29話 #桃の花弁 ふっ……これが俺の、真の能力だぁぁぁぁ!!!
3日後の6時に部屋に来いと書かれた手紙を受けとり……俺と英雄志願者の隣の部屋である、神城とドルダンさんの部屋へと訪れた。
そして、扉を開けた先には――
――獣人の女の人の胸を鷲掴みにする神城が。
これが、前回までのあらすじだ。
そんで、俺は扉を閉めて帰ろうとしたんだが……無理矢理アイツに部屋の中に引き摺り込まれ……、
獣人の彼女と、神城が目の前に並ぶ、よく分からない絵面となっております。
「あー、ちょっと待ってよ……これまず何…どー説明するか……」
そう頭をこねくり回す神城に……
「……………」
俺はとりあえず、冷ややかな目線を向けた。
「ちょっ、待て。とりあえず、お前は確実に誤解してる」
俺はとりあえず、冷ややかな目線を向けた。
「よーし、今から説明するから、とりあえずその目線ヤメロ」
俺はとりあえず、冷ややかな目線を向けた。
「もう一度言う、とりあえずその目ヤメロ」
俺はとりあえず、冷ややかな目線を向けた。
その頑なな俺の態度に痺れを切らし、神城は叫んだ。
「あぁー!!もういいよ!!もう単刀直入に言ったんよ!!」
そして神城は立ち上がり、ぶんっと凄い勢いで腕を動かし、彼女に向かって指を指した。
「コイツはッ!!ペシーっていう獣人じゃなくてッ!!"三月猫"なのッ!!」
…………へ????
俺の頭には、当然のように、疑問符が浮かびまくる。
三月猫……あれだ、神城家が代々奉ってる……日々ヶ崎市の妖怪。
こないだ神城が歌ってた『教戒 猫の唄』のあれ。
……え、実在したの?ん?え?
思考停止した俺の頭の中で、パッと始めにアイツに聞けたのは……
「お前、崇め奉る対象の胸揉んだんか」
というものだった。
「あ、ぁ……ぇ、ぁ……」
その言葉に、神城もまた思考停止する。
沈黙が流れたこの空間の中で……ボンッという音と共に、その獣人は黒い猫に変わった。
…………………
…………
…
俺たちは気を取り直し、とりあえずは神城の話を聞くことになった。
「えーっと……そうだね、まずはこれだ」
そう独り言を呟いた後、姿勢をただして……神城は言った。
「俺の能力は、サイコキネシスじゃなくって…この……」
神城は太ももの上に乗せた黒猫に視線を向け、言った。
「この、"三月猫"を召喚する能力なんだ」
俺はただ、黙って聞いていた。
能力を偽ってる……その事実によって、納得することが多かったからだ。
数々の……神城の不審点が、解決できる気がしたからだ。
「この猫の能力は……まー、色々あって、基本的には俺が言ったことを聞いてくれるって感じ」
「青くない猫型ロボットだよ」
俺は、神城に質問した。
「じゃ、俺が戦ってた時、近くに来たのも?」
「そ、力を借りて道案内してもらった」
「あの時、ここから火が噴き上げたのも?」
「そ、力を借りて火をつけた」
「あの時、俺の目が治ってたのも?」
「そ、力を借り――じゃねぇよ、何ナチュラルにあん時目ぇ抉ってんだよ。聞いた瞬間、飛び上がったからな?」
俺が今まで疑問に感じた数々の部分を、神城のこの暴露で解決していく中。
俺は、その返答に引っ掛かりを覚えた。
「………聞いた?」
「そう、聞いた」
俺の訝しげな顔に、「あ〜」と気付いたように、太ももにいる猫へと視線を向けた。
そして、言った。
「コイツ、話せるよ?」
『やっほ〜』
「…………え?」
目の前の猫が口を開くと……そこから、人間の声が聞こえてきた。
いや、厳密には少し違うような……なんか、脳がおかしくなりそうな声というか……うん。
しかも、その声が黒い猫から聞こえているから余計に……。
なんか凄い……気持ち悪かった。
動物が人間の言葉を話すとこんな感じか……と、今までの漫画とかで見たあの可愛らしさが完全に否定された。
っていうか……え、
「しゃ、喋れるんだ」
「そう。まああんまり会話することはないけどね」
神城は、三月猫を撫でながらそう言った。
なんでかは、日頃から聞いていたあの歌詞から、すぐに想像がついた。
「三月猫は魔物である。魔除けの類は大嫌い。だから会ったらすぐ逃げろ。泣いて喚いてすぐ逃げろ―――だろ?」
教戒 猫の唄。日々ヶ崎市に伝わる、三月猫への注意を促す唄だ。
たった一年ちょっと暮らした俺でさえ、歌詞はほぼ完璧に覚えてる。
毎日のように、どこかの子供が歌うのを聞いてたから。
「そう、三月猫とは関わるな。会ったらすぐに逃げろ。神主のお父さんは、いつもずっとそう話してた」
「正直、この世界に来るまではそこまであの忠告を注視してなかった。なんやら三月猫の存在だって信じてなかったんだけど………、俺の能力がこれとなっちゃあ……ね」
少し、顔色を暗くして……神城はそう話した。
俺は、そういえばと思い、一つ聞いた。
「そーいや、なんで能力を秘密にしたんだ?」
仮にアイツがこの能力を秘密にしなければ、俺は神城を怪しむことは少なかった筈。
それに、その能力を使えば今までの窮地からだって、脱しやすかった筈だ。
それを……そんなリスクを背負いながら、なんで能力を、何故アイツは秘密に……
その言葉に、神城は「あ〜」とバツが悪そうな顔になりながら、
「マジで、深い理由はないんだけど……」
そう前置きをして……、言った。
「いや、能力を秘密にしていざっていう時に……!っていうの、カッコいいじゃん?」
俺の思考は、停止した。
余りにもくだらなすぎるその理由に……理解が、追いつかなかったんだ。
……そーだったな、コイツはアホだった。
そんなあったま良い理由で秘密にするわけないよな。そうだよな。
「……………はぁ」
「ちょっ、止めて!!マジで呆れてるっぽい反応やめて!!俺が余計に滑稽に見えんじゃん!」
「マジで呆れてるし、お前は元から滑稽だよ」
その俺の返しに、ポカーンと口を開けた神城を見ながら、俺は再度ため息を吐いた。
そして、改めて聞いた。
「じゃあさ、なんで今日…能力を偽ってたっていう告白をしたの?」
「カッコよく打ち明けるタイミングを狙うなら、まだ秘密にしておけば良かったじゃん」
その俺の疑問に、神城は済ました表情で、答えた。
「だって、ここで百歳の不運がバレたらマズイじゃん」
「"魔族"だってバレちゃうから」
「だから、手助けとしてこの三月猫を貸そうかと思ってさ」
「本当はそのことにここに来る前に気付ければ良かったんだけど……来てから気付いて、そこから会えそうな日とかを三月猫と話したら今日になっちゃったって感じだよ」
「……………そっか」
当たり前のようにそう言った神城。
俺はその言葉を聞いて、言葉が詰まった。
その言葉に、俺は少し感動したからだ。
自分のカッコいい姿を見せる作戦を捨てて、俺の為にこの事実を話そうとした神城に。
……当たり前といえば、当たり前かもしれないこの神城の判断。
でも、俺はその気遣いが、本当に……
「ありがとな、神城」
ありがたかった。
その言葉に、少しカッコつけて
「………ふっ、まあ俺って色んな意味で、できる男だからさっ」
そう神城は返した。
「はいはい、流石流石」
俺は適当にあしらいながら……、
「……で、三月猫で手助けって……この猫は、具体的に何できるの?」
そう、神城に問いかけた。
神城は、腕に抱えた三月猫を撫で回しながら、「ん〜」と少し悩んで、答えた。
「色々、だね。例えば、今のこの会話とかは、三月猫に頼んで外に聞こえないようにしてあるし……」
「火を出したりとか、水を出したりとかもお茶の子さいさい。自分の姿を変えたり、隠したり、二つ三つに増やしたりとかも出来るし、瞬間移動とかサイコキネシスとか心の声を読んだりだとか、本当に色々だよ」
「後、古くから俺の家に伝わる技なんかもあったりして……」
「で、俺はそんな三月猫への命令が出来るって能力」
「な、なるほど」
俺は、予想以上に能力の幅が広かったことに少し動揺しながらも、相槌を打つ。
これが事実なら……マジで、これからの生活。主に不運からの対処が、楽になる。
俺は心の中で、ほくそ笑んだ。
そんな中、神城は思い出したかのように口を開く。
「あ、因みに今はね。俺の相部屋のドルダンおじさんは、三月猫の能力でお腹壊してトイレに閉じ込めてるよ」
「え……」
俺はその言葉に、数拍の間思考が止まった。
そして俺は、ここ数日話して仲良くなってきたドルダンおじさんに、心の中で土下座した。
「っと……それでも結構な時間経っちゃったし、おじさんも戻って来ちゃうかもだな」
「三月猫〜」
そう呼びかけると、うにゃあ〜と欠伸をし、その猫は口を開く。
『何?』
「これから、この百歳の護衛を任せる」
『分かった』
そう神城が言って、抱き抱えていた猫を俺に渡してきた。
俺はそれを受け取った。
懐で見上げる黒猫の姿を見て、挨拶を交わそうとした。
「よろしくね三……」
そう言いかけて、止まる。
三月猫……これは種族名なのか、個体名なのか。
どちらにせよ、呼びずらい名前だ。
「あ、そうだ」
俺は、神城に聞いた。
「ね、コイツにあだ名とかつけても…」
神城は、俺の言葉に被せるようにすぐさま否定した。
「ダメ。絶対に…やめて」
声が大きいわけでもなく……荒いでいるわけでもないのに……その否定は、俺に強く響いた。
何で…?という疑問の答えを、俺が聞く前に神城は答えた。
「コイツと、下手に距離を近づけちゃダメ」
「甘い言葉で、軽い口ぶりで……コイツは俺たち人間を拐かす。誑かす。地の底へと誘う化け物だ」
「話をするのは、いい。ただ、肝に銘じて」
「――絶対に、コイツを信じるな」
おちゃらけた普段のコイツからは感じない……別人のような怖さを、感じた。
そしてゾワリと、懐に居る猫からの、圧を感じた。
『ひっどいなぁ。散々私のことを使い倒した癖に』
「感謝してるよ?でも、それとこれとは話が別だ」
「俺の家が……何代もの家長が必死になって言い伝えて来たこの忠言の重みを…軽んじる気はない」
黒い猫。満月のような黄色の目。人語を解す化け物。信じるな。――泣いて喚いてすぐ逃げろ。
俺はごくりと唾を飲んだ後、言葉を返した。
「分かった、気をつけるよ」
「うん、気をつけてね」
そして、俺は部屋を出て自室へと戻った。
懐に抱えた三月猫は宙に浮かび上がり、そして他の人には見えない姿となったと言った。
部屋に戻って来て、俺が英雄志願者に見られても何の反応もなかったことから、きっと事実なんだろう。
そして朝食まで暇だった為、俺は部屋では筋トレをする英雄志願者の足を押さえたりとか、現代で聞いた筋トレ情報を教えたりした。
「筋トレはいっぱいしまくるよりも一旦休憩日を設ける方が筋肉つくらしいぜ」
「え、マジ!?」
「そそ、超回復つってさ」
「え、めっちゃ強そうな名前」
……………そして、午前7:00。朝食の時間となった。
一階へと英雄志願者と降りていく。
いっつも食堂で食べる時に必ず3、4回は不運にそうぐうするが……、
――今日は、この猫が居る。
『任せたよ、三月猫』
『はーい』
そう側でふわふわと浮かぶ三月猫に、テレパシーで会話した。
……それにしても、テレパシーだよテレパシー。透明で周りからは見えない三月猫が、浮かんでテレパシーだよ。
なんかもう、今更だけど一人一個しかない能力の法則はどこ言ったんだっていうね。
まあ一人じゃないからなのかな。
頼りになりまくる護衛だし、とやかく何かいう気はないけどね。
……いや、神城の言ってたこともあるし怖いけど。
そんなことを思って歩いていると、食事を受け取れる場所へと着く。
目の前に並ぶは、木製のお盆の上にパンや野菜やスープや肉と、暫く異世界で生活した俺にとってはかなり豪華な食事が乗っていた。
今思えば、英雄志願者に連れて行って貰ったあのお店は、値段の割には豪華だったことに気付く。
……ま、ここに来てもう3日もたったから慣れちゃったけどね。
生活水準は上げるのは簡単なのに、下げるのは難しい……ここから逃げた後の生活が少し心配になった。
そんなこんなで食事の前へときて……そしてお盆を持った瞬間……、
パキリと嫌な音がした。
何回か、この体験をした俺は……すぐに、何が起こったかを理解した。
お盆を持った部分が割れたのだ。
そして、いつもなら食べ物もお皿も諸共地面へと落下する……はずが。
――お盆は、ヒビを残しながらも健在していた。
三月猫が、落ちるのを阻止して、お盆を浮かせたのだ。
……良いじゃん!これめっちゃありがたいんだけど!
そう心の中でほくそ笑んで、掴んでも大丈夫そうなところを掴み直し、足を進め――
――躓いた……が、
転ばなかった。
これもまた、三月猫が俺を後ろに引っ張り、支えてくれたのだ。
最っ高かよ!!
俺は、昨日や一昨日のやらかしを思い出して、この手助けのありがたみに涙した。
そして、ようやく食事のできるテーブルへとつき、食事を開始する。
フォークとスプーンを手に取り、まずはメインから……と行こうとした瞬間。
『この肉、まだ生焼けだよ』
そう三月猫が言った。
『美味しく食べれはするとおもうけど……多分君たちなら腹は壊すね』
『…………マジかぁ』
俺は、仕方なく近くにいた獣人。ペシーに声をかけ、
「この肉いる?」
と問いかけた。
彼女は返事はなく、さっと俺の皿から肉を取った。
「ふふへへ、ありがと」
その感謝の後、涎を垂らした彼女はその肉をがっついた。
基本的に肉は生肉が1番と語っていた彼女は多分、この肉で腹を壊すことはないだろう。
……食べたかったなぁ。
そう、俺は思い残した。
そうして、朝食の時間は何もなく終わった。
一応、またご飯をぶっかけられそうになったが、それも防いでくれた。だからもう、何もなかった。
こんなに何もなく食べれたのは、この生活が始まって初めてだ。
『すっごい頼りになるわ』
『ふっふーん。そりゃあ私は伝承に残る名高き三月猫だもの』
『あ、そういえばなんで今日の朝ぺシーに化けてたの?』
『え?だってあの姿で彼に襲われてそうな格好したら、絶対に話が拗れるでしょ?』
『そんなの絶対面白いじゃない』
『実際めちゃめちゃ面白かったし』
そう言ってケタケタ笑う彼女を見て、俺は少し――心を許しそうになった。
――コイツを絶対に、信じるな。
その神城の言葉を思い出し、俺はピクリとからだを震わせる。
そして、一呼吸し、気を引き締め直した。
……………そして、時刻は8:00。勤労の時間だ。
場所は、瓦礫の山である元別邸。
話を聞いた感じ、元々ここは騎士様たちの宿舎だったそう。
それを神城が油を撒いて火をつけてぶち壊した結果がこれ。
……なんかめっちゃ恨まれてそう。
正体バレた後の復讐とかそういうのがマジで怖いわ。
ま、とりあえずそういうのは置いといて……、この瓦礫撤去は、主に二グループに別れている。
大きな瓦礫が撤去出来る奴らと、出来ない奴らで、だ。
神城や、獣人ということで力の強いペシー。ドルダンさんなんかは能力が使える。
他は瓦礫を載せた荷台を運んだり、細かな瓦礫を掃除したりといった感じ。
ただまあ日によって出来る奴らもこっちに混ざったりするから、結構色んな人と話はできた。
不運もあったが、三月猫のお陰で楽に回避ができた。
………………
………
…
夜20:00。労働も終わり、晩飯も食べた。
とりあえず、めちゃくちゃ三月猫の助けがありがたすぎた。
もうね…今日ほど気を抜いて動けた日他にないもん。マジで助かったわ。
……だからこそ、神城は信じるなって言うんだろうね。
今のところ、三月猫に悪感情はない。むしろ、好感を抱いている。
……あー、本当に怖いわ。本当に怖い。あれだけ悪いことを神城から言われたのにも関わらず、好感を抱かされている事実が、本当に怖い。
『ねぇ〜、ご飯まだ〜』
『英雄志願者が寝るまで待って』
そして、どうやらコイツには二食のご飯が毎日必要らしい。
流石に英雄志願者の前で堂々と与えるのは怖かった為、英雄志願者が寝付くまで待ってもらう。
そんな会話をしていると……英雄志願者は、「ちょっと出かける」と言ってベットから起き上がる。
「おう、いってらっしゃーい」と返すと、英雄志願者は――
――三月猫がいる場所をわざとらしく屈んで避け、外へと出た。
……俺と三月猫は顔を見合わせ、俺は呟いた。
『え、バレた?』




