22話 #紫の花弁 お疲れ様!!
異世界生活6日目
謁見日、当日。
朝起きて外を見ると、外ではいつも通り古巣君が走っている。
私はそんな光景を見ながら、ほっと息を吐いた。
本当に……安心した。
マジで危なかったわ。本当に、本っ当に!!私がショートスリーパーでよかった。
だって……だって!!昨日の百歳君との会話を思い出しちゃって!!興奮しちゃって!!
結果、12時過ぎくらいまでは意識があった。
うん……そのあたりで、私を心配してか影梨ちゃんが来て頭をずっと撫でてくれてたのがよかった気がする。
ま、何かこの部屋でする為に来たのかもだけど、素直に感謝しよう。
……本当、せっかく寝ようとしたのに寝れなかったら話にならないからなぁ。
時計を見る。5時22分……さて、準備をしよう。
………………
………
…
朝食を摂ったら準備の時間。
私と影梨ちゃんだけでなく、全員で化粧をしてもらった。
その後、全員が渡された服を使用人さんに着付けをして貰い、その間台本にある台詞の練習をする。
怖さ故に詰まることすら嫌で、ひたすらに皆は繰り返し練習する。
かく言う私も、さすがに今日はドキドキだったから、真剣に練習を。
いかに成功する。させれるという自負はあっても、それとこれとは話が違うのだ。
それに、相手は傑物と謳われる王様……ほんっとに怖い。
ただ、そんなことを思っていても、時間は過ぎるもので…………、
時間となった。
私たちはいつも集まっていた大広間から、使用人さんたちに連れられて本館へと移動する。
渡り廊下のようなものはなく、外へと出て、本館の入り口へと移動した。
門番の人と使用人さんが会話を交わす。
私たちはその間近くで待機していると、気付く。
……あれ?ここの土、別館と少し質が違うな、と。
元は別館だけの領主邸だっただけだからか、地面から少しの違和感を覚えた。
その後、話が終わり、門番の人が扉を開く。
そして――中から、私は湿気を感じた。
湿っぽい、匂いだった。
その後中へと入り、そのまま真っ直ぐ先にあった謁見会場の扉の前で待機となった。
私はその待機時間に、使用人さんにガラスのコップと水を要求する。
そして、渡してもらったそれを地面に置いて……悟った。
――あー、やっぱり。
この城の地面は、傾いていた。
欠陥住宅というものをご存知だろうか?
地盤がしっかりしていない所で建築を行うと、地面が傾く。
雨漏りへの対策や、水上管なんかをしっかりと取り付けないと、湿っぽい匂いがする。
まあ、湿っぽい匂いに関しては、普通の家でも起こるのだけれど、今は置いといて……、
どれもこれも、さっき気になったものばかりだ。
そして極め付けは……、
「王様は、僅か半年足らずで、城を造って民の支持を得た」という先生から聞いた説明。
後はある程度の年月が経っているのに崩れないところとか、傑物とまで謳われる手腕から察するに、王様は……、
欠陥があることを承知の上で、他国から優位を得る為に無理矢理半年で城を築いた…ということね。
恐らく能力とかで無理矢理使えるものにして。
例えそんな保証があっても…一歩間違えばゴミになるかもしれないものを作るとか、正気じゃあないわ。
それに……、いえ。今はいいわね。
そうして新たな推測をしようかとし、止めた。
今考えるべきことは、謁見のことのみ。
一生懸命練習する皆の姿を見て、私も……と台本を取り出そうとした。
しかし、そう簡単に妄想は止められないもので……、
……それにしても、どんな能力ならこんな状況を作り上げられるのかな?
純粋に劣化をしなくする能力とか、そういうものな気がする。
欠陥って言っても、きっと長い目で見て欠陥となるものだろうしね。
そんな妄想を続けてしまった。
そしてそこから転がるように――
「…………」
――妄想が、加速した。
……え、そうよね。
流石に一時的な場凌ぎの為の能力なんかじゃ……え、ええ。きっとその筈。
そうして、私は疑念の解決の欲求が、台詞練習よりも上回った時。
私は気になって、こっそりと下のカーペットを剥がしてみた。
……張り替えた痕を見つけた。床の板が腐食しているのが見えた。
経年劣化…していた。
先程言ったように、湿っぽい匂いは水道管や雨漏れ対策の他にも原因がある。
それは、気温差によって発生する壁の中の結露。それが下に落ちていくことによって、一階には湿っぽい匂い。
それだけじゃなく……、床板や支柱が腐っていくのだ。
そう、床板だけじゃない……支柱も、よ。
他の所も軽く見るが、全体的にぼろぼろだ。
いつからこの城がこうなっているのかは分からないけど、分かることはいくつかある。
順調にこの城は朽ちていることと、もうこの城は長くはないこと。
だって、十中八九城を支える支柱が腐ってるのよ?この城三階まであるし、多分すぐ崩れるわ。
そう、むしろ今まだ大丈夫なのが驚き――
――え、待って。そんな城で、私たち今から謁見受けるの?
い、いやいやいやいや。きっと、例え経年劣化しようとも問題ないような能力が施されてる……施されてるのよね?
だってそう!偉大なる賢王が支える国、支える城だもん。きっと大丈夫。……その筈。
そう自分を誤魔化す為の言い訳を繰り返す。
それと同時に、バキッという何かが壊れる音が聞こえた。
私がその音に反応し、そちら側へと顔を向ける。
「うっわぁ……床板抜けるって、俺たちの学校かよ」
視界には、そう片足を床に突っ込んで、そう文句を言う神城の姿が見えた。
そして、その姿を見ながらも、依然として笑顔を保って対応する使用人さんが見えた。
……え、無理無理無理無理。こんな危険な所、少しでも居るの嫌なんだけど。
私がいかに幸運だからといってもさ、心臓の強さは一般人と変わらないのよ?無理無理無理無理。
私は、とりあえずとっととこの謁見を終わらせてこの城から出ることを決めた。
そして、台本を手に取り、目の前の恐怖を忘れるべく練習に没頭し――
――その数分後……、時間となった。
午前10時00分。謁見開始。
「これより、彼方者御一行の入場です」
そう声を張り上げ、紹介を受けると、ガチャリと目の前の扉が開けられた。
私たちはピシッと背筋を伸ばし、待機する。
ゆっくりと……目の前の扉が開かれる。
段々と開かれていく景色は、一言で言うと……質素だった。
物があまりない。
警備につく騎士様や、床に敷かれたレッドカーペット。
その他、幾人かの貴族様方。私たちがすれ違い、跪いた人も何人か居た。
もちろんその中には私が回復薬をねだった彼もいる。
そして、ど真ん中に座っている王様。
王様の後ろに置かれた石像なんかはあったけど……全体的に白を基調としたこの部屋は、お城感はあまりなく……どちらかと言うと教会とかそんな感じだった。
けど……、荘厳で、厳格さを感じさせる空間だった。
青のマントを羽織る王様の姿は、まあ完結に言えばそこら辺にいるおじさん。30歳程度のおじさんだ。
……この国王は、実年齢は60超えているのか。
私は恐怖を感じた。私は威厳は感じた。いや、それどころかすれ違った時の威圧もあの時以上に感じた。
けど、それ以上の何かは感じなかった。
ゆったりとした歩き方で、中へ中へと入って行く。
私は先頭で。予め言われた通りの場所へと歩いていく。
後ろの皆の姿は見えないものの、足音からしっかりと歩幅とタイミングを合わせて歩けていることが伺える。
練習の成果が、しっかりと出ていた。
そして予め言われていた場所まで歩き、私たちは立ち止まる。
そして私たちは跪いた。
殆ど音が乱れることはなかった。
そして、私たちがそうして跪いて少し……、高々とさっき私たちを中に入れるよう言った人と同じ人が、声を上げた。
「アルダス・ドレアス・オルガルド国王陛下の入場です」
次の瞬間、ザッと言う音が耳を翔けた。
それが、貴族様方の跪く音だと気付くのに、そう時間はなかった。
その音は、少しも乱れてなかった。
そして、カツカツという足音が聞こえた。
あの時と、同じ足音。一定間隔、一切のズレがない歩き。
瞬き数回の後、その音は止み、椅子の軋む音が聞こえる。
そして……、
「これより、彼方者一向の国王陛下との謁見を開始します!」
「来賓の方々は、お寛ぎ下さい」
そう案内され、周りの貴族様方が席に着くと共に、
定型化された言葉の交わし合いが始まった。
私たちは言葉を交わす前から、荘厳かつ、厳格な雰囲気に……圧倒される。
瞬き一つすることが、出来ない。許されないと思わされた。
そして、何度も見直した台詞が、その王様の口から交わされる。
私が言葉を発するまでのカウントダウンが、始まった。
3
「初めまして、彼方者諸君」
低い、威厳を感じさせる声色。
……怖い。
私たちにこの場で身じろぎする権利は与えられていない。
しかし、思わず一歩足を後ろに動かしてしまいそうになった。
恐らく、皆もそうだろう。
こんなもの、今までの社交場で感じたこともなかった。
表情を変えないように、姿勢を崩さないように忍んで務める。
今そんなことをしてしまえば、全てが台無しになってしまう。
私たちがするべきは、何ごともないように口を噤むだけだ。
「…………」
そしてまたゆっくりと、口を開かれる。
言葉が、紡がれる。
2
「今日は良くぞ参った」
刻一刻と私の台詞への時間が迫ってくる。
頭の中で、台詞を何度も繰り返し練習を行なった。
次の言葉の後、私の台詞の番が来る。
「…………」
1
「よろしく、頼もう」
次の瞬間、音が鳴った。
足音だ。
騎士たちの足を鳴らす音。
それが耳に聞こえた。
それは予め分かっていたことだ。けど……、
聞こえたのは、ただドンッという揃って足を踏む音。
それだけの筈なのに、教え聞いたものとは全く別物のように思えた。
規律された音。軍隊で…動画で似たようなものを見たことがある。
……けれど、それとは全く違った。
生だから?いや、それだけじゃない。
この場所の雰囲気から、私たちがその渦中にいることから、一斉にざっとこちらを見てくる視線から、
視線が、視線が、視線が……この場の全てが、私たちを見ている。
空気が震える。……変わった。空気が、雰囲気が、状況の全てが。
私は、気圧された。圧されたのだ。この私が、彼ら全員に。
後ろの彼らもまたたじろぎそうになったのを、私は肌で感じた。
でもね、特権階級の皆々様。私はね……私たちはね、そんなことで折れるような練習はしてきたつもりはないの。
こっちだって、対抗してやるわ。
そして私はバッと顔を上げ、ゆっくりと口を開いた。
勿体ないお言葉痛み入ります。
「勿体ないお言葉……痛み入ります」
少し間を開けて…ちょっとでも時間を稼ぐ。
圧倒されている皆に、少しでも安心する為の時間を作る為に。
そうセリフを調整した。
今、皆がどうなっているのか……私からは見えない。
けれど、きっと大丈夫だと思うことにする。
私は続けて台詞を話していった。
本日は私どもの為にこのような場を設けて頂き誠に有難う御座います。
「本日は私どもの為にこのような場を設けて頂き誠に有難う御座います」
なるべく言葉はゆったりと。相手の話すペースに乗せられないよう、自らのリズムを作り上げていく。
閣下様他多数の御助力を抱きこの場所に座していることを粛々と理解しております。
「閣下様他多数の御助力を抱きこの場所に座していることを粛々と理解しております」
さあ、次だ。次の言葉の後の行動で、私たちの練習した部分の……定型化されたやり取りが終わる。
短い時間となりますが、どうかこの不遜の身がおけるご無礼ご無体をご覧になることをお許し下さい。
「短い時間となりますが、どうかこの不遜の身がおけるご無礼ご無体をご覧になることをお許し下さい」
そして一糸乱れぬ動きで私は立ち上がる。
何度も練習した、その動きを行った。
その一拍後、ザッと他全員が立ち上がった。
その音が、私に安心を与えてくれた。
――さあ、始めよう。交渉を。
私は口を開いた。
「本日は、よろしくお願い致します!」
皆も合わせてその言葉に続く。
「「よろしくお願いします!」」
バラバラな声では…もう、なかった。
そして次は、手土産を…献上品を渡す手筈。
私は懐に手を突っ込み――
――うっかり。そう、うっかり……ある物を落としてしまった。
それは、百歳君から貰った、他の国では見ない特別な赤い徽章。
それは徽章。記章。襟章。腕章。まあ、言い方は何でもいい。
私は、パリストフィア帝国直属の騎士しか持ち合わせない、その証である徽章を落とした。
その敵対国である、このオルガルド王国の謁見会場で。
「……!?」
「……!?、……???」
「………!???」
ざわざわと、周りに居る大勢の貴族様たちが狼狽える。
まあ当然だ。この国で敵対国の持ち物を持っているとかかなりおかしいし。
しかし、それでも彼ら貴族様方は発言権を王様から頂いてないので、声には出さない。
流石ね。
しかし、そんな中でも特に慌てていた、一際騒がしい男が1人。
シルフィドール・ポワラス様。私に回復薬を渡してくれた人。
私が、王様への手土産で……と言ったら、私にくれた人。
きっと、彼の頭では今こんな勘違いが起きてるわね。
――王様への献上品。
(パリストフィア)の王様への献上品。
実に私にご都合な勘違い。
ね、だから言ったでしょ?あの程度の嘘、どうにでもなるって。
うーん……でも、ちょっと可哀想なのよね。彼が居なければ、百歳君が助からなかったのも事実だし。
ただ……やっぱ、こんぐらいの目には合わせたいっていう私怨が勝っちゃって。
……よし、後で何か差し入れておこう。
そんなことを私は決心した。
……さて、そんな誰も喋ってないのに、ざわざわと喧しい喧騒の中でピクリとも眉を動かさない男が1人。
王様だ。
もう、何だろう。この王様さ、影武者とか人形とかそういうものに思えてくる。
これで動揺しないのは本当におかしいと思うもん。
そして、段々と騒がしさに拍車がかかっていき……、
「鎮まれ」
一言。ただ一言王様が口に出して、音が止んだ。
……ちょっとだけ、また怖さを感じた。
これは、多分わざと落としたのバレてるっぽいな。
そしてまた一言。その王様は問うた。
「それは、どこで手に入れた」
先ほどから相変わらぬ…威圧の籠ったその問いかけ。
変わらない…変わらない筈なのに……、
最早詰問とも思える、プレッシャーを感じた。
……さて、ここからはアドリブだ。
台詞のない部分。この先の展開が予想しずらい場所。
でも、今後のことを考えると…ここでこうするのが、一番だと思った。
私は口を開く。
「これは、拾いました」(百歳君たちが)
嘘は吐けない。能力が怖いから。
まあだとしても……拾ったという言葉は信じて貰えないだろうけど。
「そうか」
そして少し考えた様子の後、こちらを見てまた問われる。
「それが何か、知っているか?」
ああ、聞かれた。聞かれた聞かれた聞かれた聞かれた……!
それが何か。それが何か!
つまり、この徽章が何を表しているかを、知っているか。
すなわち、これがパリストフィア帝国の騎士様の徽章であるかを知っているか…ということだ。
もう、「はい」と答えた瞬間の光景が目に浮かぶ。
敵対国の徽章を分かって持ってる。
つまり、敵対国との関わりがあることの証明に他ならないからね。
もう大変なことになる気しかないね。
けど……、
「はい」
もう、こう言うことは決まってたからね。
そして……、一斉にこちらに視線が……否!
敵意、懐疑、猜疑の瞳を剥かれた。
視線が突き刺さる。
ここまでの悪感情に晒されたのは、生まれて初めてな気がする。
怖い。……身体が震える。怖い、怖い、怖い!
……でも、大丈夫。ここまでは計画の内。
これでようやく……スタートラインに立てた!
この謁見での私の目的は、元々は王様に助力を貰うことだった。
僅かでも、貰えれば御の字。そう思ってた。
……けど、百歳君に"らしくない"と言われて思った。
確かに私は……、私は人に乞い願うことは好きじゃない。
けど、必要とあらばやる。
……でも、今は要らない。私が好きなようにするのが、一番だと思った。
この謁見での私の目的は、王様に私を欲させること。
だから、心理術の王道テクニック。対抗馬を引き合いに出したのだ。
私の価値はきっと、あの王様にとっては低くない。
だからこそわざわざこの場を設けて、公的な契約の場に私たちを引き摺り出したのだ。
予想としては、恐らく自分の国の手駒であることを周囲に知らしめる為。
なら、いきなりその手駒にしようとしている人間を掠め取るかもしれない相手を出したら?
当然、焦る。自分の方に寄せようとする。自分の方が良いことをアピールする。
……そうなるだろうなぁって思ってたんだけどなぁ。
王様に焦りの気配は見えない。というか、何も変わってないように見える。
……本当に。この王様は只人なのか疑わしいわ。
…っと。
まあ、反応の薄い王様が何を考えているのかは、もうどうでもいい。
私の目的は、さっきの徽章を大々的に王様含め貴族様方に見せること。
それさえ出来れば、もう大丈夫なの。
だから…、
私は懐に手を入れる。
「こちらは、私共からの手土産です」
そして、私はそう言った。
「………!?」
「……!!」
「………………!?」
周りの貴族様方が動揺するのが、目に見えて分かった。
まあ、当然ね。
散々定型化された儀礼を壊すようなことをしたのに、今更元の軌道修正しようとしたのだから。
しかし、そんな自分勝手な私の流れに彼らは――
近衛兵が、王様の方をチラリと見た後、近づいてきた。
そして、私は懐に忍ばせたものを手渡した。
――逆らえない。彼らは儀礼を重んじるから。
完全に、計画通り。完璧ね。
私は心の中でほくそ笑みながら、昨日のことを思い出す。
昨日、神城君に手土産を破られた後。
百歳君の励ましで正気を取り戻した私は、まず第一に必要なものとして、その手土産の代替品が思い浮かんだの。
だってそうでしょ?謁見の行程を歪めるとしても、その存在は王様の好感度を上げるためにも必須のもの。
私が寝ている間だろうと、皆が用意出来るもの。
――「今日の夜全部を使って、今から言うことを完成させて欲しいの」
そう言って私は比較的簡単に用意のできる……、
「こちらは、我々の世界に存在する物をです」
を、作って貰った。
だってこれなら、この世界で新たに作るだけじゃなくて、元々持っていたものを適当に入れても問題がないもの。
そう、時間なし、金なしの私たちが出来る最大の手土産よ。
実際、夜全部を使って作り上げてたのは、3個。
・洗濯板
洗濯物を洗う為のもの。
作り上げたのは、板にジグザグを付け、ヤスリがけしたもの。
・ドアストッパー
ドアを止める為のあれ。
形状、あれ。
・楔
木に打ち込む為の杭的なもの。
形状、ドアストッパー。
である。
え?そんな適当なもの、王様に渡して大丈夫なのかって?
うーん……恐らく実際に、平時にやったらアウトでしょうね。
打首コース直行よ。
……でも、今するのは大丈夫。
だって、王様たちは、予め用意してた手土産を壊されたことを知っているから。
あの日、私が部屋へと戻ると、資料だったものはどこにもなかった。
粉々の紙屑が、一枚も。
神城君?いや、回収するだけだったらあの場で破く必要なんてないだろう。
影梨ちゃん?……微妙だ。仮にそうでも、目的が見えない。
そう軽く思考を巡らせ……、そして、一つの予想を思いついた。
王様が、持って行った。
そもそも、この国は私たち一人一人に使用人をつけるくらいだ。
恐らく、監視だってされていた。
定期的にゴミ箱の中に入っているものが捨てられていたし、掃除だって勝手にこまめにされていた。
なら……、彼らは、神城君のやったことを知っていても……私が作っていたものを知っていても、おかしくない。
大体、少しも紙片を見落とさずに回収するなんて、能力がなきゃ無理だ。
……っと、そこまで考えると、王様が持って行ったのはほぼほぼ確定なのが分かる。
だから、その事実を利用して……圧をかけることにする。
「予定していたものは、何故か紛失してしまったので、その代替品となってしまいましたが、これらも十二分に価値のあるものであると愚考しております」
「仔細はその中の紙にあります。お納め下さい」
パリストフィア帝国の徽章、王国側の警備の不手際。
数々の要素をもって、彼らを圧迫する。
そして、王様は言った。
「有り難く頂戴しよう」
「では本題へ移ろう」
「諸君らの望みは何だ」
台本通りの、定型文を。
そして、他3人も立ち上がった。
……完璧に、元の流れに戻ってきた。
さあ、このまま行こう。
交渉条件を変わらずに言おうとしたら、更に圧をかけましょう。
古巣君は言った。
我々は彼方者です。先程渡した産物は周知のように我々の世界の知識の束。
「我々は彼方者です。先程渡した産物は周知のように我々の世界の知識の束」
神城君は言った。
これが、これこそがこの世界の住人らと比べた時の私たちの特異性であり優位に出れる差です
「これが、これこそがこの世界の住人らと比べた時の私たちの特異性であり優位に出れる差です」
影梨ちゃんは言った。
よって…私たちはこの世界で商人を目指そうかと愚考しております
「よって…私たちはこの世界で商人を目指そうかと愚考しております」
私は一歩前へと出て、言った。
「なのでどうか、全面的な支援を……最大限の恩寵をお願い致します」
そして、私は腰を曲げる。
……完璧だ。これで、私たちがあの交渉内容に満足してないことが伝わった筈。
これで王様が交渉条件を考え直せば、全て私の計画通――
――凄く嫌な予感が身体を走った。
ゾワゾワと、未知の恐怖が体を走る。
王様は、口を開いた。
「一つ聞きたい」
「君たちは元の世界ではただの庶民と聞く」
「君たちは、稼げるか?」
ゾワリと、全身が鳥肌立った。
……稼げるかどうか。
それを、この場で聞く意味を……どう証明するかが、一切分からなかったから。
予め準備するのなら、まだ証明のしようはある。だが、この場で、何の準備もなく「稼げるか」…なんて曖昧な質問に
答えるなんて……え、どうしましょう、どうしましょう、どうしましょう……
っていうか!!おかしいじゃない!!
何でこんなに冷静なのよ、この王様!!
私は定型化された儀礼に一つの予想外を入れた。
明らかに、全員に混乱を招けた行動だった。
ひたすらにひたすらに、この場の全ての人間を混乱に落とす為に私は努力をした!!
なのにこの王様ときたら済ました顔で座って……!
「……どうした?答えられないのか?」
そう聞かれ、私は黙ってひたすらに考えた。
何だ、稼げるかどうか?不明瞭なものの言い方だ。さっきのアイテムたちじゃ不十分か?資金運用の方法を表す?それとも……
そんな中で……トンっと、私は方に手を置かれた。
そしてコツコツと足を鳴らし、私の視界には、3人の背中が見える。
古巣君、神城君、影梨ちゃん達が前へと出たのだ。
そして、彼ら彼女らは懐から紙を取り出し、読み始めた。
私は呆気に取られて、ただその言葉を聞いていた。
「地代 穀物の実りの6割を税収とする。少数切捨て」
「カララ村 126俵。税収 75俵」
「レオ村 113俵。税収 67俵。 記録上では56俵。11俵のズレ有り」
「シミカ村 105俵。税収 63俵」
「ツツ村 118俵。税収 70俵。テリマリー村 134俵。税収 80俵。デンダル村 98俵。税収 58俵。デッキ村 117俵。税収 70俵。記録上では71俵。1俵のズレ有り。トルルル村 126俵。税収 75俵。シンラ村 111俵。税収 66俵。アミノ村 131俵。税収 78俵。デビット村 112俵。税収 67俵。キタ村 125俵。税収 75俵。記録上では67俵。8俵のズレ有り。デンドラ村 129俵。税収 77俵。記録上では80俵。3俵のズレ有り。ガンダ村 127俵。税収 63俵……」
何を、言っているの?
地代…っていうと、農地の税収。……俵?いえ、確か穀物でも良かったのよね。いや違う!そういうことじゃない!
なんで今それを…?
それに、記録上のズレ……?
内容的に、地代の…国に貯められた税収の記録を読み上げてる。
いや、それどころか間違っている部分を直してもいた。
予測、予想を立てろ。
分からないんだから、仮説を…仮定をしなさい、私。
3人が示し合わせて言葉を……つまり予め手筈を決めていた?
そういえば、昨日や一昨日に皆集まってたわね。
ってことはつまり、その時に揃って暗記に勤しんでいたのね。
で、これを何処で知った?……いや、決まってる。……聞いたからだ。使用人さんから。それ以外、考えられない。
例えどんな機密事項だろうと、王命で許されている以上聞き出すことは可能。
そこから税金の。地代の情報を…。
「私たちの謁見が早まったのは敵国との会談。パリストフィア帝国との会談が、相手側の重鎮1人が消息不明になって中止になったからなんだよ」
……思えばあの情報も、その時聞いたものなのかしら。
けど、なんでそれを……知ろうとしたの?
間違いを指摘するメリットは?それをここで発表する意味は?
私は、直前に王様が問うたことを思い出す。
「君たちは、稼げるか?」
この後に皆は話し始めた。
つまり、これはその答え……?
何をこれは示して……
そんな疑問が頭に浮かぶと同時に、彼らは一通りの村の名前を言い切り……こう続けた。
「計125の村々からの税収。記録上の合計、9498俵。我々の計算結果。9782俵」
「差。284俵。計算ミス。又は脱税や横領されたであろう村は、レオ村。デッキ村。キタ村。デンド………」
ただ、さっきの言葉をまとめただけの言葉。
けど、"計算"。この言葉に、私は既視感を覚えた。
そう、あれは数日前……、
「ねぇ、商人になるならさ。私たちのアドバンテージって何?」
そう影梨ちゃんに聞かれ、私は少し考えながら答えた。
「やっぱり、計算能力じゃないかしら」
「私たちは義務教育である程度の計算なら普通に出来るでしょ?でも、この時代だと多分領主様でさえまともな計算が出来ない人が多く居るから」
「そこがアドバンテージじゃないかしら」
そう軽く私が答えたことを、思い出した。
……ああ、嗚呼、なるほど。だからこれか!!
税収の記録を手に入れ、その齟齬の確認をし、添削する。
この方法なら時間をかければ確実に、堅実に彼ら全員に私たちの能力を。商人としての資質を、示せる!
……なんで、私はこの方法を思いつかなかったんだろ。
いや、分かってる。この方法はとにかく時間がかかる。献上品として用意しようとしても1人では到底無理だ。
だから、誰かに頼る必要があった。……けど、私は誰かに頼る気はなかった。だから思いつかなかった。それだけだ。
いえ、それでもなんでこんな準備をしたのかしら?
このまま何事もなければ、きっとこれを発表する機会もなかったでしょうに。
「税収の一割は国で保管。残りは商会へと降ろされる」
「税収の9九割。記録上の9782俵の九割は8803俵」
「そこからリーコイル商会に4400俵」
「一俵あたり銀貨一枚と銅貨一枚で取引」
「売上。金貨484枚。記録上は475枚。恐らく横領」
「メインズ商会に2400俵」
「こちらも一俵あたり銀貨一枚と銅貨一枚で取引」
「売上。金貨264枚。記録上も264枚。齟齬なし」
「ダイヤル商会に2000俵」
「こちらは一俵あたり銀貨一枚と銅貨二枚で取引」
「売上。金貨240枚。記録上も240枚。齟齬なし」
「以上、記録上合計金貨969枚。我々の計算上合計金貨979枚」
そして、地代の記録の添削の読み上げが終了した。
何名かの貴族は震えているのが目に見えた。
横領がバレたからだろうか。
何名かの貴族は満面の笑みを浮かべているのが分かった。
この計算能力の資質を国家の礎に利用しようと画策しているのだろうか。
……何はともあれ、ここまで下調べを完璧にしたのは本当に凄い。
これなら、きっと王様の問いにも答えたことに……、
カサリと、紙が擦れる音がした。
そして手に持つ資料の下に、何枚かの資料の姿が見て取れた。
……まさか、
そして神城が再び声を上げた。
「次、住民税。一月銀貨2枚。この王都の住民7829人より、年齢が……」
そして、別の税の計算の発表を始める。
いやいやいやいや、ちょっと待って!
もう周りの貴族様方グロッキーになってるから!
長々と話される機密情報で頭がいっぱいになってるから!
それに多分これで終わりじゃないよね?後ろにまだ何枚かの紙が見えるんだけど!?いつまで続ける気!?
そう混乱したがら止めようと思っても、私が今でしゃばるのは明らかに不自然。
後ろでただを顔を下げて立っているのが一番。
でも、流石に全部の発表をするのは時間が……
そんなことを考えていると……、影梨ちゃんは後ろに手を持ってきて、指で"6"を示した。
6?6って何を……
私はふと、本で読んだ商人についての記述を思い出す。
商人とは、商いを行う者。
基本は物を売ることだが、その他にも貴族様方に見初められる為にお抱えのギャンブラーを持つ者も多い。
何故ここでギャンブル?と疑問に思いながらも、私はとりあえず読み飛ばした。
けど、よくよく考えてみれば……分かった。
賭け事は、賭け事で勝つことは、運命値の高さの証明。
貴族様にとって、その運命値の高さは重要な要素。
……私たちが商人に求めるのは、彼らが自身に利を与えるかどうか。
つまり、私の運の良さで、運命値の高さを証明しろってことね。
私は前へと出る。
皆の発表に食い入って、一番前へと。
……そして、一言。
「6」
そう一言呟いた。
周りの視線が集中する。
私が一体何をやっているか、きっと想像もついてないんだろう。
そして、私は懐からサイコロを取り出した。
そして流れるように……振った。
6
当然のようにそのサイコロは6を示した。
「これで、いかがですか?」
私は王様にそう問うた。
「……十分だ」
低く、深くそう王様は言った。
その後、続けて契約内容を話していく。
「我が国は其方ら商会の支援とし、金貨10枚枚と、車庫から好きな書物を数冊、使用人を一人を遣わそう」
「そして、我が国の身元証明証。私直筆のものを渡そう」
私はその言葉に、顔がニヤけるのを必死に留めた。
そして、最後の台詞をお互いに交わす。
「此度の謁見。誠に意義深いものであった」
「この場に相応しい、素晴らしいものだった」
「我々は貴殿らの考え、知識、能力等を如実に計ることができた」
「感謝を伝えよう」
私たちは、この謁見の終わりを感じ……されど油断はせずに、行動する。
膝をつく。王様に対する、最上級の敬意を表す。そしてはっきりと最後の台詞を伝えた。
「この場の皆々様に、最上級の感謝を」
「「ありがとうございました!」」
「これにて、謁見は終了致します」
「使用人共々の指示に従って、彼方者の皆様は速やかに行動して下さい」
そして私たちはこの長かった謁見の間から外に出る。
扉が閉まった次の瞬間、私たちはその場に崩れ落ちた。
「つっかれたぁー!!」
そして、大きく息を漏らしながら……私はそう叫んだ。
もう、本当の本当に疲れたのだ。
緊張やら何やらでおかしくなるくらいに。
それと同時に、皆も口々に叫び出す。
色々と言いたいことが多かったこの謁見。
本当に色々あった謁見。
しかし、きちんと元々の条件の倍のものを手に入れた。
……やっと、終わったのだ。
私は一言、言葉を発する。
「皆、お疲れ様!!」




