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10話 #桃の花弁 バングラロックはバグってる

 日光がさんさんと俺を照りつける。


しかし、案外暑くはなかった。


この世界にも四季はあるのだろうか。


心地よい春風が肌を撫でた。



 今日は、昨日俺とアイツで戦ったせいか、昨日よりも少し騒がしく感じる。


ざわざわと忙しなく治安維持隊の人たちが辺りを動いていた。


理由はまあ、すぐに分かる。


あの男から、"魔族"の潜入がバレたからだろう。


俺はぼーっと、そんな様子を眺める。


今俺は、こんな現実逃避以外にすることはなかった。



「いや、ちょっとこれかっこよすぎない?いやでもこれも……」


「くぅ〜、高い!でもせっかく田舎から上京したんだし一本くらいは……よし、お金貯めて……」



 宿から徒歩10分の位置にあるここは、武器屋。


剣や弓や槍なんかを売ってる店。


看板は読めないので、武器屋ってことしか分からない。


英雄志願者に聞け?いや、今はちょっと無理だ。


目の前でお店のショールームに張り付いてる奴に話しかけるとか無理だ。


周りから不審な目で見られまくってるアイツらの関係者だとは思われたくない。



 ええ、はい。あの人たちは私の知らない人たちです。うん、知り合いでもなんでもないです!



 そう声を大にして言いたい。



 っていうかそもそも街案内してもらう時こんな所に寄る予定じゃなかった。


とりあえず予定を決めとこうって俺が喚いて、仕方ないからと少し話し合って決めたのだ。



 まずは昨日俺が死闘を繰り広げた場所ーー死にかけた場所じゃないからね?死闘を繰り広げたんだからね?ーーを見に。


次に正門に行ってこの領から出られるかを確認。


その後、嫌という程に目につく時計台を見に。


そして最後に……未来で彼女が居るという、領主様のお家を見に。



 大体一通り周りと終わった頃には昼頃になっているだろうから、その後に英雄志願者おすすめのお店で昼飯を食べ、帰る。


この予定に則って行く筈だったのに…なぁ。



 宿を出てから10分程歩き、ここでコイツらは立ち止まった。


そしてかれこれ30分程コイツら(アホども)はここで時間を潰している。


そして、当然のようにその間、俺は沢山の不運に遭った。


つまり、俺にも注目が集まっているのだ。



 ヒュンッと上から何かが落ちて来た。


俺はそれをサッと避ける。



 横から木片が飛んで来た。


俺はそれをサッと避ける。



 酔っ払いに絡まれた。


俺はそれをテキトーにいなした。



 「おおー」と歓声があちこちから上がる。


そう、俺はこの間に何度も不運に襲われてるのだ。


まあ、当然と言えば当然なんだが。


元の世界でも、ここまで頻繁ではなかったが……まあ十何分に一回は襲われてたし。


この世界の不運のパターンを知る為のチュートリアルと考えればこの待ち時間も悪くは――



 ――店の中から刃物が飛んで来た。



 首に一直線。咄嗟に体をずらす。


……避けきれなかった。首の皮一枚切れた。



 ……うん、ダメだ。外にいちゃダメだ。帰ろう。



 ほんと、これだから外は嫌なんだ!


昨日の行きで殆ど無警戒で無傷だったのが夢みたいだよ!


何?その後で特大の不運が待ち迎えていたからってか!?


運の総量は決まってる?だったら俺はこの先どんな幸運が待ち構えてるんでしょーね!



 そんな悪態をひとしきり吐き終わった後、俺ははぁっとため息をついて2人の姿を改めて見た。



 ……それにしてもおかしいな、英雄志願者はまだしも、神城(かみしろ)は同い年…いや、誕生日的に一個上か。


なぁんで俺が保護者みたいな役目を受け持ってるんだよ。


おかしいだろ。



「そろそろ行くぞ〜」


「ええ〜、もうちょっとだけ見…」



 そう駄々を捏ねようとする神城(かましろ)に、俺は言い放つ。



影梨(かげなし)の見てるかもしれないあの手紙にあることないことぶちまけるぞ」


「はい、すぐに移動させていただかせて貰います」



 ピシッと立ち上がり、神城(かみしろ)はガッと英雄志願者を掴む。


しかし、



「僕はもうちょっとだけ…」



と、彼は依然として駄々を捏ねた。



「そうか、お利口な子にはプレゼントを用意しようとおもったんだけどな」



 そう言って、俺はチラリとショーウィンドウの方を見る。



「はい、僕も今すぐに移動させていただきます」



 英雄志願者もまたピシッと背筋を伸ばして俺の方を見た。


周りからの視線が俺にも集まる。



 ……うん、目立たないっていう作戦はどこに行ったんだろう。



 そんなことを思いながら、俺はようやく…前へと進むことが出来た。


キョロキョロと周りを見る。


この道を通るのは3回目くらいで…でもまだ、異世界だと主張する光景には馴染めない。


キョロキョロ、キョロキョロと景色を見るのを楽しんでいて……見えた。


何かの跡地。沢山の人が見ている瓦礫の山。焼け野原のようになった場所を。



 ――俺は、心臓がざわつくのを感じた



「……あれか?昨日の事件のやつ」


「確かに、めちゃくちゃに荒れてる」



そう2人が指差した方向を見ながら、俺は否定した。



「………いや、違う」



 だって…‥だって。


()()()()()()()



 俺は呆然と、()()()()()()()()()()


傷一つない、新品同然の建物を。


近くに人が居ないのを確認し、俺は言葉を出す。



「……これだよ。昨日の事件の場所」



 ぐちゃぐちゃに、一方的に殺されかけた場所。ああいや違う、死闘を繰り広げた場所ね。



「……えー、マジか」


「流石…都会?」



 3人揃って、呆然とその光景に立ち尽くす。



 何故、俺の戦った場所は直されていて……隣の建物は、こんなに大破しているのだろう。


というか能力。建物を直す能力者なんてものも居るのか。


そんな奴らがごろごろといるこの世界で…俺は"魔族"として狙われてる。



 絶望しか感じねぇな。



 いや、そんなことを改めて思っても仕方ないけど。


それにしても……うん。なんでこんな意味分からないことになってるんだ?



 ぐるぐると、疑問が頭の中に駆け巡る。


何で?昨日あったのはあの白髪の男と戦ったぐらいだよな?それに関係するようなことか?それとも他に何か起きて……



……あっと思い出す。



「そうだ。2人はさ、()()()()()()()()()?」



 寝る前か、寝た後の悪夢かに出てきた大爆発。


沢山の人間が死んだ……あの爆発。


あれによってなったという可能性が……



「いや、爆発なんて知らないけど……寝た後かな?」


「うん……流石にあったら気付くと思う。結構遅くに寝たし」



 そう2人が返答した。



 ……そっか。


それじゃあ妙に記憶に残ってるこれは……夢、か。



 俺はとりあえずそう納得した。



「……はぁ。訳わかんない。意味分かんない。……ね、とりあえず次行こっか」


「次…そうだね、考えても分かんないし」



 そう神城(かみしろ)が言うと、俺に向かっておいでっと手招きする。


俺はとぼとぼとそれについていった。


考えは依然として暗いままだ。



 歩く、歩く、歩く。


呆然としてて、どれくらい時間が経ったかは分からない。


俺はため息を吐いた。


気持ちを切り替える為に、思いの丈を吐き出した。



 結局、あの英雄志願者と同じ結論になっちゃったな。


考えても仕方ない。答えなんて出ない。だって分かんないもん。


それなら、考えるだけ損ってものだ。


よしっと俺は前を向くと、ドンっと前にいる神城(かみしろ)にぶつかる。


なんだ?と見上げて気付く。


あ、ここ……正門だ、と。



「うーん、出るのはキツそうだね」


「そうだね」



 そう会話を交わす二人の視線の先には、人が行き来する城門が。


そしてそこでは一人一人が()()の検査を。


……うん、すぐに何の検査かは予想がついた。



 運命石によって…運命値を測っているのだろう。


"魔族"が潜入していることがバレた。


この様子だとこれはもう、確実だろう。



「この様子だと裏門も無理だろうね」


「そうだね」



 そう会話を交わし、キョロキョロと周りを観察する。


あり得ないって思いつつも……リリがいないかどうか、周りを探した。


彼女の姿は分からない。覚えてない。


……居ても、多分分からないだろうなぁっと思っても、動かずにはいられなかった。


そんな俺の様子を見て、暖かく神城(かみしろ)は俺を見守った。



「ね、もう行こう。時計台にさ」



 暫くして、神城(かみしろ)は俺にそう言った。


結論から言えば、見つからなかった。


当然だ。姿形も分からない、手がかりがないのに見つかる訳がなかった。


頃合いを測って言った神城(かみしろ)の言葉に俺はコクリと頷く。



 俺は気持ちを切り替えて、歩を進めた。


次の目的地は、時計台。


デカデカと突っ立っている時計台だ。


この時計台を見て思い浮かぶのは、ロンドンのビック・ベン。



「……ねぇ、なんでこの時計台を建てたの?」


「っていうかどうやって建てたん?」



 俺は思わず英雄志願者にそう聞いた。


そしてその疑問を口に出した瞬間、同時に思った。



 あれ?そういえばコイツ俺たちに街を案内する為に来たんだったよな?


んん??武器屋のこととか思うと妨害しか受けてないんだけど?あれ?



 衝撃の事実に気付いてしまった。


そしてどうやら口にその言葉が漏れていたようだ。


その言葉に汗をダラダラと流して英雄志願者は慌てて弁解をする。



「いや、あれは…うん、活躍の場面がなかったから!そう、仕方ないの」


「御託は良いから、説明」



 そして焦った様子の彼に神城(かみしろ)は更に圧をかける。


確実にこの状況を楽しんでる事が目に見えて分かった。



 お前も一緒に張り付いてたろうが。



 思わず心の中で俺は神城(かみしろ)にそう言った。


そして更に慌てた様子で彼は説明しようとした。



「んでえーっと、うん。時計台でしょ。時計台……」



 暫くの間沈黙が流れる。


この後の言葉は、すぐに俺も分かった。



「……………ごめん、知らない」


「うん、そんなことだと思ったよ」


「名前も?」


「………うん」



 俺と神城(かみしろ)は顔を見合わせる。


そして同時に口を開け、息を吐いた。


いわゆる、ため息だ。



「「…………はぁ」」


「ため息やめて!?一番傷つくから!!」



 そんな言葉を交わしていたら、すぐについた。


この場所で……この領で、一番に目を惹く建造物。


遠くからでも見える高さをもち、豪華な装飾のされた時計台だ。


示す時刻は11時5分。


となれば出発した時刻が8時30分だから…もう約2時間30分も経過したことになる。



「そんなに歩いたっけなぁ」



 思わず俺はそんなことを呟いた。


とはいえ、始めの2人の道草してた時間を考えると、案外こんなものなのかもしれない。


「やっぱり、"バングラロック"は高けぇなぁ」「これってどうやって作られたんだけ」「知らねぇ〜」


そんな会話が聞こえ、この時計の名前が"バングラロック"ということが分かった。



「スゲェけど………ダメだ。最寄駅にある高層マンションの方が高いって思っちゃう」



 そんな言葉を発する神城(かみしろ)は絶対に観光に向いてないなって俺は思った。


そしてそれとは対照的に、英雄志願者は熱を帯びた瞳でそれを一心に見つめた。



 ……田舎育ちって言ってたもんな。やっぱりこういうのには感動するんだ。


そんな感想を、俺は抱いた。



 そして10分、俺と神城(かみしろ)は生暖かい眼で見終わるのを待った。


そして20分、俺と神城(かみしろ)は更に生暖かい眼で見終わるのを待った。


そして30分、段々と待つのに疲れてきた。



 ………そして45分、俺と神城(かみしろ)アイツ(英雄志願者)の首根っこを掴んで、無理矢理動かす。



「んぇ!?あ、もうちょっと!もうちょっとだけ見させ…」


「「却下」」



 俺と神城(かみしろ)は有無を言わせずに次の目的地へと連れて行く。


未来で、白兎(しろうさぎ)たちが住むお城の一角へと。



 ……それにしてもあの時計塔、()()()()()()()()()()()()のによくあんな時間見てたな。


っていうか、いつの間に壊れたんだろ。



……………………

…………




「………ここが、その場所かぁ」



 俺が未来に白兎(しろうさぎ)の住む屋敷に到着して発した第一声はそれだった。



 そこは、まさにお屋敷だった。


門の前には何人かの門番が佇んでいる。


レンガ状のお屋敷。外は高さのある塀で囲われており、中に入るのは難しそうだ。



 レンガ状のこのお屋敷は……うん、ダメだ。


思考に()()が入り込んでまともに考えれねぇ。


俺の拳にギュッと力が入った。



「スッゲェな」


「うん、でも……」


「そうだよねぇ、そう思っちゃうよねぇ」



 白兎(しろうさぎ)の実家。


この家の雰囲気は、まさにそうとしか思えなかった。


レンガ調で、豪華なお城……ダメだ。この二つで白兎(しろうさぎ)の実家が思いつくのはもうほぼ病気だ。


俺の中で、嫌な感情が蠢く。



 ――ああ、ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。ダメだ。



 もういい加減、この感情は消えて欲しい。



 嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだーー



「ね、そろそろ昼食べに行こうよ」



 ぽんっと俺の肩を英雄志願者が叩く。


俺はその衝撃でパタリと考えが止まった。



 ……嫌だなぁ。



 俺のこの思考に、改めてそう思った。



「え〜、もう?」



 困惑した様子で神城(かみしろ)がそう言う。


確かになっと俺も思った。


だってそうだろ?さっきと比べると明らかに早い。


……まあ、確かに"バングラロック"に比べれば明らかにつまらない場所ではあるんだけどね。


そうして、行こう行こうと急かされるまま、俺たちは昼飯を食うことになった。


昼飯……俺の、初異世界飯だ。



 そして、英雄志願者のおすすめの食事店へと俺たちは着いて行く。


裏路地を通って……怪しい人たちの近くを通り過ぎ、


されるがままそれに着いていき……着いた。



 ………ここ?



 到着したのは、オンボロの飯屋。



「ここ、開いてるん?」


「んー、まあ僕が来た時もこんな感じだったし開いてるんじゃない?」



 あっけらかんと言う英雄志願者。


……都会で真っ先にこの店に入れるお前は、本物の英雄だよ。



 俺は思わずそう思った。



「いらっしゃい」



 中にはお爺さん店主が1人。


……うん、隠れた名店が漂っている。


とりあえず、と。俺たちは注文を始めた。



 とはいえ、俺も神城(かみしろ)も言葉を読めないから、全部英雄志願者にお任せだ。


ほいほいほいっと彼が一通り注文を済ませる。


そして俺たちは移動の疲れからはぁっと一息吐いていると……ふと、時計が目に入った。



「え?」



 思わず、声が出た。



 11時5分。



あの"バングラロック"で見た時刻と全く同じ時刻が、目の前の時計には表示されていた。



「すいません、ここの時計ズレてませんか?」



 俺は咄嗟にそうお爺さんに聞いた。



「んえ?ああいや、ついこのあいだ調整したから大丈夫だと思うが……」



 その返答に、俺は混乱状態に陥った。


え?ってことは"バングラロック"がズレてたってこと?ええ?



「なぁ、さっきの"バングラロック"で見た時間って何時だったか覚えてるか?」



咄嗟に俺は2人に聞いた。


2人は答える。



「……10時ぴったりだったと思うけど」


「うん、そっから45分くらいそこに……」



 ……あー、意味わっかんねぇ。


俺は思わずそう溢した。

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