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27話 #紫の花弁 こ、これが私たちの……異世界生活

 さて、とりあえず指示は出した。


お金も渡した。


じゃあもうとっとと商業ギルドに行って手続き済ませるしかないな。



 そう思い、私は部屋から出て、外へと出ようとした時……、



白兎(しろうさぎ)ぃ。ちょっと話したいことがあるんだが、いいか?」



 その声が私を呼び止めた。



 私はその声に反応し、その声の方向へと向く。


そこには、先生が立っていた。


先生は、少しあくびしながら私に言った。



「……なぁ、白兎(しろうさぎ)。俺たちは帰れると思うか?」



 物凄く真剣そうなことを聞いてきたなぁ…と。私は思った。


けど、瞼を擦って欠伸しながら聞いてるから全然真剣さが伝わってこなかった。



 私は答える。



「帰れるかは分からないけど、帰る為の努力を惜しむ気はありません」



 その言葉に、「そっか〜…そうなるとやっぱするしかないかー?いや、だるいなぁ」と先生は呟いた。


そして、ふらふらと歩いた後……先生は言った。



「授業をしようかと考えてるんだが、協力してくれないか?」


「……え?」



 その言葉に、私はハテナが大量に頭の中で回った。



 ――この異世界で授業……?なんで?



 その疑問に答えるように、先生は説明を続けた。



「そうだな……仮にぃ、俺たちが元に帰れたとして、それにはどのくらいの時間がかかると思う?」



 私はそう聞かれ、少し考えてみた。



 まず、遍歴商人になるとすれば、その生活が安定するのは……恐らく半年とかかかると思う。


自分から行動を起こして調べていって……



 悩んで、答えた。



「そうですね……少なくとも1年はかかると思ってます。場合によってはそれ以上」



 その言葉に先生は頷いて、



「あ〜、やっぱそんぐらいかかるかぁ」



と言った後、私にまた聞いた。



「それじゃ、()()()()()()()()()()()……どうなってると思う?」



 その言葉に、私はドクンと心臓が跳ねるのを感じた。



 "元の世界の経過時間"……この世界に来てから考えるべきことが多くて、完全に抜けていた問題。


そうだ。もしかしたら……もしかしたら――



「浦島太郎みたいなことが起きるかも……て、言いたいんですよね」



――戻れた時には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 背中が冷たくなる恐怖を感じながら聞くと、先生は「そ」と返事をした。


そして、私が怖がってるのを感じたのか、安心させるように、



「まあその逆。あっちでは殆ど時間が経ってないって可能性もあるから、そこまで心配することじゃないよ」



 具体的なことは何も分からないんだから……と付け加えて、そう言った。



 そうだ。最悪な妄想ばかりするべきじゃない。


まだ、分からないんだから。



 そして、先生は「さて!」と区切りを入れ、説明を続けた。



「そうだな……戻って来れた時。これで仮に君たちが18歳を超えてたら、どうする?……今、進学を希望しているのはお前と吉野(よしの)だけだ」


「そして、2人の学力に関して心配はしていない」



 その言葉にこくりと頷く。



 私も彼も、現時点で日本の最高峰の大学に受かれる学力はある。


ただ、彼はそれじゃ満足はしないと思うけど。



 続けて、先生は言った。



「だが、もし元の世界に戻れた時に他の奴らが心変わりした時。受験をしたいと考えた時、その学力がなかった場合、その選択は選びずらいものになってしまう」


「君たち生徒の将来が、潰れてしまう可能性がある」


「……少なくとも、これまで受け持った生徒の中だと、必ず1人以上はそういう奴は現れた」


「だから、俺は君たちの将来を扱う聖職者、教員という立場上それを第一に考えないといけない」



 先生は、私を真っ直ぐと見つめてそう語った。


いつもは不真面目でだらしない先生だったのに……この時ばかりは、少しカッコよく見えた。


いつものギャンブル大好き人間と同一人物には、思えないほどに。



 そして、



「ってな訳で、俺はこの世界で授業をしようかと思ったんだが……どうだ?」



と私に改めて聞いてきた。



 私は、少し悩む。



 先生の言い分は最もだ。当然のように、協力したい。



 ……でも、授業をするっていうのはどうなんだろ?


そんな悠長なことをする時間はない。それに、授業を何時間もかけてダラダラとするくらいなら元の世界に戻る為に努力する方が建設的だ。


だって、その学力が必要になるのは、元の世界にもどれた"後"のことだし。


さっき言われた、向こうでの今がいつかってことを考えると尚更。



 ……となれば、



「私は授業とかじゃなくって、教科書を作って誰でも自習できるようにする……とか、そういうのの方が良いと思います」


「授業をするより、元の世界に戻る為の努力をする方がいいと思うので」



 幸い、私も()()()()()()()()()()()()()()


覚えているから、全く同じものを書くことも、できる。



 私のその言葉に、「あ〜」と少し考えた後、



「そうだな、その通りだな。そうしよう」



 先生はそう返事をし、私に「それじゃあ()()()()()()()()()」と言って、欠伸をしながら部屋へと戻って行った。



 予想以上にあっさりと納得して戻って行ったから、私はあっけに取られて棒立ちになった。


そして……気付く。



 あ、これ『ドアインザフェイス(door in the face )』だ。



ということに。



ドアインザフェイス(door in the face )とは。


初めに「大きな要求」をして相手に断られた後に、本命に関連する「小さな要求」をすることで、本命の要求を受け入れてもらいやすくするテクニックである。



 今回の場合、先生は「授業をしたい」という要求を私に断らさせ、「教科書を作って」という本命の要求を受け入れやすくした。



 確かに、最初っから「教科書作って」なんて要求をされても私はかなり頷き難かったと思う。


だって数百ページの教科書を何冊も書くのよ?


みんなの為とはいえ中々厳しい……主に腕が死んでしまう。


断ることはなかったと思うけど、その場合私は難色を示しながら先生に何かねだってた気がする。



 それを無条件に……くぅ〜、やられたわ!



 ――鳴城(なきしろ)先生は、元々プロのギャンブラー。


海外で年間数千万円稼いでいたとんでもない人。



 ……この家の中で、1番心理戦に長けているのは、先生かも。



 私は改めて、先生のヤバさを思い知った。


それと同時に、絶対後でスイーツとか奢って貰おうと心に決めた。



 そして、私は漸く商業ギルドへと行こうかと思って………、そういえばと思い出す。



 ――今日初めましての、彼女の存在を。



 ……今のうちに、多少の手札は計らないと、ね。



 そして、私は彼女の部屋へと足を進めた。


場所は近い。先生の隣の部屋だし。



 数歩歩いて、すぐ着いた。


コンコンコンっとノックをした後、「はい、只今」という返事が聞こえてすぐ。扉は開かれた。



 部屋の内装は、来たばかりの頃と何も変わらなかった。


凛と佇む使用人さんを、私はまっすぐ見つめる。



「どうか、なさいましたか?」



 そう聞いてくる彼女に、私は微笑みながら言った。



「ちょっと、お話がしたくて」



 その言葉に、「かしこまりました」と返事をして彼女は私を部屋へと招き入れた。


私はそのままスススっと中へと入り、ベッドの上に腰をかけた。


そして、目の前に立つ彼女に私の座ったベッドの右側をポンポンと手で叩いて私は言った。



「ほら、シーちゃんも座って」



 そう促されるまま、彼女は私の横に座る。



 ――『スティンザー効果』


座る位置によって、相手からの印象が変わるというもの。


隣に居る人からは物理的な距離の近さから、心理的や距離の近さへと繋げられる。



彼女は胸の方に手を持っていった。



 緊張、しているみたいだった。



 ――私は、心の中で笑った。



 私は彼女に質問をした。



「ねね、シーちゃんの生まれは?」


「私は商会に生まれた次女です」


「遠い親戚からの縁故で、この仕事を商会されました」


「へ〜、ってことはシーちゃんお姉ちゃんいるんだ」


「はい、居ます」


「シーちゃんはお姉ちゃんのこと、好き?」


「……いえ、あまり」


「そっか。あ、シーちゃんってこの王都に来てから長い?」


「……2年くらいでしょうか」


「お、それじゃあ色んな場所知ってそうだ」


「今度、案内してよ」


「構いません……けど」



――『ネームコーリング効果』


人から名前を呼ばれることで相手への好感度が上がる効果。



――『フランクリン効果』


人からお願い事をされると、それを引き受けた側の好感度が上がる効果



 彼女は手を下ろし、膝の上へと乗っけた。


そして、彼女は自分から口を開いた。



 ――私は、心の中で笑った。



「すいません、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」


「何でも聞いて良いわよ」


「あの……最初会った時は殆ど何も話して来なかったのに、なんで今になって……」


「あー……実はあの時めっちゃ緊張しててさ」


「マジで全っ然話しかけようとしても、出来なくてぇ」


「だからなんか、ずっと私仏頂面じゃなかった?」


「そう……もーね、めちゃくちゃ緊張してたの」


「そう、なんですか」



――『ゲイン・ロス効果』


初めにネガティブな印象を与えた上で、後からポジティブな印象を与えると、最終的な評価が強くポジティブなものになりやすいという現象。



――『社会的浸透理論』


簡単に言えば、自己開示。


自分のことを曝け出すと、相手の好感度を上がる現象。



「私も結構、初対面の人と話すのは緊張します」



――『返報性の原理』


私が自己開示をした結果、相手もそれを返さなきゃと働く心理効果。



――『類似性の法則』


自分と似た特徴のある人に親近感が湧くという心理効果。



 ――彼女は、あくまで使用人という立場でいながら……私に微笑みかけた。



 ――私もまた、笑った。



「――――なんだ」


「〜〜〜〜でしたね」



 人との親密度を上げるのは、それほど難しくない。


皆無意識に使っている心理効果を、意識的に使っていけば……簡単だ。


先生のアレはちょっと上手すぎて気づかなかったけど……ええ!気づきませんでしたけど!


私だってこれでも才女。


この程度のことなら、簡単にできる。


先生に大きく劣ってるなんて……思わない。



 ――ええ、本当に簡単だった。



 さて、ある程度の親密度を手に入れた。


とはいえ能力だったりを聞いても、絶対に答えちゃくれない。



 ……なら、反応で探りましょうか。



 そう私が決心すると――



――私はすぐに、ギュッと彼女を抱きしめた。



「ん、ぇ!?な、何突然!」


「いや〜、ちょーっと抱きしめたくなってさ」



 彼女から、驚きは感じ取れた。


しかし、それ以上の何かは感じ取れなかった。


抱きしめた時にした硬い感触から、腹部周辺に、何か仕込んでいることが分かった。


チャリンと私の耳飾りが揺れる。


彼女の耳飾りも揺れる。



 基本この世界での貴族のつけるアクセサリーは付与具だ。


当然、装飾品としての意味合いもアクセサリーにはあるが、それ以上に危険から身を守る為。秘密裏に目的を遂行する役目が主だ。



 そんな色眼鏡をつけて彼女を見ると……うん、分かったわ。


一番に印象的なのは片耳につけた耳飾り。



 ……けど、恐らくあれはブラフ。


さっき言った情報を逆手にとって、注意をそっちにむける為の。


恐らく本命は襟首を締める為のボタン。


そこだけボタンが()()()



 抱きしめる時…近づいて1番に気になった所だ。



 締めやすいようにら小さくするならわかるが、おおきいなんてあり得ない。


デザインでそうなってる?まさか、襟で隠れて殆ど見えないわ。



 それに、彼女は緊張していた時に、そこへ無意識に手を伸ばしていた。


片方の情報だけじゃ、確信には至れないけど、こうして二つ情報が揃ったなら……



……うん、恐らくあれがそうね。国との連絡手段。


違くても大事なものには変わりないでしょう。



「満足しましたか?」


「うん!十分満足したよ」



 そう言って、私は立ち上がった。



 ……粗方情報は手に入れられたし、そろそろギルドの方に行かないとね。



 そうして、私は「それじゃ、行くね」と言って外へと出た。


シーちゃんは立ち上がって、「行ってらっしゃいませ」と言葉を発した。



 残り、彼女の情報で欲しいのは能力のこと。


まあ、それは追々聞き出しましょう。



 私はそう心の中で決めた。


………………

…………



 借りた家から徒歩25分。


商人ギルドに、私は到着した。



 ……商人ギルド。その名前は、元の世界にも存在していた。


中世に存在していた、相互扶助を目的とした団体。


その主な目的は、営業権の防衛…遠隔地取引の安全といった、簡単に言えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 そんな場所に、なぜ遍歴商人を志す私が行くか。


理由は簡単。本に、書いてあったからだ。


定住も遍歴も関係なく、登録はしとけと。



 理由の予想はついた。


十中八九、付与具による他支部との連携が出来たからだろう。



 だから、ここで登録した人が別の都市で問題を起こしても対応出来るようになった。


だから、商人は必ず登録しろ。……こういうことだろう。



 他にも何かとんでもない事情があったりするのかもだが、とりあえずそれはいい。


役に立つようなら、登録する。


それだけでいいでしょう。



 そうして、私は商人ギルドの中へと入って行った。


………………

…………



 中はきちんと清潔感のある……でもやっぱり中世さというか古臭さを感じる場所。


カウンターには5人の店員さん。それと、そこに並ぶ複数のお客さん。


1人の列だけが異常に長かったが、それ以外は殆どどこも並んでいなかった。



 私は1番近くの列の人のところへと行った。



「本日はどういったご用向きで……」


「登録をしにきました」


「かしこまりました。それではこちらに名前を……書けないのでしたら、口頭でお願いします」


「はい、分かりました」



 そして、私はペンを持ち、そこに名前を……三葉(みつば)と書いた。


ファミリーネームも書くとややこしいことになりそうだったから、やめた。



「はい、ミツバ様ですね。それでは登録料の3万フィーラをお願いします」


「はい」



 そして、私は懐から金貨1枚を出して彼女に渡す。


そして、私はお釣りとして銀貨7枚を受け取った。



 その後、彼女は書き終えたその紙を、後ろにある…コピー機?のような形状のものに入れる。


そして、入れ終わった瞬間に下からカード状の何かが出てきた。


そして、それを私に渡してきた。



「こちらで登録は終了となります」


「何か、質問ございますか?」



 そう言って。



 私は予想以上に簡単な手続きに拍子抜けした。



 ……でもまあ確かに遍歴商人に住所はないし、書けるのは名前だけか。



 そう納得して、そういえばと思い、列について聞いてみた。



「あの列は何の列ですか?」



 その問いに、彼女は答えた。



「あれは、融資のご相談用の列です」


「何かの商品開発だったり…または何かの研究の為にお金が必要な人たちが商人ギルドに融資契約をするためにならぶ列です」



 ……融資、か。


今はまだお金があるけど、いずれ必要になったら並ばないとね。



 そして、私は「ありがとうございましたー」と言って外へと出た。


空はまだ明るい。



 折角だし、ちょっと観光しましょっか。



 そうして、私はブラブラと適当に歩き始めた。


………………

…………



 少し空が焼けてきた時間帯。


私が家に戻ってくると、庭の外で神城(かみしろ)君と古巣(ふるす)君が叫ぶ。



「アッ…くっ、これ……、あ!!ね、白兎(しろうさぎ)ぃ!!」


「こっ…う、馬!これどうやって躾……ちょっ、助けて!!」



 ………あー。



 私は苦戦する2人を眺めて、そういえば慣れてないとそうなるよなぁ…と納得した。



「荷物置いたらすぐ行くよ」



 少し声を大きく出しながら、私はそう言った。


とりあえず、お金を持って動くのは危ないから。



 私は扉に手をかけた。


そして、家の扉を開けて中へとはいると、影梨(かげなし)ちゃんが飛び出てきて言った。



「し、白兎(しろうさぎ)ちゃん……あの……」



 不安気な顔で、影梨(かげなし)ちゃんは言った。



「野菜、ぼったくられちゃった……」



 ……あー。


そっか。海外……慣れてないとそうなるのか。



「し、白兎(しろうさぎ)。ちょっ早く」



 私を呼ぶ声があちらこちらから聞こえてきた。


私は思った。ひたすらに思った。



 ……異世界生活、大丈夫かしら。



 脳裏にあの融資の列が思い浮かぶ。



 私が債務者になるのも、遠い話じゃないのかも。



 私は遠い目をしながら、そう思った。

心理学って良いですよねぇ。なんかかっこいい。

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