24話 #桃の花弁 餓鬼
ヤバいよ〜、マジで筆が進まないよ〜。
……いや冗談抜きでマジでヤバい。
朝起きて、身支度を整え、朝ごはんを食べ、口入れ屋に行く。
そこで能力の関係ない仕事があるかを聞き、ないと言われたらすごすごと宿屋に戻る。
宿屋には次の日の延長料金を支払い、部屋へと戻ってやるべきことをやる。
食事を買うのは高いし危ないから朝ごはん以外は全て自分で炊事を。
洗濯だってしないといけない。
自分の能力の検証もそのやるべきことの一つだ。
でも一番は大変なのは不運によって壊れたものの修復だ。
壊れ過ぎると買い替えないといけないし。
そうして毎日毎日繰り返し、みるみる内に減っていく自分たちの路銀を見て、焦りを募らせる。
未来からの仕送りは期待出来なかった。
白兎たちはまだ外へと出ておらず、お金はこの100年で変わってしまったらしい。
それに、他のクラスメイト達との連絡をしたいからっていうことで、暫くはこっちに手紙は送られて来ていない。
あの話し合いから二日後に、欲しいものとか知りたい情報を全部書いてって手紙が来て、それらをこっちに送ってからは一通も来ていない。
このままじゃマズイなぁ……そんな不安だけ募っていったある日。
「……あ、ある。なんか、新しいバイトある」
「しかもこれ能力不問だしめっちゃ日給高いぞ?」
「え、何て書いてあるん?」
「っていうかこれ……紙だ」
俺たちが口入れ屋に行くと、机の上には一枚の紙が置いてあった。
今までは全て木簡に書かれていたものだったが、これは紙…羊皮紙だ。
読めない俺と神城の為に、英雄志願者は読み上げた。
⭐︎短期バイト募集!⭐︎
領主主催のバイトです!
領主邸の崩壊した建物の瓦礫を撤去するバイトです!
日給は一日金貨1枚、仕事は朝8時から夜17時までで、朝昼晩の食事付き。4月25日からの住み込みのバイトとなっております!
応募したい人は4月23日までに領主邸の門番に話を通しておいて下さい。
かなりの数の応募が予想される為、こちらで厳正な選考の元、24日にこのバイト参加可能者に可能である旨を報せに参ります。
能力は不問、経歴年齢人種も不問、どしどし申し込んで下さい。
俺は一通り全て英雄志願者が読み上げるまで聞いて、俺はその情報を頭の中で整理した。
何が何か、このバイトの意図をじっくりゆっきりと精査した。
そして、自分の中で結論が出ると同時に俺は心の中で叫ぶ。
これめちゃくちゃに怪しすぎるわ!!
いや、だって能力とかその他諸々不問とかって言ってる癖に選考するっておかしいじゃん。
普通条件を絞って人数を調整するでしょ?
しかも金額とか住み込みとか好条件過ぎるし。
これ絶っ対、俺こと"魔族"を釣りに来てるって。
審査基準シンデレラみたいにあの靴にハマった人とかそういう感じじゃん!
いや無理無理無理無理無理無理――
そう心の中でヤバイという危険信号が鳴りまくっているのに対し、
「――よし、じゃあ早速申し込みに行こうぜ」
「そうだね、それじゃあ行こ―」
2人は意気揚々に申し込みに行こうとした。
そんな2人に飛びつき、俺は必死に主張した。
「いや、ダメ。絶対にやめて。俺死ぬから」
「いやでも…「ダメ」」
「行こうぜ「やだ死ぬ」」
「大丈夫だって「いやダメ。絶対ダメ無理」」
俺は何度も2人と会話を交わし、そうしてどうにかバイト参加を拒否することに成功した。
なんとか成功してよかったとかなりの安心感を得たことは記憶に新しい。
――これが、2日前の話だ。
そして現在。
「あ、壊れた」
「……早かったなぁ」
俺たちの目の前には、穴の空いた鍋が置かれている。
昨日買ったばかりの鍋だ。
自炊と称して庭で色々と煮込み料理とかを作っていたら、当然のように色々な不運に見舞われ、その不運を一身に受けた結果がこれだ。
鍋の持ち手はめちゃめちゃに折れ曲がり、鍋底もベコベコ。
今日鍋を洗っていた瞬間、鍋底が抜けたのだ。
この時代のものだからっていうのもあるだろうが、それでも2日で壊れるのはかなり早い。
かなり使い勝手が良かったし、結構悲しい。
「これは買い替えだな。……あれ?これなんか、普通に外食する方が安かったんじゃね?」
そんな俺の呟きに反応するように、洗い終わった皿を抱えて神城は言う。
「いや〜、流石に毎日毎食外食だと自炊の方が安そ――」
そこまで言いかけた所で、神城は躓き倒れた。
そして、当然のように地面に皿がばら撒かれる。
ガシャーンッ!!という音が耳に入る。
俺はその惨状をみなから、「あー……怪我は?」と聞く。
「た、多分大丈夫。とりあえず、皿も買い替えよろ」
「片付けは俺がやるわ」
「わ、分かった。もし怪我したなら無理するなよ」
そう会話を交わし、俺は今壊れたものの買い直しに行くこととなった。
そして俺は部屋に戻って神城とシェアしている買い物用の鞄を持って、近くの雑貨屋へと足を運んだ。
――金がマジでねぇ。
そう思いながら。
足取りは重かった。
……………
………
…
スリには最大限の警戒を。被害は最小限とするために。
ハザードマップを頼りに安全だと思う道を通り、俺は雑貨屋へと辿り着いた。
怪我はなかった。服もボロボロになることはなかった。
最近じゃあもう不運で服が破れ、帰ってから縫い直すなんてことも少なくなったし、この土地に俺も大分慣れたってことだな。
いやもう普通に俺凄いと思う。
これほどまでに不運を飼い慣らした男なんてそうそういないでしょ。
内心、心の中で自分を褒め称えながら、安めで壊れにくい鍋。それと、割れにくい皿がないか店内を見て歩く。
鍋…銀貨1枚……銅貨9枚灰銅貨5枚……お、銅貨7枚……ダメだ。ボロボロ過ぎる。
鍋の値段を見て、苦悩する。
前の鍋が二日で壊れたんだ。
宿屋で食事つきを選んだらプラスで銅貨3枚。
だから宿屋に頼めば二日で銅貨6枚。で、あの鍋が銅貨8枚灰銅貨7枚。
……マイナスだなぁ。
だから食材費とかも考えると鍋はせめて四日は持ってくれないとか。
それと皿……あー、ヤバイなぁ。金がねぇ。
暫くの間鍋を見て周り、俺は値段に苦悩する。
……はぁ、とりあえず今持ってる金を確認するか。
そう思い、鞄の中からお金の入った袋を取り出す。
そして、袋の中を見て……「あれ?」と疑問符を浮かべる。
袋の中に、もう一つ小さな袋があったのだ。
今現在、俺たちは所持金を二つに分けていた。
一つは、私生活の買い物用のお金。そのお金がなくなってもまだ大丈夫な、そんな額を入れていた。
今日みたいに俺も買い物に行くことがあるから、その時紛失しても大丈夫なように。
そしてもう一つは、そのお金がなくなっても大丈夫な用に置いてある緊急用のお金。
中身には全て金貨を入れていた。
――いや、確かにこんな袋に入れてたけど、まさかそれがこれなんて……。
俺は、恐る恐る袋を開けて中を見る。
――キラキラと光る金色の硬貨。即ち金貨が、中に入っていた。
あ、ヤバイ。
俺の頬に冷や汗が伝った。
ゾワゾワと背中に寒気が走る。
嫌な予感しかしなかった。っていうかもう…え、マジ?
俺はとりあえず一度深呼吸し、考える。
えー、ちょっと待ってね。
今現在の俺の所持金約40万。金貨4枚と他何枚か。
んで、このお金でこれから鍋買って、残りのお金を持って宿屋へと帰る。
ああ、後皿も……いやいいか。ここで嵩張るものを買うのは危な過ぎるな。
でー、とりあえず買ったものを持って帰……帰…あれ?帰れるか?
なんか今までの経験上帰れる気がしねぇんだが。
っていうかなんでこれがこの鞄の中っていうかこの袋の中に!?
タンスの引き出しの中に入れてたじゃん!?
何、イタズラか??アイツらどっちかの仕業か!?ふざけんなよ!?生きてけなくなるぞ!?
あ、それが目的か!?あのバイト意地でもしたいからか!?
はーー???ちょっ、待っ、いやいやいやいや冷静になれ。
俺は深呼吸して、脳に酸素を送る。
そーだ落ち着け。冷静になれ。とりあえず神城はこんな洒落にならんイタズラはしない。
するとすればきっと、何らかの作為あっての英雄志願者の仕業だろう。
というか、一番可能性があるのはイタズラというより不運な事故だ。
そう、とりあえず犯人について考えるのはやめて、とっとと帰ろう。
こんな大金持って彷徨くのはほんと怖い。
そうして俺はそそくさと良さげな鍋を買い、それを携えて店を出た。
そして、店を出て帰路につこうとし……その道の先にめちゃくちゃな人集りが見えた。
場所的にはこの街の中央広場。噴水があったのが記憶に新しい。
俺は結構な嫌な予感を胸に抱きながら、その人集りに近づく。
そして、人混みの少ない所から人集りの中央を見ると、そこには白装束を纏い、なんか……天秤?みたいなものを持つ怪しげな集団が視界に映った。
……これ、通れない感じか?
いやいやいやいや、まだそうと決まった訳じゃないし、そう簡単に諦めちゃダメだよな。
俺は近くで見物しているおじさんに、彼らが何をやっているのかを聞いた。
「すいません、これって何をやってるんですか?」
その言葉に、おじさんは笑いながら答える。
「はっはっは、兄ちゃんそんなことも知らんのか。田舎の出かぁ?」
「これはなぁ、週一で行うフェルフィア教の儀式。今日は儀式の日なんだよ」
「サン……え?」
知らない単語が出てきて、よく分からないが、とりあえずこれは儀式のようだ。
まあ、それはいい。問題は……
「あのー、ここっていつになったら通れますか?」
そう聞くと、おじさんは少し記憶を探りながら答えた。
「あー、確かいつも……一時間くらいは儀式をやってたなぁ」
その言葉を聞き、俺は「マジかぁ」と項垂れる。
一時間……待つか回り道するかが悩まれる時間だ。
ただ、この人混み……ここで待つのは――
――にょきりと、俺の服から手が生える。
そして、その手は鞄の中へと入りかけ――
――俺はその手を殴りつけた。
ここで待つのはちょっと怖過ぎる。いつスられるか分かったもんじゃない。
今のだって普通に盗られかけたし。何か気色悪い能力でスられかけたし。
となれば回り道……するしかねぇかぁ。
……うーん、なんっかこのタイミングの儀式から意地でも俺の金を毟り取ろうって意思感じるんだけど。
そんな感想を抱きながら、俺は渋々回り道を決意すると、俺はおじさんにお礼を言う。
そして、すぐ横の裏通りに入って行った。
記憶ではこの裏通りが宿屋への一番の近道だったはずだ。
ただ、デメリットとしてここはめちゃくちゃ治安が悪い。
ポツポツとホームレスの姿。
表通りよりもスリのリスクは少ないが、純粋にヤバイ奴らが多いから普通に危険だ。
マジでさっさとこの通り抜けて大通りに出よう。
怖過ぎるわ。
そう心の中で決心し、早歩きで歩いて行く。
そうして訪れた一度目の不運は金銭目的の輩に襲われたこと。
二度目の不運は、空から鳥が鞄を強奪しようとしたこと。
三度目の不運は、金関係なく建物が崩れ、死にかけたこと。
……うん、やっぱり金を奪おう。あわよくば命もって意思を感じる。
でも、俺はマジでこの金は死守する。
失ったらマジでおしまいだからなぁ。
そうして、あともう少しで大通りに出れるというところまで歩いて行き………、
………女の人の声が聞こえてきた。
同時に姿も見えてくる。
母親と思わしき女性と、小さな子供の姿だ。
その風貌をしっかり確認するよりも前に、その母親の金切り声が耳に入ってきた。
「はぁああ!??なーんでどんどん貰ってくる額が少なくなっていってんのよ!!!」
「こんなんじゃ全然腹一杯にならないじゃない!!!」
「…………」
姿が見えると、何をしているかは明らかになった。
母親と思わしき女性が、少女が乞食して恵んでもらったものにケチをつけているのだ。
ガリッガリの少女の姿と、貧乏には見えるが不健康には見えない母親の姿を見て、俺はそうだと確信した。
「チッ、とりあえず今日もアンタは食事なしで」
「…………」
「ほんっとガキなんて産むんじゃなかったわ」
「…………」
「今日も一日中外に立ってなさい。そうすれば多少はマシになるでしょ」
「…………」
聞いていて、気分が悪くなるような会話……一方的な喋り。
でも、今の俺に手を貸せるようなことはない。
金をあげても解決しない。養う?無理言うな、俺は"魔族"だぞ?
歩いて歩いて、だんだんと俺は彼女らに近づいて行く。
そのタイミングで、母親は「あ、そうだ」と閃いたように呟き、家からデカいノコギリのような刃物を取り出した。
そして、彼女は口を開く。
「足は迎えに行くのは面倒だし、まあ両腕のどっちかね」
「右と左……どちらにしましょう」
そう言って、少女の腕にその刃物を当てた。
少女は何の感情も無さそうな瞳で母親を見て、口を開くこともなかった。
今から彼女が何をしようとしているのかは……明らかだった。
物乞いの人が、敢えて自分をぼろぼろにするというのは、よくある話だ。
みずぼらしければみずぼらしいほど、より多く物を乞い願うこたができるから。
今、母親であろう彼女がしようとしているのは、そういうことだろう。
……助けるのは、無理だ。
俺は今色々な事情を抱えている。金がない。場所がない。"魔族"だ。"彼方者"だ。
養うことはできない。
……もしかしてこれを見せて俺に金を吐き出させようと?
……いや、例え母親にお金を渡しても、解決はしない。
一時的にに止めるだけで、何も変わらない。
無視だ無視。俺よ、無視をしろ。
そうして俺は、彼女らを通り過ぎた。
大通りまでは、後ちょっとだ。
そのタイミングで、空に無数の光が見えた。
キラキラと光るそれは、夜空に見える月から、少しずつ近づいて行った。
これ、あの儀式の効果かな?
そんな疑問が頭を過ぎる。
綺麗なその光景を目に映す。
心臓の鼓動がうるさい。
母親の声が耳に届く。
「ま、どっちでもいいわね」
「それじゃあ切っちゃいましょ」
歩いている身体が震える。助けたいと思う。でも現実的に考えてそれは厳しい。
俺は空の光景を目に焼き付ける。
少しずつ、月が欠けていっているのに気付いた。
綺麗だ。キラキラしてる。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。綺麗だ。削れてる。削れてる削れてる。削れてる。三日―――
衣擦れの音、靴が地面をする音。あの親娘の動きが耳に入ってくる。
無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。無視だ。―――
「………ぁ」
少女のか細い声を、俺はここで初めて聞いた。
先程まで母親から言われていた言葉にぴくりとも反応しなかった少女の声を、初めて。
クッソ神がッ!
理屈では、助けてはいけなかった。
俺の考えとしても、助けるのはダメという結論は出ていた。
でも、俺は自分の感情を無視し切れなかった。
「すいません奥さん」
俺は、少女の腕を切り落とそうと迫る刃物を買ったばかりの鍋でガードし、俺はそう言った。
刃物は鍋に食い込んでおり、もうこの鍋は使えそうになかった。
「な、何よ」
そう少し動揺しながら言う彼女に、俺は言った。
「この少女、銀貨3枚で買わせていただけませんか?」
母親は、恐らく予想だにしなかったその言葉に少し動揺しながら、言葉を返す。
「ぎ、銀貨3枚じゃ足りないわ。金貨1枚で売ってあげる」
金貨1枚……大体10万円。
奴隷売買のようなちゃんとした人身売買の場所でもないのに1人10万円はかなり高い。
しかも、売るのは栄養失調で意思薄弱な少女。
そういえば、大抵の庶民は金貨は持たず、銀貨を何枚か持つ人の方が多いと英雄志願者に聞いた。
かなり吹っかけてきてるなぁと思いながらも、俺は袋の中に入れていた金貨を彼女に渡した。
驚いてフリーズする彼女を置いて、俺は少女を背負い、走り出した。
今更いちゃもんつけられちゃ敵わないからな。
背負った少女は、とても軽かった。
「返事出来る?」
「…………」
俺は話しかけてみるが、返事はない。
ただ、呼吸していることは分かったし、もぞもぞ動いているのも分かった。気絶している訳でもないようだ。
裏道を走りながら、彼女をどうするかと思案する。
自分たちで育てるのはまず無理。国からのお尋ね者だし。
孤児院……うーん、まあどうしようもなくなったらそれしかないけど、預けた人が"魔族"だと明るみになったらやっかみが酷そうだしなぁ。
何かいい場所とかないか……ないか……ない…あ。
少女を背負って歩いて、着いた場所はボロボロの廃屋。
中に入ると、部屋の隅で丸まってる女性?と思わしき人。
ここは口入れ屋。俺が毎日のように来てバイトを探す場所。
……うん、ダメだろ俺。明らかに預ける人としてのセレクト間違ってるよ。
お願いしてもダメな気しかしないし。
でも、ここの他に俺が頼れる人とか関わってる人なんて殆どいないし……と、とりあえずダメ元で聞いてみるか。
「あの〜……」
そう恐る恐る声を上げると、ビクリと部屋の隅に固まる彼女が震える。
続け様に聞いてみた。
「今背負っているこの子を引き取ってくれたりしないですかね」
「依頼料として手持ちの金貨3枚を全て渡すつもりで……あ、足りなかったら後々稼いで渡すので」
「……………」
そう聞くと、沈黙がその場を支配した。
そして何秒か経った後、彼女は木簡に文字を書いてそれを俺に渡す。
その文字は、英雄志願者に教えて貰った文字の一つで、俺でも読み取ることができた。
――分かった。
木簡には、そう書かれていた。
その言葉に俺は喜びながら、おぶっていた少女を下ろし、金貨を依然として丸まっている彼女の近くに置いた。
そして、俺は屈んで少女に話す。
「今日からここであのお姉さんと暮らして貰うんだけど、分かった?」
「…………」
依然として沈黙を続ける少女は、こくりと頷く。
俺はとりあえず少女の食べ物でも買ってくるかと立ち上がると、そこで一つ思いついた。
少女がダンマリを決め込む理由を。
俺は、その言葉を…その許可を、口に出す。
「――喋っていいよ」
「……ッ!」
その言葉に驚いた少女は、キョロキョロと辺りを見渡す。
そして暫くの沈黙の後……口を開いた。
「……喋って…ぃいの?」
か細く、掠れた声でそう聞いてくる少女に、俺はこくりと頷いた。
すると、少女は続けて口を開く。
「一つ、聞きたいの。いい?」
その言葉にこくりと頷くと、少女は言った。
「お兄さんって、――偽善者?」
その言葉に、俺の心臓は飛び跳ねた。
予想だにしなかった質問。
痛い所を突かれたような、心臓を鷲掴みにされたような質問。
されど、それに対する回答は決まっていた。
「そうだよ、お兄さんは単なる偽善者だ」
その言葉に、少し満足したような顔で、少女は「そっか」と呟く。
俺は、食べ物を買ってくるということを伝え、食べ物を買いに行った。
――金、どーしよっかなぁ。
そう頭を悩ませながら。
…………………
…………
…
食べ物を少女に与え、宿屋に戻った俺は、今日のことを部屋で話し込んでいた英雄志願者と神城に話した。
「うっわ…さすが中世。乞食……乞食かぁ」
「僕の村じゃそんなことなかったなぁ。都会怖っ」
各々そんな感想を呟き、そしてあのお金のことに関してはこう言った。
「そういえばもしもの時用のお金だけど、俺触ってないよ?」
「僕も触ってないなぁ」
その言葉に、「マジかぁ。じゃあなんで入ってたんだ?」と呟いた後、俺は金策について話を切り出した。
「で、そんなこんなでお金が全くと言っていい程なくなっちゃったので、もう俺は例のあれしないとかな?って思った訳ですよ」
「例の……あ、まさか」
「お、行くのか?行っちゃうんだね!」
数日前に存在を知り、されども怪し過ぎるという理由で却下したバイトを、覚えているだろうか?
「例の領主主催のバイトに申し込む」
正直言って、ヤバイ予感しかしない。
でも、そうしないと普通に死ぬ気がするから仕方ない。
俺はため息を吐きながら、その意思を表明した。




