16話 #桃の花弁 俺は、白兎 三葉が嫌いだ
ヤバイヤバイヤバイ、バレたバレた絶対バレた。
周りの奴らに、俺が"魔族"ということが……!
どうするどうする。どう逃げる?いや、これからどうなる?
きっと今すぐにでも、周りの通行者共が騒いで、とんでもない騒ぎになって………本当に、ヤバイ状況に………!
そんな想像が頭をよぎり、数拍の間が空いた。
その間、周りの人々にこれといった動きはない。
それどころか、俺たちの方に向かって来た人は何故か……俺たちを通り抜けている。
何が……何が起こって……、能力か?
これが、奴の…英雄志願者の、能力。
頭の中に疑問が駆け巡る。
能力無効化の腕輪の効果は?この能力には機能しないのか?何故こんな大通りで?神城がいないから?何が目的だ?本当に……何が……
「さ、質問に答えてよ」
「君は"魔族"を、どう思ってる?」
しかし、ゆっくりと疑問を噛み締める時間を、英雄志願者は与えてくれなかった。
改めて目の前の彼はそう聞いて来た。
俺は、頭に浮かんだ疑問を全て頭の隅へとやった。
今は、そんなことを考えてる時間じゃない。
今は……この何考えてるか分からないコイツを、刺激しないことが一番だ。
ああ、本当にーー
ーー何が、目的なんだ。
「魔族について……要するに、"世界に悪影響を与える"っていう点をどう考えてるか……っていうのが聞きたいんだよな」
「うん、その認識であってるよ」
「…………」
少し思案する。
どう答えればいいのか……しかし、すぐに結論が出た。
コイツの目的が分からない以上、正解は分からねぇ。
……嘘を吐くか、正直に言うか。
でも、コイツには、下手な嘘を吐いても見抜かれそうだ。
なら、とりあえずは正直に話すべき……か。
「あー、正直。この世界に来たばかりだし…何をどう考えていいのかも分からない」
「けど…そんな状態で出した結論なら、ある」
“魔族”って何だろう。“世界に悪影響を与える”ってどうゆうことなんだろう。
そんな疑問を頭の中で転がしたことは、この異世界に来て何度かあった。
寝る前だったり、何か作業をしている時に。
自分が"そう"である以上、考えようと思ったのだ。
そして、出した結論は、
「どーでもいい、だな」
「…………」
「“世界に悪影響を与える”……なんて大それたことを言われても、一小市民の俺には関係ない。そして、俺が“それ”を認知できるか分からない」
「対処も改善も変革も、仕方が分からなくて出来ないとされているものをどうこうするなんて無理な話で。きっと、俺はこの先迷惑をかけるんだと思う」
「理屈が分からないけど…この世界での運命値っていうのはそういうものなんでしょ?ならそれは、仕方ない」
それに、この世界じゃなくても。元の世界でも、俺は散々迷惑をかけた。
不運によって交通事故が惹きつけられ、俺の周囲は常にボコボコに壊れていった。
それぞれの修繕費だって馬鹿にならない。その後の事後処理なんかも本当に面倒だっただろう。
けれど、俺が生きていく限り……元の世界では、そんなことが続いていった。
だから、現代でまた、こんな数値がついたらきっと……マイナスだっただろう。
運命値っていうのは……今まで不明瞭だった運命ってものが、明瞭化されただけだ。
仮にこれが、運命値通りに人々をコントロールする!とかって仕組みなら、俺はいくらでもケチをつけただろう。ふざけんなと喚き散らしてただろう。
でもきっと、そうじゃない。
だから、俺の行く道は何も変わってない。
一息吐いて、俺は続きを話した。
「俺は、例え人に迷惑をかけても…それで、人死が出ようとも、俺は死にたくない」
「死にたくないから、開き直って生きるよ」
"魔族"だろうと、変わらない。
俺は死にたくない。百歳まで生きたい。
百歳 望だ。
「……なるほどね、そう考えんのね」
「…………良いと思うよ。これからも、そう生きて欲しい」
少しニコリと笑って、英雄志願者はそう答えた。
俺は、その英雄志願者の表情が……少し不気味で怖かった。
俺は「大丈夫?」と声をかけようかと考え、口を開いたその瞬間ーー
「……うん。良いと思うよ。自分本位で自分勝手の、生きたいっていう本能的な欲望を持つのは」
ーー英雄志願者は言葉のナイフで、俺を攻撃した。
「………え、俺馬鹿にされてる?馬鹿にされてるよね。暗に俺がクズ野郎って言ってるよね」
「いやいや、なーに言ってんだ。ただ絶対殺さないとって思わされただけだよ」
「やっぱ悪人だって言ってるよね!?ね!?おかしくない?あの流れから!」
そうして、俺がわあわあと英雄志願者に向かって騒ぎ立てた。
……うん、だってあの言葉からこの鋭い言葉はちょっとおかしいじゃん。
そしてそれから数秒後。
一悶着した後に、俺は一番最初に思い浮かんだ疑問を口にした。
「あ、そうだ。ねぇ、なんでこんな道の真ん中でこんなに堂々と話せてるの?」
「ああ、それ僕の能力」
ああ、それ僕の能力、ああ、それ僕の能力、ああ、それ僕の能力――
余りにもあっさりと、そう告白するものだから……理解をするまでに時間がかかってしまった。
その間に、英雄志願者はペラペラと能力を説明し始めた。
「僕の能力はね。対象2人を異空間に入れることができる能力」
「人、場所、時間を指定して、その異空間に閉じ込める能力だ」
「使ったらその中の人は誰からも認知されない。大声を出そうが何をしようが、ね」
「他の人とは関係ない、2人だけで話せる相談場所を提供する能力……能力名は“コネクト”」
「それが、俺の能力だ」
俺はその説明を飲み込んで、理解してから言葉を出した。
「良いな〜」
「……え?」
「だってそれって、いつでもどこでも一人になれるってことでしょ?……不運が干渉しない世界。あーもうメチャクチャ良いじゃん!」
「そ、そっか」
「うん。それに二人だけの相談場所の提供ってのも良いじゃん。……物は言いようだけど」
「物はいいようって……まあ、確かに他の使い方の方がメジャーだろうけど」
「どーせ“コネクト”って名前も自分でつけたんじゃない?」
「……バレたか」
「……うん、でも、その使い方は中々に英雄っぽいよ」
「……そっか」
俺は、コイツのことが分からない。
何を考えていて、何が目的なのか。
でも、この時は少しだけ……仲良くなれたような気がした。
ヤバい奴ではあるとは思うけど。
「あ、それと何で俺に能力が効くの?」
「ああ、それは僕がこっそりと能力無効化の腕輪をすり替えたからね」
「……え」
「大丈夫。すり替えた後も、君と接触はさせてたから。今それ取って能力使っただけだから」
「……お前、ほんとに英雄志願者かよ」
「もっちろん!!」
訂正。
仲良くなれた気がしたのは、気のせいだったようだ。
やっぱりこいつはただのヤバい奴。
「さーて、話したいことは話せたし…宿に戻ろっか」
そう言って前を進む彼に、俺はついて行った。
そして俺は頭の中でこれからの予定を転がす。
さて、とりあえずアルバイトはあそこに探しに行けばいいし、これからどうしよっかなぁ。
金策はOK…なら後は、"魔族"であることを隠すためのあれこれ、かな。
それともこの国から逃げる方法でも考えようか。
うーん、何しよ……
「あ、そうだ。もう一つ聞きたいことがあったんだ」
「……聞きたいこと?」
「そう」
そう言われ、思考を中断させられる。
そして、俺は耳を傾けた。
この先に発される言葉を聞くために。
……そして、英雄志願者は足を止める。
また能力を使う為だろうか?
……そして、口を開けた。
「僕はともかく、なんでモモトセはカミシロを、
――警戒、しているの?
その言葉に、一瞬時が止まったように感じた。
その後すぐに、寒気が全身を包み込む。
心臓を鷲掴みにされたような……そんな気持ち悪さがあった。
俺は、そんな本心を露わにしないように、言葉を返す。
「そう?そんな風に見えた?」
「うん。すっごく」
なんでもないかのように言葉を返すと、即座に自信満々の答えが返された。
………マジか。俺、そんなに隠せてなかったか。
思わずそうショックを受けながらも、俺は、改めてその事実を噛み締める。
俺が、神城を警戒しているという事実を。
俺は、この世界で初めて神城に会った時から…警戒していた。
だって、"彼"かもしれない容疑者一号なんだもん。
だから……だから、
ぼろぼろになって……死にかけになった俺を背負って運んでいた時も、俺が生き返って涙を流して喜んでくれたあの時もーー
ーーずっと、ずっと警戒してた。
もしかしたらその行動には裏があるかもしれない。
泣いて喜んでいるのは、この後の計画に必要なのかもしれない。
疑って、疑って、疑って、疑って、疑いまくってーー、
ーーずっと、警戒していたのだ。
「まあ、なんで警戒しているのかは検討がつくけどね」
不意に、そんな言葉を溢す英雄志願者に、俺は耳を逆立てた。
「この世界…異世界に来たって事実を鑑みるに……まあ十中八九、元の世界で"何か"あったんでしょ?」
「でもその犯人が誰かは全く。検討もついてない」
「いや、もしかしたら検討ぐらいはついてるかもだけど……まあいっか」
「んだから……神城がその犯人かもしれないって考えた。違う?」
そう話す英雄志願者の推理は、殆どあっていた。
実際、俺は今言ったような考えで神城を疑ってる。
疑って…しまっている。
「僕からアドバイスしたいことが、一つある」
「確かにカミシロは何か目的があって君と関わってきたのかもしれない」
「確かにカミシロはその"犯人"かもしれない」
「けど……真実は分からなくても、事実は分かる」
「今までのカミシロとの関わりに嘘はないし、カミシロがモモトセを助けたことに…嘘はない」
「………」
「それは紛うことなき事実…でしょ?」
それは…確かに、そうだ。
俺は神城 結に何度も助けられた。
でも、"もしかしたら"という可能性が捨てれずに…俺は永遠と警戒している。
その"もしかしたら"で、俺の命は簡単にこぼれ落ちてしまうのだから。
……ただ、やっぱ信じたいって気持ちがあるのも事実だ。
「一つ、聞いていい?」
「うん」
「あの日。俺が死にかけた日…」
俺は一つ、神城の言葉に違和感を覚えていたものがある。
だから俺は、それが本当かを今、確かめる。
「お前は、神城と一緒に…寝たか?」
――「あの英雄志願者と寝てたよ!あ、腐った妄想はやめてね?」
英雄志願者は、答えた。
「……寝てない。あの日、神城はずっと君たちの部屋に居た」
「僕は案内をして…すぐに寝たから。その後のことは知らないけど」
その言葉を聞いて、俺はその言葉がやはり嘘であったことわや確認した。
はぁっと吐息を漏らす。
……そうだよな。そうじゃなきゃ――
あの時……神城は、俺が起きたその時、本当に酷い顔をしていた。
クマだらけの、泣き腫らした目をしていた。
俺が寝て居たベットの周りは、はちゃめちゃに汚れていた。
沢山の水が溢れた跡。
何回も何かを落としたような凹み。
改めて見たらすぐに分かる。何かをしていた根拠。
何往復もしたんだろう。バケツに汲んだ水を運んで、タオルを濡らして汗を拭って。
……でも、注目すべきはそこじゃない。
そうじゃなきゃ――
――そうじゃなきゃ、血の跡がない、なんてことは起きない。
いかに火で無理矢理失血をしたとしても……あんな満身創痍の俺が、宿に入ったにも関わらず……部屋の中にも、廊下にも。血の跡が少しも残っていなかった。
そんなのおかしいだろ?絶対に誰かが…拭いてたりでもしてないと、そんなことにはならない。
……きっと、真っ暗な中何往復もしたのだろう。俺が、怪しまれないように。
血という頑固な汚れを落とす為に、何往復も、何時間も。
なんで、そんな嘘を吐いていたのか……そんなの、一つしか答えはないだろ。
他にも可能性はある。秘密の能力を使ったり、秘密の付与具を使ったり、女将さんが拭いてたり、何かおかしなことが起こっていたのかもしれない。
……そんな疑念が頭をよぎる。だからこそ、俺は断言しよう。
――きっと直接聞いても、アイツはそれを否定するから。
神城は、俺に心配をかけない為に……嘘を吐いた。
俺はまた一つ、息を吐く。
その断言した結論をごくりと嚥下した。
「……どう?信じる?」
首を傾げて、英雄志願者は聞いてくる。
俺は首を振った。
「いや、無理だね」
そう、言葉を返した。
だって――
――だって、神城の行動にはそれを余りある数多くのおかしな点があるんだから。
英雄志願者にあっさりと"魔族"のことを白状をしたのは何故だ?何も考えてなかったから?はたまた何か俺の知らない根拠でもあったんじゃないのか?……
何故俺が白髪の男と戦っている時、あんないち早く来ることができたんだ?石造りの建物だから火事はない。大通り沿いだから通りかかった?ああ、そうかもな。だが家の中に居る俺の存在にどうやって気付く。窓の外で手を振ってたのは居るのを確信してたから。どうやってだ?聞き込み?周りに人なんて居なかったはずだぞ?……
俺が死にかけた時に出て来た回復薬って言葉…あの後白兎から貰ったものも回復薬なのは偶然か?……
二人目の神城の存在は偶々か?はたまた故意か?意味はあるのか?こっちの神城に関係はしているのか?…………etc…etc
――恐らく、アイツは俺に嘘を吐いている。
いくつもの違和感が、俺にそれを主張している。
確実な嘘はない……が、怪しむには十分な行動。
……でも、
「俺は、神城を疑うよ。……今はね」
それでもいずれ、嘘を明かす日が来なくても……無条件で信じれたらいいなーとは、思う。
「今は……ね。別に怪しい点があっても助けてくれたんだから信じちゃえば良いのに」
「信じるのはいいよー、だって、なんか良いじゃん」
「残念ながら俺はお前や神城みたいに図太くないから無理」
「ひっど!!んじゃあもしかして僕のことも?」
「……信じる日は、来ないんじゃないかなぁ」
「ぅえー、マジかぁ」
そんな風に軽く話して、深呼吸をした。
この世界に来てから、初めて上手く呼吸ができた気がした。
脳がスッキリとしている。
俺たちは会話を始め……それを合図に歩き始めた。
「にしても路上でこれいきなり聞いてくる話題じゃねぇだろ、二つとも」
「ふっふっふ。やっぱりこーいうのは勢いだと思ってね。雰囲気作りも英雄の仕事さ」
「会って数日の人に聞く話題でもない」
「ほら英雄の本質は余計なお世話だってよく言うだろ?」
「あ、そうだ!話は変わるけど、そっちバイト経験とかある」
「うーん……内職なら?」
話し込みながら、宿まで戻った。
また少し、関係が進展した気がした。
…………………
…………
…
時刻は午後5時30分。
「たっだいまー」
「おう、お帰り」
俺はぼろぼろになった制服を結いながら、神城に返答した。
神城はあれ?と少し困惑した顔で、俺を見返す。
そして、俺に向かって言葉を発した。
「……、なんか雰囲気が柔らかくなった?」
俺は、その言葉にピクリと反応する。
だって、別に信じるって決めたわけでもないのに、そう言われたんだ。
俺は思わず問いかけた。
「え、そう見える?」
「んー…あーー、いや気のせいかも」
「そっか」
そう前言撤回した神城の様子に、俺はひとまず胸を撫で下ろした。
……良かったぁ。言われた直後に態度を改めるなんて、そんなのなんか英雄志願者に諭されたみたいだし。
第一そんなすぐ警戒を緩めるくらいだったら元から警戒してないのと殆ど同じだったし、なんかめちゃくちゃ口だけみたいで恥ずかしいからなぁ。
そんなことを思い、キョロキョロと周りを見渡して……あっと、机の上のそれが目に入った。
そして、思い出す。
白兎から、手紙を貰っていたことを。
そういえば、まだ読んでなかったか。
俺はカサリと手紙を取り、中を読んだ。
拝啓 百歳様へ
手紙を読みました。しちらにも神城がいる。
合計で神城が2人居る。了解です。
今の所はこっちの神城には特に違和感はありません。
こちらでも色々と確認して、調べてみます。
それと、"彼"について調べてみます。
何か分かったら追々連絡します。
それと、こちらは不穏な動きが多々あります。
城内の人が荒しく…忙しなく動いてます。
多分、少したら何か動きがあると思います。
何か要望があったら伝えます。
何か要望があったら書いて返して下さい。
-10-
白兎より。
今日の手紙は、短めだった。
………なのに、
しちらにも神城がいる。
しちら → そちら
城内の人が荒しく…忙しなく動いてます。
荒しく → 慌しく
誤字。
多分、少したら何か動きがあると思います。
少したら → 少ししたら
脱字。
チラッと見ただけで、3つ見つけた誤字脱字。
………"彼"。
きっと白兎は、俺よりも圧倒的にその恐怖に包まれてるんだよな。
だから、こんなミスを………。
いやいや、考えるな。
うん、大丈夫だよ。アイツは"幸運"だし、それに俺より圧倒的に頭いい……し。
っていうかなんで覚えてるアピールしたのにまだ-10-を……
「…………」
頭の中がぐるぐると回る。畳みかけるように、色々なものが頭に押し寄せる。
確実にさっきの英雄志願者の言葉のせいだ。
……信用するとか信用しないとか、なんか良いとか良くないとか。
そしてふと、一番始めの手紙を思い出す。
俺は衝動のままにその手紙に手を伸ばし、中身を改めて読んで、思う。
謁見……元の世界の知識を武器に、礼儀作法を学んで挑む。
普通だ。普通……だから、おかしいんだ。
"天才"の彼女が、いつも奇天烈で、独創的なことばっかするアイツが、そんな普通のことを……いや、これはただ単に俺の買い被りが過ぎるだけか?
うーん………いや、えー?………
あー、ダメだダメだ。
どうしても、考えることを止められない。
チラッと神城を見た。
「…………」
ふぅっと息を吐き、すぅっと酸素を取り入れた。
冷静になろうとする。いや、これは冷静になれたんだろうか?
……いや、きっと気が動転してるのだろう。
そうじゃなきゃ、こんなおかしなことをしようとなんて考えない。
そして、俺は神城に近づいていこうとし……俺は止まった。
ああ、間違いに決まってる。こんな気持ち、間違ってる。
こんなにも手紙に、俺への手紙にミスを繰り返すなんて。
"彼"が居るかもしれない緊張の下で、謁見という試練が待ち構えていて、誰も彼もが怪しく見えて、誰も彼もを助けないとと思ってしまう。
嫌いだからこそ意識する。彼女の考えを。
英雄志願者と似てる……ああ、だから俺はアイツが嫌いなのか。
まあ、いい。
……彼女のことが分かっているから、俺はそう彼女が考えることが予想つく。
……けど、だからといって、俺が――
――俺が、大っ嫌いな彼女を……彼女に会って、助けたいなんて。
そんなことを、思ってしまうなんて……間違ってる。
突然足を止めた俺を不思議に思ったのか、神城ははてなを浮かべる。
「ん?どした?」
「…………いや、なんでもない」
俺は、捻り出しかけた言葉を飲み込んだ。
……まだ、結論は出さない。出せない。
もうちょっと、考えないと。
考えて……結論を出そう。
それに今ここで彼女と話したいとか言ったら……!
俺が彼女のこと意識してるみたいじゃん!
好きとかそういうんじゃない。絶対に。
嫌いだ。殺してやりたいと、どう足掻いても思ってしまう。
実際意識をしているんだけどぉ、でも違う。そーいうんじゃない。絶対に!
でも、絶対言ったらアイツに揶揄われるし。
あー………………うん。一日、考えよう。
時間をかけて、決めよう。
「あ、そうだ。俺は明日バイトだけど、百歳は何するん?」
そうこちらに顔を向けて聞いてくる神城に、俺は少し思案した後に言葉を返す。
「何かすることとかってあったっけ?」
「うーん……多分無いと思う」
その言葉に頷くと、俺は返答した。
「そっか。じゃあ、ちょっと明日は1人で適当に外歩くわ」
「え?何かすることでもあるの?」
「うん。まあ、ちょっと……ね」
今更ながら、この世界に来てから真っ先にしなければいけないことを……俺はまだ、していない。
だから、明日はそれを行うのに使おう。
それに、ここに居たら絶対に英雄志願者が突撃してくるだろうし。逃げる為にもね。
関係が進展したからといって、わざわざ奴と関わろうとは思えんし。
そんなことを考えて……暫くして、帷が落ちた。
光の本流を瞳に映していると、手紙の返事を返すことを思い出す。
あ、そうだ。もしかしたら。もしかしたら、俺が明日彼女に会おうとするかもしれない。
俺は彼女に手紙を書く。
情報を頂戴っと手紙を。
ついでに英雄志願者についても調べてもらおう。
……手が震える。紙を破りたいと思ってしまう。
やっぱり、俺は彼女が嫌いだ。
……夜が更けていく。悶々とした気持ちを抱いて。