいいのだが、客足が少ない。理由は入口が狭い通路にあるからである。
神であるメネにはどう考えてもおかしい能力がある。本を整理するために全ての本を浮かす能力、圧倒的な瞬間記憶能力。これらを神の自覚がないメネは人間の前で披露する可能性がある。
そこで、優秀なメネの片腕、リスのウォルナット、略しウォルが人足をなるべく少なくするためにこうやって脇道に入口を作らせたのである。
「だからって、全く人が来ないのよ!!開業してから一人も来ないの!人間らしくちょっと時間をかけて本を探せばいいだけでしょう!?」
「だーかーら!それが出来ない誰かさんのせいなんですぅ!!」
毎日のように喧嘩をする二人はこれでも仲が良い。こうなるのは、メネが頭だけの馬鹿でウォルがしっかり者であるからこうなるだけなのである。
「それならウォルが人間に化けて接待すればいいじゃない!!」
「そしたらメネは何やるの!?」
「事務作業でもやるわよ!!」
ギャーギャーと喚き、喧嘩をする二人には入口のカランという鐘の音は聞こえなかった。
「メネは図書館司書でしょ!?あたしは副司書みたいなものなの!!」
「じゃあ役目を交代すれば済む話じゃない!!」
「良くないって!!だいたいメネは────」
ハッとする二人。二人は口をポカンと開けたまま入口の方に恐る恐る首を動かした。
「あ、あの・・・本・・・借りたいんですけど・・・」
しまったドアの前で一歩引いていたのは人間の男子高校生のようだった。