クロムの所領(3) その後
後援者としてユリアスが来領し、視察(?)を終えて帰ってから、クロム領は様々に変化する。
その渦中にいるバヌラ領主代行目線の話。
流石、若くして爵位を賜り、あっという間に「伯爵」にまで昇られたお方だ。
あの方の元におられるのならば、クロムお嬢様は安心だ。
年に数回はお嬢様もお見えになると仰っておられたし、私共もしっかりと、この「パドレニア=クロムレイラ領」をお守りせねばと決意を新たにしたところだ。
「パドレオン卿の泉」からの水路造り、それに伴う区画割など、やることは目白押しである。
水路造りはユリアス様のお供として来られた方が3名残られて指揮を取ってくださるというから安心だ。その方達は所領全体の警護などもしてくれるという。なんでもムネアカなんたらとか言う一族出身で水に関することに秀でておられる。
領民の希望を聞きつつ、水路の計画を進めよう。
「私がアンフィ伯爵妃からお伺いしたところによると、2年程、作物の育ち方は今まで通りのようです。あまり、良くないということですね。魔素が少ないのでどうしてもそうなってしまうと。
ですが、魔素、ミネラルの豊富な水が行き渡るので、直ぐに土も良くなると仰っていましたよ」
「おお、水だけでもありがたいことですのに。それは今後が楽しみです」
「ええ。ご期待に沿うように頑張りましょうね」
「はい。よろしくお願いいたします」
彼女達の指示通りにすれば、水路造りも順調に進みそうだ。
また、シルビィユ様の屋敷も新たに建設されはじめた。暫くは銀山管理官として滞在してくださるとのことで頼もしい。
「バヌラ代行殿。人を雇いたい」
シルビィユ様から相談を受ける。
何でも御屋敷で働く者を数名欲しいとのことだ。
下働きの者2名、料理人2人、メイド3名の合計7名を手配した。勿論、身元のしっかりとした者たちだ。失礼があってはいけないからな。
私は知っている。シルビィユ様ならばおひとりでお困りになることはないことを。今までがそうだったのだから。
これは少人数だが、働く場を与えてくださったのだと思う。ありがたいことだ。
メインの水路が出来上がり、シルビィユ様の御屋敷の建設を終えた頃、3人の者たちがやって来た。パドレオン卿とお嬢様の手紙を持参して。
伯爵の手紙はシルビィユ様宛で、お嬢様の手紙は私達代行宛だった。
それによると3名はイスカンダリィ公爵から派遣された銀細工師だという。
ユリアス様が「銀細工かな」と呟かれたことで直ぐに公爵達が動かれた結果だ。
二もなく私達は受け入れた。
三名の銀細工師は希望者に手ほどきをして、細工を教えている。技術の教授を目的としているという。
こうして、銀山の麓には銀細工を扱う街が出来る。シルビィユ様の名から「シルビー街」と名付けさせていただいた。
半年が経つ頃には領内は大分落ち着く。
銀細工は貴族向けのカトカリーや調度品から一般向けの宝飾品まで様々で、ユリアス様達が宣伝していただけたようで他領から買い付けに来る商人も増えたのだ。
「まったく、ユリアス様は凄いですな。あれから半年でこの領も変わりました」
「そうでしょう。ユリアス様は凄いのです」
シルビィユ様も水路造りの御三方も誇らしげで嬉しそうだ。
このところデンネンカルロ子爵からの嫌がらせもない。領境に簡単ではあるが木塀をこさえて、見回りも強化している効果もある。一番は国内随一と言われる武力を持つパドレオン卿が後ろ盾というのが大きいと思う。
「バヌラ。また、子爵領からの移住希望者が来ているぞ」
最近はそういう輩も多い。今はこちらの方が住みやすく稼ぎも良いからな。
身元を確認して面会後に判断して受け入れている。困った人を見捨てられないからな。
領民もそのような者が増えて千名に届きそうだ。
「バヌラ。大分領も形になってきただろう!? 代行はおぬし一人にした方が良いと思う。なに、仕事を放り出す訳じゃない。我ら二人は補佐に回るから」
と言われてしまった。何回か話し合って、お嬢様に伺った上で引き受けることにする。
「そうか。そうしてくれ。バヌラは代行として方針とか大きな公共の施策を。我らはそれに関わる細々とした事をやっていくよ」
基本的には今までと役割分担は変わらないようにしていこう。
それにしても統治する方が代わると、領内はこうも変わるものなのか。
他地との交易に苦労していたのに、グオリオラ公爵やイスカンダリィ公爵の領から商隊が訪れてくれる。それに刺激されて他の貴族もだ。
食料や物資不足に悩まされることもなくなった。
恐ろしい草原を街に変えたユリアス様の御家臣は、荒野であった地を水の豊かな恵まれた土地にしてくれた。
次にお嬢様が来られた時は、きっと驚かれるだろう。私達は胸を張ってお迎えしようと思う。
我らがパドレニア=クロムレイラ領、万歳!