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17話 #桃の花弁 ハザードマップ

 異世界生活4日目



 早朝。



「うおォォーー!!スッゲェ、スッゲェ!」



 朝早くに、俺はそんなうるさい歓声に起こされた。


正直もうちょっと寝たかった。


でもアイツの声がうるさすぎて寝れる気がしなかった。


仕方なしに俺は身体を起こす。


そして、こんな行動を取らせた元凶をこの目で見た。



 いつもは必ず俺が起こすまで寝ていた神城(かみしろ)が、窓の外を見てはしゃいでいた。



 ……うるさかった。



「おはよー、黙れ」



 朝の挨拶をすると同時に、俺は言葉を噤むことを強制する。


しかし、そんなことを意にも介さない神城(かみしろ)は、窓の外を指差して言った。



「おう、おはよう百歳(ももとせ)


「とりあえず落ち着け。うるさい」


「ふっ、これが落ち着いている場合か」



 ダメだ。どう足掻いてもテンションが下がらない。



 そんなことを思っていると、彼は窓の外を指差して言った。



「ほれ、窓の外を見ろ!なんとこの世界にはな……」



 少し間を開けて、奴は叫んだ。



「獣人が居たぞー!!」



 次の瞬間、ドアを蹴破って入って来た女将さんに首根っこを掴まれ、神城(かみしろ)は引きずられていった。



 俺は、窓の外を見る。



 ……うん。そこには確かに、頭から獣の耳を。お尻から尻尾を生やす何かが居た。


沢山。集団で、歩いていた。



 ……わーお、ファンタジーだ。



 俺は、とりあえずこの景色が夢か現実かを確かめる為、ほっぺたをつねってみた。



 ……痛かっ――







――早朝。



「うおォォーー!!スッゲェ、スッゲェ!」



 朝早くに、俺はそんなうるさい歓声に()()起こされた。



 ……俺は、予知能力か何かに目覚めたのか?


思わずそんなことを思ってしまう。



 ……とりあえず、



 俺はベットから飛び起きて、神城(かみしろ)に近づく。



「おう、おはよう百歳(ももとせ)。見ろよこれ!」



 指を指す先には、夢と同じように沢山の獣の耳をつけた人たちが歩いていた。


……夢と、全く一緒だ。



 窓の外を眺める俺を見て、興奮しながら神城(かみしろ)は俺に言葉をかける。


俺は、拳を握りしめた。



「な?凄くね?なんとこの世界にはな……獣」



 そして無言で……頭をぶん殴った。



 ガタンっと崩れ落ちる神城(かみしろ)を見ながら、俺はベットへと戻る。


そしてまた、夢の中へと戻って行った。



……………

………



 数刻後、俺は起きた。


現在の時刻、8時。


朝食のサービスを受けそびれてしまったが、まあ仕方ない。


神城(かみしろ)を殴ってでも寝たいくらいには眠かったから、仕方ない。



 チラリと神城(かみしろ)を殴った場所を見るが、既にもぬけの殻だった。



 ……そーいえば、今日は昨日決めたバイトの日か。


あー、だからアイツ早く起きたのか。



 俺は今更ながらにそんなことに気付いた。


そして、それならとっとと今日することをしようと思い、引き出しの中に入れた紙を取り出した。



 昨日のうちに買っておいた、ある程度の大きさのある紙。


羊皮紙なだけあり、分厚く…しっかりとしている。


そしてそこには、道と思わしき線が中央に引かれ、要所要所に日本語でメモが書き込まれていた。



 俺は今日。


ハザードマップ(災害記録地図)…ならぬ、ハザードマップ(不運記録地図)を作り上げる。


それが、今日することだ。



 不運に対抗する為には、当然のように傾向と対策が必要だ。


ここではビル風が……ここは工事中……ここは交通量が多いなどなど。


それらを、実際に一通り経験し、それを書き込んだ地図を制作することにより、俺はそれらの危険を未然に避けることが出来るのだ。



 これが、これこそが俺がこの不運に見舞われる人生の中で編み出した方法。ハザードマップ。


まあ、監視カメラを買える余裕と、町中の監視カメラを見れるようになってからはお役御免となった悲しき道具だが……まあ閑話休題(それはさておき)



 さて……このハザードマップだが、殆ど空欄なことから見てとれるように、関所からここまでの道のりや観光した時の道のりにはある程度のメモは出来たが、まだまだ試行回数。パターンの分析なんかが足りていない。


それに、他の場所についてのマッピングもしていかないと、何かあった時に困る……もとい、死ぬのは自分だ。


まあ当然、俺だって死なない為にさっさとこの世界に来てから作ろうと考えたさ。



 ……残念ながら、今日この日まで悉く予定が合わず、出来なかったが。



 俺の不運には、ある特性があった。


それは、周りの人間をあまり巻き込まない……という点だ。


爆破事故やら土砂崩れやらテロリズムなんかは、周りへの被害も甚大な不運。


そういう不運に、俺だけでなく友達まで巻き込まれることは少ない。


また、大きな不運でなくとも……詐欺やスリや当て逃げなんかも同じく、俺個人が狙われるようなものであっても、他の人と一緒に居ると起こりづらいのだ。



 だから、このハザードマップ(不運記録地図)は、時間がある時かつ一人で行動出来る時じゃないといけなかった。



 そう。だから、今日は。今日こそは、このマッピングに一日かける。


俺が、死なない為に。



 後は、白兎(しろうさぎ)に会うかとか決めれるきっかけを見つけれれば良いな〜なんて考えたりして。



 ま、まあとりあえずそれは置いといていいだろう。



 俺は書き置きを机の上に残し、腕輪なんかの必要なものを持っていることを再三確認し、英雄志願者と鉢合わせたりして今日の予定が瓦解しないように外への警戒をしながら出た。


外は少し肌寒かった。けど、まあこんなもんだろう。


近くには、窓から見えた獣人と思わしき人たちの姿はない。



 ……あの人たち、結局なんだったんだろうな?


とりあえず、最近のファンタジーよろしく、異種族が居るのが確認できたのは良かったと思う。



 宿から出て、まず初めにしたのは宿のあるこの大通りのマッピング。


恐らく、この通りが一番使う場所だからだ。



 ナイフが飛んで来やすい解体屋に、近くを通ると蹴られそうになる馬小屋。


能力を使っている、子どもたち蔓延る空き地。


美味しそうな出店の串焼きの串が腐っていたり、やけにスリに会う場所。


空を飛ぶ鳥の、鎌鼬的な風の攻撃。


街灯が倒れ、中にある夜に爆ぜるあの花が爆発。



 ……よく俺咄嗟に飛び出しちゃったあの時怪我しなかったなぁ。



 そう、カスってしまった傷跡。少し焦げてしまった服を撫でながら思った。


この世界はやっぱり、能力というものが原因で起こる不運が、一番分かりづらく、一番俺を死に至らしめる要因だ。



 ……長生き、出来る気がしねぇなぁ。



 ハザードマップを作りながら、俺は思った。


元の世界の方がきっと、俺はまだ生きられる、と。



 ……ま、考えても仕方ないことは考えないでいこう。



 さて、大通りのマッピングは終わった。


とりあえずは、これを参考にすれば大丈夫だと思う。


後は……端っこから順々にマッピングして行こっかなあ。



 ……ああ、ほんと、元の世界の監視カメラが懐かしい。


あれがあれば常時不運の兆候を探れたのに。あれがあれば危険度はほんとにグッと減るのに。


……蜂には破られたけど。



 そんなことを思ってとりあえず俺は小道を片っ端から歩いてみた。



 ……15分後



 ……俺は、あることに気付いた。



 俺、この道来たの3回目じゃね?



 辺りを見渡す。ゴミ箱に、壁のシミ。


少し斜めった家に、永遠とお話しているママさん方。



 どれもこれも見覚えがあるどころか、確実に3回は見たものだ。



 ……うん、ダメだ。この国、道ややこし過ぎ。


マジ何をどうすれば全部網羅出来るんだよ!!


収穫ぅ?……切り傷擦り傷いくつかだけだわ!!


ってかもはや俺自身どこにいるかも分かんなくなったからマッピングの収穫もゼロ!!


何とか大通りに戻ってこれたけど、これじゃあマッピングすら不可能だよ。



 俺は周りの喧騒を眺めながら、手を首に当てて考える。



 ……どーしよっか……な。



 そして……、薄暗いオンボロハウスが見えた。


前に行った……これは、口入れ屋だ。


俺は、その場所を見て一つ思い出した。



 あそこには、地図があるということを。


神城(かみしろ)に見せていた、バイト先を示す地図が。



 あれって借りられっかなぁ?


いやでも俺の不運からして借りられるとは思わないけど……うーん、でもチャレンジだけでもしてみよっかな。



 俺にそんな思考が流れた次の瞬間。



 ――ガラガラガラガガガーン!!



 そのオンボロハウスの中で、何かが崩れる音がした。


思わず何だろう?とそこへと近づく。



 そこは、相変わらず真っ暗だった。


少しずつ進んで行くと、段々とローブ姿の彼女が見えてくる。


前来た時と全く同じ場所…部屋の隅っこで蹲る彼女の姿が。



「あの、大丈夫ですかー?」



 そう呼びかけてみると、そいつはビクリと反応するだけで、返答は返って来なかった。



 この間と同じ反応で、少し安心した。



 そして、更に近づこうとした瞬間……足に、何かが当たった。


手探りで何かを確かめる。


これは、木簡だ。


少し手を伸ばすと、また木簡に手が当たった。



 ……なるほど、さっきの音はこれが床にばら撒かれた音だな。



 そんなことを確信すると同時に、何が起きたのかは検討がつかない。



 ……仕方ないな。



 俺はゴソゴソと懐を漁り、()()を取り出した。



 100円均一ショップ特製の、ライターだ。


ドアや窓はないが、入り口はちゃんとある閉鎖空間じゃないことを確認する。


その後、俺はカチャカチャと音を鳴らし、数回。


ぼうっと火が空に灯った。


そして、その明かりでまたあのローブの人がビクつくのを確認。


俺は少し視界をずらし、事の経緯を悟った。



 そこには、タンスが倒れていた。


持ち上げると、タンスの足が潰れているのが分かった。



 ……なるほど、下の部分が腐って倒れたんだな。



 そう思うと同時に、腐って倒れるとかどんだけ長い間使ってたんだよ、とも思った。



 ただ、これはあくまで現代人の感覚だし……昔のタンスはよくこんなことがあるのかもしれない。


……分かんないけど。



 俺はライターの火を消して、ローブのその人に向かい合う。



 ……さて、現状を把握したところで、俺はどうしようか。


今家主とまともなコミュニケーションが取れない状況。


かといって、こんな状況で地図をせびるのはちょっと無理がある。


ま、ここでやることは一つだけだよなぁ。



「あのー、ちょっとここら辺の片付けを手伝っても良いですか?」



 俺がそう聞くと、フルフルとその人は震えて……こくりと、後ろ向きで頷いた。


俺は、その様子を見てから、まずは木簡を集め始めた。



 どうしても暗いので、「ろうそくとかある?」と尋ねて、ろうそくを頂いた。


火をつけさせてもらったおかげで、スピードアップして後処理を行えた。



 その後、散らばった紙束は机の上にまとめ、壊れたタンスは、足を切ったらまだ使えそうだったので、切って置いといた。


ただ、恐らくもうこのタンスは買い替え時だろう。


切ったことで傷んでもいるだろうから……と、買い換えることを彼女に勧めた。



 ついでに、このぼろぼろのお家のほこりやら何やらが気になったので、掃除もした。


元より一人暮らしの身。掃除なんて慣れたものだ。



 気分は、掃除もしないダメ息子の部屋を掃除する気分。


エロ本とか、出てこないといいなぁ。


ま、この時代にゃそんなものないだろうが。



 そんなことを思いながら、長年使われてなかったであろうほうきで床を掃いた。



 ……折れた。



 とりあえず、持ってたお金を置き、謝った。



 その後、井戸へと行って水を汲み、全体の掃除を。



 ほんっと、どれだけ放置したらこうなるのか。


よく分からないシミや汚れが落ちないのなんの。


そうして、約数時間の格闘の末、俺はこの強敵(モンスターハウス)を撃破したのだった。


……………

……


 掃除が終わって、地図を借りる旨を伝え、俺が帰ろうとした時。



「あり…がと」



 帰り際に、俺の服を摘んで、そのローブの人はそう言った。



 ……今振り向いたら、絶対顔見れるよなぁ。



 そんなことを思って、後ろを見たい衝動に必死で耐えながら、俺は返事をした。



「どういたしまして」



 そして、オンボロハウス清掃クエストは幕を閉じた。



 ……ただ、俺の今日のクエストはまだ終わってない。


さっきまでのクエストは、言わば俺の本命のクエストへの準備。


何せ、ハザードマップは大通りしか埋まってないのだ。



 とりあえずは、正確なこの町の地図を貰ったから、それを参考にハザードマップを拡張していけばいい。



 まあ、端から適当に埋めていこうかな。


そんなことを考え、俺は地図を見ながら歩いた。



 ――ある場所では、崩落の危険の高い古い建物がわんさかと建ててあった。


――ある場所では、めちゃくちゃ鳥に襲われた。


――ある場所では、出会って5秒で能力バトルを仕掛けてくる奴がわんさかと居た。


――ある場所では、謎の爺さんが謎の言葉をぶつぶつぶつぶつと呟いていた。



 ――ある場所では、――ある場所では、――ある場所では………………、




 --数時間後--


俺は、満身創痍のフラッフラで、領主邸の前を歩いていた。


血まみれのハザードマップを持って、トボトボと。



 もう……この世界、やだ。


何だよ、いきなりバトル仕掛けてきたり、大量の鳥に襲われたり、もう命が幾つあっても俺死ぬわ。


ふざけんな、クソが。



 悪態をつきながら、ズルズルと塀に身体を預けて歩く。



 ……と、とりあえず後はここら辺をマッピングし終われば……、次通る時はそれに警戒して歩ける。


あー、マジで疲れた。ほんっと、酔っ払いみたいに千鳥足になってるわ。


昼飯だって色んな所の食べたけど、異物混入やら何やらで普通に吐きまくったし。



 ……ちょっと、休憩するか。



 俺は、そう思い、その場に倒れ込んだ。


ハァハァと荒げる息が、段々と落ち着く。


脳に少しずつ、酸素が回ってくる。


そして……俺は、昨日保留していた問題を思い出した。



 ――白兎(しろうさぎ)のこと、どうしよう。



 結局、今日一日中歩いただけで終わってしまった。


その問題には何一つ、結論が出ていない。



 俺は、正直心配だよ?アイツのこと。


ミスなんて滅多にすることのない彼女が、何度も何度も誤字脱字を繰り返す……なんて、普段の彼女を知っているからこそ、あり得ないと思う。


けど、さぁ……俺の感情は、必死に会うという結論に抗議してるんだよ。



 だって、会いたくねぇもん。



 ……それに、会うとしても問題は…課題は多い。


まず、仮に会うとするなら、どうやって?という問題がある。


それに、今あっちは謁見で忙しいだろうし……そんなタイミングで会うことを決めて、迷惑……いや、白兎(しろうさぎ)は俺と会うのを迷惑がることはねぇか。



「…………」



 正直、今日()()が起こることに期待してた。


何か、会わなければいけない事情とか……会わない方がいい事情とか、俺の心境が大きく傾く出来事とか、そういうものがあって欲しかった。



 だってそういうのがあれば、簡単に決められる。会うか、会わないかを。



 ……でも、無かった。


なら、今。俺が決めるしかない。


整理しよう。



 俺は、彼女と話したい。白兎(しろうさぎ)が心配なのもあるけど、この世界に来たからには、決めなければいけない行動方針も沢山ある。


いつかはしっかりと話さないといけないと思ってた。



 対する反対意見。


俺は、彼女と会いたくない。


彼女が嫌いだから。



 ……あれ?これ感情抜きにしたら会うしかなくね?


……あれ?、俺何悩んでたっけ。あれれ?



 俺は、暫く黙って、考えた。


そして決めた。



 ――やっぱまだ決められん!!



 だって嫌なのは嫌じゃん!!嫌なのにしたいとかもうダメ。


うん、もうちょっと。もーちょっと考えよう。



 結論、保留!



 ただ……ただ、とりあえずは会う方法でも考えよっかな。



 俺は振り返り、領主邸を囲む塀へと向かい合う。



 未来のここの、この向こう側に、白兎(しろうさぎ)たちがいる。


そして、彼女らは外に出ることは出来ない。


そしてまた俺も、中に入るのはリスクが大き過ぎて出来ない。



 会う方法…….いや、会話する方法でも良いな。


時を超えて、彼女と会話する方法。



「……………」



 ま、決めるのは後だ。未来の自分に任せよう。



 俺は立ち上がり、手に持ったハザードマップを握りしめる。


そして俺は、マッピングの続きをしようと歩き出した。



……………

………



 俺は、自室の扉をバンっと開く。


クラクラする頭と、フラフラの足で俺は中へと入った。


神城(かみしろ)は地面に大量に作り上げた鶴の中で、折っている紙から目を外した。


そして、俺の姿を見て目をギョッと見開いた。



 針が身体に刺さりまくり、肩が脱臼。


服もぼろぼろで、ハザードマップも半分破けて手に持ってた。


口入れ屋から借りた地図は死守した。



 そんな俺を見て、呆然として神城(かみしろ)は聞いた。



「……えーっと、生きてるん?」


「……あー、急所は抜けてる。失血がちょっとねぇ」



 俺はそう答え……その場にぶっ倒れた。



「え、死んだ?」


「生きてる……。ちょっと回復薬(ポーション)頂戴」



 その言葉に、神城(かみしろ)は忙しなく部屋を動き回って……中級回復薬(ポーション)一本、取り出した。


そして、針を一通り俺の体から抜いた後、俺にそれを飲ませた。



 少しずつ、俺の身体が回復していく。


俺はそれを感じながら、俺をこんなぼろぼろになるまで痛めつけやがった奴の姿を思い返す。



 緑のフォルム。トゲトゲしいスタイル。そして、生々しい動物の足!


あの、歩くサボテンはほんっと何だったんだよ!!



 足は早いわ、棘飛ばしてくるわで散々だったわ。



 あー、ほんと危なかった。少しでも回避をミスってたら俺もうこの世からおさらばする所だったよ。


もー、ほんっとに危なかった。



 そして、段々と力が入り、起き上がれるようになった。


俺が起き上がると、はいっと神城(かみしろ)は紙束を渡してきた。



 俺はそれを受け取り、中身を軽く読んだ。そしてようやく、今何を渡されたかに気付いた。



 ……これ、白兎(しろうさぎ)からの資料か。



「いつ届いたん?」


「え、俺が出ようとした時に来たけど…気付かなかった?」


「うん。寝ぼけてたのかもなぁ」



 空返事をしながら、俺はこれを白兎(しろうさぎ)が一晩で書いたことを把握した。


パラパラとページを捲り、大まかに何が書かれているかを確認する。


そして、一通り見終わって、あれ?と頭に疑問符が浮かぶ。



 なんか……、俺すぐに欲しかったのは白兎(しろうさぎ)の居る館周辺の地図と、俺たちの居る時代でのその場所の地図。


後は"英雄”関連の情報なんだけど。



 えー……な、なんでこんな法律やら宗教やらの情報も?


え、これ一日で全部は読めないんだけど。


っていうかほんとこれ一日で書いたの?


謁見に向けた練習と並行して???



 そんな疑問を抱いて、資料の中に挟まってた手紙を取り出す。



拝啓 百歳(ももとせ)様へ



一番分厚い資料は、彼の国。パリストフィア帝国の昔の旧パリストフィア帝国の法令書。


そして、次に厚いのは他の宗教関連の情報と、要望にあった英雄の童話。


丸めて入れてあるのが、私たちの居る場所の地図と旧パリストフィア帝国、フェールド領の地図。



時代が変わってるから、正確な地図かは怪しいけど、参考にはなると思う。


それじゃあ、上手く活用してね。



-10-


白兎(しろうさぎ)より。




 誤字脱字は、昨日はあったのに今日は一切ない。


俺の心配は杞憂だった……?


そんなことを思わせる、至って普通の手紙と、少し度を逸した量の資料が届いた。



 俺の頭に、根拠のない妄想が流れた。


夜遅くにあの白兎(しろうさぎ)が酷い顔をして作業をするという妄想だ。



 ……決めた。



 根拠はない。ああ、だからこれはただの俺の妄想で、勝手だ。


俺が勝手に彼女を心配した。


うん、そういうことにしたら、白兎(しろうさぎ)は喜びそうだ。



 俺の中のドス黒い感情が、必死に止めろと抗議する。


俺はそんな抗議を振り切って、神城(かみしろ)に言った。



「なぁ、白兎(しろうさぎ)と話したいから、協力してくれ」



 その言葉に、神城(かみしろ)は驚いたように言う。



「お、俺より先に……告白を……」



 俺の拳が火を吹いたことは、言うまでもないだろう。

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