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お買い物


 



「わあ……」

 

 街にたどり着いた。

 森を抜けると目の前に高い岩の壁に囲まれた門が現れたのだ。

 そのあまりの塀の高さをポカンと見上げて、瞳を瞬く。街の入口の第一印象は『なんだか刑務所みたい』……だった。

 思ってたのと、違う。

 この内側に楽しいことが待っているとは思えない。




 

 そんな印象が吹き飛んだのは、門を潜り、街に足を踏み入れてすぐだった。

 ドン引きしている私を他所に、アドルフが塀の上にいた門番へ通行証を見せると門番はどこかへと合図を送る。すると頑丈そうな二重の鉄扉が開いた。

 


 ひらけた視界に映ったのは、整備された石畳の広い道を縁取るように並んだたくさんの家や商店。行き交う老若男女。思っていた以上に物や音に溢れて賑やかに沸いている。これでもここは国内ではとても小さな田舎街に属するらしい。


 あのクッソみたいな距離を、足がもげるかと思うほど頑張ってよかった!!



「ねえアドルフ! 人間がっ、人間がたくさんいるよ!」

「やめろ恥ずかしい」



 興奮のあまりアドルフの腕を掴んで振り回すと「落ち着け」と顔を顰めて止められた。



「仕方ないでしょ! 何ヶ月かぶりに見る人間なんだから!」

「俺も人間だが」

「へえ」

「へえってなんだ」



 ズルして自分だけ街を行き来していたアドルフにはわからないだろう、この感動が。

 ずっと引きこもっていたからあまり異世界感がなかったけれど、もうこれは完全に承知した。ここ、日本じゃない。イメージ的にはRPGゲームで装備を買うときに立ち寄るような『街』だ。

 屋台ではよくわからない肉や奇抜な色のお菓子が売られていて、道ゆく人は中世ヨーロッパの時代ような格好をしている。実際中世ヨーロッパがどんなものかは知らないけれどまあそんな感じだ。

 人々は外国人っぽい顔立ちが多い。とはいえ、薄めさっぱりのアジア系もゼロでない。髪色も身長も体型も様々で、綺麗な人もいれば親しみやすいお顔立ちの人もいる。この世界のみんながアドルフみたいな長身の美形ばかりだったらどうしようかと思っていたけど、そんなこともないようだ。

 失礼だけど密かに胸を撫で下ろした。



「で? お前は何が欲しいんだ」



 全てが目新しくて、おのぼりさんらしくキョロキョロしていれば、アドルフが人混みを避けて私を道の端に誘いながら聞いてきた。


 欲しいもの、それはもちろん。



「肌色多めのBL」

「却下」



 なんでだ。アドルフが恥ずかしがって買えないっていうから自ら買いに来たのに! 

 私は首を振り、やれやれと肩をすくめた。



「アドルフ、表紙が肌色だからって全部がエロなわけじゃないんだよ? 純度高めで主軸が尊ければそれはもう純文学だから。ヌードの絵画や彫刻だって表現や見方次第で全年齢対象なのと同じだよ。アドルフが見たらただのエロなのかもしれないけど、ボーイズ達のラブはそんなに浅くないんだよ」

「俺の視点がエロいみたいな言い方するな」

「別に恥ずかしいことじゃないよ。男子の思春期なんてそういうものだから」

「だれが思春期だ」



 家にエロ本の一冊もないアドルフのことだ。肌色に慣れていなくてついそんな目で見てしまうのかもしれない。

 見た目はイケオジでも、中身は厨二……

 え? アドルフもしかして童貞?

 


「え? アドルフもしかして童貞?」

「っ!? お、おま…っ、いきなり何言ってんだ!」



 あ、まずい。

 思ったことがそのまま声に出ていたらしい。これは流石にデリカシーがない。セクハラ、だめ。

 誤魔化しを兼ねて、てへ、と舌を出してみる。



「ごめんごめん。つい口に出ちゃった!」

「……それはつい出るような言葉なのか?」

「みんなそれぞれペースがあることなのに無神経だったよね。遅いとか早いとかじゃないから気にしなくていいんだよ」

「なんで確定されてるんだ。おい、やめろ。温かい目で俺を見るな」



 保健の先生のように諭し始めた私にアドルフは盛大に顔を歪めた。

「お前はもう喋るな。それ以上口を開けば今すぐ担いで家に戻るからな」と、恥ずかしがってか照れ隠しの脅しをかけてくる。


 はいはい、と微笑んでおくと、めちゃくちゃ睨まれた。なんでよ。

 ついでに目元より上げていたフードを下に引っ張られてより深く被らされる。おかげで前がよく見えない。



「なにするのアドルフ、足元しか見えないんだけど」

「喋るなと言っただろうが。あとここから先は顔を出すな」

「でもこれじゃ転んじゃうよ」



 支えを求めて手を伸ばせば、頭上からチッと舌打ちが落ちて来る。

 見えなくてもちゃんとガラが悪い。さすがアドルフ、安定の(やから)感。

 それでもちゃんと私の手を捕まえて握り返してくれるんだから、やっぱりお人好しである。

 

 



「じゃあとりあえず本屋さんか雑貨屋さんでもいいけど、どこか良い感じのお店に連れてって。自分で見て選びたいから」

「わかった」



 人混みではぐれないようにアドルフの手は握ったままだ。ゴツゴツしてて硬い手のひら。触り心地はイマイチなのに安心する。



「あっ!!」

「っ!? なんだ!?」

「その前に何か美味しいものを食べよう!」



 目についた屋台のひとつを指差した。

 折角たくさんお店があるんだから、目的地まで食べ歩きしたい! お祭りみたいでなんだかワクワクする。



「びっくりさせるな! 結局喋るなって言った側からお前喋りまくりじゃねぇか」

「あれ! カラフルな食べ物がある! アレ、三角の大きいやつ何?! 美味しい?!」

「人の話聞いてんのか? アレは食いもんじゃねぇ」

「え、じゃあなんなの?」

「帽子だ」

「はあ!?」

 


 どう見ても原宿のレインボー綿飴みたいな見た目なのに、帽子……!!?? 誰が被るの?!



「あれは魔道士の職業帽だな」

「うわ、なにそれ可哀想……」

「何を言っているんだ。魔道士にとってあの帽子は誇りだ」



 まじか。

 この世界の魔道士さんという方々は頭にレインボー綿飴を乗せてドヤ顔してるってこと? 

 魔道士になりたくてもあの帽子被るくらいなら夢を諦めるんじゃないかってくらい個性的だけど、大丈夫? 誇りって言葉で自分を誤魔化してない?

 


「魔道士の人って、メンタル強いんだね……」

「そうだな。厳しく己の精神面を鍛えていないと潰れてしまう可能性のある過酷な職業でもある」

「だろうね」


 

 アドルフと話をしているとちょうど前方を噂の魔道士帽を被った男性が歩いてくるのが見えた。

 濃紺のローブを纏ったどこにでも居そうな普通のおじさんなのに、頭部のインパクトがすごい。

 


「……っ」



 だ…っ、だめだ! ムズムズしてきた。変なツボに入ってしまう気がする。これ以上、何も考えてはいけない。


 私はサッと視線を外して俯いた。大きめフードの前方を片手で抑え、じっと地面を見つめて魔道士が通り過ぎるのを待つ。




「なんだ? 珍しく俺の言うことを聞いてちゃんと顔を隠してるじゃないか」



 意図せずアドルフには褒められた。

 

 





 

 


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